お悩み相談室(野外)というお話。
「どうしたんだ、旋焚玖? 相談したい事があるって」
朝のホームルームが終わり、俺と一夏は屋上まで来ていた。先の【選択肢】で俺が選んだのは一番下だった。
【恋は友情よりも重い】には頷けるが【一夏なんか知らん】は流石にいただけない。却下である。
【友情は恋よりも重い】は時として頷く事は出来るが【ラブレターなんか知らん】は絶対に頷けないし頷かない。天変地異が起ころうとも頷く事はしない。我、人に背くとも、人、我に背かせじ(曹操)
そもそも【一夏ルート】がイミフすぎる。
仮に真ん中を選んだら、俺のハイスクールライフは麗しい恋人達に彩られる事なく、ただ一夏と青春謳歌する3年間になりそうな気配がプンプンするぜ。ディオ以上にプンプンするぜ。
それはそれで楽しそうだが、果たしてそこに愛はあるのかい?(吟遊詩人)
アホの選択肢に続き、ヤバい未来まで背負わされた俺が高校生活に求むるは愛だよ愛、ラブ&ピース!
故に選ぶは一番下也。
これぞ取捨選択、俺主車旋焚玖(韻踏みビート)
【ラブレターをがっつり見せる】
【ラブレターをチラチラ見せる】
ふむぅ……【がっつり】はアレだな。
これ見よがしにと言うか、ラブレターを貰って俺が舞い上がっていると思われてしまうやもしれん。ウッキウキな気持ちがバレるのは、相手が一夏であっても、いささか恥ずかしい。
ここは何気なしに見せよう。
「ああ、実はな……」
腕を組み、隙間から手紙をチラリ。
「ん?」
「まぁ、なんだ、今日はいい天気だ」
チラチラチラリ、チラリズム。
「んんん?」
よしよし、作戦が功を成したな。
一夏もチラチラ見てるし、これで自然に話を持っていける。
「お前さっきからコレのことチラチラ見てただろ?」
「ああ、何だその便箋は……手紙?」
「ウソつけ絶対見てたゾ」
「いやだから見てるって! 気になって仕方ねぇよ!」
あ、そっかぁ。
いや、流石は一夏だ。
これまで確固たる地位を築き上げてきたテンプレの流れに逆らえるとは……やはり織斑の血は格別、ただただ強い。
「実はな、こんなモンが下駄箱に入っていたんだ」
一夏にラブレターを渡す。
「えーっと、なになに……やったわ☆ 変態糞娘…?」
「一番下の追伸から読んでくれ」
「分かった。えーっと……追伸、あなたをお慕いしています。本日、13時に屋上でお待ちしています…? お、おい、旋焚玖! これって恋文じゃないか!」
恋文!?
古風な表現してみせるじゃねぇかこのヤロウ! お前なかなか良いセンスしてやがるなこのヤロウ!
「……まぁ、そういう事になるな」
「はははっ! やっぱりな! 旋焚玖がイイ男ってのはずっと一緒に居る俺が一番知ってるからな! やっと見る目のある女子が現れたんだ! へへっ、嬉しいぜ!」
「フッ……とうとう、俺に追いついたらしい」
「え、何がだ?」
「……時代が、な」(キメ顔)
「ヒューッ! 旋焚玖、ヒューッ!!」
「イエーッ! 俺、イエーッ!!」
青空の下で交わすハイタッチ! 何と気持ちのいい事か! 気持ちがいい! いい音を奏でてしまいましたよ、俺たち!
「はははっ! なんだよぅ♪ 舞い上がってんのか旋焚玖ぅ!」
「うわははは! よせやい、そんな事ねぇよ、うわははは!」
舞い上がっちゃってますねぇ、私!(さやか)
っとと、浮かれて本題を見失ってはいかん。一夏に自慢するのが目的ではないのである。ちゃんと大事な事を言っておかないとな。
「ただな、一夏。1つだけ問題がある。手紙に指定された時間だ」
「時間?……ああ、今日の13時か。あっ……俺とヴィシュヌの試合と同じ時間だ」
そうだよ。
友の試合を観に行かず、恋に走る俺を許してくれ。
「すまんな、一夏。今回ばかりは、こっちを優先させてほしい」
手紙をフリフリする。
「当たり前だろ? むしろ何遠慮してんだよ、旋焚玖!」
やったぜ。
これで心のつっかえも取れた! つっかえ!(意味違い)
むふふ、一夏とヴィシュヌの試合を途中から彼女と観に行く未来が見える見える。俺は恋の凱旋、一夏は勝利の凱旋ってなったらいいよなぁ。
「ちなみに、どうだ? ヴィシュヌには勝てそうか?」
「絶対勝てないゾ」
「うわはははは! だからその顔やめろや!」
ヨガ同好会改め、文化交流会に入ってからも、引き続き一夏はセシリアと鈴とISの特訓を行っていたらしいが。いまいち手応えはなかったのか?
「お前にはアレがあるだろ。【零落白夜】だっけか?」
「ああ、それは封印する事にしたんだ」
む…?
「千冬姉がさ、公式戦で【零落白夜】を使ったのは一回きりなんだ」
織斑千冬。
通称、羅刹姫。
世界最強の称号を持つ羅刹姫伝説は今でも語り草になっている。その伝説の一つに【ワンオフ・アビリティ】の使用を自ら制限、己の剣技のみで勝ち続けたというモノがある。唯一【零落白夜】を発動したのが、第一回『モンドグロッソ』決勝戦だった。
「俺、千冬姉に聞いたんだ。どうして制限してたのかって」
一夏の話ではこうだ。
どうやら【零落白夜】ってヤツは、ISのバリアを無効化するだけでなく、相手の人体にまで大きな損傷を与えてしまう可能性があるらしい。
なるほど、それを危惧して千冬さんは使わなかったと。確かに千冬さんの聞いちまったら、スポーツ競技で使うのは躊躇うわな。ISの試合は喧嘩じゃないんだし。
「千冬姉曰く【零落白夜】の出力を抑えたら大丈夫らしい。でもさ、それを特訓中に試してみたんだけど、出力を抑えても【白式】のシールドエネルギーの消耗っぷりはあんま変わんなくてさ。すぐにガス欠になっちまったよ」
なんてこったい。
攻撃にフル特化しすぎだろ。
「だから俺も一旦、千冬姉みたいに剣技だけでやっていこうと思うんだ」
「ああ、いいんじゃないか。俺たちはまだ1年だし、いろいろと試行錯誤すればいいさ」
「おう!……それでさ、昨日も剣一本でセシリアと鈴と試合したんだけど……」
Oh……皆まで言わずとも伝わってくる。言葉が尻すぼみになっていくのがまた、良い感じに哀愁を漂わせるぜ。一言で表すと、フルボッコにされたんだな。
まぁ俺たちはIS初心者で、セシリアと鈴はバリバリ代表候補生だもんよ。それに【零落白夜】縛りまでして、そうそう上手くいく筈はないか。
「セシリアと鈴は代表候補生。ヴィシュヌも代表候補生。実力は同等だと思う。鈴たちにポコポコにされた俺。よってヴィシュヌにもポコポコにされるのである」
ポコポコにされるのか(困惑)
ボコボコじゃなくてまだマシだと思った(小並感)
しかし一夏がQ.E.D.るとは……。
それくらいナーバスになっているんだな。
「でもよ、悲観はしてねぇぜ」
「む…?」
「もともと俺は初心者で相手は格上ときている。それでこそ挑戦のし甲斐があるってモンだ!」
「……そうだな」
活を入れるまでもなかったか。
流石は一夏だ。
コイツの折れない心は俺も見習わなきゃな。
「しかし、旋焚玖に恋文かぁ」
お、その話に戻っちゃう?
戻っちゃいますぅ~?
「俺も1回くらい貰ってみたいなぁ」
「お、そうだな」(鼻ほじほじ)
これについては何も言うまい。
向けられた好意に対する一夏の鈍感さは凄まじいからな。それは思春期真っ盛りな少年少女が集う中学時代によく分かったさ。
故に何も言うまい。
少なくとも俺が童貞であるウチは絶対に指摘しない。絶対にだ。俺より先に卒業なんてさせると思うなよ?
童貞道。
みんなで渡れば
怖くない。
みんな(俺、一夏、弾)である!
「よし、そろそろ教室に戻ろうか」
「おう!」
◇
午前中、一夏以外にバレないよう、努めて自然体で過ごしていた旋焚玖。そして午前の授業も全て終わり、午後からはアリーナにてクラス対抗戦が行われる。
1組の面々が観戦のためアリーナへ向かう中、旋焚玖がふと口を開いた。
「少し用事があるから、先に行っててくれ」
「分かった」
「んもう、早く来なさいよね!」
既に対旋焚玖好感度MAXな箒と鈴は、旋焚玖の言葉を疑う事なく頷いてみせた。
「……ふむ」(一夏さんとヴィシュヌさんの試合よりも大切な用事とは一体…?)
箒たちから背を向けて離れていく旋焚玖を、目で追いかける一人の少女あり。
旋焚玖に対し『まぁどうしてもとお願いするのなら、恋人になってあげてもよろしくてよ?』レベルな好感度を持つセシリアは、箒たちに比べてそこまでまだ盲目ではない。
こっそり旋焚玖の後を追うのであった。
(悲報)ウキウキ旋焚玖、追跡に気付かぬ痛恨のミス。