選択肢に抗えない   作:さいしん

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高校どうする?、というお話。




第63話 凰鈴音の進路相談

 

 中学3年生の夏。

 あたしのアホすぎる友達が何故か日本から海を越えてやって来た。

 

 あたしからの前評判(?)を聞いてプリプリ「追い返してやる!」と息巻いていた乱とも、あたしの家に来る道中で仲良くなっていた。というか、手なづけられていた。アホの旋焚玖が。

 

 あたしが転校する前、自分勝手にフッたって言うのに、それでも日本から中国まで、わざわざ会いに来てくれたのは素直に嬉しかった。

 でも、出来れば今は来てほしくなかった。気まずい気持ちっていうのもあったし、何よりパパとママの仲が悪くなって離婚しちゃいそうだって時期だったから。

 

 嬉しいような、悲しいような。

 そんな複雑な気持ちでアイツを迎えたあたしに訪れた景色は……――。

 

 

『アンタ達に鈴は渡さねぇ!』

 

『そうだそうだ!』

 

 

『鈴だけじゃねぇ! 乱も連れて帰るッ!!』

 

『そうだそうだ!』

 

 

 乱も巻き込んで、パパとママを説得するアイツの必死な姿だった。半年ぶりに会ったアイツは相変わらずだった。荒唐無稽で向こう見ず。頭で考えるよりも先に動いちゃう性格なあたしですら、たまに引いちゃうレベルな行動主義者。

 

 でも、そんなアイツのおかげで……アイツと乱のおかげで、あたしはママとパパの温もりを失わずに済んだ。

 

 

「ホントにありがとね。アンタが来てなかったら、きっとママもパパも…」

 

 

 日本に帰るアイツを見送る時、あたしは改めてお礼を言った。

 ホントはもっと感謝の気持ちを伝えたいのに。それでも、思い浮かんでくるのは陳腐な言葉ばかりで。そんな自分を恥じた。

 

 

「気にするな」(気にして惚れろ)

 

 

 日本で何度も聞いた言葉。

 聞き慣れたお決まりの言葉だった筈なのに。

 

「……ッ…バカ…」

 

 あたしの胸は大きく高鳴ってしまった。日本から中国に帰ってきてからも、ずっと一夏と旋焚玖の間で迷い揺れていたあたしの想いが、旋焚玖だけのモノに奪われてしまった瞬間だった。

 

「また、ね……旋焚玖…」

 

 アホすぎるあたしの友達は、この時からアホすぎるあたしの好きな人になってしまった。でも、後悔は絶対にしない。あたしはこの世界一アホで素敵な男が……好きだ。

 

「じゃあの」

 

「何で訛ってんのよ!」

 

 コラァッ!!

 旋焚玖コラァッ!!

 

 初恋を捨ててまでアンタに惚れたんだから、このまま最後までドキドキさせておきなさいよ! 慢心してると初恋にカムバックしちゃうわよゴラァッ!! あたしが簡単にメロメロ(死語)になるとは思わない事ね!

 

「ちゃんと毎日メール送ってこなきゃダメだよ旋ちゃん!」

 

「分かってる。じゃあの」(まさか中国で過保護なママが出来るとは思わなんだ。しかも年下っていう…)

 

「えへへ! じゃあの!」

 

 ぐぬぬ…!

 あたしより乱の方が旋焚玖と仲睦まじげじゃない? それに、あたしだって旋焚玖に「メールしてきなさいよ」って言おうと思ってたのに先越されちゃうし…! 

 

 あぁもうッ!

 今から言ったら乱に対抗してるみたいだし! 電話で…ってなると「恋人でもないのに何だコイツ」とか思われちゃうかもだし!

 

 あぁ~~~ッ!

 そんな事考えてるうちに旋焚玖は背を向けて歩き出してるしぃッ! このっ、待ちなさいよ! 飛行機の待ち時間? 知るか! アンタなら飛び乗れるでしょ!

 

「旋焚玖!」

 

「……む?」

 

「こ、今度はあたしが会いに行ってあげるから! ちゃんと部屋は綺麗にしておきなさいよね!」

 

「……ああ」(期待は禁物である。鈴は友達として言っているのである。そう思っていた方がメンタルに優しいのである)

 

 とは言っても、気軽に会いに行けるような距離じゃないのよね。飛行機代だけで往復いくら掛かるんだっての。当たり屋でもして荒稼ぎしてやろうかしら。

 

 

 

 

「旋ちゃん、帰っちゃったね」

 

「そうね」

 

 今度会えるとしたら、いつになるのかなぁ…。

 旋焚玖は3日ウチに泊まったし、同じくらいあたしも泊まろうって思ったら……最短で冬休みになるのかぁ……あ、でも年末年始は忙しいし、流石にあたしもウチの手伝いとかしなきゃだし……うむむ…!

 

「今度はいつ会えるかなぁ」

 

「……そうね、早くても来年の春休みくらいじゃないかしら」

 

「むー……」

 

 ぷっくり頬を膨らます乱。

 可愛いからとりあえず、指で突っつく。

 

「ふみみゅ……んもうっ、鈴姉はそれでもいいの!?」

 

「な、なによ急に」

 

「平気なふりしてもバレバレなんだから! 旋ちゃんの背中を見送る鈴姉ってば泣きそうな顔してたじゃん!」

 

「うぐっ…!」

 

 あ、相変わらずよく見てるわね。

 乱には気持ちを隠し通せないか。

 

「いやまぁ、あたしもまた会いたいけどさ。そう都合良く会えるなんて無理よ。アイツは日本で此処は中国なのよ?」

 

「むぅ……旋ちゃんならワープとか出来ないかな?」

 

「流石のアイツでも無理でしょ」

 

「むむぅ……」

 

 こればっかりは仕方ない。

 簡単に会える方法があれば、あたしの方が教えてほしいくらいだ。

 

 

 

 

「という訳で! 鈴姉が旋ちゃんに会うにはどうしたらいいと思う!?」

 

 家に帰るなり、ソッコーでパパとママに相談する姉思いな優しい妹分。って待てコラァッ!! なに普通に話してんの!? 思春期真っ只中な乙女の恋愛事情とか、一番親バレしたくない案件なんだけど!?

 

「HAHAHA! そうかそうか、鈴は旋焚玖くんにほの字か!」

 

「ちょっ……ほ、ほの字とか言わないでよバカパパ!」

 

 恥ずかしさが倍増しちゃうでしょうが! 可愛い娘の顔から火が出てもいいの!?

 

「なるほど。旋焚玖くんは顔はフツメンだけど心はイケメンだものね! つまりどっちにしろ鈴は面食いって事がバレたわね!」

 

「何言ってるのママ!?」

 

 意味わかんない!

 テンション高すぎでしょ2人共!? 多分、離婚の問題も無くなって逆にナチュラルハイになってるんだわ…! な、なんて置き土産してくれたのよバカ旋焚玖ぅ!!

 

「おじさんとおばさんで何か良い案とか浮かばないかな?」

 

 ま、まぁあたしと乱だけじゃ、どれだけ考えても中々浮かんでこないのも事実だしね。もうパパとママにはバレちゃったんだし、というか絶対いつかはバレるし。それなら早いうちに話が通ってた方が良いと考えましょ。

 

 旋焚玖流プラス思考ってね!

 

「気軽に何度も往復できる距離じゃないしねぇ。それならいっそ、鈴の日本滞在も視野に入れた方が良いんじゃないかしら」

 

「おいおいママ。それだと鈴の学校はどうするんだ?」

 

「そうね、この時期にまた転校は流石にアレだし、鈴にぴったりの高校を探さないとね」

 

 ちょ、ちょっとちょっと…!

 何か話がマジになってない? もっとこう、なんていうか、軽い感じで話す内容だと思うんだけど、違うの? 転校とか高校探しとか、かなりガチめじゃない…!

 

「はいはーい! 鈴姉にぴったりな高校ならアタシ知ってるよ!」

 

 ぴったりも何も、アンタ日本の高校事情なんて知らないでしょ。

 

「IS学園があるじゃん! 留学生も多い世界一の高校だよ!」

 

 ハハハ、こやつめ。

 

 いや正直、あたしもチラッとは頭に過ぎった考えだけどさ。あそこなら旋焚玖とも県内だし、此処と比べたら全然会える距離になる。

 でもさ、現実的に考えて無理っしょ。あそこはエリートの集まりなんでしょ。しかも適性とか、ややこしいのが色々あるって話じゃない? 無理無理、こんな素人がホイホイ行けるようなトコじゃないっての。

 

「それだ、乱ちゃん!」

 

「流石ね、乱ちゃん!」

 

「ちょっ!? なに真に受けてんの!?」

 

 夫婦揃ってマジなのか冗談なのか分かりにくいノリやめなさいよぉ!

 

「ふっふーん!」

 

「アンタもドヤ顔してんじゃないわよ!」

 

 この流れはおかしいって!

 あたしの第六感が急激に告げてきてるんだって! この流れでいくと、謎のノリのままIS学園が志望校に決定されちゃうって! いやまぁ、別にそれならそれでもいいんだけど! このノリで決まるってのがなんか癪なのよぉ!

 

「だいじょーぶだって! 鈴姉なら行けるって!」

 

 根拠ゼロじゃない!

 何でそんな楽天的なのよ!?

 

「しかしIS学園の留学となると、高いIS適性とかが必要になるんじゃなかったか?」

 

 そうそう、その通りよパパ。今みたいなノリと勢いだけで行けるような、そんな簡単なトコじゃないのよ。

 

「鈴姉のIS適性っていくつなの?」

 

「さぁ? 測定してないから分かんないわ」

 

 今の時代、どこの国もISを中心とした主体制になっている。この中国だってそうだ。ISを上手く操縦出来れば、それだけで豊かな将来が確約されるレベルだもん。逆に言えば、いつでもIS適性の高い子を求めているって訳でもあるんだけどね。

 

「よし、なら今から測定しに行こう!」

 

「は?」

 

「そうね! そうしましょうか!」

 

「ちょ、ちょっと待って! 別に今日じゃなくても良くない!?」

 

 いきなりすぎだってば! 話の展開が超スピード過ぎて付いていけないんだけど!? パパもママも何がそこまでそうさせるのよ!?

 

「思い立ったが吉日だぞ、鈴」

 

「そ、それはそうだけどさ」

 

「その日以降はすべて凶日よ、鈴」

 

「そ、それもそうだけど……って違うわよ! それトリコの台詞でしょ!?」

 

 そう言えば、日本に居た頃に全巻買ってたわね。

 いつかトリコに出てくる料理をウチでも出すのが、パパとママの目標なんだとか。

 

「んもう、鈴姉ってば~。適性検査って言っても、注射とかしないからそんなに怖がらなくていいよぉ。アタシも付いて行ってあげるから!」

 

「だ、誰が注射だから怖いって言ったのよ!? いいわよ、ジョートーじゃない! 今から行くわよ! パパパっとやってハイ終わりって感じで帰ってきてやるわ!」

 

 

 

 

 パパパっと検査して貰った結果。

 あたしのIS適性が『A』である事が発覚した。中国どころか世界でも、このランクを出せる人間ってのは極わずからしい。ISについて、そんなにあたしも詳しくないけど、検査した人が言うには、この時点で既にあたしはIS関連から引く手数多な存在なんだとか。

 

「さっすが鈴姉! しゅごいね!」

 

「ふふん。まぁね!」

 

 ま、まさか『A』が出るなんて、毛先ほども思ってなかったからビックリだわ。あたしって実は隠れた天才だった…? 

 聞くところによると、代表候補生で専用機持ちになるのも夢じゃないくらい凄い事らしい。候補生も専用機も全く興味ないけど、入学金もオール免除で逆にお給料まで出る超待遇なのはいいわね! これならあたしもパパ達に迷惑掛けず、大手を振って日本に行けるじゃない!

 

「はっはっは! 流石はパパとママの子だな!」

 

「そうねぇ! ママも誇らしいわ!」

 

 そして何故か乱の他に、パパもママも付いて来ていた。

 んもうっ、仲良し家族だって思われちゃうじゃない! 別にホントの事だからいいけどね!

 

「ついでだし、乱も測定してみたら?」

 

 アンタも中2だし、ISについて興味ない訳じゃないんでしょ? 少なくとも今のあたしよりかは知ってそうだしね。

 

「えー? アタシなんてそんな…」

 

 結果、乱のIS適性『A』。

 

「流石あたしの妹分ね!」

 

「えへへ! ま、まぁね! あ、おばさんも測定してみようよ!」

 

 え、なんで?

 

「しょうがないわねぇ」

 

 結果、ママのIS適性『A』。

 

「おばさんしゅごい!」

 

「流石はママだな!」

 

「うふふ、伊達に鈴のママしてないからね!」

 

 え、えぇ~……?

 ホントに『A』って極少なランクなの? ホイホイ出てるじゃない。むしろバーゲンセールじゃない(ベジータ並感)

 

「よぉし、パパも測定してみるぞ~!」

 

 結果、パパはISが反応せず。

 

「当たり前よねぇ」

 

「当たり前だよぅ」

 

「流石はパパね!」

 

「この流れならイケると思ったんだけどなぁ」

 

 ないない。

 ママの反応だけ何かおかしいけど、まぁ当たり前よね。ISは女性にしか反応しないんだから。

 

「それで、どうするの鈴? ホントにIS学園に進学するなら、ママもパパも応援するわよ」

 

 本題はそこよね。

 あたしも出来れば日本に行きたいけど、一つだけ杞憂がある。杞憂っていうか、ちょっとした不安が残ってたりするのだ。

 

「……あたしが居なくなっても、パパとママはケンカしたりしない?」

 

 旋焚玖が来るまでバッチバチに険悪だった2人だ。また何かの拍子で仲が悪くなって「離婚だ!」ってなられたら困る。あたしが居ないところで「離婚しちゃった☆」とか事後報告されても困るのよ。

 

「大丈夫よ。もうパパとはジュテームな仲に戻ったもの」

 

 ジュテームな仲ってなんだろう。

 

「そうだぞ、鈴。もうパパとママはティ・アーモさ」

 

 ティ・アーモってなんだろう。

 でも、2人がいいって言うなら、ちょっと頑張ってみようかな。

 

 乱はどうするのかしらね。

 まだ中2だけど、この子も『A』が出たしね。

 

「……むむむぅ」

 

 何かを悩んでいるみたいね。

 家に帰ったら聞いてみようかな。

 

 





凰家は仲良し(*´ω`*)

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