「待たせたな」
ち、千冬さんだぁ!
世界で最も頼りになるのは誰か?
そう問われたら、真っ先に俺の頭に思い浮かぶであろう最強の助っ人。最強のガーディアンフォースのご到来である!
勝ったな、もう何も怖くない!
「慎大寺」
「は、はい!」
「今日のお菓子はコレでいこう」
クールな眼差しで和菓子セットな箱を副部長さんに手渡す千冬さん。顧問がお菓子を持参するのか(困惑)
いや、別に俺は今更驚く事でもないか。
クールなビューティーで名を馳せる千冬さんだが、ぶっちゃけ内面は割とお茶目なお姉さんだからな。よく分からんギャグとか言うし。一夏のオヤジギャグ好きも、きっと千冬さんに影響されたんだろうよ。
そして、茶道部さん達がお茶を用意し始める。
やっぱり女子会じゃないか! お茶とお菓子を楽しむ気満々じゃないか!
いや、今はそんな事はどうでもいい。
へるーぷ。
へるーぷですよ千冬さん。
俺の呪縛を解いてくれ!
「で、いったい何に困っている、篠ノ之と……ふむ、お前は2組のヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーだな?」
「は、はい!」(ただ前に立たれただけなのに、凄いプレッシャーを感じる…! これが世界最強の称号を持つブリュンヒルデのオーラなのね…!)
「あのですね、ヴィシュヌが旋焚玖に声を掛けたら、急に顔を背けるようになりまして」(千冬さんが茶道部の顧問だったのか。私は今知ったが、旋焚玖は知ってて茶道部を推したのかな)
「ふむ……ギャラクシー、もう一度主車に声を掛けてみてくれ」
「分かりました。えっと……主車さ~ん?」
「……ぷいっ」
反射的に俺の顔は、誰も居ない所へぷいっと。
しかし、そこには既に千冬さんが立っていた。ヒェッ……。
恐ろしく速い回り込み。
俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「……ふむ」(ぷいっとする旋焚玖の可愛さは既に5大陸に響き渡っている。今更私が加えて言及する必要はないな。そして、旋焚玖の瞳から察するに……)
至上のアイコンタクトが交わされる。
この瞬間がたまんねぇんだ!(蒼天)
「なるほど。どうやら主車はギャラクシーに名前で呼んでほしいらしい」
やったぜ。
流石は千冬さんだぜ。
「え、そうなのですか?」
そうだよ。
「そうか、私もようやく分かった。私とヴィシュヌが名前で呼び合い始めたのに、自分だけは苗字呼びが続いて疎外感を感じていたんだろう。だが、それを直接言葉にして言うのは恥ずかしいから、あのような行動に出た、と」(ふふっ、可愛い奴め)
「……そうだったんですか」(私は無自覚に主車さんを傷つけていたのね。これは反省だわ…!)
そうだったんですか。
いや、うん、もうそれでいこう。
どっちみち、俺はギャラクシーから名前を呼ばれない限り、自分の意思では動けないんだし。
「では、改めまして。えっと……旋焚玖さん?」
「……ぷいっ」
「な、何故!?」
何故!?
「ふむ……お前達は同学年だ。おそらく『さん』付けは不要だと言っているな」
な、なるほど。
確かに【選択肢】には【名前で】ってなっていたな。流石は千冬さんだ。俺にも分からねぇ事を平然と分かってみせる。やっぱり頼もしすぎるぜ!
「なるほど。では、今度こそ。えーっと……旋焚玖?」
【馴れ馴れしいんじゃクルァァァァッ!!】
【さんを付けろよデコ助野郎!!】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
山田せんせー!
山田せんせー呼んでぇぇぇ!
「さんを付けろよデコ助野郎!!」
「はわっ…!? ひ、ひどいです! あ、でも、ぷいってしなくなりました!」(これは一歩前進と考えていいのかしら! あれ…? 何か喜ぶポイントがおかしいような……むむむ、これが主車さ…いえ、旋焚玖という人物なのかもしれないわ…!)
くそっ、ダメだ、ネタを分かってくれる山田先生が居ないと、単に俺は暴言を吐いた事になっちまう!
ここは謝った方が得策か!? そうだ、ギャラクシーもウキウキになる程のDOGEZAを披露してやれば許してくれるかも!
「フッ……これはコイツの照れ隠しだ。許してやれ」
千冬さんに頭をワシャワシャされる。
一夏にもされた事ないのに!
「……そうなんですか?」
土下座回避ルートまで構築してくれる千冬さんが素敵すぎるぜ! この流れに乗らんでいつ乗るんでぃ!
「ああ。いきなり大きな声をあげてすまなかった」
それでも頭は下げておこう。
「あ、いえ、では私の事もヴィシュヌでいいですから」
やったぜ。
気付けば何故か褐色美女と名前で呼び合えるようになっていたぜ。セシリア、箒に続いてこれで3人目か。とても嬉しいのである!
身体の自由も完全に戻ったし。
これにて解呪ノ儀、成功!
◇
「私も自己紹介しておこうか。茶道部の顧問を務めている織斑千冬だ。今日は体験に来たらしいな?」
「後はヴィシュヌに日本の文化を知ってもらうためっていうのもあります」
と、付け足しておこう。
「ふむ……」(小学時代には鈴と。そしてIS学園に入ってから既にオルコットとギャラクシーか。ずいぶんグローバルコミュニケーションに邁進しているじゃないか、旋焚玖よ。やはりコイツの大器は日本では狭すぎるという事か)
千冬さんから仰々しい勘違いの気配がするのは、きっと気のせいじゃないんだ。もう慣れたよ(完全なる飼育)
「では、ギャラクシー。あの掛け軸に書かれてある文字は何と読むと思う?」
「えっと……あっ、いっきいっかいですね! 日本にはそういう会があるって聞いた事があります!」
ありますねぇ!
怖いお兄さん達の顔が思い浮かびますねぇ!
「旋焚玖も入ってるんですか?」
入る訳ないだろ!
俺はカタギじゃい!
というか、それ『いっきいっかい』じゃなくて一期一会(いちごいちえ)だからな。変に誤解されても嫌だし、普通に訂正しておこう。
【東城会】
【恒例の家族紹介でお茶を濁す。茶道部なだけに(極上のダジャレ)】
遅かったぁーい!
ヴィシュヌが間違えた時点で訂正してやるべきだった…! くそっ、今のは完全に俺の怠慢だ! 名前で呼ばれて浮かれちまってたのかもしれねぇ…!
【上】は絶対にダメだろ、ガチなヤツじゃねぇか! カタギだツってんだろ! 4代目とはカラオケ友達なだけです!
「フッ……モノを知らないってのは悲しいねェ…」
「えっ?」(ま、また旋焚玖の奇妙な言動が始まる予感…! でも、それを何故か少し期待している私が居る…? 好奇心を突かれるとは、こういう気分なのかしら。タイでもこんな男の人は居なかったし)
0.02ミリたりとも面白くないアホの選択肢のダジャレは置いておくとして。
ここは確かに長々と話してお茶を濁すに限るな。茶道部なだけに。ふふ……ハッ…!?(即堕ち2コマ)
「俺の兄キは叉那陀夢止の頭だしよ。姉キはあの韻琴佗無眸詩の頭だしよ。親父は地上げやってんしよ。お袋は北斗神拳の使い手だしよ。オメェみてぇなさ…ッ…」
三下は普通にイカンでしょ(第14話参照)
さ……さ……さに続く不自然ではない言葉…!
「さ…?」
「さしすせそ」
「は?」
や、やめて!
何言ってだコイツみたいな目で俺を見ないで!
くっ、怯んでなるものか!
俺のアドリブ力はここからだ!
「料理の『さしすせそ』」
「料理の?」
「「 料理の? 」」
日本人じゃないヴィシュヌが首を傾げるのは分かるが、箒と千冬さんまで首を傾げるのか(困惑)
「調味料を入れる順番の略称だな。これも日本文化の一つだぜ?」
「な、なるほど、そうでしたか! 続きをお願いします!」
やったぜ。
我、ヴィシュヌの関心を操作する事に成功ス!
「『さ』は砂糖、『し』は塩、『す』は酢、『せ』はしょうゆ、『そ』は味噌。それで『さしすせそ』って訳だな」
「……まぁ基本だな」(糸より細い声)
「……基本ですよね」(消えそうな声)
知らなかったのバレバレじゃねぇか!
似た者同士か!
「ちょっと待ってください、旋焚玖。味噌の『そ』はまだ分かりますが、どうして『せ』でしょうゆなんですか?」
よしよし、いい質問をしてくれた。
「『しょうゆ』は旧仮名遣いで『せうゆ』と書くんだ」
「キューカナヅカイ?」
「それについては、これから古典の授業でしっかり学んでいけばいいさ。日本の文化を知りたいなら、古典は真面目に受けていて損はないと思う」
「ふむぅ……旋焚玖は物知りなのですね!」
「ま、多少はな」
よし、画竜点睛を欠く事なく仕上げられたぜ! 我ながら会心のアドリブである! とても疲れたのである! お茶が五臓六腑に染み渡るのである!
さて、いち段落着いたし、一期一会は『いちごいちえ』って読むのも教えてやらないとな。
「それで、旋焚玖はどんな会に入ってるんですか?」
あ、アカン!(本能察知)
この流れでそのループな問いはアカン!
【東城会】
【ヨガ同好会】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
◇
結果。
旋焚玖はヨガ同好会に入る事に。
身体の硬さを気にする箒も一緒に入る事に。
「それなら私も」と千冬が顧問を掛け持つ事に。
なお、後に『文化交流会』に名前が変わる模様。
千冬:それなら私も(ブリュンヒルデ理論)
次回からクラス対抗戦です。
旋焚玖は出場しないので描写は薄いです(ネタバレ)