報告の結果、というお話。
「ぬわぁぁぁん! ぜんぜん勝てねぇよぉぉぉん!」
どうやら俺が居ない間も、しっかり篠ノ之と練習していたようだ。シュプールに近づくにつれて、一夏のアホな泣き言が聞こえてくる。フッ……お前のそのアホっぷりが、負けた俺の心を癒してくれるぜ。
「ぐぬぬ……箒さん、ちょっと強くなりすぎてませんかね? この負けっぷりは俺が弱くなっただけじゃないと思うんだが……あ、旋焚玖! おかえり!」
「主車……帰ったか」
「ああ、ただいま」
遠目から見ていたが、確かに一夏の言う通り篠ノ之のキレが増しているように思える。去年の夏からここまで伸びてくるか。『剣を振るのが楽しい』と言ってたが、どうやらそれは本当らしい。気持ちだけで一気に成長してみせるとか……しゅごい才能だぁ(羨望)
「主車も帰ってきたし、休憩しよう一夏。それで、敵情視察とやらは上手くいったのか?」
敵情視察。
戦術を調べてくるとは言ってない(予防線)
だが、しっかり報告だけはしておこう。
「ああ。オルコットはルームメイトとも良い関係を築けていたぞ」
「へぇ~、確かにルームメイトとは学校以外で一緒に居る事が多くなるだろうし、早めに仲良くなっておく方がいいよな! なぁ、箒!」
「え、あ、ああ、そうだな……え?」(な、何かおかしくないか? その情報って要るのだろうか。でも一夏もツっこまないし……むぅ…?)
篠ノ之がポカンとしてる。
安心しろ、お前のその反応は正常だ。
でも続けちゃう。
報告しねぇと俺は何の為にあんな時間を過ごしたか分かんねぇからな。すまねぇが、もう少しだけ付き合ってもらうぜ。
「しかも更に、クラスメイトの1人とも友達になれたらしい」
「それはすごいな! 俺たちも早くクラスメイトと打ち解けないとな! なぁ、箒!」
「う、うむ…? そうだな、私も努力しよう……いや、えぇ…?」(何かがおかしい……だが、楽しそうに話してるし……むぅ…)
「ああ、あとオルコットはフレミングの使い手だ」
「ふ、フレミングの使い手!?」
「それがオルコットの武器か」(IS的な意味で)
「ああ、オルコットの武器だ」(じゃんけん的な意味で)
「どんな武器なんだ?」
「こんな武器だ」
一夏たちに分かりやすいよう、オルコット直伝フレミングを披露する。グーにもチョキにもパーにも勝てる最強の手だ。
「……その手をいつ使うんだ?」
「じゃんけんで使うんだ」
「……そろそろ、私だって怒るぞ?」(好きな男だからって甘々な私じゃないぞ! メリハリを大切にしたいんだ!)
「ごめんなさい。ISについては分かりませんでした」
以上が報告になります。
最後まで付き合わせて申し訳ございませんでした。でも篠ノ之さんが完全にピキる前に言えて良かったです。
【怒ってみろよ。あァん? 怒ってみろよォッ!!】
【一体どんな怒り方をするのだ?】
いやもう謝ったじゃん!
もう俺謝ったから、頭下げて謝ったから! お前ワンテンポ遅いって! もう次の話に進む感じだっただろ! せめて一つ手前で出せよ! 俺が謝る前に出すだろ普通! 何年この仕事やってんだお前!
なぁオイ見ろって。
謝ってさ、篠ノ之に頭下げてさ? 顔上げた瞬間【上】の台詞言うとか、もうやべぇだろ。完全にキチってるじゃねぇか。【下】も意味不明だし。怒り方を聞いてどうすんの? じゃんけんの時も思ったけど、そんなに掘り下げるところじゃないって絶対。
「……一体どんな怒り方をするのだ?」
「は? な、何を急に……ハッ…!」(こ、これはもしや……試されている…!? 確かに布石はあった…! 食堂でのあの一件…! わ、私もアレを言えるかどうか……そういう事なんだな!? いや待てよ……あっ、あぁぁッ! そ、そうか! 全てを今、私は理解した! 旋焚玖が長々とISに関係ない話をしていたのは、最初から私を怒らせる為だったんだ! 私に例のアレを言わせる為だったんだ! つまり旋焚玖はそれほど私に言って欲しいんだ!)
そこで篠ノ之がハッとなった理由がまるで分からない。俺の台詞に深い意味なんてないですよ、種も仕掛けもございません。
「……すぅぅ……ふぅぅぅ……」(い、言ってやる…! 言ってやるぞ。女は度胸…! 引くべきところでは引き、攻めるべきところでは攻める。今は攻める時なんだ…! それなのに恥ずかしい気持ちが消えてくれないッ……せ、せめて…!)
どうして篠ノ之さんは、さっきから精神統一をしているのでしょうか。それは彼女が今なお握って放さない愛刀で、俺を殺る為だと思うんですが(迷推理)
謝っておいて、その返し刀で怒り方を改めて聞くとか、挑発以外の何モンでもないよね。ああ……篠ノ之がキレる理由も説明がついてしまった(迷推理?)
「一夏ァッ!!」
「うわビックリした!? ど、どうした箒!?」
「耳を塞いで後ろを向け!」
「はぁ? なんでだよ、理由を言ってくれなきゃ俺だって」
「何も聞かずに頼む一夏! 一生のお願いだ!」
「一生のお願いなら仕方ないな!」
篠ノ之の言葉に何の疑問も持たない一夏くん、お耳を塞いでクルリンパ!……いよいよやべぇ。
何故篠ノ之は一夏に懇願してみせた?
決まっている。
犯行を目撃されたくないからだろぉ!!(名推理)
「ふぅぅぅ……そこを動くなよ、主車…!」
ひっ……木刀片手にジリジリと篠ノ之がにじり寄ってくる…! このまま不動でいいのか、俺…!?
【いい訳がない。先手を打つに限る】
【逆上されると厄介だ。落ち着いてカウンターを狙おう】
どっちがいいんだ!?
わ、分からねぇ…! 殺られる前に殺るのが鉄則とはいえ、下手に俺から動くのもマズい気がする。ここは【下】だ!
「……来るなら来い」
「ああ、言ってやるとも…!」
俺と篠ノ之の距離がほぼゼロになる。
いや近くね!? そんな距離でエモノ振れねぇだ…あ、ちょっ、なに!? 何で耳元に顔寄せてきてんの!?
「わ、私だって怒ったら……プンプンしちゃうんだからな? だからその……えっと…プンプンしちゃうぞ? 私だってプンプンできるんだからな」(ささやきー)
「…………なるほどな」
篠ノ之の意図が全然分かんねぇぇぇぇッ!!
何アピールだお前!?
プンプンできるってなんだ!? それを受けて俺はなんて応えりゃいいんだよ!? よく分かんねぇけど、多分それって耳元で囁いたらダメなヤツだって! そもそも俺は囁かれただけでも勘違うぞぉ! しかも一夏に聞かせず俺にだけ言うとか、もうコイツ俺のこと好きだろ! 違うの!? 違うかったらお前もうビッチな! 好きでもない男にそんな事を囁いてはいけない!(超戒め)
【うるせぇビッチ(カウンター)】
【可愛い(カウンター)】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
「可愛い」
「ほ、本当か!?」(や、やったぁ! 旋焚玖が私の事を可愛いって…! これって、期待してもいいのか!?)
【うそです】
【本当かなぁ】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
「本当かなぁ」
「な、何で曖昧な感じなんだ!?」(ぐっ……がっつきすぎか!? いやでも、気になるじゃないか! いやでも……ここはお淑やかに引いた方が…? くぅぅぅ……!)
【一夏の方が可愛い!】
【オルコットの方が可愛い!】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
ってオイ!! 調子コイてんじゃねぇぞオイ!! 度が過ぎてんぞコラァッ!! 俺がいつまでもあ゛ーあ゛ーで済ますと思ってんじゃねぇぞ! 流石にツっこむわ! ツっこんでも意味ないけどツっこませろクソバカ!
ここでオルコットの名前出すとか普通に無しだろバカ! ガチっぽくなっちまうだろバカ! そんな根性ないわバカ!
まぁでも、一夏の名を出しゃ冗談に捉えてくれんだろ(鼻ホジー)
「一夏の方が可愛い!」
「は?」
「あ、いや……え…?」
「は?」
「えっと……え…あれ……?」
「は?」
ちょーこわい。
そんなにキレられるとは正直思ってなかった。美人に迫られてるのに全然ドキドキしない。心臓バクバクしてる。このバクバク要因にトキメキは一切含まれていません。というか、このままじゃホントに撲殺される未来を迎えてしまう可能性すら出てきた。
そ、それだけは回避だ!
面舵いっぱいだ!
素面で言うのは抵抗あるが、ええい、言っちまえ!
「冗談だ。篠ノ之の方が可愛い」(精一杯のキメ顔)
フツメンなりに頑張ってみました。
顔の筋肉を総動員すれば俺だって55点くらいの顔にはなると思います。だからキモいと蔑まないでね。
「ほ、本当か? 一夏よりもか?」
「一夏よりもだ」
「そ、そうか! そうかぁ…!」
何故そこでガッツポーズなのか。一夏と比較したらIS学園の全生徒が可愛いと思うんですが、性別的な意味で。だが妙に嬉しそうだし、このまま触れないでおこう。
「もーいーかいっ?」
律儀にずっと耳を塞いで、背を向けている一夏からのもーいーかいコールだ。
【まーだだよっ】
【もーいいよっ】
うるせぇバカ!
一夏の真似してんなバカ!
お前が言っても可愛くねぇんだよバカ!
◇
「一つ思ったんだけどさ」
「どうした?」
報告も一通り終わって、今度は俺と手合わせするか、みたいな話になってたんだが、途中で一夏が何かを思いついたらしい。
「オルコットさんの試合の映像とかって観れたりしないのかなってさ。ほら、俺の家でもネットでISの試合観ただろ?」
それは完全に盲点だった。
専用機持ちの代表候補生なら、試合をしていてもおかしくない。むしろ宣伝的な意味で、イギリスが公式でアップしている可能性だって十分考えられる。
やっとまともな対策に移れそうだ。
ああ、やっと……ISメインな話が出来るんやなって(現44話)