選択肢に抗えない   作:さいしん

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亦た楽しからずや、というお話。



第66話 有朋自遠方来

 

 

 

「来たわよ、IS学園…!」

 

IS学園の正面ゲート前にて仁王立ちする少女在り。

寒々しい冬を越え、海を越え、暖かな4月の夜風に艶やかな黒のツインテールを靡かせるチャイニーズガール。小柄な身体に不釣り合いなボストンバッグを背負い、いざ超えて行かんゲートの先へ。

 

「……むぅ」(今夜着くってメールしたのに、旋焚玖の姿はない…か)

 

確かに「出迎えろ」とは言ってなかった。それでも待っていてほしいのが乙女心というもの。夜とはいえ、正面に誰かが立っていたら見える。見えないという事はそういう事なのだ。

 

軽かった筈の足取りは一転して重くなり、ご機嫌だった筈の気持ちは不機嫌に…とまではいかなくとも、やはり少し物寂しく感じてしまっていた。

 

トボトボと歩き、正面ゲートを越えた。

 

 

パンッ!!

パンパンパンッ!!

 

 

「ふにゃ!? なになに、敵襲!?」

 

夜空の下でけたたましく鳴り響いたのはクラッカーの音。そしてゲートの影から満を持して、色鮮やかな紙吹雪と共にワッと飛び出してくる仕掛け人たち。

 

「入学おめでとう、鈴!」

 

「せ、旋焚玖!?」

 

「入学おめでとう、鈴!」

 

「一夏も!?」

 

「よく来たな、凰」

 

「ち、ち、千冬さんまで!?」

 

「「「「 入学おめでとう! 」」」」

 

「誰ーーーッ!? ちょっ、な、なに、何でこっち来んの!?」

 

旋焚玖と一夏を除く女子連中(千冬と真耶も含まれる)が、困惑の極みに達する鈴にアッーと群がる。

 

「「「「 りーん! りーん! 」」」」

 

「にゃぁぁぁ~~~!? な、何で胴上げェ!?」

 

何がどうしてこうなったのか。

それは今から数時間前まで遡る。

 

 

 

 

『19時くらいに着くわ(/ω・\)チラッ』

 

 セシリアとの激闘から1週間ほど経った頃、鈴からこんなメールが届いた。決闘の結果は内容と一緒に電話でも伝えてるし、というかそれからも毎日電話はしている。その過程で元々鈴もIS学園に来るつもりだった事は明かされていた。

 

 だがそれでも、こんなメールが来たのは想定外だった。え、なにこの顔文字。なにアピールなんですか? 

 

 これは流石にアレだろ、出迎えてね的な事を遠回しに言ってきてるんだろう。素直に言ってこないのは何故か? 鈴は俺に似て照れ屋さんだからな!(名推理)

 

 しかしアレだな、去年の夏以来の再会になるのか。久しぶりだし積る話も……別にないな。電話で話しまくりだし。鈴の両親もすっかりジュテームな仲になってるらしいし、乱ママもISの適性が良すぎて、今年の夏には飛び級してくるってのも聞いてるし。

 

 ま、普通に出迎えて普通に案内してやればいいか。

 

 

【再会にロマンチックはつきもの。熱いベーゼでイチコロさ】

【いい感じの出迎え方を誰かに聞く】

 

 

 なるほど、確かにイチコロだな。

 

 一(人の男が)殺(されるん)だろ? 俺の殺害予告とかお前もエラくなったもんだな。誰が選ぶかアホ! そもそもベーゼってキッスじゃねぇか! まだ付き合ってないのにキッスなんてしたらダメなんだぞ!(純愛恋愛脳)

 

 俺は普通で良いと思うんだけど。

 まぁ人の意見を参考にするのもアリか。というか、一夏が居るじゃん。鈴の知り合いは俺だけじゃないし、一夏も誘って歓迎するのがベターだろ。

 

「おーい、一夏」

 

「なんだ?」

 

 カクカクシカジカっと。

 これまでの経緯を簡単に説明した。

 

「へぇ、鈴も来るのか! そりゃあ楽しみだな!」

 

「ああ。それで何か鈴が喜びそうないい出迎え方はないか?」

 

「うーん、そうだなぁ……あ、胴上げなんかどうだ?」

 

「ああ、胴上げして祝うってヤツな!」

 

 

『胴上げ』:偉業を達成した者、祝福すべきことがあった者を祝うために、複数の人間がその者を数度空中に放り投げる所作をいう(広辞苑参考)

 

 

「そうそう! ほら、よくテレビでもやってるだろ? 合格したぞー!とかで胴上げされてるヤツ! 俺たちでアレをしてあげたら鈴も喜んでくれるんじゃないか?」

 

 しかも鈴が受かったのは天下のIS学園だしな。その上セシリアと同じく、代表候補生の専用機持ちにも選ばれたって言ってたし。これはもう祝いまくられな立場に違いない。

 

「……いや、でもなぁ」

 

「(´・ω・`)」

 

「鈴は女の子だろ? ガキの頃から付き合いがあるとはいえ、男の俺たちが太ももやら何やらに触れたら、セクハラになっちまうんじゃないか?」

 

「あ、そっかぁ……」

 

 そうだよ。

 いや、実にいい案だったが、流石にな。

 

「あ、そうだ! 千冬姉を呼べばいいんじゃないか?」

 

「ああ、千冬さんにしてもらうってやり方な!」

 

 千冬さんは女だし、鈴とも知り合いで互いに気後れする事もないし、良い事だらけじゃないか。流石は一夏だ、痒い所に手を届かせてくれるぜ。

 

「……いや、でもなぁ」

 

「(´・ω・`)」

 

「千冬さん1人じゃ胴上げと言えなくないか? 絵面も寂しい気がするぞ?」

 

「あ、そっかぁ……」

 

 そうだよ。

 いや、実にいい案だったが、流石にな。

 

「あ、そうだ! 箒とかセシリアたちも呼んじゃえばいいんじゃないか!?」

 

「それだ一夏! お前中々やるじゃないか!」

 

「へへっ、まぁな!」

 

 そんな話を教室でしていたら、自分の名前を呼ばれた事に気付いたのか、篠ノ之たちもこっちまでやって来た。さっそく頼んでみよう。

 

「……って事で、俺たちのダチが今夜IS学園に着くんだ」

 

「中国の代表候補生ですか」(わたくしと同じ専用機持ち……これは良いライバルになれそうな予感ですわね…!)

 

「私と入れ替わりで来た幼馴染か」(私と同じ幼馴染……私の第6感が強く告げてくる。やって来るのは恋のライバルだと…!)

 

 反応を見る限り、特に問題はなさそうだな。

 しかし、それでも千冬さんを入れてまだ3人か。3人で胴上げってのもまだ少し絵面が寂しいよなぁ。

 

「でしたら、わたくしに心当たりが2人程ありますわ」(清香さんと静寐さんですけれど)

 

「私も一人だが居るな」(ルームメイトの本音だが)

 

 どうやらセシリアと篠ノ之が何人か誘ってくれるらしい。俺も千冬さん以外で一人心当たりあるし、今から頼みに行こうかな。

 

「一夏、職員室に行こう」

 

「千冬姉を誘うんだな?」

 

 その役はお前に任した。

 俺は別の助っ人に用がある。

 

 ガラッと教室の扉を開けて廊下に出る。放課後って事もあり、俺たちの姿を見るや、瞬く間に女子から悲鳴が上がった。

 

「きゃぁぁぁッ♥ 織斑くんよぉぉぉッ♥」

 

「ひゃぁぁぁッ!! もう1人も居るぅぅぅッ!!」

 

 よし、黄色い悲鳴だけだな!(自己防衛)

 

 

 

 

「「 失礼します 」」

 

 大海をブッた斬ったらしいモーゼも羨むレベルで、難なく職員室までやって来れた。そこから一夏は千冬さんの所へ。んで、俺は……。

 

「あら、主車くんじゃないですか」

 

 一夏や千冬さんとはまた違うベクトルで俺を理解ってくれている人、その名も山田真耶先生だ! 上から読んでも下から読んでも山田真耶な先生だ! 

 

 まずは事情を説明しなきゃだな。

 

 

【うるせェ!!! 行こう!!!】

【クラウド×セフィロスについてどう思う?】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 

 うるせェのはお前だバカ! せめて説明させろや! その後ウダウダ言われて初めて【上】が成立するの! 今は成立してないの!

 【下】はもっと論外なの! 山田先生にそういう趣味があったとしても俺にはないの! 二次でもヤロウのカップリング講義なんかされたら堪ったモンじゃないの!

 

 俺は【上】を選ぶぜ…!

 同じ言葉でも捉える人物によって変わる事がある…! この台詞をただの反抗的な暴言と捉えるか、それとも…!

 

「うるせェ!!! 行こう!!!」

 

「ひゃあっ!? び、びっくりしましたぁ……んもう~、私はチョッパーじゃないですよ~?」

 

 やったぜ。

 流石は山田先生だぜ。伊達にメガネは掛けてねぇぜ! 俺も伊達にあの世は見てねぇぜ!(幽助)

 

 全く以て意味不明なる文脈でも、それがネタであるならばそっちを優先してくれる。まさにオタクの鑑だな!

 

「すいません、山田先生なら何でも理解ってくれるので」

 

「うふふ、私も学生時代に戻った気分になりますよ~」

 

 まさにwin-winだな!

 

「それで、どうしたんですか?」

 

 ああ、やっと本題に入れる。

 この無駄な回り道も、慣れたらまぁ楽しい……訳ないんだよなぁ。知ってるか? 時が止まった瞬間ってのは、いつも心臓を鷲掴みされた気分になるんだ。日に何度も心臓をギュッとされてたら、そりゃあ耐性もつくわ。

 

 故に強心臓。

 故に強メンタル(哀愁)

 

「……という訳で、俺たちの代わりに胴上げしてほしいんです」

 

「いいですよ~。教師は生徒の力になるのがお仕事ですから!」

 

 両腕を前に出して、フンスッとやる気をポーズで表現してみせる山田先生。相変わらずあざといですねぇ! しかし、それでこそ山田先生だ。

 

 一夏の方は……?

 

「ふむ、胴上げか」

 

「ああ。どうかな? 千冬姉も鈴は覚えてるだろ?」

 

「凰のご両親にもよくお世話になったからな。よし、いいだろう。私も参加しよう」(旋焚玖のご両親といい、一夏が擦れずに済んだのも、この人達のおかげであると言えよう。一夏、旋焚玖そして鈴音。私の守るべき者がまた増えたな)

 

「やったぜ!」

 

 どうやら成し遂げたらしいな。

 セシリアと篠ノ之も声を掛けてくれているそうだし、面子はこれで確保できただろう。後は仕上げをご覧じろってな!

 

 

 

 

「「「「 りーん! りーん! 」」」」

 

「わかっ、分かったから! いや分かんないけど! いったん下ろして! おーろーしーてー!」

 

 うむ、見事な胴上げだ。

 千冬さんと山田先生を核として、篠ノ之とセシリアが加わり、隙の無い四方四神の完成だ。布仏と相川と鷹月の3人で更なる安定感を出している。俺と一夏は見ているだけなのが少し残念だが、概ね満足のいく歓迎セレモニーになったな。

 

「ハハッ、見ろよ旋焚玖! 鈴の奴スゲーはしゃいでるな!」

 

「ああ、俺たちも準備した甲斐があった」

 

「やっぱりアンタ達かー! 後で覚えておきなさいよー!」

 

 うーん、宙に舞いながら噛まずに叫ぶとは、中々に器用じゃないか。流石、代表候補生に選ばれた奴は違うな。

 

「お、おい……なんか鈴の奴、怒ってないか?」

 

「フッ……アイツは照れ屋だからな」

 

 何ビビッてんだよ一夏。

 だいじょーぶだって、へーきへーき。

 

 

【俺も鈴の胴上げに参加するぞ!】

【影の敢闘賞な一夏は俺が胴上げしてやる】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 

「一夏ァッ!!」

 

「え、どうしたんだ、急に」

 

「来いお前!」

 

「え、なんだよ? うわぁっ!?」

 

「いーちか! いーちか!」

 

 ソイッと上に投げてホイッとキャッチ。

 その繰り返しだオラァッ!!

 

「はははっ! なんだよぅ、旋焚玖もはしゃいでるのか~!」

 

 (はしゃいでるのは)お前じゃい!

 

「「「「 りーん! りーん! 」」」」

 

「マジで何なのよぉぉぉ~~ッ!! バカ旋焚玖ぅ! アンタ後でホント覚えておきなさいよー!」

 

 どうして俺だけなのか。

 発案したのは一夏なのに!

 

 これが…ご褒美なの…?(現実逃避)

 





そうだよ。

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