お茶にごす、というお話。
やってきました、茶道部!
別に喧嘩売りに来た訳でも、偵察しに来た訳でもなし。
元気良くいこう!
とはいえ、俺が先頭を切ると「ひゃぁぁぁ」祭りになるからな。
「箒、ギャラクシー。先に入ってくれ」
「うむ」
「……? 分かりました」
という訳で、イクンダー。
箒が部室の扉を控えめにノックして開ける。
「えっと……失礼します」
「失礼します」
箒とギャラクシーが入っていく。
「あら、入部希望者かしら!?」
「しかも2人もですよ、副部長! もちろん、体験でも大歓迎するよ!」
おぉ、歓迎ムード全開である!
俺もツヅクゾー。
元気よくいこう!
「こんにちは!」
「「「 ひゃあああああッ!? 」」」
うん、まぁ…先頭を譲っても結局ヒャられるんだけどね。もう割と出オチ感覚になってるから、そんなに俺も気にしないけどね。
ハッ……まさか俺が2~4組に行かされ続けていたのは、ヒャられ耐性を付けるためだった…? 選択肢はそこまで見通して……ってないない。アホの選択肢がそんな有能な訳ねぇよHAHAHA!
「え、えっと……ちょ、ちょっと待ってね!」(緊急作戦会議! 隅っこに集まりなさい!)
(はい!)
(は、はい!)
何か茶道部っぽい3人が、隅っこに固まってお話を始めた。というか千冬さんはまだ来てないんだな。うむむ……行く前にメールでもしてりゃ良かったかな。
(ちょっとちょっとちょっと! あれってアレなの!?)
(アレです! 間違いないであります!)
(ニュースで観た顔と一致するし間違いないかと…)
(あれが最狂、最悪、最強の男。主車旋焚玖…!)
(ふ、副部長! 私、怖いであります!)
(ふぇぇ……副部長ぉ~…!)
(くっ…! 部長も織斑先生も居ない今、私がアナタ達を守るわ!)
(キュン♥)
(キュンキュン♥)
長いなぁ……何の会議してんだろ。
無駄に恐れられる事に定評のある俺はもう慣れたけど、今回は箒とギャラクシーも居る訳だし。流石にこの2人まで巻き込むのは俺も忍びない。軽く声を掛けてみようか。
【3人はどういう集まりなんだっけ?】
【何やってんだよお前ら、俺も仲間に入れてくれよ~】
【下】はなんかねっとりしてるから嫌だ。
というか、俺が話に入っても付いていける訳ないだろ。
「3人はどういう集まりなんだっけ?」
「ひぇっ……さ、茶道部よ」
当たり前だよなぁ?
何で当たり前な事をわざわざ聞かせるのか。
まぁでも、これで展開は進んだな。
「え、えっと……私は慎大寺。茶道部の副部長よ。あなた達は体験に来たのかしら?」
「はい」
「そう……なら、まずは茶道の挨拶からしてもらう事になるわ」
む……挨拶とな?
まったり茶を飲む会と思いきや、けっこう本格的なモンの気配がするぞ。
「飯倉さん、『真』の見本をお願い」
「はい!」(な、なるほど…! 副部長の狙いが分かりました!)
飯倉さんと呼ばれた人が、副部長さんの前で跪き、両手を畳につけて深々と頭を下げた。
うむ……これは何と言うか、アレに似てるな。いや、とても礼儀正しいお辞儀だな。
「な、なんと…! これがジャパニーズDOGEZAデスカ!?」
言っちゃった。
心の中でも俺は自重してたのに、ギャラクシーが言っちゃった。
あと、さっきまで割とペラペラ日本語しゃべってたのに、急にエセ外国人っぽくなるのヤメてくれませんかね、笑っちゃうから。
「茶道には3つの礼の仕方があるの。『真』『行』『草』。飯倉さんがしたのは一番丁寧な挨拶なの」
ほぇ~、雑学には自信のある旋焚玖さんも初めて知ったぜ。これは勉強になるな!
「茶道とは、礼に始まり礼に終わるもの。ウチの部では必ず『真』をしてもらうの。さぁ、主車君からやってみせて」
(うふふふ! ふふふのふ! 大層な言い方してるけど、こんなモンただの土下座よ土下座! 留学生っぽい褐色美女ちゃん、君の言う通りよ! さぁどう!? 男が女に土下座なんてカッコ悪くて出来ないでしょ!?)
(さ、流石は副部長! 男子ならプライドが邪魔して嫌がる事間違いなし!)
(そして此処から立ち去るんですね、分かります!)
「アッハイ」
「「「 !!? 」」」
すっと跪き、すっと両手をつき、お、手のひらに伝わる畳の感触がいいね! フカブカーっと頭を副部長さんに下げる。
(((躊躇いなく土下座ったー!?)))
「しゅごいです主車さん! お見事なジャパニーズDOGEZAデス!!」
「フッ……旋焚玖は武道やってるからな」
お、そうだな。
まぁこう見えても俺、けっこう土下座してるしな。ところどころで頭下げてるし。今更何を躊躇う事があろうか、いやない(王者の気風)
「……見事な『真』と言わざるを得ないわ」(悔しいけど、型がピシッと決まってるわ…! 流石に難癖を付けてまで追い返すのは人として違うと思うし……むむぅ…どうしたものかしら)
やったぜ。
やはり誰かに勘違い無しで褒められるのは気持ちがいい(恍惚)
「あなた達も、その、『真』やってみる?」(この男だけにさせて他の2人にさせないのはあまりに露骨…! あまりに不自然…! 申し訳ないけど、やってもらわなくちゃ)
「はい」(旋焚玖がして私がしない訳にはいくまい。それにこれはお辞儀なのだ。なら武を嗜む私にとっても有意義なモノに違いない)
これまた見事な土下…お辞儀を箒が披露する。
「箒さんも美しいDOGEZA…!」
茶道部がツっこまないなら俺も絶対に訂正しないもんね。というか、心なしかギャラクシーの目がキラキラしているような。
ああ、そうか。
これもギャラクシーにとっちゃ異文化交流の枠に入ってんのか。
「箒も武道やってるからな」
「なるほど!」
力強い頷きである。
ウキウキしているのが伝わってくるのである。
「ふふ、次はヴィシュヌの番だぞ」
というか、お前らいつの間に名前で呼び合うようになったんだ。鈴といい、意外と箒と波長が合う女子って多いんだな。いいじゃないか、そのまま友達100人作っちまいな!
「副部長さん」
「な、なにかしら?」
「ギャラクシーは留学生なので、出来ればやり方を教えてあげてほしいです」
「そうね、分かったわ」(むむむ……悪の形容すべて当たる男だってwikikipediaに書いてあったけど、意外と優しかったりするのかしら…? いえ、騙されてはダメよ私! ニュースも観たじゃない! 暴れん坊将軍より暴れていたあの映像を! とは言え、この2人に罪はないわ。ちゃんとこの子にも教えてあげないと)
「えっと、じゃあ……あ、ヴィシュヌさんって呼ばせてもらうわね。まずは腰を下ろしてから―――」
「ふんふむ、ふんふむ…!」
『真』の挨拶を手取り足取り教えてもらうギャラクシー。その表情はかなり真剣である。これでギャラクシーの内面調査に、真面目さも加わった訳だな。
「両手を膝の前に下ろして、手のひらを全部畳に付けるの」
「なるほど…! こうですね! そして、こうですね!」
ガババッと頭を下げるギャラクシーさん。
い、勢いのあるお辞儀だぁ。
お辞儀って、もっとこう、厳粛なイメージがあったが。ギャラクシーのやったお辞儀からは、何やらスポーティーな熱さを感じるぜ。
「ええ、素晴らしいわよヴィシュヌさん」
「えへへ、やりました!」
可愛い。
「うむ。見事なお辞儀っぷりだったぞ、ヴィシュヌ」
「オジギ? DOGEZAとは違うのですか?」
形は似ていても意味合いは違ってくるだろう。土下座にはひれ伏すって意味もあるからな。確かお辞儀にはなかった気がする。
「むむぅ……日本の文化は難しいのですね」
「ふふ、そうかもしれんな」
よし、挨拶も合格?したっぽいし、ンまいお茶を淹れてくれい!
「先に注意しておくわね。私達が此処で行っている活動は、お気楽にお茶を飲んでキャッキャする女子会ではないの」(ホントはお気楽にお茶を飲んで、お菓子も食べてキャッキャしてるだけなんだけど。たまに顔を出してくれる織斑先生も「ンまい」とか言ってくれてるし)
何やら真剣な表情である。
まぁ同好会ではなく部として活動してるもんな。やるなら真面目にやってくれって事か?
「IS学園は知っての通り、ほぼ女子校よ。茶道部だって当然部員は女子ばかり。そこに軽い気持ちで男子に入られると、やっぱり困るのよ」(可愛い部員たちがこの野獣に喰われちゃうかもしれないし…! そんな事はさせないわ! 茶道部は私が守るッ!)
「む……」
なるほど、一理ある。
むしろ言って然るべきだ。
1組にはだいぶ馴染めたものの、本質的にIS学園での俺の評価なんざ、まだまだうんちに決まっている。そんなうんちがいきなり来て、警戒されない訳がないか。
副部長たちの警戒を解くには…?
【俺のアバ茶を淹れてやる】
【俺の凄さを魅せつける】
アバ茶てお前それしょんべんじゃねぇか!
最近ちょっと下ネタ多いんだよこのヤロウ! あれかそういう年頃か!? 副部長さんに「いただきます」言わせて「ヌルイから飲むのはイヤか?」って畳み掛けたい年頃か!
くそっ、またまた魅せてやる! 最近恒例になりつつある俺の凄さを魅せつけてやるぜ! お茶的に!
「緑茶」
「……へ?」
「白茶、黄茶、青茶、紅茶、黒茶。国によって茶は違う。ちなみに中国茶ではこの6種類で区別されている」
「へ、へぇ……」(な……まるで歌を詠むようにスラスラと…! まさかこの子はお茶博士だったりするの!?)
「中国から日本に茶が伝わったのは最澄がきっかけだと一般的には言われている。唐からの帰国時に茶の種子を持ち帰って来たとからしい」
「……そうなんだ」
どうだ、お茶的な知識が凄いだろ?(どやぁ)
挨拶の雑学じゃあ後れを取っちまったが、お茶なら俺も戦えるぜ!
ふふふ、ンまい玉露でも淹れてみせようか? 番茶も煎茶もほうじ茶も発酵はしてないけど、どれもウマい(克己)
「確かに俺は茶道は初心者だ。だが、お茶は好きなんだ。それでも体験すらさせてもらえないのですか?」
どうだオラァッ!!
俺の口先は変幻自在!
いい感じの流れを作るのは得意なんだよ!
「……負けたわ。茶道部の体験、楽しんでいってちょうだい」(wikikipediaに載ってあったような、ただの凶人じゃないのね。怖くて知識も豊富。さらに話術も巧みときている……わ、分かったわ、この子はインテリヤクザなのよ! 無理無理、私じゃ無理。もう普通に体験してもらおう。いよいよヤバくなったら織斑先生呼べばいいしね)
やったぜ。
これでちゃんと体験させてもらえるぜ。既にもう俺は疲れてるけど、それもいつも通りなんだぜ。慣れちまった自分が切ないぜ。
「フッ……またもや道を切り開いてみせたか。流石だ」(塩対応にも臨機応変に言いくるめてしまう柔軟性…! 篠ノ之の苗字を持つ私も、旋焚玖のこういうところは学ばねばならんな)
よく分からんけど、褒めてくれてるのかな。サスガダァ…とか言ってるし。
「………………」(入学前にタイでも放送された主車さんのニュース、加えて学園内に流れる彼の黒い噂。そして箒さんの先ほどの言葉……なるほど、何となく理解できた。彼はどこでもこういう対応をされているのね……)
む……ギャラクシーがこっちを見ている!
見ているというか視ているな貴様!
なんでぇ?
「………………」(実際、私も彼と交流を持つまでは警戒していた。怖い噂ばかりだし。でもそれは、浅はかだったのかもしれないわ。誰かの評価で語るより、自分の眼で見て決めろってママーも言ってたっけ……よし!)
おや、何やらギャラクシーの瞳に決意が宿ったように見えまする。というか、あまり見つめないでいただきたいでござる。正直、そんなに親しくない美女から見つめられても、挙動不審にならないように心掛けるので精いっぱいでござる。
「主車さん!」
【気やすく呼ぶな】
【名前で呼んでくれるまでぷいってしてつーんってする】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
「……………ぷいっ」
「……おい、どうした旋焚玖、急にヴィシュヌから顔を背けて」
「え、主車さん?」
フッ…。
「……………つーん」
我ながらキモいぜ。
絶妙にキモいぜ。
何より、アホの選択肢ワールドを目の当たりにした、茶道部さん達の何とも言えないポカンとした視線が痛いんだぜ。結構痛いんだぜ。
頼むから何とか察してくれ!
「いや、つーんてお前……」(いったい何に対して拗ねているのか。しかし、つーんってしている旋焚玖……ありだな!)
箒的にはありだった!(朗報)
「えっと……ど、どうしましょう?」(私、何か気に障るようなこと言ったかしら…?)
「むむぅ……せめて何に対して拗ねているのか分かれば、やり様もあるのだが……これは正直困ったな。一夏を呼んだ方がいいか…?」(しかし、今の一夏は来たる対抗戦に向けて練習を行っている真っ最中だ。わざわざ呼ぶのは気が引けるし……むぅ…)
そ、そうだ!
一夏を呼んでくれ!
アイツならきっと解ってくれる筈だ!
「その必要はない」
「「「「 !!? 」」」」
聞き慣れた凛とした声。
背中からでも伝わってくる強者の気配。
振り向いた先に立っていたのは……――。
「待たせたな」
和菓子セットを抱えた千冬さんだった!
ヒューッ!