選択肢に抗えない   作:さいしん

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挨拶、というお話。



第72話 旋焚玖と2組

 

 

 

「ぽへー」

 

「お疲れだな、旋焚玖」

 

 当たり前だよなぁ?

 帰りのホームルームが終わったところで、前の席の箒が振り向いて話し掛けてくる。そりゃあお前、机の上でぐったりパンダってるのも無理ねぇだろ? 今日1日、休み時間になる度に3組か4組に顔出しに行かされりゃあ、こんな感じになるわ。

 

 

『きたよー!』

 

『『『 ひゃあああああッ!? 』』』

 

 

 そして1組に戻る。

 

 

『またきたよー!』

 

『『『 ひゃあああああッ!? 』』』

 

 

 そして1組に戻るの繰り返し。

 それだけで何もせずに帰るんだから、客観的に見ても超無害じゃね? そろそろビックリしなくていいと思うの。まぁ草食動物の群れに百獣の王すぎる男が現れたら、吃驚仰天してしまうのも仕方ないけどな(強者の強がり)

 

「うふふ、お疲れ様ですわ、旋焚玖さん。ですが、結局本命の2組には一度も行かれなかったみたいですわね」

 

「……本命だからな」

 

 1度も【選択肢】が『2組』を出してくれなかったからね、しょうがないね。

 

 放課後になったし、満を持して2組の……誰だっけ? アレだアレ、ギャラクティカ・マグナムみたいな名前の奴だ。対抗戦で一夏を除く唯一の専用機持ちだからな。メインターゲットの視察に行かないとなんだが……チカレタ…。

 

 今日はもう働きたくないでござる。メンタル的に。

 

 

【甘ったれてんじゃないよ! 俺は独りでも行くぞ!】

【1組最強メンバーで臨む】

 

 

 何が【甘ったれるな】だ! それはお前の気持ちだろぉ! 俺は誰よりも自分に厳しいわ! 【下】だ【下】! こうなったらもう、こそこそ敵情視察作戦は中止だ、スパッと切り替えていこう。堂々と宣戦布告しに行ってやろうじゃないか。

 

「箒」

 

「む?」

 

「ギャオスに会いに行く、付いて来てくれ」

 

「う、うむ…?」(ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーの事を言っているのだろうか)

 

 箒がお供に加わった!

 

「セシリア」

 

「なんでしょう?」

 

「ギャバンに会いに行く、付いて来てくれ」

 

「は、はぁ…?」(ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーさんの事を仰っているのでしょうか)

 

 セシリアがお供に加わった!

 

「鈴」

 

「はいはい、皆まで言わなくても分かってるわ。あたしも付いて行くに決まってんでしょ」

 

「ギャング・スターに憧れるようになったのだ!」(ジョルノ)

 

「意味不明なのよ!」

 

「へぷっ!?」

 

 い~いツっこみだ、テンポもいい。

 

 まぁアレだ、ギャで始まる名前がもう思い浮かばなかったからね、しょうがないね。あとギャで始まる言葉ツったらギャランドゥくらいしか思い浮かばなかったからね、女の子に下ネタ言う訳にもいかないからね、しょうがないね。

 

 とにもかくにも鈴がお供に加わった!

 

 見よ! そして慄け!

 これが1組の誇れる最強のトライアングルじゃい!(顔面偏差値70オーバー)

 

 いやでも真面目な話、この3人にタメ張れる奴なんざ、そうは居ないと思うんだ(可愛さ的な意味で) 他のクラスで対抗できるのは更識簪くらいだろう。そういやアイツの変態姉貴もこの3人に匹敵する美人だったな。変態だけど。

 

 何はともあれ、これで……ん?

 

「(´・ω・`)」

 

 一夏が仲間になりたそうにこちらを見ている!

 

 いや内気な少年か!

 

「何しょぼくれた顔してんだよ」

 

「えっ」

 

「お前も一緒に来るんだよ!」

 

「う、うんっ!」

 

 一夏はとても喜んで返事をした!

 

 だから内気な少年かて! 何が「うんっ!」だ! そこはいつもみたいに「おう!」でいいだろ、誰だお前、乙女か!

 

 というか一夏が来ないと始まらねぇよ。クラス対抗戦に関して言えば、俺たちはあくまで黒子で脇役よ。敵情視察な流れはもう終わってんだ。2組へ宣戦布告に行こうぜってなってんのに、主役のお前が来なきゃどうするってんだよ。

 

 

 

 

 違う教室ツっても隣りのクラスだ。

 1組を出てちょちょいと歩いた先は、もう2組の扉の前ってな。

 

「一夏から入れ」

 

「お、俺が先に行くのか?」

 

 当たり前だよなぁ?

 お前が試合う相手に挨拶しに来てんだから、お前が先陣を切らなくてどうする。

 

「分かった……し、失礼しまーす」

 

「「「 きゃああああッ!! 織斑くんよぉぉぉぉッ!! 」」」

 

「俺もいるぞー」

 

「「「 例のアレも来たああああッ!? 」」」

 

 例のアレって言うなよ!

 

 俺の後に箒達も続いて入ってくる。

 さて、お目当ての女はどいつだ…?

 

「な、なんですかアナタ達はいきなり!」(み、皆さんが怯えてます…! 原因はきっとこの人ですよね、凶人って噂の……で、ですが、ここはクラス代表の私が皆さんを守らなきゃ…!)

 

 む…?

 褐色乳でか美女が俺たちの前に立ちはだかった! というか俺の前に立ちはだかった! 

 誰だか知らんが、久々に肝のある奴に会えた気分だ。少なくとも3組と4組には、正面切って俺と対峙しようって奴は居なかったからな。

 

「ヴぃ、ヴィシュヌちゃん! 危ないよ!」

 

「心配してくれてありがとうございます。ですけど、私なら大丈夫ですから」

 

 ふむ……褐色美女はクラスメイトとも良い感じに打ち解けられているらしい。見たところ留学生っぽいが、上手く馴染めているのは良い事である! あと、俺は危なくないのである!

 

 しかし、どうしようか。

 勢いに任せるつもりが、まさか名も知らぬ美少女に出鼻を挫かれるとは思ってなかったわい。めっちゃ睨んできてるし。 

 

「あなたがヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーさんですわね?」

 

 俺を庇うように前に出たのはセシリアである。やだ、かっこいい…。

 

「え、ええ、そうですけど…」

 

 おお、コイツが2組の代表者か!

 なるほど、名実共に只者じゃねぇって事か。

 

 しかしアレだな、代表候補生ってのは美人でないとダメなルールでもあるんじゃないか? セシリアも鈴も更識も、んでコイツも相当な美人ときてるし。代表候補生の顔採用、あると思います。

 

「申し遅れましたわね。わたくしは1組のセシリア・オルコットです。そしてこちらが篠ノ之箒さん、凰鈴音さんですわ。殿方のご紹介は……ふふっ、今更不要ですわね」

 

 ま、俺も一夏も女子校に紛れた特異点みたいなモンだからな。流石に知らねぇって事はないだろう。それでも自己紹介くらいは礼儀として必要か。

 

 

【今日からお前たちの担任になった主車だ】

【何出しゃばってんだセシリアクルァァァァァッ!!】

 

 

 何でセシリアにキレてんの!? 

 むしろ感謝の言葉しかねぇよ! 無意にセシリアを傷つけるなんて事は許しませんよ! 

 

 ここは【上】だな。イミフすぎるが一旦【上】でいこう。高校生にもなって、こんな言葉をホイホイ信じる奴なんて居ねぇだろ。

 

「今日からお前たちの担任になった主車だ」

 

「……は?」

 

 ギャラクシーが呆れた声を出した!

 

「す、すげぇぜ旋焚玖! いつの間に教師になったんだ!?」

 

 一夏がしゅごいと言った!

 一夏はまぁ……うん。

 

(そんな訳ないだろう)

(んな訳ないでしょ)

(むしろ一夏さんの純粋っぷりにわたくしはビックリですわ)

 

「はぁ……いきなり乱入してきて何を言ってるんですか。アナタは私達と同じ高校生ではありませんか」

 

 そらそうよ。

 ギャラクシーの反応が普通だよ。

 

「それでも旋焚玖なら…! 旋焚玖なら…!」

 

 お、仙道か?

 まだ慌てる時間じゃないってか。

 

「はいはい、一夏はいったん黙ってようね」

 

 鈴が一夏の腕を引っ張って後ろに下がらせる。流石は一夏の取説を持つ鈴だな。中学の頃を思い出すぜ。

 

「だいたい高校生のアナタが私達に何を教えると言うのです?」

 

 

【数学だ】

【保健体育だ】

 

 

 俺、文系なんだけど。

 

「数学だ」

 

「ヒューッ! 旋焚玖、ひ「ハイハイ、ここは違うクラスだからねー」もがもが」

 

 ほう……鈴の奴め、中国に帰っていた間に、一夏のヒューキャンセルを身に付けおったか。

 

 

【数学だ】

【家庭科だ】

 

 

「数学だ」

 

 

【数学だ】

【音楽だ】

 

 

「数学だッ!!」

 

「ぴゃっ!?」

 

「さ、3回も言わなくていいです! どうしてそんなに数学を押すんですか!」(一緒に来ているオルコットさんがビックリしてるじゃないですか! でも驚き方が可愛いと思いました!)

 

 副教科を押されたからだよ!

 あと驚かしてすまんな、セシリア!

 

 さて、選択肢も満足したみたいだし、ここからはソレっぽい話へ軌道修正していく作業の始まりだ。

 

「……まぁ担任云々の話は冗談だが、俺たちの目的はクラス対抗戦に先駆けての挨拶…ってところだ」

 

「挨拶…ですか?」

 

 まぁ狙いは当然それだけじゃない。これだけの面子を前にギャラクシーがビビッてくれたら儲けモンって考えもあったが、どうやら思った以上に肝が据わってるみたいだし、そっちは期待薄だろう。

 

「今回のクラス対抗戦はどういう目的で行われるね?」

 

「……本格的なIS学習が始まる前の、スタート時点での実力指標を作るため、と聞いてますけど」

 

 それは結果で過程じゃない。

 千冬さんや山田先生は、そこにいくまでの過程こそ重要視していた風だった。クラス単位での交流およびクラスの団結のためのイベントである、と千冬さんも言ってたからな。

 

「ISはスポーツなんだろう? なら、試合う前に出場者同士で軽い交流の場があってもいいんじゃないか? まぁ2組の代表者が、ドロドロに血生臭い対抗戦がしたいって言うんなら俺たちも帰るけど」

 

「なっ…! そんなこと一言も言ってません!」

 

「ああ、そうだな。なら次はお前が自己紹介して、最後に一夏がする、と。これでどうだ?」

 

「分かりました。私も交流は大切だと思いますし」

 

 ほい、誘導完了(どやぁ)

 対人間なら俺は無敵さ。

 

「えっと……ンンッ、はじめまして。私はタイ代表候補生のヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーです。こちらには文化交流、そして学力向上のために入学となりました。違うクラスではありますが、皆さんよろしくおねがいしますね」

 

 

【彼女とか、いらっしゃらないんですか?】

【今なんかやってんの? すごいガッチリしてるよね】

 

 

 え、そんなん関係ないでしょ(真顔)

 というか、彼女てお前……まぁ俺も百合は嫌いじゃないし好きだけど(性的嗜好告白)

 

「今なんかやってんの? すごいガッチリしてるよね」

 

 聞く人が聞けばセクハラとも思われてしまう際どい質問である。だが、俺に勝算あり…! 引かれる前に畳みかけるのだ!

 

「お前からは常人には纏えない氣を感じる」

 

(え、そうなのか?)

(え、そうなの?)

(え、そうなのですか?)

(フッ……私が気付いて旋焚玖が気付かぬ筈ない、か)

 

 うひひ、ソレっぽい言葉を並べるなら任せろー。

 まぁ、これもあながち嘘って訳ではない。コイツから変態会長と似た気配が放たれているのは、俺の前に立った時点で気付いていた。

 

 つまり、ギャラクシーは変態か武道家かの2択、もしくは両方…! まぁ美人な変態は会長だけで間に合ってるから、普通に後者であってほしいが。

 

「……なるほど、噂の凶人というのは少し語弊があるみたいですね」

 

「狂獣春成と凶人書文かッッッ」

 

「は…?」

 

「気にするな」

 

 ここには山田先生が居ないからね、しょうがないね。後で言ってみよ。多分、あの人なら分かってくれるだろうし。

 

 というか凶人ってなに?

 俺、そんな風に噂されてんの? まぁキモいと思われてないだけマシだから良いけど(ポジティブ)

 

「さっきの言葉はよく分かりませんが、私の母はムエタイのチャンプでした。その母から私も格闘技を習っているので、そのおかげでしょうか」

 

「そうか」

 

 これは良い事を聞けたんじゃないか。

 まだギャラクシーのメインとなる戦術は分からんが、少なくともムエタイやってて近接戦が苦手って事はないだろう。一夏は武器的に近接戦しかないし、これは鈴とセシリアにしっかり鍛えてもらう必要があるな。

 

 よし、それじゃあ最後は一夏が軽く自己紹介して、俺たちもお暇しよう。目線を一夏にやると、軽く頷いた一夏が前に出てきて―――。

 

「俺は織斑のわぁっ!?」

 

 躓いてロケットダイブ!

 

「いけない!」

 

 咄嗟にギャラクシーが一夏を受け止めに落下地点へ。このままいけば、一夏の向かう場所はギャラクシーの乳である。楽園(エデン)である。

 

 

【俺の方が早くエデンにダイブるぞ!】

【俺の方がエデンである!】

 

 

 分かりにくい言い方するなよぉ! でも何となく伝わってくるのが腹立たしい。【上】が完全なるギャラクシーへのセクハラで、【下】は俺がエデンになるんだろ(思考放棄)

 

 時が動き出したのと同時に一陣の風を巻き起こす。厚意を以てして行動を移したギャラクシーを退かせるのは忍びない。

 彼女の前に立ち受け止めてやるよコラァッ!!

 

「旋焚玖!?」

 

「来いこのヤロウ!」

 

「ふぎゅっ!?」

 

 コイツいつも俺に受け止められてんな。

 というか俺が受け止めてなかったら、ラッキースケベだったんだじゃねぇか! エッチなのはいけないと思うぞ、反省しろこのヤロウ!

 

「さ、サンキュー、旋焚いだだだだッ!?」

 

「危ねぇだろこのバカ! 反省しろこのバカ!」

 

「わ、分かった! 分かったから! もうちょっと優しくしてくれ!」

 

 うるせぇこのヤロウ! 

 俺のベアハッグを喰らえい!

 

 この痛みを身体に刻み込んで、もうラッキースケベは起こさないようにしな!……ハッ…何やら変な視線を2組のモブ共から感じる…!?

 

「……主車くんと織斑君が抱き合っている…!?」

 

「いいえ、主車くんが抱き着いて離さないのよ…!」

 

「これは好感度を上げざるをえない……」

 

 

旋焚玖は2組での警戒度が超下がった!

 

 





これ以降、2組ではそんなに怖がられなくなりました。

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