信じるか疑うか、というお話。
「2、3、5、7、11、13、17、19……」
屋上まであと一歩。
この扉を開いた先には、青空と謎の差出人が居るであろう。
「……3547、3557、3559」
扉のノブを握る。
後はそれを回して押すのみ。
「……ふぅ」
今になって緊張してきた…! い、一夏に付いて来てもらっ…ダメだ、アイツは今から試合じゃないか!
落ち着け、落ち着け俺。
平常心だ。こういう時こそいつもの俺で居るんだ。待ちに待ったハーレムライフの第一歩がこの先にあるんだ! いまさら怖気づいてんじゃねぇぞ…!
「……すぅぅぅ……」
力むな。
逸るな。
躊躇うな。
「ふぅぅぅ……」
初めて貰った恋のお手紙。
挙動不審になって非モテがバレないように努めるべし。そして、相手がどんな子であっても、礼儀をもって接するべし。でも、出来れば可愛い子がいいですべし。
ゆっくりと、扉を開いた……――。
青空の下、俺を待っていたのは……。
「……こんにちは」
「こんにちは。この手紙をくれたのは君か…?」
「はい」
流れるような銀色の髪を風に靡かせる超絶美少女だった。超絶美少女だった。超絶美少女だったァ!!
ふぉぉぉぉぉッ!!
や、やったぞ一夏!
マジで俺にも春がきた! マジで恋する5秒前!
【喜びの舞いを踊る。ベルリンあたりのステップで】
【夢かどうか頬っぺたを抓る。目の前の子の頬っぺたを】
あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!
他人の頬っぺた抓っても意味ねぇだろ! アホか! というか無理に決まってんだろ! アホか! 初対面でいきなり頬っぺた触ってくる男とかキモすぎるわ! むしろ怖すぎるわ!
くそっ、くそっ!
魅せればいいんだろ!?
舞えばいいんだろ!?
でもこれでドン引きされて「あ、やっぱり無しで」とか言われたらマジでお前呪うからな! 末代まで呪うからな!
「……ッ!」
タンタタンタンとその場でリズミカルにステップを踏んでみせる。すまんがショートバージョンでお送りさせてくれ!
.
...
......
「……何ですか、今のは?」
「ベルリンあたりのステップ」
自分でやってなんだが、ベルリンあたりのステップってなに? 何でちょっと曖昧にすんの? あたりって何だよあたりって。そら、この子もキョトンとするわ。キモッとか思われてないかな?
「……そうですか。今のが……」
おや?
感慨深く呟いた…?
もしかしたらアレか?
日本人には見えないし、意外にドイツ人だったりするのかもしれんな。「故郷にはそういうステップがあるのかぁ~」とか勘違いしてくれていいんですよ!
「……それで、お手紙の事なのですが」
あ、スルーする感じ?
それでも全然いいです、大歓迎です。
「お返事をお聞かせください」
「ああ、もちろん返事は……――」
【壁に耳あり障子に目あり。迂闊に言霊を響かせるな】
【いまさら疑うものか! 私はお前を信じる!!】
…………あ? 【上】の文がすっごい気になるんだけど。なんでそんなことわざが出てきてんの? え、誰か聞いてんの? いやいや、そんなアホな。
それがホントなら俺が追跡されてたって事になるじゃないか。そんなモン俺が察知できない筈が……あ゛。
浮かれてて気づいてなかった可能性…?
ある。けっこうある。
よし、ここは【上】だ。【下】?
【下】はアグリアスです。
しかし、久しぶりにいい選択肢を出してくれたな。初心忘るべからず。疑心暗鬼に陥るのは愚の骨頂だが、慎重であるのは大事だ。特に俺の場合、それが処世術なのだから。
「…………………」
「……?」
ふむ……ちゃんと閉めたつもりだったが、扉が薄っすら開いている? 確かに誰かが扉の向こうで聞き耳を立てていてもおかしくはない、か。
仮に居たとして、問題は一体誰が、という事になってくる。名も知らぬモブならどうでもいいんだが、楽観的な予測は捨てた方が良いだろう。
モブではない誰かが聞き耳を立てている。
ここから先はそのつもりで臨め、旋焚玖…!
「その前に一つ。名前を聞いていいか?」
「……クロエ・クロニクルと申します」
あらやだ、素敵なお名前。
そして、箒たちと同じ色のリボンを付けているって事は。
「俺たちと同じ1年、でいいのか?」
「……はい」
そうだ。
コイツの制服姿は1年生。
本人もそう言っている。
何を疑う必要があるか。……と、さっきの【選択肢】が無かったらスルーしていたかもしれないな。今の俺はちと違う。
「何組だ?」
「…………………」
すぐに答えはしない、か。
クロエ・クロニクル。
さっきも言ったが、コイツは超絶美女だ。セシリア、鈴、ヴィシュヌ、更識。代表候補生な彼女たちと同等の顔面偏差値なコイツ。
IS社会では顔採用があるんだろ?(偏見)
なら、コイツも代表候補生の筈だ。それなのに、他国の代表候補生はチェックしていると言っていたセシリアから、俺は名前を一度も聞いていない。もしかして箒みたいに例外的な存在だったりするのか?
長々しい考察をしていても埒が明かん。
単純明快な疑問を突き付けてやる。
「俺はな、クロニクル。ここ1週間(強制的に)2~4組へと顔を(強制的に)出していた。(強制的に)休み時間になる度にな」
そのおかげで、そんなに叫ばれなくなりました。やっぱ人間慣れるんだよ。
「なのに、俺はお前を見た事がない」
こんな可愛い子を見逃す訳ないだろ!(本音)
「……さて、クロエ・クロニクル。お前は何組の人間だ? まさか同じクラスとでも言ってみせるか?」
さて、どう答える?
ここが俺にとっての、そしてお前にとっての分岐点だ。
「……虚を突いて5組です」
虚を突いたなコイツ!
いや、正直その返答は考えてなかった。ちょっと面白い。顔だけでなく言葉でも俺の気を引いてくるか…!
「……私を見た事がないだけで、私の愛を受け取ってくれないのですか?」
受け取るぅ!
見た事がない?
誤差だよ誤差!
誰かが聞き耳ってる可能性?
知るか! 誰も聞いてないわ覗いてないわ! 扉の向こうには誰も居ない! 気配もしない! イギリス淑女にしか出せない高貴な気配なんざしない! ヴェネチアにサメはいない! いいね!? だからあそこにも居ないの!
こぉ~~~んな美少女からの告白を疑ってどうする! 生まれて初めて告白されたんだぞ、初めて! 前世も入れたら100億年だ!(気持ち的に)
「俺は……――」
【いまさら疑うものか! 私はお前を信じる!!】
【お前脳みそ鳥貴族やから忘れとるかもしれんけど2回もフラれとるんやで。何勘違いしてるか知らんけどお前フツメンやん。今まで面と向かってカッコいいとか言われた事あんのか? おかんとおとんと一夏くらいやんけ】
へへっ、おかしいな。
時が止まった世界なのに、涙が出そう。滝以上に出そう。
もうね、何て言うかね。
『THE・現実』ってのを見せられた気分だ。
何で関西弁やねん!ってツっこむ気力すら出てこないレベルで俺の心はグサグサダァ…。でも、悔しいけど……すっごい悔しいし、マジで泣きそうだけど的は射ている。射すぎているんだぁ……ウボァー。
確かにIS学園に入学してから、世界基準で美人な奴とも話せちまうようになったし、その上さらに箒やセシリア、ヴィシュヌに名前で呼ばれるようになって完全に調子コイてたわ。
俺を可愛いだのカッコいいだの言ってくれるのは、確かに母さんと父さんくらいだっけ。へへ、息子を立ててくる最高の両親なんだぜ。一夏はまぁ……ファミリーみたいなもんやし。
「俺は受け取らない」
「……何故です?」
へへへ、思い出しちまった。
俺の立場ってヤツを。政府のおっちゃんも最初に言ってたじゃないか。後ろ盾のない一般人な俺は狙われる立場にあるって。
むしろ入学してから今日までの平穏な日々の方が、もしかしたら異常だったのかもしれないな。入学前はアホほど襲われてたじゃないか。
「刺客に理由を話す必要はない」
違うって言ってくれてもいいのよ?(未練)
「……!………ふふ、お見事です」
くそったれぇ……(現実直視)
屋上バトルが勃発するのか(困惑)