調査開始、というお話。
プチ作戦会議も終わり、セシリア達専用機持ち組はアリーナへ。俺と箒はギャラクシーの試合映像を入手するため、パソコンのある部屋へ。というか、俺の部屋か箒の部屋かの2択になのだが、俺は学園寮に入れないので必然的に俺の城シュプールで観る事に。
それは全然良いんだけど、ふと気づいた事がある。
女子1人だけを俺の部屋に招き入れるのって、実はこれが初めてじゃないか…? いや、確かにそうだわ。小学生まで遡っても、箒は一夏とセットで俺の家に遊びに来てたし、鈴にしても一夏と弾と蘭のバリューセットだったし。
おぉ……そう思うと感慨深い。
俺も女を連れ込む身分になったんだなぁ。
とか思ってたらシュプールに着いた。
学園からは意外と距離があったりするのだが、高校生らしく箒とまるで生産性のない話で盛り上がってたら、あっという間に着いたのである。
【箒も居るし、いい感じに入る】
【箒も居るし、悪い感じに入る】
まるで意味が分からない。
玄関の入り方に良いも悪いもないと思うんですけど。
まぁでも、悪い感じに入って箒に嫌な印象受けられたくないし、ここは【上】を選ぶが無難っしょ。バッチグーっしょ。
扉をガチャリ。
この時既に、俺の身体は俺の身体では非ず。
「俺の城よ、旋焚玖は今まさに帰ってきたぞ! そぉら、見るが良い! 玄関を悠々と跨ぎ、灯の暖かくも柔らかい光に照らされた扉をやんわりと開け、大胆不敵かつ泰然自若に靴を脱ぎ、玄関から木畳に、さながら魚類が陸上に進化して歩んだが如き奇跡的道筋で足をつけようとしている……――」
うわぁ……。
「ではないかァーーーッ!!」
うわぁ……あ、身体の呪縛が解けた。隣りでギョッとしている箒に視線を向ける。うわ、すっごい目を泳がせてる、はっきり分かんだね。あ、目が合った。
「うっ……」(そ、ソレを聞かされて私はどうしろと言うのだ!? 何やら文学的な内容だったような気もするようなしないような…! わ、分からんっ、私に気の利いた感想など言える筈もない…! 鈴みたいな切れ味鋭いツっこみも出来やしない…! な、なら…!)
「……うむ!」(困った時はこれだ! 私のキャラ的に!)
箒は力強く頷いた!
なるほど、とりあえず「うむ」っておこうな精神だな。気持ちはよく分かるぜ。俺の「気にするな」の箒バージョンが誕生した歴史的瞬間に立ち会えた事を光栄に思ふ。
いや、すまんね、変なモンに付き合わせて。
遠慮なく上がってくれい。
「お、お邪魔します」
【邪魔すんねやったら帰って~】
【喉渇いた、喉渇かない?】
どうしてすんなり入らせてくれないのか。
というか、箒に【上】はイカンでしょ。多分、振りとかボケとか分かってないと思うぞ。新喜劇観てたらワンチャンあるけど。いや、でもなぁ……箒が昼時にせんべいパリパリしながら観てるって…? まるで想像できんわ。
そんなオイラに新事実。
かねてから隠しておいた事実をここで明かそう。前世の俺はなんと! 関西出身なのである! でも現世では違うから基本的に標準語なのである! 俺がガチキレしたら関西弁が火を噴くぜ(前田太尊)
「喉渇いた、喉渇かない?」
「む……いきなりだな。だが、良ければ頂こう」(緊張して喉が渇いているのも事実。唐突でも旋焚玖が気を利かせてくれたのは素直に嬉しい)
【昨日の飲みかけのコーラを出す】
【睡眠薬入りのアイスティーを出す】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
俺にナニをさせる気だコラァッ!!
サーッ!と睡眠薬入れろってか! 迫真の入れ方を披露しろってか! アホか! いや、箒を呼んで本人の目の前で入れて見せたら、意外と防げる可能性…?
『お前それは何だ?』
『睡眠薬』
『どうしてそんなモノを入れる必要なんかあるんですか?』
『眠らせた箒にアッーな事がしたいからだと思うんですけど』(名自白)
『あ、そっかぁ』
そこで「あ、そっかぁ」とはならんだろ。
引かれるどころか嫌われる可能性大じゃねぇか。かと言ってなぁ……【上】もキツさでいくと、【下】とタメ張ってんだよなぁ。
まぁでも【下】は普通に犯罪予備軍だし、【上】しかないか。出す前に箒に確認して、断れて、微妙に気まずくなる未来かもーん(投げやり)
「箒」
「む?」
「俺の飲みさしのコーラでもいいか?」
「な、なんだと!?」(初めての2人きりッ…! 何も起きない筈がなくッ…! 私の気持ちが本物かどうか、試す旋焚玖がそこに居た…! いいだろう、私は逃げんッ! ここで逃げたら鈴に笑われてしまうからな! というか間接キッスのチャンスをみすみす逃す乙女が居る訳ないだろ!)
顔を真っ赤にしていらっしゃられる。
これは怒ってますね、間違いない。右手に持つお馴染みの木刀もプルプルしていらっしゃる。これは撲殺されますね、間違いない。
殺られる前に、いつものお茶目なノリで誤魔化そう。
「なぁーんちゃ「いいだろう、受けて立つッ!」……へぁ?」
受けて立たれちゃった。
言葉の返し方、おかしくない?
何でそんな「果たし状を貰った」みたいな感じになってんの? え、俺のコーラってそんな世紀末なの?
いや、待てよ…?
少し視方を変えてみよう。
「あーっと……他にアイスティーとかもあるけど」
「私はコーラが飲みたい気分なんだ」
「昨日開けたから割と気が抜けてるぞ?」
「私は気の抜けたコーラが飲みたい気分なんだ」
なるほど。
コイツ、さては無類のコーラ好きだな?
俺もソーナノ。
という訳で、冷蔵庫から持ってきたコーラを渡す。
「……い、いただきマウス」
「は?」
え、なにその激寒ギャグは(唖然)
「何でもない!」(し、しまったぁぁぁッ! 緊張しすぎて噛んでしまった…! えぇいっ、気にするな、私! 失敗を引き摺ってはいけない! それよりも今はコーラだ! の、飲むぞ…! 飲んじゃうからな…!)
しかし、箒程の質実剛健者にギャグを口滑らせてしまうコーラの魅力……実に驚異的だな。俺も飲みたくなってきたわ。
「んくっ、んくっ……」(ふおぉぉ……これは……いいものだ…)
わざわざペットボトルを両手で持って飲む姿が可愛いと思いました。これがギャップ萌えってヤツか、ナルホドナー。
【間接キッスだな】
【俺の唾液入りコーラは美味いか?】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
せっかく意識しないようにしてたのにぃぃぃぃッ!! 言うなよバカ! このバカ! 胸がドキドキして挙動がおかしくなるだろバカ!
そして言わせようとするなよバカ!
というか何だコラァッ!!
【下】コラァッ!!
キモすぎるんだよこのヤロウ! 生々しいにも程があるんだよバカ! 俺がイケメンだったとしても許されないキモさだぞコラァッ!!
「……間接キッスだな」(せめて精一杯のキメ顔で)
自分から言っていくのか(白目)
「ぶふぅぅぅぅぅ――ッ!!」
「!……遅いッ…!」(超反応)
あ、つい避けちゃった。
箒からのレインボーシャワーを避けてしまったでござる。液体でも反射的に避けてしまえる身体能力に、今だけは神罰を。
「ゲホッ、ゴホッ…! にゃ、にゃにをいきにゃり!」(ぬわぁぁぁ、は、鼻にコーラが…! 邪な考えで飲もうとした私への罰なのか…!)
「気にするな。あと、ほれ、ティッシュ」
美人が鼻垂らしている姿を見るのは偲びない。あいにく、それを見て興奮する性的嗜好も持ち合わせていない。
顔を背けつつ、俺はティッシュを渡した。
「う、うむ………チーンッ…!」(ううっ……みっともないところを見せてしまった。は、恥ずかしくて死にそうだ……)
そして、だらだらと「間接キッス」ネタを引き摺るのは、愚の骨頂だという事を俺はよく知っている。こういう時は何事も無かったように進めるのが一番だ(旋焚玖処世術)
「さて、ギャラクシーの映像を探そうか」
「う、うむ!」(切り替えていこう! まだまだ私達はこれからなのだからな!)
この前みたいに『あなたちゅ~ぶ』で検索したら出るかな?
◇
「……出ないな」
「む……」
なんでぇ?
お国柄ってヤツなのか?
「まぁIS競技を仮想敵国との戦いと捉えている国も多いと聞くからな」
ふんふむ。
戦う前から手の内は見せたがらないという訳か。そう考えたら、イギリスみたいにバンバン動画を上げている方が、もしかしたら少数なのかもしれない。流石は紳士淑女の国だぜセシリア可愛い。
しかしこれは困った。
映像でギャラクシーの戦術を丸裸にするつもりが、いきなり行き詰っちまった。
【貞子vs伽椰子を観よう!】
【ブックマークを見せよう!】
ああ、この前ポコポコ動画でやってたな。【たけし】と一緒に観たけど面白かったぜ! しかも男女二人が映画鑑賞とか、室内デートっぽくて全然アリですねぇ!
いや、でもなぁ……。
俺たちは今、ギャラクシーの調査をする為に行動してるんだし、のんびり映画なんか観てたら、それこそせっかく指導役を買って出てくれたセシリアに申し訳が立たねぇよ。
「防御の時は右半身を斜め上前方へ5度傾けて、回避の時は後方へ20度反転ですわ!」
「(´・ω・`)」
10分、15分くらいならまだしも、映画となればがっつり90分くらいは動けなくなるだろう。流石にダメだろ。転校してきたばかりなのに、指導役を快く引き受けてくれた鈴にも申し訳が立たねぇよ。
「何となく分かるでしょ? 感覚よ感覚。身体の動きたい方へ動くの。身体の言葉に耳を傾けたら余裕よ!」
「(´・ω・`)」
今頃一夏も頑張ってるだろうし、ここで【上】を選ぶは信義に悖る行為と言えよう。というかバレた時に、セシリア達に「ムムッ!」とされて嫌われたくないでござる。
という事で【下】しか残ってない訳だが……俺のお気に入りフォルダ覧ってさ、一番上にエロアニメタレストで2番目にエロゲー批評空間がきてんだけど。絶対に見せたくないんだけど。
フッ……だが、我に勝算あり…!
見とけコラ、アホ選択肢コラ。いつまでも俺が選択肢に嘆くだけの男だと思うなよ…!
「箒」
「む…?」
「デスクトップから目を放すなよ」
「は…? あ、ああ……」
カチカチカチカチッ!!(0.00072秒)
「な……!?」(早すぎて画面に閃光が走った、だと…!?)
「フッ……」
恐ろしく速いクリック。
千冬さんでなきゃ見逃しちゃうね。
「さて、映像が見つからない以上、あとはギャラクシー本人に突訪問するしかないな」
「う、うむ。そうだな」(……さっきのアレは何だったんだろう。もしかして、クリックの速さを私に自慢したかったのか? ふふ、可愛い奴め)
よし…!
しかし相手が箒で良かった…!
俺の運はまだ死んじゃいなかった…!
これが仮に鈴だったら「なによさっきの! 気になるからちゃんと見せなさいよ!」とかなっていた可能性大だからな。そうなったらお前「エッチ! 変態! 嫌い!」とか鈴から罵られるところだったぜ。
「しかしそうなると、ギャラクシーを探す事から始めねばならんな」
そういう事になる。
ギャラクシーが既に寮に帰ってたらアウトだが、どうだろうか。部活とかには入ってないのかな。
「とりあえず、学園に一度戻ろう」
「ああ、そうだな」
職員室に行って、千冬さんにでも聞いてみるか。
74話の要約。
ヴィシュヌの映像は無いから本人を探そう。以上!