選択肢に抗えない   作:さいしん

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ジタバタジタバタ、というお話。



第67話 鈴音の大作戦

 

 

「久しいな、凰。学園の教師としてお前を歓迎する」

 

「お、お久しぶりです、千冬さん」

 

 ワッショイ祭りも終わり、ようやく落ち着いた雰囲気がやって来た。それからはIS学園の新たな仲間である鈴に対し、胴上げメンバーが簡単に自己紹介をしているところだ。

 

 俺は正座させられてるけどな。

 俺だけが正座させられてるけどな。こんなのご褒美じゃないもん。

 

「初めまして、凰さん。わたくしはセシリア・オルコットと申しますわ。同じ代表候補生として歓迎いたしますわ!」

 

「あ、もしかして一夏と旋焚玖と試合した子?」(旋焚玖たちの提案とはいえ、胴上げしてくれた子に対して、流石に『他の国とか興味ないし(キリッ)』とかは言えないわよねぇ)

 

「あら、ご存知ですの?」

 

「うふふ、どうかしらね……>3<」

 

「ぴゃっ!?」(なななっ…! その面妖なお顔は…! つい最近わたくしがしたお顔ではありませんか!?)

 

 両目をギュッとお口もギュッとしてみせる鈴。

 その顔が全てを物語っていた。まぁ電話でセシリアとの勝負も事細かに聞かれたからな。

 

 しっかし、中国に遊びに行った時は鳴りを潜めていたが、可愛らしいイタズラが好きなところは変わってないみたいだな。その性格もあってか、鈴の存在ってかなり貴重っていうか、普通に心強いな。アホの選択肢的な意味で。

 

「うぅ……恥ずかしいですわ…」(どことなく旋焚玖さんに似ていますわ…)

 

「あははっ、ごめんごめん。歓迎してくれてありがと。これからよろしくね!」(チョー美人だけど、乙女スカウター的には……ふむふむ、この子は旋焚玖に惚れてなさそうね! よーしよし。というか旋焚玖を好きになる物好きとか、あたしくらいだっての! これは早くもあたしの時代が来てますねぇ!)

 

 代表候補生で専用機持ちって、IS学園で何人居るんだろうか。よく分からんけど、1年の中でってなるときっと少ない筈だ。そういう意味でも、セシリアとは仲良くなってほしいもんだな。

 

 それからも滞りなく進んでいく。

 一夏は元から知り合いだし、山田先生は教師だし、布仏も相川も鷹月も、俺とコミュニケーションを取ってくれる聖人組だから問題ないだろうさ。

 

 ラストを飾るのは篠ノ之か。コイツもIS学園に来てからは、めっぽう明るくなったしな。特に問題ないだろう。

 

「はじめまして…!?」

 

「はじめまして……ッ…!?」

 

それは運命の邂逅とも言うべきか。

目と目が合った瞬間、相対する少女2人に電気が走った。

 

 

((コイツ…!))

 

 

根拠も無ければ理屈も無し。それでも目と目が合った瞬間、直感的に互いが互いを理解ってしまった。まさに史上のアイコンタクト。箒が翼くんなら鈴は岬くんだった。

 

「……?」

 

 何で篠ノ之と鈴はずっと見つめ合ってんの? というか、むしろガンくれあってないか? いやいや、2人とも初対面だよな? え、なに、アレか? 前世で犬猿の仲だったとか、そういうヤツですか?

 

「旋焚玖と一夏の幼なじみの篠ノ之箒だ」(そして旋焚玖の恋人になる予定の篠ノ之箒だ。言えないけど)

 

「奇遇ね。あたしも旋焚玖と一夏の幼なじみな凰鈴音よ」(そして旋焚玖の恋人になる予定の凰鈴音よ。言えないけど)

 

 何故幼なじみを強調するのか。

 何故バチバチ火花を散らせているか。

 

「……アンタとは長い付き合いになりそうね」(旋焚玖的な意味で)

 

「……ああ、そうだな。お前とは気が合いそうだ」(旋焚玖的な意味で)

 

 む……?

 何か普通に笑顔で握手してる。よく分からんが、何かしら互いに思うところがあったって事でいいのかな。童貞に女の機微なんかわがるわげね。

 

「よし、此処に居る奴は一通り凰と挨拶を済ませたな」

 

「え、千冬姉、俺と旋焚玖はまだしてないぜ?」

 

「お前らはまた明日にでもゆっくり話せ。凰は今から転入の手続きを済ませねばならんからな」

 

 ああ、事務的な作業があるのか。

 それなら仕方ない。ここで長々とダベってたら、それだけ仕事が延び延びになっちまうって事だもんな。

 

「そっかぁ……ちなみに鈴は何組なんだろ?」

 

 それは俺も知りたいな!

 心なしか、一夏から聞かれた千冬さんを見る鈴の表情も、ドキドキしているように見える。

 

 そりゃそうか。

 知らん奴ばっかのクラスへ放り込まれるより、知り合いが居るクラスの方が鈴も要らん気疲れしないで済むだろうし。

 

「凰の転入クラスは2組だな」

 

「!!?」(違っ…! 違うでしょ、千冬さん!? えっ、違うわよね!?)

 

 お隣りか。

 これには普通にがっかりだ。

 

 というか、鈴がめちゃくちゃビックリしてる。しょんぼりとかなら分かるが、驚くってのはおかしくないか? 事前に鈴が知らされていたクラスとは違うとか?

 

「と見せかけて1組だな」

 

「……ほっ」

 

 何故見せかけたのか。

 今宵も絶好調だな千冬さん。ツっこんでいいのか分からん微妙な匙加減っぷりが特徴のブリュンヒルデジョークが冴えきってるぜ。

 

 そんでもって、安堵のため息をついたっぽい鈴である。もしかしたら此処に来る前から聞いていたのかな。

 

「本来なら2組だったんだが、急遽1組になってな」

 

 千冬さんが、そう付け足す。

 なんだ? 謎の力でも働いたのか?

 

「ふっふーん! これでまた同じクラスね旋焚玖、一夏!」(そうでなきゃ困るわ! このあたしがアレだけの事をしたんだから! 羞恥に耐えたる先は春作戦、大成功よ!)

 

アレだけの事。

それが一体何を指しているのか。

それは今から少し時を遡る事になる。

 

 

 

 

「凰鈴音さん、アナタの転入する日が決まりました」

 

「はい」

 

 政府高官が直々に通達に来た。というか、この人ってあたしをスカウトしたお姉さんじゃない。その節はドーモです。

 

 でも、まだよ。無事に専用機持ちな代表候補生にもなれて、正式にIS学園へ行ける事が決まったあたしだけど、まだ喜んではいけない。気を抜いてはいけない。

 

 IS学園にも当然クラス割りというモノがある。アホの旋焚玖と同じクラスになれるか違うクラスになってしまうか。

 正直、それだけで全然変わってくるのよ。あたしのテンションも変わってくるし、仮に違うクラスだったら、旋焚玖といい感じになるのに時間が掛かっちゃうじゃない。

 ただでさえ、あたしは一度アイツをフッちゃった負い目があるんだから。まずそこから挽回しなきゃいけないんだから、違うクラスとかになってる暇はないの!

 

「ちなみに、あたしが入るクラスって何組か分かりますか?」

 

 えっと……1年は確か4クラスあって、旋焚玖は1組だって電話で言ってたわよね。という事は4分の1なのよね? 

 4分の1って言われたら「いけるやん!」(旋焚玖風)って気持ちになるけど、4分の1って25%なのよねぇ。25%って言われた途端、いきなり不安になっちゃうのはどうしてかしら。

 

 いやいや、ここで不安になってどうすんのよ。むしろ25パーくらい余裕で勝ち取れるわよ。あたしの運はマジで九蓮宝燈だから。ナメんじゃないわよってね。

 

「凰さんは2組ですね」

 

「(^p^)」

 

「ちょっ…!? どうしました凰さん!? お、女の子がそんな顔をしてはマズいですよ!」

 

 終わった。

 グッバイあたしの青春。ってフザけんな! あたしは別にISが好きで行く訳じゃないのよ! アホの旋焚玖と一夏とアホして楽しんで! いつしかアホの旋焚玖とも恋に落ちちゃった…♥ 的な関係になりたくて行くのよ!

 

 それなのに何で違うクラス…ッ!

 違うクラスなのよぉぉぉぉッ!! 

 

 限られた時間だけで親密になれって!? アホか! そんな余裕あったら、とっくに付き合えてるわよ! 遠距離恋愛でもしてるわよ! 無いから日本に行くんでしょうが!

 

 ど、どうしよう…!

 ここは大人しく従う? 

 それで2年のクラス替えまで待てって? 

 

 いやいやいやいや、無いわよ、普通に無いわ。万が一、いえ、億が一の事を考えてもみなさいよ。あたし以外の女が旋焚玖に惚れちゃったらどうすんのよ! いや無いけど! そんな物好き、世界でもあたしくらいだろうけど! 可能性は零じゃないでしょ!?

 

 でも何て言えばいいのか分かんない…! 普通に考えたら、こんなの覆らないだろうし。そうよ、常識で考えたら……ん? 常識…?

 

 そ、そうだ!

 常識から一番かけ離れた奴がいるじゃない! こういう時、旋焚玖ならどうする!? 分かるか! 分からないから聞いてみるしかないわね!

 

「少しだけ席を外していいですか?」

 

「え、ええ、いいですよ」

 

 一旦、外に出る。

 そんで、ソッコー旋焚玖にTELる。

 

 

「あ、旋焚玖? ごめん、ちょっといい?」

 

『ああ』

 

「あのね、覆りそうにない決定事項をね、変更してもらうにはどうしたら良いと思う?」

 

 長々と話している時間は多分ないと思う。端的すぎて悪いけど、お願い旋焚玖、アンタの知恵を貸して…!

 

『……相手は人間か?』

 

「ええ」

 

『なら問題ない。駄々をこねろ。こねてこねてこねまくれ。駄々っ子よりも駄々っ子になれ。泣いて叫んで喚いて地面に転がり回れ。わたモテのうっちーよりもジタバタしろ』

 

「わ、分かったわ…!」

 

 最後の部分だけはよく分かんなかったけど、中途半端にするなって事よね? 足掻くなら本気で足掻いてみせろ……そう言っているのね、旋焚玖…!

 

 あと……最後に勇気をちょうだい。

 

「旋焚玖はさ、あたしが1組に来たら嬉しい?」

 

『愚問だな。待ってる』

 

「……ええ、待ってなさい…!」

 

 よし…!

 これで闘える…!

 

 何と?

 羞恥心とよ、決まってんでしょ!

 

 電話を切って、ババーン!と扉を開けて入り直す。

 最初からやり直すわよ!

 

「ちなみに、あたしが入るクラスって何組か分かりますか?」

 

「え? えっと……2組ですね」(どうして同じ事を聞くのかしら…?)

 

「やだ!」

 

「え、いや、やだって言われましても」

 

「やだやだやだ! やだぁ! 2組はやだぁ!」

 

 地面にゴロゴロ転がりまくる。

 恥ずかしくないもん。今のあたしの気分は大女優のソレなんだから! 演技だから恥ずかしくないもん!

 

「ちょぉっ!? ふぁ、凰さん!?」

 

 止めんじゃないわよ!

 ジタバタさせなさいコラ!

 

「1組がいーいー! 1組じゃないとやなのぉ! やだやだやーだー! 1組じゃないと行きたくないのー! おーねーがーいー!」

 

「はわわっ…! ど、どうしましょう…」(何ですかこの子…! 大人びていると聞いていましたが…! これは……これは愛護欲がハンパないですよ!)

 

 どうするですってェ!?

 

 1組に変更すればいいのよゴラァッ!! 見なさいよ、このあたしのジタバタっぶり! 小学生でも今どきここまではしないわよ! どうなのよ! 良心チクチクどころか、もう良心バズーカってんでしょ!?

 

「泣いちゃうよ!? 1組に変更してくれなきゃ、あたし泣いちゃうんだからぁ!」

 

「……分かりました、1組に変更しましょう」

 

「!!? ま、マジですか…?」

 

 ゴロゴロすとっぷ、ジタバタすとっぷ。

 え、マジで? ホントに? 

 

 ヤバい、なんだか急に冷静になってきた。

 素に戻った瞬間、どっと恥ずかしさが込み上げてくる。あたしは何てコトをしちゃってたんだろうか……これは黒歴史も真っ黒な黒歴史確定だわ…!

 

「マジです。政府高官な私を信じてください」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 あたしの(黒)歴史にまた1ページ……それでも決定事項を覆せたのは事実! なら、あたしはその1ページも破らず受け入れるわ!

 

「可愛いは正義」(小声&本音)

 

「へ?」

 

「ンンッ…! 何でもありません。では、凰さんは1組に転入という事でよろしいですね?」

 

「はい!」

 

 しゃあオラァッ!!

 恋する乙女ナメんじゃないわよオラァッ!!

 

 待ってなさいIS学園!

 待ってなさい旋焚玖!

 

 

こうして鈴音は、決められたレールをブッ壊し、新たなる未来を自身の手で掴み取ったのである。

 

 





クラス対抗戦はどうするんですか(憤怒)



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