選択肢に抗えない   作:さいしん

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再会はホロ苦い?というお話。




第14話 訪れ…訪れな…訪れなかっ……訪れてしまった再会

 

 

 

「人が多い……」

 

 でかい会場だが、流石は全国大会ともなると人でいっぱいだ。選手は勿論のこと、大会の関係者やら学校の関係者、それに選手の応援に来ている者も居るのだろう。

 

 何とか人の波に惑わされる事なく、俺は案内掲示を目安に篠ノ之の試合を探す。本来なら初戦から観戦した方が良いのだろうが、流石に早いっす。前日入りはしてないんで、途中からで申し訳ない。

 

 まぁ俺の知ってる篠ノ之の実力なら、初戦敗退なんて事はないだろうし平気平気。……と、言い訳してる内に篠ノ之の名前が電光掲示板に出た。記されているのは正確にはアイツの本名ではなく『篠ノ木鳳季』だが……まぁ本人だろうし顔見りゃ分かるか。

 

 

『まもなく、準々決勝を行います。両選手、前へ』

 

 

 おぉ、もうそんなところまでいってんのか。っていうか、そこまで篠ノ之も勝ち進んでるって事だよな? いやはや、やりますねぇ!

 

 俺も急いで観客席まで移動する。

 

「よしよし、ここからなら上から見渡せる。おっ……出てき……あ゛…!」

 

 お面のせいで顔がよく見えないでござる。

 

 最後に会ったのは小4の頃だったし、体格だけじゃ判断出来やしない。まぁアイツの剣筋は稽古場でもチラチラ見てたし、それで判断しよう。真面目な篠ノ之自身を体現したような剣筋だったからな、すぐに分かる筈だ。

 

 かつての道場に在った光景を思い浮かべていると、試合が始まった。俺も集中して見る事にする。と言ってもせっかくの友の晴れ舞台なんだ、心の中で応援しながら観戦に興じよう。

 

「……?…………?……」

 

 試合は終始、篠ノ之(?)が有利に運んでいた。いや、有利どころか相手を圧倒していた。結局、そのまま苦も無く勝利を収めた……が………アイツ篠ノ之じゃなくね? 俺の記憶にある篠ノ之の姿とは、似ても似つかない。

 

 もう一度言うが、アイツは心根が真っすぐな女だ。それは剣筋にも現れていた。基本を重んじ、型を重んじ、まるで手本のような綺麗な剣道をしていた筈。だが、あれは何だ……?

 

 力に任せた振る舞いで相手を圧倒する。

 篠ノ之(?)の試合は武ではなく、暴に近いそれだった。

 

 結論、あれは別人です!

 たまたま篠ノ之の名前に似た別人でした、ハハハ! って笑えるか! 何が悲しくて県外まで赤の他人を応援しに来にゃならんのよ!?

 

 あっ、他人様がお面を外されるぞ!

 あんな傲慢な戦い方をしてる奴なんだ、どうせ不細工だぞ~! ほら、見せてみろよ不細工な顔をよぉ!

 

「…………………」

 

 お面を外したそのお顔は!?

 

「あらやだ可愛い……あ゛…? いや、あれ……篠ノ之じゃね?」

 

 えぇ、ウッソだろオイ…?

 基本に忠実だったアイツが、何をどうしたらあんな戦い方になるんだ……むっ、何やら沈痛な表情だな。どこかで見た事あるぞ、あんな顔した奴……。

 

 思い出した!

 一夏だ!

 一夏がテスト中にあんな顔してた! 後で聞いたら「腹がめちゃくちゃ痛かったんだ」って言ってたっけ。

 

「……そうか、そういう事なのか篠ノ之」

 

 そういう事情があるなら、確かにタラタラ試合ってる場合じゃないわな。さっさと終わらせるには圧倒するしかない。ダラダラしてウンコ漏れちゃったらシャレにならないもんな。

 

 これは声も掛けない方が良さそうだ。

 だが安心しろ、篠ノ之。次の準決勝までまだ時間はある! それまでに何とかすっきりさせるんだぜ!

 

 眉を八の字にして試合場から出る篠ノ之に対し、俺は心の中でエールを送った。準決勝に勝てれば、次はいよいよ決勝の舞台に上がれるんだ。すげぇよ、そうなりゃ篠ノ之が日本一だ!

 

 腹痛に負けるな、頑張れ篠ノ之ッ!

 

 

.

...

......

 

 

「……まだ……痛むのか……?」

 

 準決勝も同じ光景だった。

 篠ノ之が力で相手を圧倒する。負けた相手は悔しそうに頭を下げ、勝った篠ノ之はニコリともせず、頭を下げるやサッとその場から立ち去る。

 

「どうする……正露丸買ってきてやった方がいいのか…?」

 

 

【善は急げだ、薬局に走ろう!】

【本当に腹痛なのか? 女の子の日である可能性を見落とすな】

 

 

……なんという事だ…。

 初めて……初めて【選択肢】を有能だと思った。確かに腹痛だと決めつけるのは良くない、あの日の可能性だってある。もしそうなら、正露丸なんて渡したらいけねぇ、2重の意味でセクハラになっちまう。

 

 ただでさえフッた相手が1人で来て、篠ノ之に気まずい想いをさせちまうのに、その上整腸剤なんざ渡したら、もはや嫌がらせの領域じゃねぇか。

 

 ここは後者を選んで大人しくしていよう。

 がんばれ、篠ノ之! 負けるな、篠ノ之! あと1試合耐えれば、お前が日本一だ!

 

 

 

 結果、篠ノ之が優勝した。

 同じ決勝に上がってきた相手だというのに、篠ノ之は変わらず力で押さえ付けるような展開で、相手に何もさせず圧勝した。

 

「……とんでもねぇな」

 

 優勝が決まったのに、面を外した篠ノ之はやっぱり少しも笑みらしい笑みを浮かべる事なく、すたすた去って行ってしまった。それほどまでに、重いんだ。

 

 さて、俺はどうしようか。

 これから表彰式が行われるらしいし、それが終わって声を掛けるか? いや、別にもう声掛ける必要もなくね? 会いに来たって選択肢は既に終えてるんだからよ。このまま帰った方が、きっとアイツも俺に声を掛けられるより気が楽だろう。

 

 うむ、そうと決まればスタコラサッサだぜ!

 とうとう俺は篠ノ之には声を掛けず、会場を後にした。

 

「このまますぐに帰るのもなんだし、どうすっかな」

 

 大阪と言っても、会場は郊外にある。

 駅に行くには近くのバスに乗るのが一番手っ取り早いのだが、敢えてここは乗車拒否だ。ぶらぶら駅まで続く河川敷を歩いて行くのもオツだろう。

 

 道に転がっている小石を蹴りながら、のんびり行こうぜ~♪

 

 

.

...

......

 

 

「……………………なんでぇ?」

 

 お散歩気分で小石を蹴っていたら、道中に見覚えのある横顔が視界に入ってきた。草の上に座って、ぼんやり川を眺めている少女って……篠ノ之だぁ……いや貴女、表彰式はどうしたんです?

 

 どうする、向こうはまだこっちに気付いていない。このまま素通りするのも正直ありだと俺は思うんだ。何か浮かない顔してるし、絶対そっとしておいた方が良いと思うんだ。

 

 

【小石を篠ノ之に向かってシュゥーーーッ!!】

【気さくな感じで声を掛ける】

 

 

 やっぱり声を掛けるんじゃないか(憤怒)

 しかも周りに誰も居ない状況で。

 こんな事ならさっさと会場で声掛けておけばよかった(後悔)

 

「ヘイヘーイ! そこの彼女、ヘーイ!」

 

 気持ちが悪い!

 なんだそのノリ、ウェーイ系かお前!

 

「…………………」

 

 あらやだ、こっちを見向きもしない。

 そりゃそうか、こういうイタイのは無視に限るからな。ま、俺は諦めてくれないんだけど。

 

「ヘイヘイヘーイ! ヘーイ! ヘイヘーイ!」

 

 俺、うぜぇぇぇッ!

 これは鬱陶しいですよ! 

 イラッとくるノリしてますよ!

 

 あ、やめて篠ノ之…!

 そんな死んだような目でこっちを見ないで、俺だと気付かないで! へ、変顔したらバレないかな!?

 

「………?………お、お前は…! 主車!?」

 

 バレちゃった。

 あ、拘束とけた。

 

「よっ、篠ノ之。久しぶりだな」

 

 俺は何もしなかった。

 俺は今まさに、今日初めて篠ノ之に声を掛けたんだ。そう暗示しないとね、やってられないの。いちいち引きずってちゃ、まともに生きてけないの。

 

「主車……観に…きていた、のか…」

 

「まぁな」

 

 小4以来の再会なのに、篠ノ之からは久しぶり的な事は言ってくれない、か。やっぱり俺1人じゃ、来られても気まずいわなぁ……。

 

 ここで俺が黙ってしまったら、余計に篠ノ之が居辛くなっちまう。全国大会で優勝したのはマジなんだ、ここは褒めて褒めて褒めまくろう! そうすりゃ、篠ノ之もハッピー俺もハッピー!

 

「そうそう、試合観たぜ篠ノ之! お前ってば、すげ「さぞお前の目には私が無様に映っただろうな」ぇ~…え、えへへのへ…」

 

 すげぇに続く言葉なんか浮かばねぇよぅ。な、なんでそんなにテンション低くいんですか…? まだ、ポンポン痛いの…? しかも、無様ってアンタ……謙遜も度が過ぎると嫌味になりまっせ?

 

「お前1人……か?」

 

「ん? ああ、一夏も誘ったんだけどな、どうしても抜けらんねぇ用事があってよ」

 

「そうか……いや、その方が良かったのかもしれんな。もし一夏にまで、あんな……あんな醜い私を観られていたら…!」

 

 オイオイ、今度は不細工宣言か?

 どう見ても絶世の美女が何を世迷言を。流石に注意しておくか?

 

『えぇ~? 私ぃ、全然モテないですよぉ、可愛くないですしぃ』(クネクネしながら)

 

 顔の良い奴が決して言ってはいけないトップ10にこの台詞は入っていると思う。別にコレを聞いても俺たち男なら「フーン」で済ますかもが、女子はこういうの結構イラッてくるらしい。下手すりゃイジメに発展しかねないレベルの発言だ。

 

「ゴホンッ…! あのな、篠ノ之……ん?」

 

 俺の言葉を遮るように、近くで黒い車が止まった。止まるだけならまだしも、中から屈強な方たちがお出になられた。

 

「なッ……奴らはまさか…!」

 

 なにその意味深な呟き!? もっと具体的にたの……ひぇぇぇッ、明らかに僕たちの方へ向かって来てますよ、篠ノ之さん!?

 

 

 

 

 

 

 私は、中学3年生になって初めて全国大会に出場した。誰もが憧れる夢の舞台に私は立てたんだ……なのに、まるで心は沈んだままだ。

 

 初戦に勝ち、2回戦、3回戦と。結果だけをみれば私は順調に勝ち進んでいった。そして決勝も……私は勝ってしまった。武を知らない者が見たら、凄いと褒めるだろう。私を強いと、手放しで持て囃すだろう。

 

 だが……私は……私は…!

 

 私は表彰されるべきじゃない、表彰なんてされたくないッ! そう思ったら自然と足が会場の外へと向かっていた。目的地などない、何も考えず適当な場所で座って、ただぼんやりと川を眺めていた。

 

「ヘイヘーイ! そこの彼女、ヘーイ!」

 

 チッ……こんな時に変な奴が絡んできた。

 無視だ無視……すぐに消えるだろう。

 

「ヘイヘイヘーイ! ヘーイ! ヘイヘーイ!」

 

 やかましいな…!

 キッと睨み返した先に立っていたのは……かつて私に好意を抱いてくれていた友……主車だった。

 

「主車……観に…きていた、のか…」

 

「まぁな」

 

 私の心はますます陰鬱になる。

 コイツは私を見て、どう思ったのだろう。私にも分かっている…! あんなの、武じゃない! ただの暴力だ…! 私は感情任せにただ力を振るい、傲慢なまでに相手を叩き伏せ続けたのだから…!

 

 篠ノ之道場に通っていた頃は……その時私が目指していたモノは、決してそんなモノじゃなかった筈なのに……ッ! 

 

 いつからだろう、私が剣道を楽しいと感じなくなったのは。

 いつからだろう、私が剣道をストレスの捌け口に利用するようになったのは。

 

 主車……コイツには見破られている。

 私の知る主車という男はどんな男だった? 普段はクラスでも一番と言っていい程おちゃらけた奴だが、武に関しては誰よりも真摯だった。私よりも一夏よりも、千冬さんよりも…!

 

 武と共に生きるコイツが、今の私を見抜けない筈がない。きっと……コイツの目にはさぞ、醜悪に映った事だろう。はは……一夏が居ないだけ、まだマシと思えば少しは気が楽になる……訳がない…。

 

「ゴホンッ…! あのな、篠ノ之……ん?」

 

 私を見る主車の表情が険しくなる。

 そうだ、私を軽蔑してくれ……まだそっちの方が、私も…………主車…?

 

 なんだ、何処を見ている?

 主車の視線を追いかけると、不自然なまでに私達の近くに車が止められた。中から出てくるのは、見るからに一般人とは異なる男たちだった。

 

「なッ……奴らはまさか…!」

 

 強硬派の奴らか…!?

 

 

 私は主車たちと別れた時から、政府に監視されるようになった。重要人物保護プログラム……保護と言えば聞こえはいいが、何が保護だ、監視の間違いだろうに…! 

 

 そして、私は姉さんの妹というだけで政府の人間から何度も、何度も聴取をされた。それは中学3年になった今も続いている。その中でチラッと聞いた事があった。

 

 日本政府には穏健派と強硬派で大体が分かれられている、と。自分達穏健派は私に手荒い真似をするつもりはないが、強硬派は違う。強硬派は時として尋問という名の拷問さえ厭わない派閥なのだ、と。

 

 私は監視の目をすり抜けて出てきてしまっていたのか…! 政府の言葉が本当なら、この状況はまずいッ、何より無関係の主車を巻き込んでしまう…!

 

「……ターゲット発見。これより行動に移る」

 

 3人の男が逃げ場を妨げるように、私達へと接近してくる。

 

「くっ…! 嫌な予感、的中か…! 主車、逃げ……お、おい!?」

 

 何をしているお前!?

 何故、私の前に出る!? お前ほどの男なら、ソイツ達の脅威が分からん訳でもあるまいッ!

 

「……ターゲット以外は?」

 

「篠ノ之箒以外に用はないとの仰せだ」

 

「いや、この男から足が付くと厄介だ……消すぞ」

 

 や、やっぱり…!

 逃げて、逃げてくれ、主車!

 

 主車は私の想いを無視するように、3人の前に立ちはだかった。

 

「俺たちに何か用ですか…?」

 

「お前には関係ないが、自分の不運を呪うんだな」

 

 そう言って距離を詰めてくる男たち。

 そんな奴らに主車は一歩も引かなかった。

 

「ハッ……俺を知らねぇのか、アンタ達? 主車っツったら地元じゃ泣く子ももっと泣くで評判の野郎よ」

 

「……何を言っている?」

 

 しゅ、主車…?

 

「俺の兄キは叉那陀夢止の頭だしよ。姉キはあの韻琴佗無眸詩の頭だしよ。親父は地上げやってんしよ。お袋は飛天御剣流の使い手だしよ。テメェらみてぇな三下が楯突ける男じゃねェんだよ」

 

 

「「「………………」」」

 

 

「……………………」

 

 この超アホ……もう来年高校生なのに…!

 まるで変わっていない…!

 

 





これは惚れられませんわ(呆れ)

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