選択肢に抗えない   作:さいしん

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感じるんですよね?というお話。



第20話 バブみ

 

 

「ペラペラやべぇ、ペペラペラ」

 

「なんだあれペペペラペ、ペラペーラ」

 

「ペペラペペーラ頭おかしい」

 

 これがアウェーの洗礼なのか。

 日本に居た俺は、大海を知らないただの井の中でイキっている蛙に過ぎなかったんだ。それを今、強く痛感させられている…!

 

「うおぉぉぉぉッ!!」

 

 雄叫びと共に全力でスクワット。

 自分で言うのもなんだが、超スピードだと思う。地元ではありふれた光景さ。そう地元ではな……ここは見知らぬ土地なんだ、俺を知らない異国なんだ…! その事実が俺に現実を叩きつけてくる。俺が今までどれだけ温室に居たのかを自覚させてくる。

 

 小学生時代、学校で俺を変な目で見てくる奴は居なかった。何故なら小学1年生からずっとこんな感じだったからだ。小学生男子ってのはアホしてナンボなところがある。それが低学年だったら尚更だ。

 学年が上がる度、違うクラスから同じクラスになった奴は最初に「なんだコイツ!?」となるも、既に他のクラスメイトが受け入れているので、自然と初見な奴らも時間と共に俺を受け入れるようになる。

 

 そのまま地元の公立中学に上がれば、当然大半の連中が同じ小学校の奴だ。結果、中学も特に変な扱いはされていない。長く居れば、俺でも受け入れられるのだ。それは学校以外でも同じだった。

 

 こちとらガキの頃から何年も、逆立ち歩きで地元を徘徊し続けていたんだ。今更、咆哮&スクワットくらいのコンボじゃ、地元の人間であれば誰も驚かない。

 

「おっ、また主車んトコの息子がやってるぞ!」

 

「あらあら、旋焚玖くんは今日も元気ねぇ!」

 

 そういうキャラを確立してきたんだ。

 だから誰も俺を変な目で見てこない。俺がこういう奴だと知っているから。

 

 しかし、しかし…!

 何度も言うが、此処は地元じゃないんだ。地元どころか日本ですらない、中国なんだ…! 誰も俺を知らないんだ! そんな中で超高速スクワットを叫びながら敢行していたらどうなる!?

 

 冒頭の反応に決まってるだろ!

 何を言っているのか、さっぱりだったらまだ良かった。

 だが、俺の語感センスは素晴らしいからな。中国語なんて前世の大学で習ったきりなのに、それでもまだ記憶に幾つか残っている程、俺は凄いからな。それが今回ばかりは徒になった。俺の凄まじさが徒になってしまったんだ。

 

 ところどころ、聞き取れてしまうんだ。

 不運にもマイナス系ばかり聞き取れてしまうんだ。それが俺のメンタルにグサグサくる。ホームとアウェイの違いを痛感してしまう。

 

 っていうか……もう帰りたい。日本に帰りたい。

 何で俺がこんな目に遭ってんの? よくよく考えたら……いや、軽く考えてもおかしくない? 親に二股を勘違いされて、それも熱く承諾されて、わざわざ遠い遠い中国まで気まずい鈴に会いに来て? それでコレですか? しかも会った事もないガキに、電話で変態呼ばわりされる始末ですよ? 

 

 これはアレですか?

 もしかして篠ノ之との再会を結構楽しんだ反動ですか? 飴と鞭ってるんですか? でも、ちょっと鞭が痛いです。ホームでイチビってただけの俺の精神力が、キツすぎるアウェイの洗礼で挫けそう……ううん、もう挫けた。だって泣きそうだもん。いい歳こいて俺、何やってんだろって……。

 

 あ、鈴っぽい子だ。

 声……掛けらんねぇや。

 

「うおぉぉぉぉッ!!」

 

 あ、目ェ逸らされた。

 そんな事したらホントに泣くぞ? いよいよ泣くぞ? いいのか? お前のイトコの姉ちゃんに(友達として)好きって言われた男が泣いちゃうぞ! それでもいいのかよ! おい、こっち見ろよ! マジで泣くぞ!?

 

「う゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛~~~~ッ!!」

 

「ひぃっ…!?」

 

 よ、よし!

 見たな! こっちを見たな! 後は意思の疎通を図るんだ、俺を止められるのはお前しかいねぇ!

 

「えーっと……あの「うおぉぉぉッ!!」…」

 

 うるせぇ!

 

「アナタってもしかして「うおぉぉぉッ!!」…」

 

 うるせぇ!

 

「やかましいのよこの変態ッ!!」

 

「……ッ!」

 

 解放された。

 それついては多大なる感謝を。

 

「あーっと……一応、聞くけどさ。アンタが変態よね?」

 

 でもな?

 お兄ちゃん、もうダメだわ。

 会った事もない年下の女子に、恐々しく、それでもやっぱり変態呼ばわりされちゃった事で涙腺がK.O.されちゃいました。

 

 頬を伝う涙を止めらんない。

 今回ばかりは、いつもみたく気丈に振る舞えない。俺のメンタルはボトボトダ。

 

「ちょっ、ちょっと、なに泣いて…!? ああ、もうッ! こ、こっちに来なさい!」

 

 年下の女子に、俺を変態呼ばわりした女の子に手を引かれる。反抗する気力もなく、俺は鈴っぽい子に黙って連れられるのだった。

 

 

.

...

......

 

 

「とりあえず、此処でいいでしょ。ほら、アンタも座んなさいよ」

 

「あ、ああ…」

 

 鈴っぽい子に連れられたのは公園だった。

 聞けば、この近くに鈴の家もあるらしい。だが、今の状態で会いに行くのはちょっとアレだから…という事で此処で少し落ち着こう、と。

 

 鈴っぽい子に倣って俺もベンチに腰掛ける。流石にもう泣いてはいない?

 

「……アンタが主車旋焚玖、で合ってるのよね?」

 

「ああ」

 

「そっか……」(や、やりにくい……イメージしてたヤツと違うんだもん。鈴姉からパンツをねだる変態だし、傲慢なヤツを想像してたのに……すっごいシュンってしてるんだもん)

 

「えっと……あ、アタシは凰乱音だから。えっと、まぁ……乱でいいわ」(変にあだ名で呼ぶな、とか言ってまた泣かれてもアレだし。癪だけど許したげる)

 

 

【分かった、鈴っぽい子】

【分かった、乱音】

 

 

 分かってないんだよなぁ。

 

「……分かった、乱音」

 

「分かってないじゃん!」

 

「ごめんなさい」

 

「べ、別に頭まで下げなくてもいいから! まぁ、好きに呼びなさいよ」(わ、分かんない……どういうヤツなのよ)

 

「名前も互いに分かったし。ねぇ、どうして噴水の前であんな事してたの?」

 

 そりゃあ聞いてくるよな。

 乱の言葉に悪意や皮肉は感じられない、純粋に疑問として思っているのだろう。でも、俺がそれに答えられるのは一言のみ。

 

「分からない」

 

「……はぁ?」

 

 視線を険しくされても、これだけは俺も譲れないんだ。この類の問いに対して、俺は今までずっと『分からない』『知らない』『存じ上げない』で通してきたんだ。

 バカ正直に【選択肢】の存在を明かしたところで一体誰が信じる? 信じる訳がない。それどころか本気でサイコパス扱いされてしまうだろう。それだけは絶対に嫌だ。

 

 だから俺はこう答えるしかない。

 

「俺にも分からないんだ」

 

「………………ッ」(そんな訳ないじゃん、嘘つき……って言いたいけど、そんな捨てられた子犬みたいな目で見られたら言えないじゃない…! んもうッ、本気で調子狂っちゃう!)

 

「そう。でもね? ああいう事はしちゃダメだよ? やっぱり、その、ね? みんなも驚いちゃうし」(んもぉぉぉッ! 何でアタシが優しく諭してんのよ!? アタシはコイツを追い返しに来ただけなのにぃぃぃ~~~ッ!)

 

 うぅ……気を遣われてるのがビンビンに伝わってくる。しかも、俺がヘコんでいるのを考慮してか、まるでまだ何も知らない幼子に接するかの様に説いてくる。乱さんのその雄大な優しさが俺を更にヘコませる。

 

「そうだな。これからはヤメておくよ」

 

「ええ、そうした方がいいわよ、きっと。あんなのもしイケメンがしてても多分みんな引いちゃうと思うし」

 

 

【俺はイケメンだから大丈夫だ!】

【俺はナニメンなんだ?】

 

 

 ナニメンって言葉が存在していた事に驚きを隠せない。

 えぇ……でも聞くの? あんまり聞きたくないんだけど。イケメンを例に出してる時点で既に除外されてるし、あとはフツメンかブサメンくらいしか残ってないじゃん。

 

「俺はナニメンなんだ?」

 

「え? アンタは……そうね、フツメンね。可もなく不可もなく……うん、見事なフツメンだわ」

 

 見事なフツメンってなんだよ。

 でもブサメンって言われなくて良かった。イケメンってのは一夏みたいな奴を言うんだ。俺だってそれくらいは分かっている。

 

 だが待ってほしい。

 フツメンの中でもランクがあると思うんだ。上・中・下的なクラスに分かれてる筈なんだ。

 自分で言うのもなんだが、俺はフツメン(上位)に位置していると思う。だって篠ノ之みたいな美女に名前で呼ばれたし。鈴にも(友達として)好きって言われたし。2回も言われたし。

 

 別に追及する気はないけど。

 

 

【車で言えばどのくらいだ?】

【○レンジャーで言えばどのくらいだ?】

 

 

 追及しねぇって言っただろ!

 変な聞き方してんじゃねぇよ!

 

「○レンジャーで言えばどのくらいだ?」

 

「……ミドレンジャーね」

 

 別に居なくても困らねぇヤツじゃねぇか!

 いや、乱さんも真面目に答えなくていいんですよ!?

 

 

【車で言えばどのくらいだ?】

【おでんで言えばどのくらいだ?】

 

 

 いやもういいだろ? 

 もう十分だ、十分堪能したよ!

 

「おでんで言えばどのくらいだ?」

 

「……コンニャクね」

 

「コンニャク? それっておでんの中でも主役級じゃないか?」

 

 もしかして乱さん的には、割と俺の顔は評価高かったりするのかな?

 

「ええ、そうね。おでんの顔とも言えるわ。そのくせ、あまり美味しくないでしょ? アンタの顔はそんな感じなの」

 

「ぐ、ぐぬぬ…!」

 

 どんな感じがまるで伝わってこねぇ! ミドレンジャーでコンニャクな顔なんて分かるか! やっぱり俺は真ん中でいい、ただのフツメンでいい、フツメンがいい、フツメン最高!

 

「……なんか……やっと元気になったみたいね」(よく分かんないヤツだけど、辛気臭い顔されてるより、よっぽどいいわ)

 

「ああ、おかげさんでな」

 

「それじゃあ、鈴姉のところに戻……あれ…?」(いやいや、おかしくない? ちょっと待ってよ。何でアタシ普通にコイツと仲良くしゃべってんの? アタシはコイツをブン殴ってやる為に迎えに行ったんじゃないの? だってコイツは鈴姉のパンツを欲しがる変態なんだよ!?)

 

 隣りの乱さんが何故かプルプル震えていらっしゃる。

 この子の案内無しじゃ、俺も鈴の家には行けないし……えっと、どうしよう…?

 

「ねぇ……どうして、鈴姉のパンツをほしがるの?」(もっと強く言いたいのに言えない……だって泣かれたら困るもん。理由は分かんないけど、なんか困るもん!)

 

 ああ、やっぱりそれが『変態』たる所以だったか。だが、それこそ本当にアレなんだ。

 

「分からないんだ」

 

「ッ、あ、アンタねぇ…! いい加減に……ッ…くっ、くぅぅぅ…!」(だからその目はヤメてってば! 何でそんな目で言うのよ! アタシの良心に訴えるなんて反則だぁ! もう追及できないじゃんかぁ!!)

 

「あ、あのね……えっと、ああ~……もう旋焚玖って呼ぶわよ? 呼び捨てだけどいいよね?」

 

 

【いい訳ねぇだろクルァァァッ!! ブチ殺すぞクソアマぁッ!!】

【旋ちゃんの方がいい】

 

 

 なんだお前コラァッ!! 

 さっきからコラァッ!! 

 絶好調かお前! 初めての外国でハシャいでんのか!? 勝手にテンション上げてんじゃねぇぞコラァッ!!

 

「旋ちゃんの方がいい」

 

「は、はぁッ!? アンタ調子に乗るのも「す、すまん。忘れてくれ」~~~ッ!! 分かったよぉ! だからその目でアタシを見んなぁ!」

 

 目?

 その目って……何か俺の目、おかしいのか? 今までそういう指摘は誰にもされた事ないからよく分からんぞ…?

 

「んもうッ! 話を戻すわよ、せ、旋ちゃん…!」

 

「お、おうよ!」

 

 年下の少女から『旋ちゃん』呼ばわり……なんか……やべぇ。

 

「あのね、せ、旋ちゃん。アタシが怒ってるのは、日本で鈴姉にパンツをくれって毎日旋ちゃんが言ってたって聞いたからなの。それは本当なの?」(鈴姉を誑かせてる云々はひとまず置いておこう。まずはこっちだよね、これだけは言っておかないと…!)

 

「……本当です」

 

 何か先生に怒られてるみたいだ。

 

「そっか……でもね、旋ちゃん? それっていけない事なんじゃないかな?」(な、なんか優しい口調になっちゃうんだけど……旋ちゃんって呼んでから余計に……うぅ~~~!! なんなのよ、この気持ちはぁぁぁ~~~ッ!!)

 

「……いけないこと、だと思う」

 

 やべぇコレ先生じゃねぇわ。

 この感じ……前世の幼き頃、何度か経験したアレだ。母さんに優しく怒られているアレにすっげぇ似てる。

 

「そうね、いけない事だよね。じゃあ、もう言っちゃダメだよ?」

 

 

【分かったよ、乱ママ】

【分かったよ、乱たん】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 うわぁぁぁあぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁッ!! ふざっっっっけんなよマジでぇぇッ!! 久々だぞ、オイ!? こんな戦慄選択、マジでひっっっさしぶりだぞ、あ゛ァッ!?

 

 ちょっとは相手考えろよ!

 中2だぞオイ! オイッ!! どっちもダメだって! 上も下もキモいって! せっかく、打ち解けかけてくれてっぽいのに、全部! ずぇぇぇぇんぶッ! 台無しになっちゃうて!

 

 ダメだ、どうせどっちか選ばねぇと始まらねぇんだ。言って即行オドケてみせよう! それしかねぇ!

 

「分かったよ、乱ママ……な、なぁーんちゃっ「はぁぁぁぁぁッ!? だ、誰がアンタのママよ!? バカじゃないの!? アンタほんとにバカじゃないの!? 死ね変態! 変態変態へんたぁぁぁいッ!!」……Oh…」

 

 思ってた以上に食いつかれるのが早かったです。おとぼけ作戦実行できませんでした。

 

「フンッ!!」

 

 乱ママ……じゃねぇや、乱は鼻を鳴らして、そのままスタスタ行っちゃった。そりゃそうだ。殴られなかっただけ俺は幸運だった。

 だけど残された俺はどうすっかな……流石にあんな顔真っ赤にして怒らせちまったのに、それでまだあの子の背中を追いかけるのも気が引ける。

 でも1人じゃ鈴の家どこか分かんねぇし……鈴に電話して迎えに来てもらった方がいいかな……ん?

 

「何してんのよ!」

 

 うぇい?

 

「アンタ1人じゃ道分かんないでしょ!? 早く来なさいよバカ旋ちゃん!」

 

「お、おっす!」

 

 ゆ、許された…?

 寛大な御心に感謝するッ……凰乱音…! もう絶対…! 俺はアンタを困らせたりはしねぇッ…!

 

 

【これから毎日ママと呼ぼうぜ?】

【これから定期的にママと呼ぼうぜ?】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 





これがバブみちゃんですか(困惑)

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