先入観、というお話。
「今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」
当たり前だコラァッ!!
【上】も【下】も怖い! それはもう否めない事実…! ならまだマシな方を選ぶのみ、選ぶのみよ!
元々怖い奴が怖い事言っても怖さに拍車を掛けるだけ。だがそこにウンコなんてお下劣を加えるなんてとんでもない、とんでもないよ! それを聞いて「あらやだ、興奮しちゃうわ♥」とか言われても嬉しくない、嬉しくないよ!
「「「 ひぃぃぃぃッ!? 」」」
ああそうだ!
怖がり喚け!
引かれない時点で俺は勝ったも同然なんだよ! 誰に? アホの選択肢にだよ! それにプラス、このセリフに関しては一縷の光明すら在る…! 昨日の9時に! やってたんだよバトロワが!
後は観た奴を探し当てるだけの簡単なお仕事です。青ざめてる女子連中の中で「あっ、ふーん」的な顔をしてる奴はどいつだ…! 居るだろ、一人くらいは居るだろ? 居るよな? 名作だぞアレ。
「…………!」
3人だよ3人。
畏怖に塗れたこの教室で、怖がっていない奴を3人も見つけられた。やったぜ。後はソイツに話しかけて、俺が昨日のをパロッただけだと証言してもらえれば全てが丸く収まるな!
だが、ここで少し問題も残る。3人ともが、本当に昨日のアレを観ているかどうかだ。普通に俺にビビッてないだけの、強心臓の持ち主な可能性だってあるだろう。むしろそれなら面倒な事になりかねん。
安易に話しかけて「は? お前調子に乗んなよ」的な事を言われたらたまったモンじゃない。お嬢様な学園にそんな不良少女が居るとは思えんが、仮にそうなったら事態はむしろ悪化しちゃうもんね。慎重さを忘れるな。
故に俺はこの中から選ばねばならん。
より確実に、観ているであろう女子を引き当てねばならん。さて、どいつだ…? あの映画は人を選ぶからな。オタクっぽい奴を選んだ方が良さそうか……ん?
「………………!」(さっきのって昨日の映画のセリフ、だよね…? あれが1組のもう一人の男子……でも、どうして本音も一緒に…? うわっ、め、目が合った…! 怖いって噂だし、この前も本音を転がしてたし、逸らさなきゃ…!)
ふむ……目が合った途端に逸らされたか。それは慣れっこだからいいとして。アイツもしかしてオタクじゃね? 眼鏡かけてるし(偏見)
よし、俺が向かうは眼鏡な青髪少女の席だ。
「「「 !!? 」」」
教壇から降りただけでビキッと固まられても困るんだけど。まぁいい、騒がれるよりは全然マシだ。お前らモブはそのままライオンを前にしたインパラくんごっこに耽ってな。
「ちょいす~、どうしたの~?」
「気にするな」
そして付いて来い。
布仏から放出されるマイナスイオンなオーラで、少しでも俺への畏怖を緩和してくれい。そのための布仏、あとそのためののほほん…?
ほい、到着。
明らかに顔を背けてるけど、先に謝っておく、すまんな。こっちもこっちで割と譲れない事情があるんだ。恨むなら今度からコンタクトにするんだな、名も知らぬオタクっぽい少女よ(偏見)
「おい」
「……なに?」
(……た、助けて本音! 喰べられる!)
(ちょいす~はそんな事しないもーん)
む…?
布仏と何やら目で語っているような……気のせいか? まぁいい、俺は俺でチャッチャとやる事やって退散させてくれい。
「お前さっき俺のことチラチラ見てただろ?」
「……見てない」
「ウソつけ絶対見てたゾ」
「なんで見る必要なんかあるんですか?」
というか、コイツどっかで会った事あるか?
髪の色といい、髪型といい、なぁ~んか似た奴と会った気がするんだけど……ふむぅ…?
「ちょいす~が言ったセリフで、かんちゃん「あっ」って顔したよね~」
「そうだよ」(便乗)
しかし、かんちゃんとな?
2人は知り合いなのか。これで更にやりやすくなった、流れは完全に俺に来ている…! ここは怒涛の攻めあるのみ!
「君は俺の言葉を受けて、他の子たちとは違う表情を浮かべた。いったい何故か? それは俺が言った言葉に、君が聞き覚えがあったからに他ならない。君も昨日、観たな? アレを…!」
「あ、アレ……?」
「そうだよ、アレだよ、ほら、あのバから始まる……な? アレだよ、分かんだろ? 漫画化もされたあの実写版のヤツだよ」
こっから先はお前が言うんだよ。
俺にばっか全部説明させんじゃねぇよ、「必死すぎて逆に怪しい」とか思われんだろ。お前も便乗して、初めて信憑性が生まれるんだよこのヤロウ。分かってくれよこのヤロウ。
「えっ…と……ば、バトル・ロワイアル…?」
やっぱり観てんじゃないか(安堵)
「昨日やってたんだよな? テレビでな? 夜の9時から10チャンネルでな?」
「う、うん……」(な、何でそんなに事細かく言うんだろう…)
「私も観たよーぅ」(しののんと一緒に観たのだ!)
勝機ッ…!
「聞いたか皆の衆ッ!!」
「「「 !!? 」」」
オラ顔上げろコラ!
全員こっち向けオラ!
釈明の時間だオラァッ!!
「俺は映画のセリフを言いたかっただけである! そこに悪意はないのである!」
「ふんふむ~、ちょいす~は昨日の映画をパロりたかっただけなんだね~?」
い~いアシストだ、雰囲気もいい。
流石は布仏だ、お前を供にしたのは間違いではなかった。
「……別に4組でやる必要……ないと…思う…」(よく分かんないけど……この人が変人なのは分かった…)
「お、そうだな」
「お、そうだな~」(真似っ子)
これまたいいアシストしてくれたぜ、布仏の知り合いっぽい子! これで一応は形もついたし、俺も帰れるじゃん!
そろそろチャイムも鳴るし、いったん我が陣営(1組)に退却だ。出来れば更識簪って奴の顔くらいは拝んでおきたかったが、ここで欲を出してはいかんでしょ。
「なら、1組に戻ろう」
布仏、オレニツヅケー。
「ほーい」
よし、そうと決まれば長居は無用だ。1組までスタコラサッサだぜ!
【お前の姉ちゃん変態だな!】
【お前の姉ちゃんヘタレだな!】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
意味不明すぎる捨て台詞やめろコラァッ!! コイツに姉ちゃんが居る事すら今知ったわ! 初めて知ったわ!
くそっ、こんな事ならコイツに名前を聞いておくべきだった…! 誰だお前!? お前の姉ちゃん変態なのか!? もしくはヘタレなのか!?
どっちにしろ悪口だよ!
言いたくないよ!
せめて誰の事なのか俺に把握させてくれよ! 何で知らん奴の悪口を言わなきゃならんのよ!? どう考えてもおかしいだろ! これだとただの嫌な奴じゃねぇか!
よく見ろよ、なぁッ! ちゃんと見たのかお前(選択肢)コイツの顔を! すっげぇ可愛いんだぞ! メガネ美女だぞメガネ美女! 同じ眼鏡っ娘な黛先輩とはまた違った儚い系美少女なのに…!
そんな眼鏡美人と仲良くなれるチャンスを前にして、自分から嫌われていくのか(困惑)
……自分から嫌われていくのか…(慟哭)
「お前の姉ちゃん変態だな!」
【上】でも【下】でも、どっちでもいいよもう(投げやり)
「変……体……?」(お姉ちゃんが変体…? そんな事……言われなくても…分かってる…もん。お姉ちゃんは私なんかと違って……完璧超人、なんだから……)
【変体】:一般的な形・様子・形式と異なっていること。普遍的ではない様を云う(広辞苑参照)
偉大なる姉を貶す言葉など、これまで生きてきた中で一度たりとも聞いた事のない4組のクラス代表、そして日本代表候補生でもある更識簪、別の耳を作動中。
「………………」
「………………」
むむ……?
何かしら怒りのアクションをされると思っていたが、何やら思案に耽りだしたぞ。しかし、これはチャンスなのではないか?
この子がボンヤリしているウチに、ここは一旦1組に退却し……退却? いやいや、違う違う。それだと、まるで俺が逃げてるみたいにじゃないか! これは退却ではない、未来への進軍である!(名族)
布仏、オレニツヅケー。
「ほーい」
布仏と一緒に教室から出る。
騒がせて悪かったな、皆の衆。
あと絡んですまんな、謎の眼鏡美人。
言わんけど。これ以上4組に居たら、まぁたアホの【選択肢】がしゃしゃり出てくる危険性があるからな。
んで、1組に戻る道中で布仏が聞いてきた。
「ねぇねぇ~、どぉしてたてなっちゃんが変態さんなの~?」
「ふむ……」
あだ名で呼ぶのヤメてくれませんかね。初見殺しかてホント。
しかし会話の流れからして、さっきの子の姉とみるのが妥当か。というか、さっきの子は誰なんだ。かんちゃん、とか布仏は呼んでたな。これも普通にあだ名だろう……やっぱり初見殺しじゃないか(憤怒)
「……かんちゃん、たてなっちゃん。どちらもあだ名だな?」
「そだよー。簪だからかんちゃん! 楯無だからたてなっちゃん!」
ナルホドナー。最初からそういう風に言ってくれたら俺も助かるわ。さっきの子は簪って名前なんだな。
私が言えた事ではないですが、とても珍しい名前ですね。4組で同じ名前が居る可能性は低いでしょうね。つまりあの子の苗字は更識ですね、間違いない。つまりつまり、あの子が更識簪であり、クラス代表だった訳ですね、ナルホドナー……ンテコッタイ。
みすみす敵情視察のチャンスを逃したって事か……いや、でも今回はこれで十分だろう。そもそも、さっき4組に行ったのは俺の意思じゃないしな。更識簪がどいつか分かれば御の字くらいの気持ちだったし。
それが意図せず顔も分かって、ファーストコンタクトまで取れたんだ、ここは落ち込むより喜ぶべきだろう。
んで、アイツの姉ちゃんの名前が更識楯無、と。
んー……やっぱり『更識』って、どっかで聞いた事ある気がするんだよなぁ。どこでだっけ? 更識更識……うむむ…?
「たてなっちゃんはねー、生徒会長なんだよーぅ」
「……生徒会長」
生徒会長ねぇ……ふーん、生徒会長かぁ……んぁ?
『私ね、実は生徒会長なの!』
『そんなエロいビキニ着た生徒会長が居てたまるか!』
『お茶目にも限度というものがある……なァ、更識よ』
「思い…出した…!」(諸葉)
「ほぇ~? どったの、ちょいす~?」
そうか、俺は一度、生徒会長に会ってるんだ。更識簪に会って感じたデジャブは姉の面影だったのか…!
Foo↑↑
頭のモヤモヤが晴れて気持ちがいい(恍惚)
しかし俺にも心残りはある。
どうあれ、俺が会長の事を悪く言ってしまったのは覆せない事実。たとえ【選択肢】の存在を持ち出したところで、事実は決して無くならないし、言い訳がましいだけだ。
更識も姉を悪く言われて気分を害したに違いない。後で謝りに行かなきゃな。
【一応、布仏に確認してみよう】
【確認しない。俺だけが悪いのだ】
確認、大事!
あと悪いのは俺じゃなくてお前(選択肢)な。
「布仏」
「なぁにぃ?」
「お前が自分の部屋に帰ったとしよう」
「ふんふむ」
「扉を開けたら見知らぬ男が裸エプロン姿で『お帰りなさい。ご飯にします? お風呂にします? それともわ・し?』とか言ってきたらどう思う?」
「変態だよーぅ! 事件は現場で起こってるよーぅ!」
やっぱり変態じゃないか!
熱い布仏のお墨付きだぜ!
という事は、俺は悪口を言ってない事になるな。だって事実だもん。嘘八百やら無駄な誇張をしたならば、それは悪口と表現されるだろうが、簡潔に事実を言ったまでである。故にさっきの俺…ていうか【選択肢】は悪くなかったのか……すまんな、【選択肢】俺の早とちりだったわ。
【俺の方が変態である事をアピールしに戻る】
【お前の姉ちゃん変態だな! 変体じゃなく変態だな!】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
そういう事を簡単にしてくるからお前はバカでアホなんだよバカ! 変態っぷりをアピールしてどうすんの!? 変態度合いに勝ち負けとかないわ! そもそも俺は変態じゃないわ! いたってノーマル嗜好だバカ!
そしてまさかの新事実!? アイツさっき『変態』じゃなくて『変体』って捉えてたの!? え、そうなの!? だから何やら考えてたの!?
だったら改めてこれだと悪口言いに行くって事やんけ! 事実でもやっぱり悪口は悪口だと思うぞ!(前言撤回)
くそっ、公衆の面前で【変態アピール】は流石にキツすぎる…! すまん、更識…! 俺のために傷ついてくれいッ!
「ちょいす~、どこ行くの~?」
「つべこべ言わずに来いホイ!」
4組に戻るんだよぉ!
ガラッと扉を開けて再びこんにちは!
「「「 また来たああああッ!? 」」」
来たくて来たんじゃないわい!
どけオラ! 更識簪に会わせろコラ!
「…………な、に…?」(ま、またすぐ戻って来た!? な、なんなのこの人…!? 本音もセットで来てるし…!)
「お前の姉ちゃん変態だな! 変体じゃなく変態だな! 『たい』は『からだ』の『体』じゃなくて『たいど』の『態』だからな!」(開き直り)
「変……態……?」(お姉ちゃんが変態…? 流石のお姉ちゃんでも変態する事なんて無理……じゃないかも。だってお姉ちゃんは私なんかと違って…容姿端麗、頭脳明晰、ボンキュッボンのパーフェクト超人だもん、ね……)
【変態】:①形や状態を変えること ②変態性欲の略(広辞苑参照)
稀有なる才能の持ち主である事から『日本の夜明け』(ロシア代表)とまで称されている姉を貶す言葉など、これまで生きてきた中で1ミリたりとも聞いた事のない更識簪、①の意味にしか聞き取れず。
「………………」
「………………」
むむむ……何やら目が点になっているでござる。ならもうスタコラサッサだ! 今度こそスタコラサッサだ! 一旦帰ろう! とにかく帰ろう! 1組に帰りたい! だがこれは退却ではない、未来への進軍である!(袁紹)
布仏、オレニツヅケー。
「ほーい」
ホントにすまんな更識!
今度コーラ奢るから許してくれい!
ガラッと扉を開けてさようなら!
【3組に寄ってから1組に戻る】
【このまま4組で授業を受ける】
「はい寄った!」
「「「 ひゃあああああッ!? 」」」
3組:ひゃあああああッ!?
旋焚玖:それしか言えんのかこの猿ゥ!