選択肢に抗えない   作:さいしん

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がむばるセシリアさん、というお話。



第34話 一言コミュニケーション

 

 

 

 俺たちの前にいきなり現れた(後ろから声を掛けただけ)謎の金髪美少女(自己紹介していないだけ)、その正体は一体…!

 

 縦ロールに整えた長い金髪に、透き通ったブルーの瞳が特徴的である。縦ロールの時点でもう、お嬢様な気配がプンプンだ。前例ならいくらでもあるし、お蝶夫人とか。あと……お蝶夫人とか。

 

 仰々しく手を腰に当ててる様とかもね、なんか貴族っぽいし。実際、いいところの出なのかもしれない。美人だし。

 ただ懸念すべきポイントは、身分でも外見でもない。この子がアレかどうかってところだ。いわゆる女尊男卑ってる子なのかどうか。それ次第でこっちも接し方とか考えなきゃいかんのよなぁ。

 

「まぁ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

 ひぇっ……なんだその芝居掛かった口調…! 

 コイツやべぇぞ、調子コイてオホホホ笑いとかする系だぞ。絵に描いたようなアレだ、性格の悪い貴族さんな匂いがするよぅ。

 

 い、一夏、何とかしてくれ…! 

 俺が(選択肢)動く前に! この女が俺に何か言う前に! 何とか追い返すんだ! それが出来るのはお前しかいねぇッ…!

 

「あなたも黙ってないで何か言ったらどうですの? わたくしは、あなたにも言ってますのよ?」

 

 ああ、無慈悲。

 時間も止まっちゃったよー。

 

 

【こんな輩とは語り合うに値しない。漢らしい返事をするだけに終始する】

【この御方は名族である! 下賤な身の自分が、どうして同じ目線で語れようか。即刻跪き、奴隷として忠誠を誓うのだ! 気に入られれば、性奴隷に格上げされる可能性もあるぞ! 美しい彼女の性奴隷に、なりたくはないかァーッ!!】

 

 

 なんだコラァァァァッ!!

 【下】コラァァァッ!!

 無駄になげぇぞコラァッ!! ウキウキかお前! 高校入学でテンション上げてんじゃねぇぞコラァッ!! こんな美人の奴隷なんて俺が選ぶわけ……え、選ぶわけねぇよなぁ?

 

 まぁ待て。

 そんなに焦る事もあるまい。ちょっと考えてみようよ。アレだ、仮にだ。あくまで仮の話ではあるが、もし俺が【下】を選んだら、どんな未来になるかね。別に考える必要ないんだけどね、たまにはね、念には念をっていうしね。

 

 【下】を選ぶと、俺はどんな未来が待っている…?

 それは奴隷から性奴隷へ成り上がる道。

 それは果てしない性なる栄光へのロード…! それは何と芳醇で魅惑的な未来……~~~ッ、な訳ねぇんだ! バーカバーカ! 俺の強靭な精神力をエロで釣ろうなんて100年甘いぜ! 試しに、ほんの試しに、【下】なんてハナから選ぶ気なかったけど、敢えて考えてみた結果、俺は【上】を選ぶぜ!

 

「あ゛ァ!?」

 

「ヒッ……な、なんですの!? レディに向かってそのお返事は!?」

 

 漢らしいお返事らしいです。

 僕は違うと思うけど(名推理)

 

「悪いな。俺も、多分旋焚玖も、君が誰か知らないんだよ」

 

 今日も一夏の名フォローが光る!

 サンキュー、イッチ! そのままお前が金髪の相手をするんだぜ! お前だけがするんだぜ! 

 

 言われた本人はというと、一夏の言葉が癇に障ったのか、吊り目を細めて、ますます俺たちを見下すような口調で続けた。

 

「わたくしを知らない…? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして! 入試主席の! このわたくしを!?」

 

 すっげぇアクセントってる、はっきり分かんだね。

 そんなに「わたくしはしゅごいのぉぉッ♥」アピールしたいのか。っていうか、イギリスって紳士・淑女の国じゃなかったのかよ。全然そんな事ないじゃないか。今んところコイツの良い部分って顔だけだぞ。

 

「代表候補生……」

 

 一夏が呟く。

 フッ……言ってやれ、一夏。

 俺たちの勉強の成果を披露してやりな!

 

「つまり国の中枢を担う存在である国家代表IS操縦者の、その候補生として選出された有望な存在……で合っているな?」

 

 オルコット本人ではなく篠ノ之に確認するあたり、一夏もコイツに苦手意識を持っているらしい。

 

「ああ、合ってるぞ」

 

「やったぜ! その語句は旋焚玖と予習したヤツだからな、バッチリさ!」

 

「勉強は嘘をつかない」(至言)

 

「旋焚玖……ああ、そうだな!」

 

 パチンッと小気味いいハイタッチを交わす。まぁ代表候補生って単語自体は、勉強してなくても何となく想像付くモンだが、そこは言わないお約束だ。

 

「そう! まさにエリートなる存在なのですわ!」

 

 チッ……俺たちのアホなノリに疎外感喰らってりゃいいものの、普通にまた入ってきやがった。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた存在とは、クラスを同じくする事だけでも奇跡…! まさに奇跡! そしてなんたる幸運! その素晴らしさをもう少し理解していただけるかしら?」

 

 その演劇みてぇなノリやめてくんねぇかな。笑っちゃいそうになるから。

 

「そうか。それはラッキーだ」

 

「……馬鹿にしてますの?」

 

 一夏のは素なんだよなぁ。

 

「そこのあなたは理解していますわよねぇ?」

 

「あ゛ァ!?」

 

「ひゃっ……な、なんなんですの! 先程からあなたは!?」

 

 漢らしい返事。

 

「ふ、ふん…! これだから男は嫌ですわ。あなたのような、力を振りかざしていい気になっている野蛮な輩は特に…!」

 

 ISを振りかざしていい気になっているエセ貴族が何か言ってんよー。

 

「大体、あなたも何ですか。代表候補生という誰でも知っている単語如きで、あのようにはしゃぐなどと……まるで知的さが感じられませんわね。1人目の起動者も期待外れですわ」

 

 さっきから香ばしすぎんだろコイツ。

 何でこんなケンカ売ってきてんの?

 

「……別に君に評価されなくてもいいよ」

 

 煽り耐性あんなぁ、一夏。

 内心けっこうピキピキきてるのは伝わってくるけどね。俺? 普通にイラッときてますよー。選択肢のせいで、今コイツに何か言おうとしても「あ゛ァん」的な事しか言えないから黙ってるけど。

 

「ふん。まぁでも? わたくしは優秀ですし、優しいですから。泣いて頼まれたらISの事でも教えて差し上げてもよくってよ。な・に・せ! 入試で唯一教官を倒したエリート中のエルィィィートですから」

 

 巻き舌ったぞコイツ。

 マジでどんだけ自己主張激しいんだよ、母国じゃ誰も褒めてくれなかったんか?

 

「入試って、あれか? ISを動かして戦ったアレ?」

 

 俺は戦ってないけどな。

 

「それ以外に入試などありませんわ」

 

 俺は動かすのが入試だったけどな。

 

「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

 

「は……?」

 

 ま、マジか、一夏…!

 お前、いきなりそんなレベルに達してんのか…………超しゅごい…。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが…?」

 

 やーいやーい、一夏だって倒してるもんね~! さっきまでの威勢はどこいったよ、おう? おうお~う?

 

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

 そうだそうだ、言ってやれ一夏!

 

「つ、つまり……わたくしだけではない、と…? くっ、あ、あなたはどうなのですか!? あなたも教官を倒したと言いますの!?」

 

「あ゛ァん!?」

 

「ひうっ……な、なんなんですの本当に! あなたさっきからわたくしにそれしか言ってないですわよ!?」

 

 それについてはホントにすまん。

 だから俺に話しかけなくていいよ。

 

「旋焚玖はどうだったんだ?」

 

 まぁ聞いてくるよねー、自然な流れよねー。

 人差し指しか動かせなかった、なんて言いたくない。一夏と篠ノ之には平気で言えるけど、この金髪には言いたくない。100億%バカにされるに決まってるし。「ほら見たことか」とマウント取ってくるのが目に見えてるわい。オホホ笑いも披露されること間違い無しだ。

 

「フッ……」

 

 そういう時はただ薄笑みを浮かべるに限る。

 どう捉えようが、それは自由だ。でも後で一夏と篠ノ之にはちゃんと言っておこう。

 

「な……そ、その笑みは…!」(ま、まさかこの人も教官を倒したというのですか…!? そんな馬鹿な事ある筈ありませんわ! ですが彼の自信に満ちた、いえ、挑発的な笑みは敗者のそれではない…!)

 

 うひひ、せいぜい悩むがいい。

 出口の見えない螺旋で彷徨いな…!(吟遊詩人)

 

「あ、あなた達、わたくしに嘘を―――」

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 

 全く納得のいっていないオルコットは話を続けようとするが、そこに割って入る3時間目開始のチャイムさん。い~い音色だ、タイミングもいい。

 

「っ……! またあとで来ますわ! 逃げないことですわね! よろしくて!?」

 

「何言ってんだよ、お前の席旋焚玖の後ろだろ」

 

「ッ……!?」

 

 あ、オルコットの顔がピキッと固まった。

 

 やーいやーい、一夏にツッコまれてやんの~。ねぇねぇ、どんな気分なの? チミはどこの席に着こうとしてたの? ねぇねぇ、気まずい感情ってどんな感じなの~?

 

「……~~~ッ、あ、あなた何をニヤニヤして―――」

 

 あ、バカ、俺に声掛けるな!

 

「あ゛ァ゛ッ!?」

 

「ぴっ……んもう! びっくりするからソレはやめてくださいまし!」

 

 それに関してだけは心の底から謝罪を。

 あと、びっくりするからって理由が可愛いなと思いました。

 

 

 

 

 

 

 さぁ、気を取り直して3時間目の授業だ。

 さっきまでの授業と違って、教壇には千冬さんが立っている。

 

「えー、授業に入る前に、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけなくてな」

 

 教室が俄かにざわめく。

 

「他校でいうクラスの委員長みたいなモノではある。それだと何となくイメージがつくんじゃないか? ちなみに1度決まると1年間変更はないと思え」

 

 俗に言うクラス長か。

 ただ、クラス対抗戦ってのがよく分からん。多分、このざわつきもそれが気になっての事だろう。

 

「クラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。簡単に言えば、各クラスの代表者同士がそれぞれ模擬戦を行う、といったモノだ」

 

 ふむふむ、俺が出たら公開処刑ですね分かります。

 

「自薦・他薦は問わない、誰かいないか?」

 

 千冬さんが皆に問いかける。

 さて、誰が推薦されるかな、まぁ予想できるけど。

 

「はいっ! 織斑くんを推薦します!」

 

「へ!?」

 

「私もそれがいいと思います!」

 

「私も織斑くんを推薦します!」

 

「ちょっ!?」

 

 当たり前だよなぁ?

 そこは一夏、劇的ネームバリューってヤツだ諦めろ。ダメ押しに俺もお前を推薦してやる。でもバレたら何か言ってきそうだし……あ、そうだ。

 

 あーあー、ンンっ、ンンンっ…!

 アーアー(裏声)

 よし、こんな感じか。

 

「ワ、ワタシモオリ―――」(女っぽい声)

 

「き、気色の悪い声を出すな主車…!」(小声)

 

 ソッコー遮られちゃった。

 小さすぎて篠ノ之にしか聞こえなかったらしい。ひでぇよ篠ノ之、俺のセクシーボイスを気色悪いと申すのか……うん、キモいな確かにキショいわ。

 

「では候補者は織斑一夏、と。他にはいないか?」

 

「ま、待ってくれ! 別に俺じゃなくても……あっ…!」

 

 うげっ、こっち見てきやがった…!

 

(せ、旋焚玖! 推薦してもいいか!?)

 

 やっぱりね!

 嫌に決まってんだろバカ! 

 ぜぇぇぇぇッたいに嫌だ! 

 ただのクラス長ならまだしも、対抗戦だァ!? 観衆の前で「動けませーん!」って言えってのか!? そんな羞恥プレイ死んでもお断りだい!

 

(別にいいぞ)

 

(ほ、ホントか!?)

 

(ああ、お前が「嫌だから押し付けたい」って気持ちを1mm足りとも持っていないと言えるならな…!)

 

(ッ……そ、それは…!)

 

 うわははは!

 すまんな、一夏よ!

 俺もマジで嫌なんだ、悪いがお前の良心をツンツンさせてもらうぜ!

 

(自分がされて嫌な事をお前は親友の俺にするのか…? 俺に……するのかよ…?)

 

(ぐっ……旋焚玖の言う通りだ、もう少しで俺はダチを売っちまうとこだったぜ…!)

 

 フッ……口上戦で俺に勝てる奴なんざ居ねぇよ。

 口先の魔術師は伊達じゃない。

 

(安心しろ、一夏。お前がクラス代表になったら、俺も全力でサポートする)

 

 これはマジ。

 それくらいは流石にな。

 

「さて、他はどうだ? いないなら無投票当選だぞ」

 

 一夏も腹を括ったか、素直にイスに座り直す。

 頑張れ一夏、お前がナンバー1だ。

 

「お待ちくださいッ! 納得がいきませんわ!」

 

 バーンと机を叩いて立ち上がり、ちょっと待ったコールを掛けたのは、俺の後ろの席に座っている奴……セシリア・オルコットだった。

 

「そのような選出は認められません! クラス代表といえば、クラスの顔ですのよ!? でしたら当然、実力トップがなるべきでしょう!?」

 

 なんだよ、ちゃんと筋の通った正論も言えるんじゃないか。ただのマウンターじゃなかったってこった。そこに関しては俺の見誤りだったか。

 

「いいですか!? もう1度言いますわ! クラスの代表はクラスで最も実力ある者がなるべきです! それなら入学試験主席の私がなって必然ですわ!」

 

 そうだそうだ!

 ハハッ、一夏の瞳もランランと輝いているぜ! オルコットの発言は的外れではなく王道を唱えているし、一夏もクラス代表にならなくて済むんなら、それに越したことはないだろう。

 

「ですのに! あなた達という人は、まったく!」

 

 ん?

 なんか……嫌な予感…。

 

「ただ男性起動者が物珍しいからという理由だけで極東の猿に……―――」

 

 じ、時間が……止まった、だと…?

 

 

【雑魚はスッこんでろ。俺がクラスの代表だ…!】

【このままオルコットを喋らせるとマズい気がする。何とか遮るんだ! 窓の外を指差して「UFOだ!」とか言ってみるんだ!】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

「な、なんですのいきなり立ち上がって!?」

 

 うるせぇ黙ってろ!

 窓際の席で良かった! 

 いや良くねぇよ! 

 クソッ、いいよ、言えばいいんだろ!

 

「UFOだ!」

 

 窓の外を指差し叫ぶ。

 

 

「「「「…………………」」」」

 

 

 ふたたび時間が止まった。

 いや、止まってない。

 止まってないけど止まったの。空気が止まったの。

 

「……で、あるからして。実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然なのです!」

 

 この女、何もなかったように再開しやがった! スルー力抜群かチクショウ! ただ俺が恥かいただけじゃねぇか! やっぱり変な奴だってみんなに再認識されただけかよぉ!

 

 もういいもん!

 勝手に自爆しろアホ! クルクル! なにが縦ロールだ、このコロネが! てめぇ絶対ボッチになるからな! それ以上言ったらマジで反感喰らうだけだかんな! 俺はもう知らん!

 

「それを、物珍しいからという理由で極東の猿に……―――」

 

 

【雑魚はスッこんでろ。俺がクラスの代表だ…!】

【オルコットをボッチにはさせないッ! 俺のドゥドゥドゥペーイを聴けェッ!】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 






旋焚玖:(´3`)ぬっとぅる~♪(ヤケ)


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