選択肢に抗えない   作:さいしん

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信じるか疑うか、というお話。



第81話 旋焚玖、思い出すってよ

 

 

「2、3、5、7、11、13、17、19……」

 

 屋上まであと一歩。

 この扉を開いた先には、青空と謎の差出人が居るであろう。

 

「……3547、3557、3559」

 

 扉のノブを握る。

 後はそれを回して押すのみ。

 

「……ふぅ」

 

 今になって緊張してきた…! い、一夏に付いて来てもらっ…ダメだ、アイツは今から試合じゃないか!

 

 落ち着け、落ち着け俺。

 平常心だ。こういう時こそいつもの俺で居るんだ。待ちに待ったハーレムライフの第一歩がこの先にあるんだ! いまさら怖気づいてんじゃねぇぞ…!

 

「……すぅぅぅ……」

 

 力むな。

 逸るな。

 躊躇うな。

 

「ふぅぅぅ……」

 

 初めて貰った恋のお手紙。

 挙動不審になって非モテがバレないように努めるべし。そして、相手がどんな子であっても、礼儀をもって接するべし。でも、出来れば可愛い子がいいですべし。

 

 

ゆっくりと、扉を開いた……――。

 

 

 青空の下、俺を待っていたのは……。

 

「……こんにちは」

 

「こんにちは。この手紙をくれたのは君か…?」

 

「はい」

 

 流れるような銀色の髪を風に靡かせる超絶美少女だった。超絶美少女だった。超絶美少女だったァ!!

 

 ふぉぉぉぉぉッ!!

 

 や、やったぞ一夏! 

 マジで俺にも春がきた! マジで恋する5秒前!

 

 

【喜びの舞いを踊る。ベルリンあたりのステップで】

【夢かどうか頬っぺたを抓る。目の前の子の頬っぺたを】

 

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 

 他人の頬っぺた抓っても意味ねぇだろ! アホか! というか無理に決まってんだろ! アホか! 初対面でいきなり頬っぺた触ってくる男とかキモすぎるわ! むしろ怖すぎるわ!

 

 くそっ、くそっ!

 魅せればいいんだろ!? 

 舞えばいいんだろ!? 

 

 でもこれでドン引きされて「あ、やっぱり無しで」とか言われたらマジでお前呪うからな! 末代まで呪うからな!

 

「……ッ!」

 

 タンタタンタンとその場でリズミカルにステップを踏んでみせる。すまんがショートバージョンでお送りさせてくれ!

 

 

.

...

......

 

 

「……何ですか、今のは?」

 

「ベルリンあたりのステップ」

 

 自分でやってなんだが、ベルリンあたりのステップってなに? 何でちょっと曖昧にすんの? あたりって何だよあたりって。そら、この子もキョトンとするわ。キモッとか思われてないかな?

 

「……そうですか。今のが……」

 

 おや?

 感慨深く呟いた…?

 

 もしかしたらアレか?

 日本人には見えないし、意外にドイツ人だったりするのかもしれんな。「故郷にはそういうステップがあるのかぁ~」とか勘違いしてくれていいんですよ!

 

「……それで、お手紙の事なのですが」

 

 あ、スルーする感じ?

 それでも全然いいです、大歓迎です。

 

「お返事をお聞かせください」

 

「ああ、もちろん返事は……――」

 

 

【壁に耳あり障子に目あり。迂闊に言霊を響かせるな】

【いまさら疑うものか! 私はお前を信じる!!】

 

 

…………あ? 【上】の文がすっごい気になるんだけど。なんでそんなことわざが出てきてんの? え、誰か聞いてんの? いやいや、そんなアホな。

 それがホントなら俺が追跡されてたって事になるじゃないか。そんなモン俺が察知できない筈が……あ゛。

 

 浮かれてて気づいてなかった可能性…?

 ある。けっこうある。

 

 よし、ここは【上】だ。【下】? 

 【下】はアグリアスです。

 

 しかし、久しぶりにいい選択肢を出してくれたな。初心忘るべからず。疑心暗鬼に陥るのは愚の骨頂だが、慎重であるのは大事だ。特に俺の場合、それが処世術なのだから。

 

「…………………」

 

「……?」

 

 ふむ……ちゃんと閉めたつもりだったが、扉が薄っすら開いている? 確かに誰かが扉の向こうで聞き耳を立てていてもおかしくはない、か。

 仮に居たとして、問題は一体誰が、という事になってくる。名も知らぬモブならどうでもいいんだが、楽観的な予測は捨てた方が良いだろう。

 

 モブではない誰かが聞き耳を立てている。

 ここから先はそのつもりで臨め、旋焚玖…!

 

「その前に一つ。名前を聞いていいか?」

 

「……クロエ・クロニクルと申します」

 

 あらやだ、素敵なお名前。

 そして、箒たちと同じ色のリボンを付けているって事は。

 

「俺たちと同じ1年、でいいのか?」

 

「……はい」

 

 そうだ。

 コイツの制服姿は1年生。

 本人もそう言っている。

 

 何を疑う必要があるか。……と、さっきの【選択肢】が無かったらスルーしていたかもしれないな。今の俺はちと違う。

 

「何組だ?」

 

「…………………」

 

 すぐに答えはしない、か。

 

 クロエ・クロニクル。

 さっきも言ったが、コイツは超絶美女だ。セシリア、鈴、ヴィシュヌ、更識。代表候補生な彼女たちと同等の顔面偏差値なコイツ。

 

 IS社会では顔採用があるんだろ?(偏見)

 なら、コイツも代表候補生の筈だ。それなのに、他国の代表候補生はチェックしていると言っていたセシリアから、俺は名前を一度も聞いていない。もしかして箒みたいに例外的な存在だったりするのか?

 

 長々しい考察をしていても埒が明かん。

 単純明快な疑問を突き付けてやる。

 

「俺はな、クロニクル。ここ1週間(強制的に)2~4組へと顔を(強制的に)出していた。(強制的に)休み時間になる度にな」

 

 そのおかげで、そんなに叫ばれなくなりました。やっぱ人間慣れるんだよ。

 

「なのに、俺はお前を見た事がない」

 

 こんな可愛い子を見逃す訳ないだろ!(本音)

 

「……さて、クロエ・クロニクル。お前は何組の人間だ? まさか同じクラスとでも言ってみせるか?」

 

 さて、どう答える?

 ここが俺にとっての、そしてお前にとっての分岐点だ。

 

「……虚を突いて5組です」

 

 虚を突いたなコイツ!

 いや、正直その返答は考えてなかった。ちょっと面白い。顔だけでなく言葉でも俺の気を引いてくるか…!

 

「……私を見た事がないだけで、私の愛を受け取ってくれないのですか?」

 

 受け取るぅ!

 

 見た事がない?

 誤差だよ誤差!

 

 誰かが聞き耳ってる可能性? 

 知るか! 誰も聞いてないわ覗いてないわ! 扉の向こうには誰も居ない! 気配もしない! イギリス淑女にしか出せない高貴な気配なんざしない! ヴェネチアにサメはいない! いいね!? だからあそこにも居ないの!

 

 こぉ~~~んな美少女からの告白を疑ってどうする! 生まれて初めて告白されたんだぞ、初めて! 前世も入れたら100億年だ!(気持ち的に)

 

「俺は……――」

 

 

【いまさら疑うものか! 私はお前を信じる!!】

【お前脳みそ鳥貴族やから忘れとるかもしれんけど2回もフラれとるんやで。何勘違いしてるか知らんけどお前フツメンやん。今まで面と向かってカッコいいとか言われた事あんのか? おかんとおとんと一夏くらいやんけ】

 

 

 へへっ、おかしいな。

 時が止まった世界なのに、涙が出そう。滝以上に出そう。

 

 もうね、何て言うかね。

 『THE・現実』ってのを見せられた気分だ。

 

 何で関西弁やねん!ってツっこむ気力すら出てこないレベルで俺の心はグサグサダァ…。でも、悔しいけど……すっごい悔しいし、マジで泣きそうだけど的は射ている。射すぎているんだぁ……ウボァー。

 

 確かにIS学園に入学してから、世界基準で美人な奴とも話せちまうようになったし、その上さらに箒やセシリア、ヴィシュヌに名前で呼ばれるようになって完全に調子コイてたわ。

 

 俺を可愛いだのカッコいいだの言ってくれるのは、確かに母さんと父さんくらいだっけ。へへ、息子を立ててくる最高の両親なんだぜ。一夏はまぁ……ファミリーみたいなもんやし。

 

「俺は受け取らない」

 

「……何故です?」

 

 へへへ、思い出しちまった。

 俺の立場ってヤツを。政府のおっちゃんも最初に言ってたじゃないか。後ろ盾のない一般人な俺は狙われる立場にあるって。

 

 むしろ入学してから今日までの平穏な日々の方が、もしかしたら異常だったのかもしれないな。入学前はアホほど襲われてたじゃないか。

 

「刺客に理由を話す必要はない」

 

 違うって言ってくれてもいいのよ?(未練)

 

「……!………ふふ、お見事です」

 

 

 くそったれぇ……(現実直視)

 

 





屋上バトルが勃発するのか(困惑)

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