争いは何も産まない、というお話。
思いも掛けず、よく分からないノリでISの適性を測定したら『A』が出てしまったあたし。すぐに政府っぽいお姉さんが飛んで来て「ぜひ、ISの訓練を受けてほしい」と頭を下げられてしまった。さらに「素質は十分。努力次第ではISの国家代表にもなれる」って言われちゃった。
急すぎる展開にまだ全然ピンとは来てないけど、今の状況ってもしかして渡りに船ってヤツなんじゃないかしら。ISって言えば、今じゃ世界で一番のステータスなくらいあたしでも知っている。将来も安泰で日本にも行けて、ホントに言う事ないじゃない。
うふふ、これはとうとう来てしまったのかもしれないわね。
あたしの時代が!
という訳で、あたしも明日からはISの座学と訓練を受ける事になった。ただ、一つだけ気になったのは、同じ『A』ランクを出した乱がお誘いを断った事だ。
「お願いします!」
「やだ!」
「そこを何とか!」
「やだ!」
「よしんば嫌だとしても!」
「よしんば!? やだったらやだもん!」
「アメちゃんあげますから!」
「そんなので釣られないクマ!」
怒涛のお誘いに対し、乱はめちゃくちゃ断った。アメちゃんは貰ってたけど、やっぱり断っていた。そこだけ貰うのがほんとザ・あたしの妹分って感じよねぇ。
この光景を見てたらいやはや……『A』ランクってのはホントに貴重なんだって思わされる。政府っぽいお姉さんが、簡単には引き下がらないレベルなんでしょ?
まぁそれでも、乱の断固たるやだに最後は根負けして、名刺だけを渡して引き下がるに至ったんだけどね。
そんなこんなで家に帰ってきた。
さっそくあたしは聞いてみる。
「ねぇ、乱。さっきの話、どうして断ったの?」
てっきり一緒にISを学んでいくとばかり思ってたから、ちょっと……ううん、かなり残念なんだけど。言わないけど。かなり心細いんだけど。言わないけど。
「乱と一緒じゃないとかさ……ぶっちゃけ普通に心細いのよねぇ」
と言いつつ、普通に明かしちゃうあたし。だって相手は乱だもん。どうせ強がってもバレるっての。
「チッチッチッ……分かってないにゃぁ、鈴姉」
「はぁ?」
え、急にドヤ顔になっちゃて、どうしたの? そんな、ふふーん!みたいな顔されたら思わずお姉ちゃん、アンタの頬っぺたモニモニしたくなっちゃうじゃない。
「ふももも!?」
「あははは!」
「んもうっ! なにすんのさー!?」
ごめんごめん。
でも、そんなにあたしも悪くないわよね。むしろ7:3で乱に落ち度があると思うわ。
「で、何が分かってないのよ?」
「ふんだっ! 意地悪する鈴姉には教えてあげないもんっ!」(プイッ)
あらら……プイッてされちゃったわ。少し調子に乗っちゃったかしらね。あたしに背を向けて、見るからにご機嫌ナナメってるアピールまでしちゃってるし。うーん……。
まぁでも、乱のプリプリ具合を直すなんて、それこそ赤子の頬っぺたをプニプニするくらい簡単なのよねぇ。見てなさいよ、見てなさいよ~。
「まぁまぁ、機嫌直しなさいよ」
「つーん」
「今夜はアンタが大好きな酢豚を作ってあげるから」
「ほんと!?」
こっちを振り向いた乱の顔には、早くも満面の笑みが咲き乱れ。誰に似たんだか、ホントにチョロいわ。あたし? いやいや、あたしはチョロくないから。思慮深いで有名な鈴さんをナメんじゃないわよ。
「ええ、ほんとよ」
「わーい! 鈴姉の酢豚は世界一だもんね!」
よし、パーフェクトリカバリーよ。
しかしアレね。この子の性格もずいぶん変わったわねぇ。いや、元に戻ったって言った方が良いかも。
あたしが日本から帰ってきてからは、この子ったらホントに生意気になってたからね。呼び方も「鈴お姉ちゃん」から「鈴姉」に変わってたし。何かとあたしに対抗してきてたし。
ただ、最近になって……と言うか、この子が旋焚玖と会ってから…かしら? 何やら気持ちに余裕が出てきたのか、あたしへの反抗期も終わっちゃって、妙に素直になったって言うか。
「うふふ、乱も作るの手伝ってね」
「うんっ!」
今みたいな感じで、あたし達がまだ幼かった頃のように甘えてきてくれるのは、あたしも普通に嬉しいわ。旋焚玖のおかげかどうかは分かんないけどね。とりあえず、ありがとね、旋焚玖。
「じゃあ、話を戻しましょ。乱はどうして誘いを断ったの?」
「だって……アタシも同じトコ行っちゃったら、鈴姉と競わなくちゃいけないもん」
競う?
「あのね、アタシも鈴姉もISの適性値が『A』だったでしょ?」
「それが関係してるの?」
「大有りだよぅ! さっきの人も言ってたじゃん! アタシと鈴姉の適正値はしゅごいって!」
しゅごいとは言ってないでしょ。
「きっとアタシも鈴姉も代表候補生になるのは間違いないんだよ?」
「それが問題あるの?」
優遇どころか超待遇してくれんでしょ? めちゃめちゃ良い事じゃないの? 旋焚玖風に言うと、デカい顔してオラオラ歩きしても怒られないレベルなんでしょ?
「ありまくりだよぅ! 他の代表候補生も入れて、専用機の取り合いになるのは目に見えてるもん!」
「へ? なんでよ、みんなで使えばいいじゃない」
「それじゃあ専用機じゃないよぅ」
あ、そっかぁ。
そりゃそうだわ。それじゃ、ただの汎用機だもんね。あたしとした事が、なんかぽけーっとなっちゃってたわ。
「でもさ、専用機もいっぱいあるっしょ? あたしも乱も別々に貰えるって」
あたしってば、ホントISに興味ないかんね。専用機ってのが何機くらいあるのかすら知らないわ。でもまぁ1個だけって事はないでしょ、流石に。10機くらいはあるんじゃないの?
「ないんだな、それが」
「ないの!?」
何とも言えない生温かい顔で乱は言い切ったのだ。それがまた信憑性を濃くさせるのである。
「搭乗者に比べてISが貧弱数すぎるって、それ一番言われてるから。きっと代表候補生の専用機も1機か2機だと思うよ」
えぇ……なによその極少っぷり。
確かにそれじゃあ取り合いになっちゃうわね。ISの世界って年功序列とか関係なさそうな実力社会っぽいもん。
「なるほどねぇ、話は理解できたわ。でも、それならアンタはどうするの?」
「心配する事なかれ、だよっ! 鈴姉と専用機の取り合いはしたくないけど、同じ高校には行きたいからね! それならアタシは台湾の代表候補生になればいいのだ!」
「え、そんなの出来んの?」
「分かんない! けど、多分だいじょーぶだよ! それくらいISの適性が高い子って国から重要視されてるからね!」
はぇ~……ホントにすごいのねぇ、ISって。これからの時代はISが世界の中心を担っていく気配がプンプンね。確かに女尊男卑が流行っちゃう訳だわ。
「でもアタシはまだ中2だし、のんびりしておくよ~」
「……あたしはのんびり出来ない感じ?」
何となく嫌な予感がする。
というか、ほぼほぼ確実にその予感は当たっていると思う。
「……鈴姉は中3っしょ? しかも、もう8月だよ? IS学園って、世界中のエリートが集まる高校なんだよ?」
「うっ……そ、そうよね。適性値がいくら高くても、胡座かいてる暇はないか」
ただの代表候補生には、そんなに国も援助してくれないらしいし。ママとパパに負担を掛けさせないってなると、やっぱり専用機持ちな代表候補生にならないとダメよね…!
元々あたしのワガママで日本に行くんだから、これくらいの苦難は当然よ! ISの座学? 実技? 他の代表候補生との競い合い? ナメんじゃないわよ! んなモンであたしの想いを止めようたって100年早いのよ!
「おぉぉ…! 鈴姉、なんだか燃えてるね!」
「当然よ! あたしはお情けで日本に行かしてもらう気なんて無いんだから!」
自分で勝ち取って行くの!
それが凰鈴音の矜持よ!
「ならアタシも精一杯サポートするからね!」
「ええ、お願いするわ乱!」
ママ曰く、思い立ったが吉日ならその日以降はすべて凶日。という訳で、さっそく今からさっきの政府っぽいお姉さんに貰ったISの参考書を読み始めるのだ!
明日からISの養成学校にも通う事は決まってるんだけどさ、座学なら自宅でも始められるしね! こういう自主学習がモノを言うのよ!
「アタシも少しはISの知識あるからね! 隣りで解説してあげる!」
「ふふっ、とても心強いわ!」
三国志伝記よりも分厚い参考書をペラっと捲る。さぁ、読むわよ! まずは単純にISの概要から目を通していきましょ。
『正式名称「インフィニット・ストラトス」は……であり、シールドエネルギーが……ハイパーセンサーの……イコライザによって……イメージ・インターフェイスを……バイタルデータを……フィッティングとパーソナライズで……』
「……?」
「……?」
専門用語、多すぎない?
マジでイミフなんだけど。横に座ってる乱にチラッと視線を送る。いやもう、あたしと全く同じ顔してる時点で、この子の知識から外れちゃってんでしょコレ。
んーと……も、もう少しだけ読んでみましょ。
『……よって、パルスのファルシのルシがコクーンでパージに……』
これには忍耐自慢なあたしもそっ閉じ。
「……乱」
「な、なぁに?」
「酢豚、作りましょ」
「……そうだね、うん」
明日から本気出す。
IS操縦法について。
鈴:何となくよ何となく
乱:感覚だよね感覚
旋焚玖:あ、そっかぁ…