選択肢に抗えない   作:さいしん

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泣かせた少女、というお話。



第19話 2人の出会いはロマンス

 

「退屈しないで済んだ。お前さんのおかげだ」

 

「いえいえ、自分も楽しかったです」

 

 機内で仲良くなった人とバイバイして、鈴から言われた場所へと向かう。そこで待ってりゃ、鈴が直々に迎えに来てくれるんだと。

 

 しかし何事もなくて良かった。

 俺は無事、中国に来れたぞ。

 

 飛行機内での俺はツイていたと言っても良い。

 だって、隣りの席の人がいい人だったもん。

 

 

.

...

......

 

 

 母さんに空港まで送ってもらった俺は、そのままトラブル(選択肢)に遭う事もなく、目的の飛行機に乗れた。

 

「席、席……おっ、ここか」

 

 やった。

 窓側じゃん。

 これで外の景色が楽しめる。後は非常識な奴が隣りに座らなければ、快適な空の旅を楽しめそうだ。乗り物っていうのは、電車だろうが飛行機だろうが、隣りに座る他人で内容が決まるのだ。

 

「隣り、いいですか」

 

「あ、はい」

 

 そんな事を思っていたら、タイミング良く隣りの席に座られた。

 眼光の鋭い女性である。どうやら俺と同じく1人らしいが、この感じは常識人ですね、間違いない。ただ、怒ったら怖そうだから俺も大人しくしておこう。

 

 

【空の旅におしゃべりは付き物。まずは年齢と体重を聞いてみよう!】

【暇だし何らかの勝負を仕掛ける】

 

 

 これは非常識ですね、間違いない。

 空港で大人しくしていたのは、この時の為の布石だったのか……要らぬ気遣い、嬉しくないです。

 

 年齢と体重を初対面の女性に聞く……普通に無しだと思います。そういうのを子供のシャレで済ませてくれる様な気配がこの女性からはしないのです。

 

 なら、下か…?

 でも勝負ってなに?

 【何らかの】ってのがまた曖昧だ。

 だが、こういう系はこれまで何度も見てきた。故に俺の経験が教えてくれる。このパターンは【勝負】さえ成り立っていれば、内容は俺が考えていいパターンの方が比較的多い。

 

 比較的、だからもちろん過信は禁物だが、さて…?

 

 下の選択肢を選んだ瞬間、口が開くのを許された。

 やったぜ。

 

「しりとり」

 

「……………………」

 

 真っ直ぐ見てないでください、こっちを見てください。

 

「しりとり」

 

「……?」

 

 え、私に言ってるの?みたいな顔ですね、分かります。そして分かってください。何も言わず何も考えず付き合ってください。一回だけ、一回だけでいいですから!

 

「しりとり」

 

「えぇ…? えっと……え、しりとり…? えーっと……り、リス…? で、いいのか…?」

 

 勝負、成立也ッ!!

 

「スリランカ」

 

「えぇ…? ホントにするの? まぁ別にいいけど。えっと……か、か…」

 

 こうして勝負は成り立ち、ついでに俺の勝利で終えた。まぁ自分、しりとりには結構自信ありますから。密かに世界チャンプレベルを自負していますから。

 

 ま、これで選択肢の条件もクリア出来たし、後はのんびり外の景色でも楽しんで「……もう1回だ」……ぅえい?

 

「まだ勝負は終わっていない。もう1度だ」

 

 何か悔しそうな顔して睨んできてるぅぅぅッ! 怖ッ、眼光キュピーンってなってますよ!? しかも口調が何だか尖ってますよ!? 

 

 そっちがもしかして素なんでせうか…?

 

 いやいや、この展開は想定外だぞ。流石にリベンジられるとは予想だにしてなかった。もうアレだな、ここは適当に負けてさっさと切り上げた方が良さそうだ。

 

「手を抜いたら怒るぞ」

 

……怒るのか。マジな目して大の大人が子供に怒るのか。

 でも怒られるのは嫌だなぁ……機内だし、みんなに見られるし。そういう注目のされ方ってホント嫌いなんだよ。普通に恥ずかしいし。

 

 結果、中国に着くまでずっと挑まれ続ける私でした。

 景色、見たかったなぁ……。

 

 

.

...

......

 

 

「……いい人……だし、変な人だな!」

 

 っとと。回想ってる間に目的地に到着したな。鈴から写メで送られてきた、この噴水の前で待ってりゃいいんだっけか。

 

 周りを軽くキョロってみるが、鈴らしき女の子の姿は見当たらない。むっ……鈴からメール?

 

『ごめん、旋焚玖。従妹の乱がどうしても1人で迎えに行きたいって、もう家出ちゃったの。もうすぐ着くと思うから、あたしっぽい子見たら声掛けてあげて』

 

 鈴っぽい子ってなんだよ。しかも従妹の乱って、アレだろ、俺を変態呼ばわりした子だろ……その子がわざわざ1人でぇ…? 何の為にぃ…? 

 

 俺にナニかする為に決まってるんだよなぁ……む、まだメールは途中だったか。

 

『追伸 大丈夫よ、旋焚玖。乱も「絶対何もしないから」って言ってたわ!(*^^)v』

 

 単純か!

 なんだそのバレバレの嘘台詞!? いやお前結構頭キレるタイプだったろ!? 何でそこだけ簡単に信じちゃうの!? その台詞はやべぇって! 絶対何かする奴が言う台詞じゃねぇか! トップだよトップ、殿堂入りしてるわ!

 

 むしろ、どうして自信満々にvサイン付きの顔文字まで送ってこられるのか……もしかして、俺も信じていいんですか…? 

 

 そうだよ、鈴が大丈夫って言ってんだ。

 アイツの言葉は信じるに足りる……けど、ちゃんと大人しくして待っておこうね。やっぱり人間、第一印象って大事だと思うの。ただでさえ変態呼ばわりされちゃってるのに、その上挙動不審だったら目も当てられないよ。

 

 

【待ってる間、暇なのでアカペラってる。ガチで】

【待ってる間、暇なのでスクワットってる。ガチで】

 

 

 クソったれぇ……(諦め)

 

 

 

 

 

 

「……もしもし、鈴姉…?」

 

『どうしたの、乱? もう旋焚玖とは会えた?』

 

 会えたという表現は違うと思う。

 

「えっとね、待ち合わせの場所には着いたよ」

 

『そう? なら旋焚玖も居るでしょ?』

 

 もしかしたら居るんじゃないかなとは思う。

 

「……なんかね、うぉぉぉ~ってね? スクワットしてる人なら居る。なんかね、めっちゃ速いの」

 

『あ、それ旋焚玖だわ』

 

「えぇぇぇッ!? 嫌なんだけど!? アレに近づくとか嫌なんだけど!? 話しかけるとか無理なんだけど!?」

 

 どうしてあの奇行者が主車旋焚玖だって、鈴姉には分かるのさ!? 見てもない癖に! きっと適当に言ってるんだ! そうに違いないんだ!

 

『なによ乱、アンタもしかしてビビッてんの? ならやっぱりあたしが…』

 

「だ、誰があんな変質者にビビるかい! いいよ、話し掛けてやるよ! ジョートーだよッ!」

 

『はぁい、それじゃ家で待ってるわね~』

 

 電話、切れちゃった。

 もう1度、アレを視界に入れてみる。

 

「うおぉぉぉぉッ!!」

 

 うわぁ……すんごい叫んでる。

 えぇ……アタシがアレに声を掛けなきゃいけないの…? つい鈴姉には強がっちゃったけど、ハードすぎない? 

 

 だって、アレよ?

 道行く人たち、皆に2度見されてるんだよ? 流石に周りの目を気にするでしょ、普通の神経してたら! 何で一心不乱なのよ!? 何がアンタをそこまでさせるのよ!?

 

「うおぉぉぉぉッ!!」

 

「うぅ……」

 

 ま、負けないもん!

 それでもアタシは負けない!

 こんな変質者に怯んでたまるもんですか!

 

 一歩ずつ、一歩ずつ、着実に歩を進めていく。

 

「うおぉぉぉぉッ!!」

 

「……ッ…!?」

 

 うわっ、目が合った…!

 変質者は危ないから目を合わせちゃいけないってママが言ってたっけ!? そんな金言を思い出すよりも早く、本能がアタシの目をアレから逸らさせた。

 

「う゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛~~~~ッ!!」

 

「ひぃっ…!?」

 

 咆哮が急にダミった!?

 思わず視線を戻してしまう。

 また目が合って……………え、何か……えぇ? 

 な、泣きそうな目してない…? 気のせい? むしろ何かをアタシに訴えかけてきているような……そんな気がするんだけど、ううん、これはきっと気のせいじゃない。

 

 どうしてそんな悲しそうな目で……悲しそうな目で……スクワットしてんの?

 

「えーっと……あの「うおぉぉぉッ!!」アナタってもしかして「うおぉぉぉッ!!」やかましいのよこの変態ッ!!」

 

「……ッ!」

 

 あ、言っちゃった。

 まだコイツが主車旋焚玖かどうか、確認する前に言っちゃった。いやでも、言うでしょ今のは。そんなにアタシ悪くないでしょ、今のは。

 

 でも、静かになってくれたわ。

 しかもスクワットも止まったし。

 これでちゃんと確認出来るわね。でも、コイツと知り合いとは思われたくないし……あ、そうだ、電話でも1回変態呼びしてるし、それで通じるでしょ。

 

「あーっと……一応、聞くけどさ。アンタが変態よね?」

 

「……ぐすっ…」

 

「ふぇっ!?」

 

 な、泣いたぁー!?

 




なーかした!なーかした!
一夏と千冬姉に言ってやろー!

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