仲良くなろう、というお話。
『主車旋焚玖のアリーナ公式使用時間外無制限使用を、特例として日本政府の名の下に許可する。ただしその間の事象に政府は一切関与せず。全てに於いて自己責任とする』
一夏たちとの稽古も済んで、夜飯も食って。IS学園生がアリーナを利用できる時間も終わり……やっと俺だけの時間がきた。
オルコットと試合うのは一夏だけじゃない。その後で俺も闘ることになってんだ。だが俺と一夏は、ISの適正値が決定的に違いすぎる。一夏は入試の時も、特に違和感なくISを動かせられたらしいが、俺は逆に違和感しかなかったからな。
オルコットとの試合を想定して~、とか言えるレベルじゃねぇからな、マジで。試合があろうがなかろうが、ぶっちゃけ関係ねぇもん俺の場合。
とにかく動けるようになろう。
歩けるようになろう。
走れるようになろう。
話はそれからだ。
という訳で俺は今、アリーナの格納庫までやってきている。この中に訓練機が仕舞われているのだ。訓練機の【打鉄】と【ラファール・リヴァイヴ】。千冬さんは両方とも試してみろって言ってくれた。
入試の時は【打鉄】だったし、今日は【リヴァイヴ】を使ってみるのも一興なのだが、俺は【リヴァイヴ】達をスルーして、一直線に【打鉄】達の前までやって来た。
当たり前だよなァ?
千冬さんは俺に、もう1つ良い事を教えてくれた。列を成して置かれてある【打鉄】達。その先頭にある【打鉄】こそ、俺が入試で使用した【打鉄】なのだ。
もう1度言おう。
俺は【リヴァイヴ】ではなく【打鉄】をこれから使っていくつもりだ。っていうか、コイツを使っていくつもりだ。
当たり前だよなァ?
リベンジさせろコラ。
◇
アリーナの中央まで、えっちらおっちら【打鉄】を運んできた。
あとは装着するだけだが、今日は動かせるような気がする。適当ヌカしているつもりはない。それなりに根拠もあるのだ。パソコン理論である。
パソコン使っててさ、急に動作が重くなったり動かなくなったりする事ってあるじゃん? そういう時ってさ、一旦消して1日くらい放置してさ。次の日にでも起動させてみたらさ、案外何事もなかったかのように動いたりするじゃん?
さっそく【打鉄】を装着する。かしゅんかしゅんと俺の身体に纏われていく。
俺がISを纏うのは今日で2回目だ。
1回目の検査日……あれで指先しか動かなかったのは、何かの間違いだった可能性! あると思います。あれから1ヶ月以上も放置してたし、普通に動く可能性! あると思います。
「………………まぁ知ってた」
『ISに身体を委ねろ』という千冬さんの言葉通り、俺も委ねているつもりなんだが、全然動く気配がない。人差し指と中指と……あ、薬指も動いたか?
一旦、外す。
だって動いてくれないんだもん。んで、持ってきていた参考書とノートを取り出して、もう1度目を通す。
だが参考書も、基本的にISを動かしているものと想定して書かれているからなぁ……なんかこう、コツみたいなのが知りたいんだよ。山田先生は『ISは女の子にとってのブラジャーみたいなものです!(えっへん)』とか授業で言ってたけど、分かる訳ないんだよなぁ。
むしろそのせいで、余計に動かせる自信がなくなったわ。やっぱ男がISなんて動かせる訳ないんだよなぁ……じゃあ何で一夏はスムーズに動かせられるのか、コレガワカラナイ。
「……………………」
携帯取り出しっと。
「……あ、もしもし、一夏?」
『おう、どしたー?』
「お前ブラジャーしてるっけ?」
『してないぜ?』
「つけた事は?」
『物心ついてからは1回もないぞ』
「ガキの頃につけたのか?」
とんだ変態少年がいたもんだな!
『いや、なんか幼い頃の記憶がないんだよ』
「ふーん…? まぁそういうモンか。あい分かった、ありがとう。まだ夜は寒い、暖かくして寝ろよ」
『おう、旋焚玖もな!』
ううむ……もしかして、と思ったけど違ったか。仮に一夏がつけてたら、ISはブラジャー必須説が成り立ったんだが。いや成り立っても俺は絶対つけないけど。真っ平らだし、つける必要性がねぇよ。ノーブラだノーブラ。
【鈴にもノーブラかメールで聞いてみよう】
【鈴にもノーブラか電話で聞いてみよう】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
悪意ある人選やめろコラァッ!! それを聞いてどうすんの!? それを聞かせて俺をどうしたいの!? やーめろって! ただのセクハラじゃねぇかバカ! まごうことなきセクハラだよ! セクハラだし暴言だよ! 明らかにちっぱいをバカにする発言だぞコラァッ!!
「……くそったれぇ…」(諦めの境地)
怖いからせめてメールにしよう。
顔文字も付けないでおこう。
ここはもう真面目に聞いてる風を装うしかない。
えっと……『鈴はブラジャーつけてるか?』…と、送信。さて、後は鈴が何て返してくるかシミュレーションしつつ『ピリリリリッ!!』ひゃぁぁッ!? で、電話が掛かってきたよぅ!
ま、まずい!
ここは陽気なノリで鈴の出鼻を挫くんだ!
「も、もすもすひねもすぅ?」
『ブッ殺すわよあんたァッ!!』
「ごめんなさい」
出鼻を挫かれちゃった。
開幕怒声には勝てなかったよ。しかし鈴もキレて電話を掛けてくるって事は、自分のちっぱいっぷりを気にしてるんだな。もし俺に乳があれば、ぜひ分けてやりたいとこだぜ。
『あんたァ……マジで殺すわよぉ…』
ヒェッ……遠い中国から俺の頭ン中を読まないでくれませんかね…。
「すまない、鈴。ISの事でかなり行き詰まっててな」
『はぁ~? まぁいいわ、アンタが無意味にこんなメール送ってくる訳ないしね。しょうがないから聞いてあげるわ。でもいい? 他の男からだったら絶交レベルなんだからね! アンタだから許してあげるんだからね! そこんとこ頭に叩き込んでおきなさいよね!』
うおぉぉ……鈴との熱い絆を感じる…! 鈴パパ達の離婚阻止イベントの効果がここで発揮してくれたか! よ、良かったぁ……。
俺は自分のIS適正値が低い事を…っていうか、全然動かせられねぇ事だったり、イギリス代表候補生の専用機持ちと試合する事だったり、全てを鈴に打ち明けた。一夏や篠ノ之と同じく、俺が気にせず何でも話せる数少ないダチだ。
『ふーん……で、副担任がISはブラジャーみたいなモンだって言ったのね?』
「ああ。でも俺にそんな感覚なんて分かんねぇからさ。鈴に聞くしかなかったんだ」
『ふ、ふーん……? あたしにしか聞けないって訳なのね。ふふっ、しょうがないわねぇ』
な、何かご機嫌さんになってくれたみたいだ。不機嫌より全然ありがたいので、そのままな感じでいてくだせぇ。
『っていうかさぁ、ブラジャーとかは置いておいてさ。ISにアンタを理解してもらう方が大切なんじゃないの?』
理解とな?
『ISにも意識に似たようなものがあるらしいわよ。ISは道具じゃなくてパートナーだって、授業でもう習ってんじゃないの?』
ああ、何かそんな事も言ってたような気がする。意識、か。つまりISにも心っぽいモンが在ると思えばいいのかな。
「つまり、ISと仲良くなればいいって事か?」
『ん……まぁ、そういう事なのかしらね』
ふーむふむふむ。
確かにそういう考えを持って接してはなかったな。これは素晴らしいアドバイスが聞けたと言えよう。流石は鈴だな!
「ありがとう、鈴。何となく分かったような気がする」
『そう? ま、気楽にやんなさいよ。素人がバリバリ動かせる方がありえないんだからね? もし今のアンタを笑う奴がいたら、あたしがブッ飛ばしてやるわ』
鈴の熱い優しさに涙がで、出ますよ……いや、ホントに。いいダチを持ったモンだマジで。
『えっと……だからね? その…アンタの練習っぷりとかね、その、なに? ちゃんと学校で友達が出来てるのかとかね? けっこう気になってんのよ』
「そうなのか……まぁダチは……まぁ……まだまだこれからだな。まぁ一夏が居てくれてるだけで、かなり心強いけどな」
そうそう、まだ慌てるような時間じゃない。
だって入学2日目だもん。これからだよ、これから。
『まぁ一夏と一緒なら大丈夫だとは思うんだけど……じゃなくて! いや、だからさ、なんていうの? あたしってほら? 優しいじゃない?』
「ああ、優しいな」
『で、でしょ? ホント困ってんのよ、優しすぎてさ、アホなアンタがさ? 一夏と違って超アホなアンタがよ? 女ばっかの高校で、しかもIS学園だなんてさ、無事にやっていけてるのか気になっちゃうのよね、ホント優しすぎて困っちゃうわ』
「む……」
これは鈴の熱い自画自賛。
そして俺に何を言って欲しいのか、全然わがんね。
『ッ……だーかーらーッ! あ、あんたアレなんでしょ!? 乱と毎日メールってんでしょ!? その日あった事とか! 去年からずっとメル友ってるって乱から聞いてんだからね!』
「……ああ、まぁそうだな」
いや、そうだけど。
だって送ってこいって乱ママが言うんだもん。俺がアホアホしい事してないか、ちゃんと見ておく人が必要だって。でも日本と中国じゃ距離がありすぎるから、せめて毎日メールで報告しなきゃダメだって。
『だから! 昨日も言ったでしょ!? あたしにもしてきなさいって言ってんの!』
「メールを送ればいいのか?」
『……で、電話の方がいいわね。だってほら、アレよ! 乱と同じだと間違えちゃうかもしれないじゃない! あたし達、名前も似てるし!』
「……そういうモンか?」
『そういうモンよ! いいわね!? じゃないと優しすぎるあたしは全然寝れないの! あんたのせいで睡眠時間削られてんの! それはダメでしょ!?』
それはダメだな。
「ちなみに昨日は何時間くらい寝たんだ?」
『そうね、7時間くらいかしらね』
健康的なんだよなぁ。
ツっこんだらプリプリしそうだから言わないけど。
「じゃあ、明日から電話する」
『わ、分かればいいのよ! じゃあ、アンタもISの稽古がんばんなさい! あたしも頑張ってるからね!』
「ああ、ありがとう。それじゃあ、また明日な」
『うん! また明日!』
あ、電話切っちゃった。
途中から何でそんなにISに詳しいのか聞こうとしてたのに。
ま、いいか。また明日にでも聞いてみよう。
鈴から良いアドバイスを貰えた。
後はそれを実行に移すのみだ。
改めて【打鉄】と向き合ってみる。
ISに俺を理解してもらうのが大切、か。
「……………………」
意識に似たモンがある、か。
だが意識って言われても、いまいちピンとこねぇし、ISってのはもう感情を持っているモンだと思った方がいいのかもしれない。しゃべらないだけで、実は人間の言葉もちゃんと分かってたりしてな。
【脅してみる】
【可愛がってみる】
あ、そういう【選択肢】でくんの?
確かに色々やってみるのもこの際アリだな。
よし、脅してみよう!
力に物を言わせて【打鉄】をビビらせてやろう。
「おう? おうコラ。俺が優しいウチに動かねぇと……スプラッターにしちまうぞ」
よし、改めて装着!
「あ、あれ……? 何か妙に重たい気が……こんな重かったっけ…?」
余裕で動かんし。
指先は動かせるけど。
い、一旦外そう。
「……ううむ」
ISにも感情があるってマジかもしれん。
よし、今度は可愛がってみよう。
「よーしよしよしよし! よしよしよしよし! よーしよし! よしよしよしよーしよしよしおし!」
【打鉄】に近付いた俺は全身をヨシヨシしてやる。
そしてもう一度、装着!
「むっ……さっきより軽くなってる…? いや、元に戻ったと言った方がいいか」
これは気のせいじゃないような…?
明らかにってレベルではないから何とも言えんが……むむぅ…?
【媚びてみる】
【バカにする】
「……いやぁ、流石は名高い【打鉄】さんでさぁ! この乗り心地! この肌触り! 素晴らしいの一言に尽きますよぉ! あっしのような下賤が、アナタ様のようなリーダーに! そう! 【打鉄】の中でもリーダー的存在なアナタ様に触れられるなんて、もう感動で打ち震えてしまいます~~~っ!」
あ、軽くなった。
この軽さは流石に分かる。
「……うわコイツ、ちょれー…ッ、ぬぁぁぁッ!? お、重―――ッ!!」
ぜ、絶対コイツ感情あるぞ!
間違いなくある! しかも子供っぽい性格してやがる!
「って重てぇツってんだろ! テメェどんだけ重くッ…あががが…!?」
重い重い重いいぃぃぃッ!!
この俺が重く感じるって相当な重さになってんぞコラァッ!! 重すぎて膝が勝手に突きそうだ……指先すらも動かねぇようになってるし…!
このッ…クソポンコツがァ…!
【全力で謝る】
【全力で抗う】
【下】だコラァッ!!
「テメェあんま調子ノッてんじゃねぇぞ…! そっちがその気なら俺だってもう容赦しねぇ……容赦しねぇぞコラァッ!!」
ISに身体を預ける?
知るか! どっちが上かハッキリさせてやる! いつまでも俺が制御に甘んじてると思うなよコラァッ!!
「ぬっ…! ぬぐぐぐ…! これが俺の力だ…ッ!」
これまで持っていた、ISに動いてもらうという考えを完全消去する。今持つべき意思は俺が動かすという事。元々動かないモノを自分が動かすという強い意思…! 動かないなら力づくで動かせばいいだけだ…!
ISと乗り手はお互いの対話で分かり合うという。だが俺は上品に言葉で分かり合うより、男らしく身体でブツかり合う方が性に合ってる…!
「テメェもISなら俺の全力を全力で理解しやがれ…! 心ではなく身体で理解しやがれ…!」
俺がどんな男かその身に刻め―――ッ!!
◇
「ッ……ふぅぅぅ……中々やる…」
まさに一進一退の攻防だった。
俺の意地と【打鉄】の意地がブツかり合った結果、ついにどちらも折れることはなかった。
流石は訓練機のリーダー的存在だ。もしかしたらナメてたのは俺の方かもしれない。1日やそこらで簡単に動かせられるなんて、思い上がりも甚だしかったか。
「ISは道具にあらずパートナー、か」
肉体言語だけじゃダメかも分からんね。ケンカ好きな兄ちゃん達相手なら、それで何とかやっていけたんだが、やっぱ同じようにはいかんね。
他の方法で【打鉄】と仲良くなるには……ううむ…あ、そうだ、あだ名でもつけてみるか。俺も布仏にあだ名を介してダチっぽい関係になったし。
「おい【打鉄】。お前今日からたけしな!……ッ、ぬあぁぁぁッ!? 急に重くなるんじゃねぇよ! ちょっ、おまえ何だこのッ…今日一番の重さは……ッ、スーパーたけしかこのヤロウ!」
【打鉄】との相互理解の道は中々に険しい。
◇
「また明日な」
今日のIS稽古はここでおしまい。
鈴の言う通り、根を詰めすぎるのは良くない。俺はたけしを格納庫に仕舞って、アリーナから出る。
帰ってシャワーでも浴びよう。
そのあとは毎晩恒例のアレが待っている。
【選択肢】主催のアレだ。政府のおっちゃんと千冬さんにも1度言ったアレだ。想像上のナニかと闘らされる謎組手が待っているのだ。とても嫌なのである。今日くらい楽な相手が良いのである。
「はぁぁぁ……ただいまぁ」
シュプールのドアを開けた。
「お帰りなさい。ご飯にします? お風呂にします? それともわ・た・し?」
家に帰ってきたら、見知らぬ女が裸エプロンで居たでござる。これは変態ですね、間違いない。変態だし明らかなハニトラですね、間違いない。というか不法侵入ですよ不法侵入!
キチガイうさぎに続いて、生涯2度目の被不法侵入ですよ被不法侵入! 俺の危機管理能力を見くびってんじゃねぇぞ、お前千冬さんに通報してやるからな! そのまま変態アピールしとけ変態!
【目には目を歯には歯を、変態には変態を。こっちも上を脱いで応戦だ!】
【今夜はたまたまブラジャーしてないから恥ずかしい。ここは下を脱いで応戦だ!】
「いつもノーブラだコラァッ!!」
上の服を床に叩きつける。
「あらやだ、噂に違わぬ変態さんね」
お前もその仲間に入れてやるってんだよ!(ヤザン)
変態糞侵入者に俺が優しく接すると思うなよ。美人だろうが犯罪は犯罪だ。何が狙いか知らねぇが、絶対に逃がす訳にはいかない。
逃がしちまったら、一夏も被害に遭う可能性がある。優しいアイツがハニトラを見抜けるとは思えない。ならこの変態が2度とこんな事をしないよう、正義の鉄槌を喰らわせてやるしかない。
ボコッて顔にうんこ書いてやる(正義の鉄槌)
今度こそISメインの話が書けた(満足)