選択肢に抗えない   作:さいしん

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神算序章、というお話。



第58話 レフェリータイム

 

 

 主車旋焚玖という男は、決して先天的なモノ……いわゆる天賦の才能も持って生まれた訳ではない。彼がここまで強くなれたのは、あくまで選択肢の選択肢による旋焚玖のための後天的な鍛錬によるモノだった。

 

 故に、旋焚玖は常に策を用いたがる。

 故に、旋焚玖は常に戦略を練りたがる。

 

 そうでないと、簡単に負けてしまうという恐れを常に抱いているから。天性の才能がない事を自覚しているが故に、旋焚玖はマイナスイメージから入る事が多い。勝負事では特に顕著だったりする。

 

 どれだけ修行に明け暮れようとも才能は無し。

 そんな思いがあるからか、根底では自分の強さを信じきれていないのが旋焚玖という男である。何も考えず武力に物を言わせるよりも、どちらかと言えば知略を頼みに戦術を立てたがるのが旋焚玖という男である。

 

 感覚派と理論派論議でいくと、旋焚玖は理論派に近いのかもしれない。

 

 そんな旋焚玖が、何とかなるさの精神でセシリアとの試合に臨む訳が無かった。あらゆる事を想定し、それなりの準備をするのが旋焚玖のモットーでもある。

 その一環として、まずは【打鉄】……【たけし】を動かせるようにならなくてはお話にならないという結論から、【たけし】と仲良くなる事に専念した10日間だった。

 

 動けるようになればそれで良し。【たけし】を纏った状態での策を練ればよい。だが、問題は動けなかった場合である。

 動けない状態でセシリアに勝つ策を考えなければならない。これは普通に困難極まりない注文だった。

 

 しかし、そこは現実をよく知る旋焚玖。【たけし】が動いてくれない可能性など最初から承知していた。試合が始まったら超覚醒して完全に動けるようになる! などという期待も最初から捨てて、準備に勤しんでいた。

 

 そういう意味では、割とこの男は現実主義だったりする。この男が甘い考えに傾くのは恋愛くらいなモノか(恋愛脳の極み)

 

「バリバリ動かせる一夏でもオルコットに負けちまった。動かせない俺がどうやって闘えばいいってんだ…!」

 

 両腕は何とか動かせるようになったが、それでも遠距離からの射撃戦術がメインのセシリアを相手にするとしたら、あまり有効的だとは言えない。

 

「前は守れても背後から撃たれりゃ終わりだ。動けねぇ事もバレてハチの巣にされちまうのがオチだ……ん?」

 

 その時、旋焚玖に電流走る。

 

「あえて背中を撃たせてみるか…? それを利用すれば…?」

 

 旋焚玖の中で、戦術パズルのピースがハマった瞬間だった。靄がかった視界がクリアになった感覚。自然と旋焚玖のテンションをアゲアゲに。

 

「勝てる……勝てるんだ…!」

 

≪ (*^◯^*) ≫

 

「ん? 今【たけし】から変な顔みてぇなモンが伝わってきたような……気のせいか?」

 

 気のせいかどうかは神のみぞ知る。

 ただISには意思のようなモノが存在すると言われている。そして、中には搭乗者の性格に影響されるISも居たり居なかったりすると言われていたり言われていなかったりする。

 

 

 

 

 

 

 場面は試合に戻る。

 

「ひょええええッ!? よ、避けてください主車さぁぁぁんッ!!」

 

 アリーナの2人の精神は、まさに対極に位置していた。

 まさかISを解除して突っ込んでくるなど、夢にも思わなかった者と、試合う前からここまでの流れを意図的に作っていた者。

 

 超加速の中に在る旋焚玖は当然後者だ。故に、セシリアのように慌てたりはしない。そのおかげで、彼女の心配は杞憂に終わる。ライフルを撃ってくる事すら旋焚玖は想定済みだった。

 

「遅ェッ!!」(速ェッ!? 思ってたより速いなコラァッ!!)

 

「ありがとうございます!」(素晴らしい回避っぷりですわ主車さん! これでわたくしも殺人者にならなくて済みますわ!)

 

「気にするな!」

 

 減速はせず、斜めにレーザーを避けた旋焚玖。

 次に旋焚玖が目論むのは、セシリアをスッ転がし、彼女の上に馬乗りする事なのだが、実はこれを敢行するにとある問題を抱えていた。

 

(タックルは腰から下ァ――ッ!!が一番手っ取り早いんだが、オルコット相手にそれは出来ん。女にそれしたら普通にアウトだもん。セクハラ的な意味で)

 

 前科持ちになりたくない旋焚玖。それでも何とかセシリアを転がしたい彼は、セシリアの目前で地面を削り無理やり減速してみせた。

 

(足元注意だオラァッ!!)

 

 一瞬で色々な事が起こりすぎた反動で、どうしても反応が遅れてしまうセシリア。そんな彼女の隙を旋焚玖は見逃す程甘くはない。

 

「きゃんッ!?」(わ、わたくしは何を…!?)

 

 旋焚玖の水面蹴りを喰らい、後方に背中から倒れてしまう。その衝撃でセシリアが我に帰るよりも早く、旋焚玖は馬乗りするに見事成功した。

 

「……さぁ、マウントポジションだぜオルコット…!」

 

 

 

 

 

 

 ベネすぎる!

 ディモールトベネすぎるぜ!

 

 ここまで完全に脳内リハーサル通りだ! シミュレーション上、最大の難関だったレーザー回避も上手くいったし、こっからはもう俺の独壇場よ!

 

「ちょ、ちょっとお待ちくださいな! 冷静に考えて、この図はおかしいでしょう!? どうしてアナタはISを解除してますの!?」

 

「とっくにご存知なんだろ?」(悟空)

 

「な、なにを……」

 

 別に穏やかな心は持ってないし、激しい怒りによって目覚めたりしないけどね。むしろ俺はベジータさ。

 

「お察しの通り、俺はまだISを満足に動かせない。歩く事すらままならねぇ。そんな俺が本気でお前に勝つにはこうするしかないんだよ」

 

「そんなの認められませんわ! ISを解除した時点で、アナタは棄権負けになる筈ですわ!」

 

「なんでぇ?」

 

「そんなアホの子みたいに言ってもダメです! これはISでの試合の筈! 入学式の時にもそう言ったでしょう!」

 

 ボロを出したなオルコットよ!

 その台詞を待ってたぜ!

 

「言ったっけ?」

 

「言いました!」

 

「本当に?」

 

「いーいーまーしーたー!」

 

 あらやだ、可愛い反応ですね。

 可愛いから言った事にしてあげたいけど……悲しいけどこれ決闘なのよね。んでもって、言ってないんだよなぁ。オルコットはあの日『決闘ですわ!』としか言ってないのよねぇ。

 

「なら、この決闘の審判を務める織斑先生に聞いてみるか?」

 

「そ、そうですわ! 織斑先生、判定をお願いしますわ! というか、そうでなくても普通に主車さんの負けを宣告してくださいまし!」(生身の人とISで試合うなど、幼稚園児でも危険だと分かりますわ!)

 

 緊張の一瞬か?

 あれだけミ゛ャーミ゛ャーやかましかったアリーナに静寂が訪れる。

 

『確かにオルコットは一言も「ISで」試合するとは言っていない』

 

「んなぁっ!?」

 

 やったぜ。

 

「そ、それが本当だとしても! 流石に生身の方との試合続行はおかしいですわ! ここはわたくしの勝ちとすべきです!」

 

「だぁーいじょうぶだって! 俺だったら生身でも全然へーきへーき、パパパッとやって「アホの子はお黙りなさい!」……ハイ終わりって感じで(小声)…」

 

 怒られてしまった。

 だが、ここで千冬さんがオルコットの正論な意見に賛同しちまえば、そこでこの駆け引きも強制終了だ。名実共に俺の負けが決まってしまう。

 

 頼むぜ、千冬さん。

 俺をよく知るアンタなら、言ってくれるだろう…!

 

『……この決闘に限り、特例としてこのまま続行を認める』

 

 成し遂げたぜ。

 

「そ、そげなアホな…」

 

 お前イギリス人ちゃうんか。

 

 

 

 

「お、織斑先生! 本当に続行を許可しても良かったんですか!? 生身の状態でISに挑むなんて無謀ですよぅ!」

 

「本人が心配ないと言ってるいるのだから、やらせてみてもいいだろう」

 

「で、ですが!」

 

「落ち着け。コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ」

 

 千冬に動揺の気配は一切見えない。

 さらさらと砂糖を入れたコーヒーカップを真耶に手渡す。

 

「飲んどる場合かぁーッ!!」(シュトロハイム)

 

 何をトチ狂ったのか、千冬からのサービスコーヒーを派手に拒絶する暴挙に出てしまった真耶。

 

「ほう…? 真耶も私に喧嘩を売る歳になったのか」

 

「ち、違っ! 違うんです! 今のは無意識にと言いますか! 身体が勝手に反応しちゃったと言いますか!」(ひゃぁぁぁ…! オタク趣味を理解してくれる主車くんに出会えた嬉しさで、最近ジョジョを読み直していたからでしょうか~~~!)

 

 あわあわテンパる真耶を前にため息一つ。

 どうやら寛大なお心で後輩の失言を許したらしい。

 

「で、でも、千冬先輩。本当に大丈夫なんですか? いくら主車くんが強くても、ISの攻撃を受けてしまったら……レーザーとか、普通に貫通しちゃいますよ?」

 

「ああ、貫通してしまうな」

 

「貫通したら死んじゃいますよね?」

 

「ああ、死んでしまうだろうな」

 

 あっけらかんと肯定してしまう。

 流石の真耶も、この反応には物申したくなった。 

 

「ちょっ、ちょっと千冬先輩! さっきからちゃんと考えて応えてますか!? もしかしたら主車くんが死んじゃうかもしれないんですよ!?」

 

「ふむ……もしも、主車がオルコットの攻撃を受けて死んだとしようか」

 

「は、はぁ……え? いや、ですから…」

 

 だから死ぬ可能性のある事をヤメさせてほしいんですが。と真耶は言いたかったのだが、割って入ってくる千冬の言葉が先を紡がせなかった。

 

「その時はオルコットを殺して私も死んでやる」

 

「ファッ!?」

 

「フッ……冗談だ」(ブリュンヒルデジョーク)

 

「そ、そうですよね、あは、あはははー」(う、嘘ですぅぅぅ! だって千冬先輩の目が据わってますもん! あわわ…!)

 

 本人の知らないところで、いつの間にか己が命を含め、3人の命を背負う事になってしまう旋焚玖だった。

 

 






篠ノ之流柔術唯一皆伝者旋焚玖を信じろ。
なお作者は夜逃げの準備に取り掛かる模様。
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