選択肢に抗えない   作:さいしん

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犯人は美樹本、というお話。



第36話 俺の城

 

 

 

「予習してて良かったな」

 

「ああ」

 

 放課後、俺と一夏は教室でまったり…というかぐったりしている。

 こんなに1日が長く感じたのは久しぶりだ。英語やら数学やらは置いておくとして、問題はIS関連の授業だ。重要っぽい部分だけでも目を通しておいて、本当に良かったと思う。何も勉強してなかったら、意味不明すぎて嫌になっていただろう。

 

 それより俺は休み時間がキツかった。

 3時間目の授業……つまり、あのクラス代表の話が上がった授業だな。その授業が終わってから、ヤツがまた出しゃばってきたんだ。

 

「では、3時間目の授業はこれで終了だ」

 

 千冬さんが締めた後、すーぐ出てきやがった。

 

 

【セシリアに話しかけてみよう】

【オルコットに話しかけてみよう】

 

 

 同一人物なんだよなぁ。

 別に話すこともないし、むしろオルコットだって俺に話しかけられてさ、良い気はしないだろうが。ちっ……真後ろの席だし、途中で誰かが遮ってくれるのも期待できねぇんだよなぁ。

 

 後ろを振り返る。

 オルコットと目が合う。あ、ちょっと嫌な顔された。ごめんね。

 

「オルコット」

 

「……なんですの?」(あんな事がありましたのに、それでも普通に話しかけてきますのね……一体、何を言ってくるつもりでしょう……)

 

 

【イギリスの飯が世界一不味いって本当か?】

【呼んでみただけ】

 

 

 うぜぇぇぇぇッ!!

 

 どっちもうぜぇぇぇぇッ!! っていうか【上】コラァッ!! なに俺に国辱モンの発言させようとしてんの!? さっきオルコットがソレをしそうになったから止めたんだろぉ! 明らかにケンカ売ってんじゃねぇかバカ! まだ【下】の方がマシだバカ!

 

「呼んでみただけだ」

 

「はぁ!? あ、ちょっ…!?」

 

 よし言った! 

 

 ソッコー反転してオルコットに背を向ける。すまないオルコット…! それがきっと双方にとっての最善なんだ! こんな俺(選択肢)でごめんよぉ!

 

「な、な、な……!」(なんなんですの、この人は~~~~ッ…! くっ、ここで変に喰い付いたら、わたくしが必死だと周りに思われてしまう…? ダメですわ! そんなのわたくしのプライドが許しませんわ!)

 

セシリア・オルコットは何事も無かったかの様に、次の授業で使う教科書を机に出した。旋焚玖の言葉などまるで気にも留めていない、自分はそんな事よりも予習の方が大事なんだと……そう装っているだけだった。内心めちゃくちゃ気にしてしまうオルコットだった。

 

 そして4時間目の授業後。

 

 

【イギリスの飯って世界一不味くね?】

【オセロット(ネコ科)について軽く説明する】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

「いいかオルコット。オセロットは主に南アメリカの熱帯雨林に生息している哺乳綱食肉目ネコ科だが、実はメキシコにも居たりするんだぜ」

 

「は、はぁ……どうしてそんな説明をわたくしに?」

 

 名前が似てるからだと思うんですけど(名推理)

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「(サッ…!)」

 

「あ、ちょっ…!?」

 

 すかさず反転、背を向けーる!

 すまない、オルコット…! それがきっと双方にとっての最善なんだ! こんな俺(選択肢)でごめんよぉ!

 

 そして5時間目の授業後。

 

 

【イギリスの飯は世界一不味い】

【セシリア(小惑星)について軽く説明する】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 

 

 

 

 

「ぽへー」

 

「旋焚玖、疲れてんなぁ」

 

 当たり前だよなぁ?

 そりゃあお前、机の上でぐったりパンダってるのも無理ねぇだろ? 今日1日、最後の最後までオルコットに話しかけさせられたっての。話しかけさせられたっていうか、イミフな一口説明ばかりさせられたっていうか。

 

 その度になんだかんだ最後まで聞いてくれた、オルコットの律儀っぷりに感謝を。まぁ律儀っていうか、変に途中で遮ったら俺がキレるんじゃないか、とか思われてそうだが……いや、ホントすまんねオルコット。

 

「ああ、主車くん、織斑くん。まだ教室に居たんですね、良かったです」

 

 んぁ?

 

 顔を上げたら、山田先生と千冬さんが書類を片手に立っていた。2人とも鍵っぽいモン持ってんな、っていうか鍵だな。

 

「えっとですね、こちらが織斑くんの寮の部屋の鍵と部屋番号のメモになります。学園寮は相部屋が基本的なのですが、織斑くんは1人で使えますのでご安心ください」

 

 おお、何かホテルのキーみたいに豪華だなぁ……あれ、何か含みある言い方してない? てっきり俺と一夏がルームシェアするって思ってたんだけど、俺たちは別々の部屋なの? まぁそっちの方がいいか、1人の方が色々とナニ出来るし。

 

 事前に俺も一夏も、今日から寮生活だってのは聞いてたし混乱はない。

 

「1人部屋かぁ……旋焚玖、後で部屋の見せ合いっこしようぜ!」

 

「おっ、そうだな」

 

 見せ合いも何も、寮の部屋なんて何処も同じだろうが。ま、暇だしどっちかの部屋でダベるとしよう。

 

「……主車、お前の部屋の鍵はコレだ」

 

「あ、はい…………ん…?」

 

 なんか……普通の鍵なんですけど。

 一夏が貰ったのが『キー』なら、俺が千冬さんから貰ったのは『ザ・鍵』って感じなんだけど。

 

「どうせ織斑にもすぐにバレるからな。今、言っておくぞ」

 

 嫌な……いや、悲しい予感がする。

 

「あー、何と言うかだな……主車は学園寮には住めない」

 

「……む」

 

 やっぱりねぇぇぇぇッ!!

 悪い方の予感って絶対外れないよねぇぇぇぇッ!!

 

「なっ…!? ど、どういう事だよ千冬姉!?」

 

「織斑先生だ」

 

「イデッ!? いいや、痛くないね! ちゃんと説明してくれないと俺は千冬姉って呼び続けるぜ!?」

 

 当人の俺よりも一夏の方が千冬さんに食って掛かる。いやはや、一夏の優しさはアジア大陸に涙の雨を降らすなぁ。その必死な姿が俺を気丈に振る舞わせてくれるぜ…! いやホント、どういう事なの? 俺も聞きたい、っていうか俺が一番聞きたいわ!

 

「落ち着け織斑。これはな……学園アンケートで決まった事なんだ」

 

「えっとですね、お2人が学園寮に住むにあたり、生徒が『賛成』か『反対』かのアンケート調査を新1年生含むIS学園全体で行いまして……」

 

 山田先生が言いにくそうに目を伏せる。

 おぉもう……その仕草だけで結果が伝わってくるよぅ。

 

「俺に対しては『反対』意見が多かったんですね?」

 

「……ああ。おそらくだが、報道時の声明文と……まぁ、ここ1カ月間に流れた主車の噂が起因しての事だろう」

 

 自業自得じゃねぇかクソッタレ!

 

「そ、そんな…! どうにかならないのかよ、千冬姉!」

 

「こればかりは私でも覆すのは無理だ。対象が全生徒となればな」

 

「そうですか、分かりました」

 

「せ、旋焚玖!? お前ッ、辛くないのかよ!?」

 

「気にしてないさ」

 

 嘘だよぉ! 

 とっても気にしてるよぉ!

 とてつもなく辛いよぉぉぉぉぉッ!! 俺も女の子と同じ寮に住みたかったよぉぉぉッ!! 何かの間違いで女の子と相部屋とか、そういうのも実は期待してたのにぃぃぃぃッ!! ふぇぇぇぇ……ッ! きっと罰が当たったんだぁ……邪なことばかり考えてる俺に天罰が下されたんだぁ……のもんはぁぁん…。

 

「……で、だ。主車の住む場所は……まぁ、見た方が早いな」

 

 いや濁すなよ!

 余計に気になるだろぉ!

 もう分かってるよ! 濁した時点で良いトコじゃないんだろぉ! それならさっさと宣告してくれた方がマシだよぉ!

 

 

【車で言えばどのくらいだ?】

【3匹のこぶたで言えばどのくらいだ?】

 

 

 車で言われても分かんねぇよ!

 

「3匹のこぶたで言えばどのくらいでしょう?」

 

「む…そうだな、次男だな」

 

 木造建築じゃねぇか!

 オオカミに体当たりされたらどうすんだよ!? 俺が喰われちまってもいいのかよ!? せめて三男のレンガにしてくれよぉ!

 

「だ、大丈夫か、旋焚玖?」

 

「大丈夫だ、どんな場所でも住めば都さ」

 

 そうだよ、こんな事くらいでヘコたれてたまるか。どんな時でもポジティブだ。生きていく上で、ポジティブシンキングはとても大事なのだ。

 考えてもみろ、女の子だらけの学園領内で俺だけ1人暮らしなんだぜ? しかも学園寮じゃないときた。いずれ此処に通う女子たちも、俺の溢れんばかりの魅力に気付くだろう。

 

 気付かずにはいられないッ! 

 俺の魅力にッ!(念押し)

 

 そうなったらお前、アレだ、もう、毎日連れ込んでニャンニャン(死語)出来るって事じゃん? 寮内じゃないし、誰にもバレないって事じゃん?

 

 いけるやん!(自己奮起)

 木造建築いけるやん!(自己暗示)

 

「旋焚玖……お前って強いよな、本当に」

 

「フッ……」

 

 俺の下世話な心情っぷりは誰にも覗かせねぇ。困った時は、いつもの不敵な笑みを浮かべるに限る。これで15年やって来たんだ、これからもよろしくな、顔筋!

 

 それからは一夏が山田先生に。

 俺が千冬さんに案内される形で、校舎から出るのであった。

 

 

 

 

 

 

「……ここが俺の城か」

 

 校舎から出て、運動場を真っ直ぐ進み、雑木林的な所を抜けたところで、ポツンと建てられた木造ハウスを発見。どんなボロ屋かと思いきや、とんでもない。中々どうして、かなりしっかり建てられてるんじゃないか?

 

「どうだ、感想は?」

 

「そうですね、なんていうか……雪山のペンションみたいな外見してますね」

 

「ふむ……言われてみれば確かに」

 

「よし、決めた。この家を『ペンション・シュプール』と名付けよう」

 

「……殺人事件が起きそうな名前だな」

 

 かまいたちの夜的な意味で?

 ああ、そうだ、これも一応千冬さんに聞いておこうかな。

 

「クラス代表の件ですけど、政府から俺への処置ってマジなんですか?」

 

「ああ。生身の強さは既に超Sクラスであっても、ISに関しては……まぁ…まだアレすぎるからな」

 

 弱すぎる以前の問題ですよねー。

 

「別に政府も多くは求めていない。国家代表になれとも、代表候補生を倒してみせろなどと求めていない。まずは人並みに……そうだな、歩けるようになろうな」

 

「……ういっす。俺が検査の時にお願いした特例の方はどうなってますか?」

 

 特例って言っても、そんな無理難題を強請った訳じゃない。

 アリーナの使用時間を俺だけ無制限に、つまりコンビニ化してくれってお願いしたんだ。むしろ俺からしたらそれくらい当然だろ、IS技能が成長しなかったらモルモットにされる未来が待ってんだからよ。

 

「それに関しては許可が下りた。正式に今日から使えるぞ」

 

 やったぜ。

 

「あと少しだけ聞きたい事があるんですけど」

 

「ん…? ああ、言ってみろ」

 

「オルコットは俺と一夏に『決闘』を吹っ掛けましたが……ISで、とは言ってませんよね?」

 

 単なる確認であって、深い意味はないよ?

 一応ね、一応聞いておこうかなぁって。

 

「……確かに言ってはいない、が。ISでの戦いが自然な流れではあるだろうな」

 

 そりゃそうだ。

 だってここ、IS学園だもの。

 

「そうですね、自然な流れですね。ただ、アイツは決闘だと言った。模擬戦ではなく、決闘だと言った」

 

「旋焚玖……? お前、何を考えている?」

 

「ISでの模擬戦ならISの使用が当然義務となる。だが決闘であれば、ISの使用は義務ではなく、あくまで権利。使う使わないは本人の意思によるもの。そうでしょう?」

 

「はぁ……聡いお前が、よもや生身で戦おうなどと慢心している訳ではあるまい?」

 

「まさか」

 

 そんな無謀な事はしたくない。

 ただ、手を抜くなってオルコットから言われちまったからな。手を抜いてオルコットの奴隷になるのも愉しそうだが、今回ばかりはお預けだ。

 この10日間は俺もアイツに勝つ為に本気で動く。IS技術うんちっちな俺が、たったの10日でアイツに勝つにはどうしたら良いか。それを探る中での質問だ。

 

「……私の考えを言えば、お前の言う通りだ。決闘とは己が全てを懸けて臨むモノ。少なくとも柳韻さんからはそう教わっている。決闘と模擬戦は全くの別物だ。あくまで私の考えではあるがな」

 

 流石は姉弟子。

 俺と全く同じ考えで嬉しいぜ。

 

「俺も全てを使っていいですね? ISでも篠ノ之流柔術でも」

 

「……屍(かばね)だけは使うな。それなら許可しよう」

 

 屍とは篠ノ之流が使う毒の隠語である。

 いや、使わんよ? 流石にクラスメイトに使うモンじゃなからな。そこまで俺も外道じゃないもん。しかし、これで俺の戦闘スタイルは格段に広がったと言える。

 

 純粋なIS戦が出来れば、それに越した事はないんだけど……きっとオルコットはそのつもりだろうし。すまんなオルコット。10日だけじゃ無理だ。恨むんなら俺の才能の無さを恨んでくれ。

 

 





力の無さを恨みな(エルク)

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