「とうとうこの日が来たか」
今日は待ちに待ってないオルコットとの決闘だ。時間は既に夜の10時を過ぎている。当然、一般生徒のアリーナが使える時間は終えている。というか、もう寮から外出してはならない時間だな。
心配性な2人を除いて。
「ちゃんと千冬姉には許可を貰ってるからな」
「そういう事だ。私も一夏も応援させてもらうぞ」
アリーナに向かう途中で、一夏と篠ノ之が俺を待っていてくれたのだ。今夜の決闘は無観戦試合なのだが、俺をよく知るコイツらなら別に観られても問題はない。
「それで、ISの方はどれくらい動かせるようになったんだ?」
「両腕かな」(ドヤぁ)
昨日の夜、『もう絶望する必要なんて、ない!』のシーンで、【たけし】もテンション上がったのか、左腕も自由に動かせるようになったのだ! まどかちゃん、ありがとう。あなたはわたしの、最高の友達だったんだね。
「ドヤ顔しているが、それで勝てるのかオルコットに?」(正直、私は難しいと思う。主車の強さは言うまでもないが、それはあくまで身体的な部分だ。その場から動けず、両腕しか動かせないISなんて拘束具と同じではないか…!)
勝てる訳がない(ベジータ)
「逆にお前らはどう思う? 両腕しか動かせない素人と、バリバリの代表候補生。常識的に考えて、勝つのはどっちだ?」
「そ、それは……」
「むぅ……」
一夏も篠ノ之も浮かない表情をしている。
2人とも、よく分かってんじゃねぇか。それが答えだ。動きを制限されたド素人が、専用機持ちの代表候補生に勝てるなんざ無理に決まってんだろ。理想と現実は違う。
「常識的に考えたら、やっぱオルコットさんが勝つよな…」(旋焚玖の強さは千冬姉にだって負けてない! けど、両腕以外が動かないISってなると……流石の旋焚玖でも…)
「うむ……私も、こればかりは仕方ないと思う」(むしろ一夏と試合った後、オルコットが旋焚玖とも試合を行うと言い出した時、私は止めるべきだったのではないか…! 一夏の善戦に浮かれていた証拠だ、私のバカ!)
【IS乗りとして試合に臨む】
【主車旋焚玖として決闘に臨む】
【上】と【下】で何もかもが変わってくるだろう。
これは【選択肢】による選択提示じゃない。
俺の意思の確認だ。
ここに来るまで、正直迷っていた。
俺はどう戦うのが正しいのか。
だが、コイツらの顔を見て吹っ切れたよ。
「そうだな。こればっかりは仕方ねェ……オルコットの勝ちだ」
「(´・ω・`)」
「むぅ……」
「俺が相手じゃなかったらな…!」
「主車…!」
「イエーッ! 旋焚玖イエーッ!」
そうそう、それでいい。
彼方の月のように美しい篠ノ之に、憂い顔は似合わない(吟遊詩人)
一夏はまぁ……そのアホな感じのままでいてくれ。
「……じゃあ、行ってくる」
「え、ピットはそっちじゃないぞ」
動けねぇ俺がピットで【たけし】を纏っても意味ないんだよ。だって歩けないもん。いや筋力に物を言わせたら歩けるけど、そういうのじゃないし。
「闘い方にも色々ある。例えば……競技と実戦の違いとかな」
「ッ……主車、お前…まさか……」
篠ノ之なら気付くか。
柳韻師匠の娘だもんな。
2人に背を向け、アリーナへと足を進める。
「旋焚玖の言葉の意味、分かるか?」
「さぁな。だが、これからオルコットと試合うのはIS学園の主車じゃない。篠ノ之流柔術唯一の皆伝者、主車旋焚玖だ」
「ゴクッ……あの千冬姉ですら、過酷すぎて根を上げた伝説の実戦派…! 喧嘩師として旋焚玖が臨むってなると……今夜は荒れるぜぇ…!」
聞こえてんだよなぁ、全部よぉ。
喧嘩師って……なんだその花山さんチックな二つ名、初めて聞いたわ。というか、それだと俺が無類の喧嘩好きみたいじゃないか!
別にこちとら滾ってねぇよ、アホか! バイオレンスは中学で卒業したわ! 今の俺はラブコメなんだよ!
「旋焚玖の喧嘩を目撃するってのはな、男にとって最高のステイタスなんだぜ」
「フッ……男だけではあるまい、一夏よ。そこには武術家も入るのだ」
「へへ、そうだな」
「ふふ、そうだろう」
もうやだぁ!
やだこの2人ィ!!
バカみてぇにどんどんハードル上げてってんじゃないかぁ! 【下】選んじまった事をさっそく後悔しちゃうよぉ! こんな事なら大人しく【上】選んでりゃ良かったよぉ!
これ以上聞いてたら、耳が痛くなるどころかダルダルになるわ。鼓膜がダルダルになるわ。とりあえず一夏と篠ノ之特有の、俺に関する謎やり取りが聞こえない所まで縮地るのだった。
【もうやだ、おウチ帰る】
【今日はまだ鈴に電話してないぞ】
そうだな。
流石に逃げる訳にはいかねぇし、鈴から勇気とやる気を貰おう。
携帯取り出し、世の中には色んなパピプペポがあるってな。
「あ、もしもし鈴?」
『なによ、もうイギリスの子との試合終わったの?』
「いや、今からなんだけどさ。ちょっと試合前のアレだ、不安になってきたっていうかよ」
『だぁぁぁから言ったじゃない! まどマギ観てる暇なんてないって! アンタずっと観てたんでしょ!? たけしと!』
「し、しかし!」(ラムザ)
『しかしって言うんじゃねぇわよ!』(ガフガリオン)
『いくらISと仲良くなるったって、代表候補生との試合前にアニメ観まくるアホとか世界中でもアンタくらいよ!』
「ぐ、ぐぬぬ……でもまどかのおかげで左腕も動かせるようになったしだな」
『はぁ!? 逆に考えてもみなさいよ! まどかのせいで左腕しか動かせてないかもしれないでしょうが!』
「……!」
その発想はなかった。
青天の霹靂とはまさにこれ。俺は左腕も動かせるようになって満足してしまっていたが、確かに鈴の言う事にも一理ある。当初の予定通り『日本統一』シリーズを観ていたら、もしや完全に動かせるようになっていた可能性も…!
アニメのチョイス、ミスったか…?
チョイスなだけに(極上のダジャレ)
『アホがアホな事考えてんじゃないわよアホ』
電話越しでエスパるのヤメてくれませんかね。
『まぁいいわ。で、柄にもなく不安になってんのね。アンタにしちゃ珍しいじゃない?』
別に不安になる事自体は珍しくない。
心の中ではいつも不安だしいつも焦ってるさ。それを口に出すか出さないかの違いよ。
虚勢を張ってみせる事に定評のある旋焚玖さんだが、他のメンツと比べても鈴はちょいと特別だ。乱ママに弱音メール送ってるのが入学式にバレちゃったし。もう鈴には気張る必要もないかなーってね。
【だから俺が勝ったら毎日お前の酢豚を食べさせてくれ】
【だから俺が勝ったらお前もIS学園に来い】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
なんだオラァッ!!
プロポーズかコラァッ!! なにが酢豚だアホ! センスの欠片もねぇなお前な! というかフッた男からプロポーズされちまうとか、普通に事案じゃねぇかボケ! 中国警察ナメんなアホ! ポリス・ストーリーかお前!
「だから俺が勝ったらお前もIS学園に来い」
そうだ、来いこのヤロウ! また一夏と3人でバカやろうぜ! 何だったらついでに乱ママも連れて来いやオラァッ!!
『……あたしが行くって言ったら、不安がなくなるの?』
「不安はなくならねぇが、やる気は出るだろうな」
『……ふふっ、いいわ。アンタが勝ったらあたしもIS学園に行ってあげる。だから無理せず適当にガンバんなさい』
「……ああ…!」
俺のアホな言葉に対しても、気負わない程度に済む声援を送ってくれる鈴の気遣いが五臓六腑に沁みわたるぜ…! 鈴のこういうところホントしゅき♥(可愛さアピール)
鈴から闘る気と勇気を貰えた俺は、アリーナへと出るのだった。
◇
アリーナの中央にわたくしだけが立っている。織斑さんとの試合のような、騒がしいギャラリーも今宵はいない。今夜の試合は、主車さんが提案してみせた無観客試合なのですから。
今のわたくしは【ブルー・ティアーズ】をまだ纏っていない状態です。本来であれば、アリーナに出る前にピットでISを纏う予定でしたが、織斑先生がまずはISを装着していない状態でアリーナ中央で主車さんと合流、後に試合と言われましたので。
「主車さん……」
今宵の試合で、わたくしはアナタの本質を見極めさせていただきますわ。
思い出されるはあの日の事。
織斑先生に主車さんの事を聞きに行ったあの日ですわ。遠回りするのを嫌うわたくしは、織斑先生に率直に聞きましたの。主車さんはどんな人なのか、知っている事を教えてほしい、と。
ただ、返ってきたのはとても簡素なものでした。
◇
「他人の評価などアテになるか。主車を知りたければ、自分からブツかっていく事だな」
「むぅ……それはそうかもしれませんが…むむぅ…」
相手は世界最強の称号をお持ちになるブリュンヒルデである事を、この時のわたくしはうっかり失念していました。つい、主車さんに接する時のように、不満げな表情を浮かべてしまったのです。
「私の言葉が不服だと…?」
「ぴっ!?」
謎の圧迫感がわたくしを包み込む!? こ、この感じ、主車さんに驚かされる時のアレに似てますわ! まるで四方八方を【ブルー・ティアーズ】に囲まれているかのようなプレッシャー…!
「フッ……冗談だ」(ブリュンヒルデジョーク)
殺気を纏った冗談とか意味不明にも程がありますわ!
「も、もうっ! 主車さんみたいな事をなさらないでくださいまし!」
主車さんに毒されてるのではありません事!? あるいは主車さんが織斑先生に毒されている可能性も…?
「すまんすまん。だが、主車で思い出した。お前、アイツに謝罪は済ませていたがお礼もちゃんと言ったのか?」
「お礼? なんのです?」
わたくし、何か主車さんにお礼をしなければならない事とかありましたっけ? むしろ、主車さんがわたくしにお礼を言うべきですわ!
授業中だって主車さんから送られてくる文通に、わざわざ付き合ってあげているのはわたくしくらいですわ! まったく、わたくしの優しさに感謝してほしいですわ!
「ふむ……ならば聞こうか。お前はどうして主車に謝った?」
「どうしてって……わたくしが主車さんを侮辱したからですわ」
あの発言は我ながら大人気なかったと思いますわ。異国での学園生活初日という事もあり、無意識に気を張っていたのかもしれませんわね。
「ああ、そうだな。それで、何故お前は主車を侮辱したのか覚えているか?」
「何故って、それは……」
もう1週間も前の事ですもの。
そこまで鮮明に覚えてはいませんわ……えっと、あの時、どんなやり取りがあって、わたくしは声を荒らげたのでしたっけ?
えーっと……ああ、そうでしたわ。
確かクラスの代表を決めるとかって話から、始まったような記憶がありますわ。そして大勢の女子が織斑さんを推薦しだして……あら?
その流れで、わたくしが主車さんに暴言を吐く理由にはなりませんわよね。どちらかといえば、織斑さんに強くアタるのが自然な筈……はて…?
いえ、そうですわ。
わたくしは抗議しましたわ。
クラスの代表はクラスで最も実力ある者がなるべきです、と。それなら入学試験主席の私がなって必然です、と。
だんだん思い出してきましたわ。
そうです、それなのにクラスの皆は、男性起動者が物珍しいからという理由だけで……あ…。
『ですのに! あなた達という人は、まったく! ただ男性起動者が物珍しいからという理由だけで……―――』
「……『極東の猿に』、だったか?」
「うぐっ!?」
お、思い出しましたわ。
思い出してしまいましたわ。
そしてそして……ひぃぃぃ…わたくしを見つめる織斑先生の視線が、心なしか鋭いものになっていますわ…! まるで視線のダイヤモンドダストですわ…!
「この後どんな言葉を綴るつもりだったんだ、えぇ? イギリス代表候補生、セシリア・オルコットよ」
「そ、それは、そのぅ…」
主車さんの事を聞きに来たら、教わるどころか、何故か織斑先生に問い詰められてるわたくし!の図ですわぁぁぁッ!
しかも、ここで『代表候補生』の肩書きを出されるって事は…! 織斑先生には何もかもお見通しという事ですわぁぁぁッ!
「代表候補生としてあるまじき言葉を放っていたと思いますわ……」
熱くなっていたわたくしは、おそらく日本を蔑むような事を言っていたでしょう。
わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをするつもりは毛頭ない、と。文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛である、と。
「それがどうして未遂に終わったんだ?」
「それは…! それは主車さんが…! そうですわ、主車さんが言葉を続けようとするわたくしに、横やりを入れてきたからですわ! わたくしが言おうとする度に何度も横やりを……むぅ…?」
わたくしの邪魔をしてくる主車さんに腹を立て、そして主車さんに暴言を吐いて織斑さんがキレてわたくしもキレて……という流れでしたわね。
ですが、今考えたら疑問が浮かびますわ。どうして主車さんは、わたくしが言葉を紡ごうとする度に邪魔をしてきたのでしょうか。
「分からんか、オルコット? お前を守る為に決まっているだろう」
「なっ…! あ、ありえませんわ! そんな事をして主車さんに一体なんの得があるって言うのですか!」
織斑先生ともあろうお方が、何を世迷言を! 交流を深めた今ならいざ知らず、あの日はまだ入学初日ですのよ!?
その時のわたくし達はまだ赤の他人もいいところ! というか、その前にわたくしは主車さんと織斑さんに結構イヤミな事も言ってましたし! あら…? そう考えたら、わたくしって嫌な性格していませんか?
むむぅ……これはいけませんわ。淑女として恥ずべき性格はちゃんと矯正していきませんと…! っと、今それは一旦置いておきましょう! 後でしっかり反省しましょう!
「気になるなら本人に聞くんだな」(照れ屋なアイツの事だ。どうせ適当にはぐらかされるのがオチだろうがな)
「ええ、聞きますわ! 聞かなくてはなりません!」
仮に織斑先生の言う通りでしたら、わたくしは主車さんの恩を仇で返した事になりますもの…! もし本当ならそれはいけません! 淑女として、というか普通に人としてダメダメですわぁ!
◇
と、意気込んだは良いものの。
あれよあれよと、試合当日を迎えてしまいました。わたくし? ええ、聞いていませんわ。
「…………………」
違いますの。
違うんです。
こういう大事な事を聞くのは、何かきっかけが要りますの。
そう、織斑さんとの試合のようなきっかけが! ですので、わたくしはあえて! そう、あえてこの日まで聞かなかっただけですわ! 決して、いまさら聞くのが恥ずかしくて、とかではありませんからね!
というか、清香さんのせいでもあるんですからね! わたくしが織斑先生に言われた事を話したら、あの子ったら!
『あー、それはアレだね。主車くん、セシリアに惚れてんだよ。間違いないね』
とか言うんですもの!
そんな事言われてしまったら、意識してしまって素面で聞けないでしょうがぁぁぁッ! 乙女をナメないでくださいまし! わたくしだってもう高校生ですわ! ISのために日本へ来たと言っても、わたくしだってそういう類のお話には興味津々なお年頃なんですのよ~~~!
「お待たせ」
「何ですかァッ!?」
「ぴっ!?」
あ、主車さんが来られましたわ。
オチがツいてしまいましたわ。
なのでここで切りますわ(戦犯セシリア)