選択肢に抗えない   作:さいしん

53 / 158

試合の後は握手しよう、というお話。



第53話 公式的和解

 

 

 

「ご清聴ありがとうございました」

 

「ました~♪」

 

 俺と……何故か山田先生によるマミさんのテーマ、デュエットバージョンも無事完奏し、一夏たちから拍手が送られる。

 

 完奏した感想ですけど(極上のダジャレ)

 山田先生のハモリがとても心地よかったです。バンド組む?(ジョニィ)

 

「それで……なんで俺、負けたんだ?」

 

 マミさんの真似したからだろ(名推理)

 

「【雪片弐型】の特性…と言うより、この場合【白式】の特性と言った方がいいか。いいか、ISにはな……―――」

 

 IS知識の乏しい俺たちにも分かるように、千冬さんが説明してくれた。

 

 ISには【ワンオフ・アビリティー】(単一仕様能力)とかいう、なんか必殺技的なモンがあったりなかったりするらしい。なんか乗ってる奴のテンションが上がったら、ISもなんかノリで発現するかもしれないとかなんとか。

 

 んで、一夏の発現した必殺技は【零落白夜】とかいう名前で、千冬さんが現役の時に発現させた能力と全く同じなんだとか。

 

「バリア無効化…?」

 

「ああ、そうだ。相手のバリアを切り裂いて、本体に直接ダメージを与える能力だな」

 

 おお、何か凄そうだな!

 

「これだけ聞けば無敵の能力に聞こえるかもしれないが、そうは上手くいかん。【零落白夜】を発動させれば【白式】のシールドエネルギーも消費される」

 

 ううむ……自分のシールドエネルギーをも攻撃に転換させるからこそ、相手のバリアを無視できる…ってか。ロマンはあるが、リスクも抱えてんだな。現に、その【零落白夜】とやらを発現させた一夏は負けちまったんだし。

 

「そうか……だから【白式】のシールドエネルギー残量がいきなり零になって、俺は負けちゃったんだな」

 

「ああ。お前も身をもって理解しただろうが【零落白夜】は諸刃の剣だ。使いどころを間違えれば、今日の試合みたいに自滅するのがオチだ。これからはその事も意識しながら練習する事だな」

 

 【零落白夜】を使うか使わないか。

 

 それ次第で、戦術も練習内容も全然変わってくるのが容易に想像できる。

 ま、俺らはまだ1年なんだし、焦らず色々試してみればいいんじゃね? 俺も今夜はまどマギ鑑賞する予定だし、たけしと。

 

「なるほど……そういう事でしたのね」

 

 声のする方を見たら、なんとオルコットの姿が。それに、その後ろには相川と鷹月も。

 

「試合後の挨拶に来ましたの。織斑先生、少しお時間頂いてもよろしいでしょうか?(チラッ)」

 

 ん?

 

「もう話も済んでいる。好きにしろ」

 

「ありがとうございます(チラッ)」

 

 んん?

 

「本当にお見事でしたわ、織斑さん。初心者とは思えない動きでしたもの(チラリズム)」

 

 いや、それで何で俺の方をチラ見してくんだよ。俺のことが好きなのか? 

 

……僕もしゅき~♥(可愛さアピール)

 

「無我夢中だったからな。でも、オルコットさんには勝てなかったし。やっぱ代表候補生ってのは凄ぇよ」

 

「此度の試合、わたくしは自分を勝者などと思っていませんわ。ですので織斑さんは【白式】でしっかり訓練してくださいな。そしてもう一度、今度は同じ条件で試合いましょう」

 

「……ああ! 望むところだぜ!」

 

 おぉぉ~……何か青春マンガっぽい展開だぁ。2人共、握手まで交わしてるし。こういう展開ってマンガじゃベタだって思ってたけど、実際目にしてみると良いモンだな。

 

「……コホンッ…! そ、それでですね、その……改めてそのぅ……わたくしは、なんて言いましょうか……此処に来たのは、もう一つ理由がありまして…」

 

 さっきまでの堂々とした振る舞いが一転、もじもじオルコットに変わったでござる。非常に新鮮で非常に可愛い。

 

「がんばれ、セシリア!」

 

「ふぁいとだよ、セシリア!」

 

 何か相川と鷹月がエールってる。

 

「(清香さん…静寐さん…! そ、そうですわ! 有耶無耶にしてはいけません! 今こそちゃんと謝罪するのです、セシリア・オルコット!)あのっ、主車さん…!」

 

「……なんだ?」

 

 状況から判断するに……これは愛の告白ですね、間違いない。

 キメ顔で対応するのだ!

 

「その、ま、前々から言おうとは思っていたのですが…その…!」

 

「……ああ」(キメ顔)

 

 初めての彼女はイギリス美人。

 何て素晴らしい響きなのか…!

 

「入学式の日にアナタを貶すような発言をして、申し訳ございませんでした!」

 

「……気にするな」

 

 オルコットは良い子。

 俺はうんこ。

 

「え、そんな事あったっけ?」

 

「お前は……本当に覚えてないのだな。いいか、この試合の発端も―――」

 

 首をコテンと傾げる一夏に篠ノ之が説明する。

 正直、俺もどんな事を言われたのかまでは、もう覚えてない。だって、俺を貶したらしいオルコットと俺って、今じゃあ文通までしてる仲良しさんだもん。

 

「―――という訳だ」

 

「あ~…そういえば、そんな事もあったなぁ! そうだったそうだった! それで俺がオルコットさんにキレて、決闘するって流れになったんだっけ!」

 

「そ、そうですわ。その……言い訳がましいのですが、これまでわたくしの周りにいた男性は、とにかく女性に諂い媚びた輩ばかりでして……その、入学当初のわたくしは、主車さんも織斑さんも、きっとその類だと思い込んでまして……つい、あのような事を……」

 

 食堂でもハッキリ言ってたもんなぁ。

 自分は女尊男卑だって。でもこの感じだと、ソレ一辺倒ではなくなったって事なのかな? というか、別にマジで俺は気にしてないし、一夏も篠ノ之も、この試合の前から普通にオルコットとは話す仲になってたし。

 

 それでも謝罪を申し出るって事は、オルコットはちゃんとケジメをつけたいって思っているのだろう。

 

 やっぱり良い子じゃないか!

 美人な上に良い子とか何だそれ! 非の打ち所が無いじゃないか! うへへ、俺はそんな完璧超人と文通してるんだぜ? 羨ましいだろぉ?(自慢)

 

 ま、何にせよ、俺が言える事はただ一つだ。

 

「気にするな。俺は気にしていない」

 

 むしろギャーギャー怖がられるより、オルコットみたいに正面からブツかってきてくれた方がいいくらいだ。

 

「主車さん…」

 

「謝るというのは存外勇気がいるものだ。それを逃げずに果たしてみせたオルコットに、どうして私も拒めようか」

 

「へへっ、これで俺たちも晴れて友達になれたって訳だな!」

 

「篠ノ之さん…織斑さん……ええ、そうですわね!」

 

 とてもいい話である!

 せっかくの高校生活なんだ。変にギスギスした雰囲気より、仲良く楽しく過ごした方が良いに決まってるもんな!

 

 一夏も試合で漢っぷりを魅せれたし、オルコットと本当の意味で友達になれたし、そう考えたらこの試合も意味があったってなモンだ。

 

 ん…?

 なんか忘れているような……はて?

 

「ふむ……では、もう2人は試合する理由もなくなったって事か」

 

「……!」

 

 篠ノ之の言葉で思い出した…!

 そうだ、俺もコイツと試合するんだっけ!? やべぇ、一夏の健闘っぷりで完全に忘れてた! 

 いやいや、でも実際もういいんじゃね!? 篠ノ之の言う通り、もう俺たちに確執なんてないし! というかそもそも謝罪とか関係なく、確執とか無かったし!

 

「いいえ、主車さんとも試合いますわ!」

 

 なんでぇ?

 弱い者いじめは良くないゾ。

 

「織斑さんと試合う前、わたくしは自身の完勝を確信していました。清香さんと静寐さんの応援で、油断も慢心もなかった……それなのに、結果は敗北寸前まで追い詰められましたわ」

 

 何か嬉しそうだな。

 きっと一夏と試合った事で、何かしらオルコットも得るモンがあったんだろう。

 

「織斑さんを言葉だけで覚醒させてみせた主車さん。わたくしを追い詰めた織斑さんから高い評価を抱かれている主車さん。そんなアナタとの試合をどうして無しになどできましょうか!」

 

 うわ、何か俺も同格(ISでの強さ的な意味で)だと思われてる!? いやいや、待ってくださいな。俺と闘っても別に得られるモンなんてないですよ? むしろ失うモンばっかだと思いますける! けるける!

 

「わたくしがイギリスからこの学園に来たのは、自身のレベルアップのため! シンプルに強くなるためですわ!」(オルコット家はわたくしが守る! 誇りと共に!)

 

「おお、オルコットさん燃えてるなぁ。俺もそれくらい向上心を持って、これからは励まないとな!」(旋焚玖の背中は俺が守る! 白式と共に!)

 

 オルコットと一夏の波長共鳴がやべぇ。

 一夏が熱血タイプなのは昔から知ってたが、オルコットも意外にそっち系だったのか。

 

「うふふ、そうですわね。ちなみに主車さんは強いですか?」(IS的な意味で)

 

 俺に聞けよぉ!

 何で一夏に聞くんだよぉ!

 

「おう! 旋焚玖は俺の100億倍強いぜ!」(生身的な意味で)

 

 強すぎィ!!

 

 アホかお前!

 お前もうそれ神格化されてんじゃねぇか! 割とマジっぽい顔で言ってんじゃねぇよ! ボケてんなら分かりやすい顔してくれよ!

 

「ひゃ、ひゃくおく倍…ですってぇ…!」

 

 おい。

 おい、そこの金髪淑女。純粋コロネかお前。

 

 何でお前もマジな感じで捉えてんの? 

 そんな訳ないじゃん。そこは笑うとこだぞ。

 

 

【泣きベソかいて全力で否定する】

【男らしくここは無言を貫く】

 

 

 クソッたれぇ…(諦め)

 

 足下見やがってこのクソ選択肢が…! ここで泣いたらオルコットに惚れてもらえないだろぉ! 篠ノ之にだって愛想尽かされちまうわい! 一夏は……まぁ大丈夫だろうけど。

 

 え~っと、だ。一旦、計算してみよう。

 ライフル持った農家のおっちゃんが戦闘力5だったから(ドラゴンボール的な意味で)ISなし、無手の一夏をとりあえず戦闘力3と仮定して。3の100億倍で300億になると。んでも、数値だけじゃいまいちピンとこない。

 

「戦闘力300億ってドラゴンボールじゃ誰になりますかね?」

 

 誰に聞いてんの?

 んなモンお前、1人しか居ないよなぁ?

 

「完全体のセルを倒した時の悟飯ですね!」

 

 即答すぎィ!!

 そしてやっぱり強すぎィ!! 

 

 んな訳ねぇだろバカ!

 

「くっ……ジャパニーズアニメで例えられても、分かりませんわ!」

 

「大丈夫だよセシリア。部屋に帰ったら『あなたちゅ~ぶ』で一緒に観ようよ!」

 

 おいコラ。

 どのシーンを観せる気だオイ?

 

「清香さん…! そうですわね、そうと決まれば善は急げです! では皆さん、明日からもよろしくお願いしますわ!」

 

 結局俺に弁明の機会を与えてくれる事はなく、オルコットは相川と鷹月と共に、ピュ~ッと帰って行った。

 

「オルコットにISで勝てるか、主車…?」

 

 篠ノ之が不安げに聞いてくる。

 不安げなら俺の代わりにフォローしてほしかったんだ!

 

 んで、なに? IS勝負?

 

 ハハッ、勝てる訳ないんだよなぁ。

 3日後だろ?

 俺まだ右腕しか動かねぇし、今夜はたけしとまどマギ観る約束してるし(してない)

 

 

【正直に弱音を吐く】

【ただ笑みを浮かべる】

 

 

「フッ……さて、な」

 

 馬鹿野郎お前俺は強がるぞお前!

 虚勢は男の矜持なんだい!

 

 あと3日…!

 1日4話ずつ観たら間に合う!(現実逃避)

 

 






アルティメット悟飯:勝てんぜお前は…

セシリア:Σ(゜□゜*)!?


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。