選択肢に抗えない   作:さいしん

9 / 158

1人遊びは得意、というお話。




第9話 強い変態はタチが悪い

 

 

 

 さて、どうやってこのコスプレ女にキメてくれようか。

 正義の鉄槌を喰らわせてやるって言っても、やっぱり女性に手を上げるのは普通に抵抗がある。ここは予定通り、関節を取って地に伏せるのがベストか。

 

 あとは踏み込むタイミングだな。

 何かきっかけが欲しい。

 もっと言うと、このままこのコスプレ女には去ってほしい。っていうか、実は泥棒じゃなくてたまたま部屋を間違えて入ってしまったってオチであってほしい。

 

「ねぇ、洗濯機どこ?」

 

 やっぱり泥棒じゃないか!

 しかし……。

 

「あんな大きい物を盗みに来たのか……」

 

 家電製品目当てなら、わざわざウチじゃなくていいじゃないか! きょうび何処の家庭にも洗濯機くらい置いてあるわ!

 

 だがこれで見逃せなくなった。どうやって持ち運ぼうと思ってるのかは知らんが、洗濯機が無くなるのは普通に困る。近くにコインランドリー無いし。

 

 ってな訳で、ちょいと痛い目にあってもらうぜお嬢ちゃん!(結構ノリノリ)

 

 手首をガッとね!

 あ、普通に外された、こんちくしょう。もっかいだ! あ、なんか逆に掴まれた……瞬間、身体がフワッと宙に浮いた。

 

「おごっ!?」

 

 痛いッ!?

 え、何で背中から落とされてんの?

 咄嗟に受け身を取れた自分を褒めたい!って違うわ! え、なになに、何が起こったの? 何で俺が投げられてんの? え、投げられたの? 俺が? このコスプレ女に?

 

 いやいやいや!

 ちょっと待って。

 

 俺、強いんじゃないの?

 え、うそ、強くなってなかったの?

 

 

【自分の弱さを素直に認める】

【他の可能性を探る】

 

 

 弱くねぇよ!

 めちゃくちゃ鍛えられたわ!

 

 他の可能性……こ、コイツが実はめちゃくちゃ強いとか? そうだよ、絶対そうだ。だってコイツ変な格好してるもん、普通の神経してねぇよ、強いに決まってるよ(自己防衛)

 

 あ、何かゴミでも見る眼で見てきてらっしゃる。

 

「そんな弱さで鍛えてるつもり? そういうのってさぁ、無駄な努力っていうんだよ?」

 

 ひ、ひでぇ……初対面の子供に向かって、なんて暴言を吐くんだ……。子供だったら普通に泣いてるぞ、今の状況トラウマってレベルじゃねぇんだぞオイ?

 

 帰ってきたら変なコスプレヤーが泥棒よろしく居て、その上暴力ですか! 物理だけじゃ飽き足らず、言葉の暴力まで愉しむのですか!?

 

「は? なに、その目? 文句があるなら言ってみなよ」

 

 ありまくるわアホ!

 アンタいい歳コイてそんな格好恥ずかしくないんですかい!? ウサ耳カチューシャとか痛いんだよ! なんだそのエプロン、不思議の国のアリスってるつもりかよ、あぁん!? そういうのが許されるのは小学生までだよねー!

 

 

【……以上をはっきり言葉にして伝える】

【伝えて逆上されたら困るので、目で訴えて分かってもらう】

 

 

 何だこの選択肢!?

 そんなモンお前、当然………(冷静に思考中)……うん、下だよね。言葉の暴力はいけない事だと思うし、伝えちゃったら物理的暴力が返ってきそうだもんね。この変態女強いからね、強い人は怒らせちゃいけないからね。

 

 

.

...

......

 

 

「…………………」

 

「…………………」

 

 ちょっと待って。ちょっと待ってよ、ねぇ? もうあれから何時間経ってると思ってんの? 何で俺たちずっと見つめ合ってんの?

 

 

 な・ん・で! 

 なぁぁぁんでお前まで無言で付き合ってんの、バカじゃないの!? 暇を持て余した変態かお前! 俺に構う暇あったら洗濯機見てこいよ! しっかり吟味してこいよ! 奥の扉開けて右手にあるわ!

 

「…………………」

 

「…………………」

 

 あのねあのね、お前が何らかのアクション起こしてくれないと、俺もずっとこのままなの! ねぇ、分かる!? 分かってくれよぉ!

 

「ねぇ、お腹すいたんだけど?」

 

「…………………」

 

 違う! でも惜しい! 惜しいよ変態! お腹すいたなら、動けって! 台所にカップヌードルあるから! 俺に遠慮せず食べていいからさぁ!

 

「……ああ、そう…! とことんやりたいって訳なんだ? いいよ、本気で後悔させてやるんだから…!」

 

 ダメだこの変態!

 とことんって何!? 後悔なんざとっくにしてるわ! 何で耐久ゲームみたいになってんの、意味分かんないんだけどマジで!

 

 でも、ホントどうしよう。

 分かってもらう処か、盛大に勘違いされてんだけど。正直すっげぇ、暇なんだけど。

 

……もういいや、脳内しりとりでもして遊んでよ。

 

 

.

...

......

 

 

 ルノワール……ルーブル……ルナール……ルシフェル……えっと、他に『る』から始まり『る』で終わるヤツは……。

 

「私がお前より眠くなるとでも思ってる?」

 

 ルミノールだ!

 

「………………?」

 

 あ、やべ……この変態、何か言ったっぽい?

 途中から妙にしりとりが楽しくなってきちゃって、聞き逃しちゃった。もっかい言ってくれるかな。

 

「私はね、1日を35時間生きる女なんだよ……どう? 絶望した?」

 

「…………………」

 

 絶望した。

 聞くんじゃなかった。

 この変態……1日が24時間って事も知らないのか……マジでやべぇな、伊達に変な格好してねぇよ。

 

 

【思いきりバカにしてやる】

【やんわりと訂正する】

 

 

 きた!

 久々の選択肢きた、これで呪縛から解放されるぜ、ひゃっほい! ここは上だろ! バカにする事で変態を怒らせて、そんでもって行動を起こさせるという巧妙な……ハッ…! ちょっと待て…!

 

 怒らせる、だと…?

 この変態を?

 

 コイツ、すげぇ変態だけど強いんだぜ…? 安易に怒らせていいのか? もしかしたら、今度は背中から叩き落とされるだけじゃ済まないかも…?

 

 か、回避!

 出来るだけ刺激せず、穏便に訂正を心掛けるべし!

 

「……1日は24時間ですよ?」

 

 怒らないで?

 怒らないでよ?

 僕が言ったんじゃないよ? 

 選択肢が言えって言ったんだよ?

 

「ふ、ふーん? 随分余裕あるじゃん? やっとまともに口開いた言葉がそれだもんねぇ?」

 

 手は……出してこない?……よ、よし! 

 やった、俺は回避したんだ!(同時に呪縛も継続確定だが、本人は気付いていない模様)

 

 それが分かれば続きだ!

 今度は『ん』から始まるしりとりシリーズをしよう! まずは『ンジャメナ』からスタートだ、負けないぞ~!

 

 

.

...

......

 

 

……♪……♪……♪……。

 

「……くっ……はぁ…はぁ…!」

 

……♪……♪……♪……。

 

「はぁっ……はぁ……くぅ…!」

 

 あぁぁぁ~~~ッ、もう!

 さっきからハァハァうるさいよ! こっちは気分良くメドレーソングってんだよ、お前のせいで歌詞が飛んじゃっただろ! ホント役に立たねぇ変態だな!

 

……んんん?

 なんかコイツ、疲れてるっぽくね?

 変態の癖に案外だらしねぇなぁ。

 

 

 プルルルル…プルルルルル……。

 

 

 電話か。

 そういや母さん達、いつ帰ってくんだろ。

 

「……だからごめんね! 帰るのは明日の夜になりそうなの!」

 

 明日の夜かぁ…………………明日の夜!?(目から背けていた現実を直視)

 ちょっと待てオイ! 

 待て待て待てオイ! 今何時だ!? あぁっ、この変態から目を背けらんねぇから時計が見れねぇ!

 

 母さんが電話してくるって事は、今が明け方って事はないよな? 早くても7時か8時くらい……え、明日の夜まで帰ってこないの? ホントに? それまでずっとこの変態と一緒なの?

 

 しりとり辺りから上手く現実逃避出来ていた旋焚玖。母のお告げで現実世界に無事帰還。

 

 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!

 もう嫌だぁぁぁぁ~~~~~ッ!! 何が悲しくて縛りしりとりしなきゃいけないんだよぉ! 何がメドレーソングじゃい! そんなに今時の歌知ってないわ! オッサンなめんな!

 

 頼むよ変態!

 もういいだろ、分かってくれよぉ!

 

「……~~~~ッ、あ~~~~ッ!! もうッ! 分かったよぉ! 私の負けだよ! これでいい!?」

 

 え、マジで!?

 あっ、身体が動く!? 

 

「……ッ、いぃぃぃやったぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ナイスなタイミングだぜ変態! 以心伝心じゃん! 

 もう変態なんて言わな……あぁ…?

 

 なんか身体が重い。

 背中にナニか乗ってんじゃないかってくらい、重い。ついでに瞼も重い。俺の意思とは無関係に身体が勝手に横たわる。

 

 あぁ、なるほど。

 俺が動けるようになったから、一気に来るのね、疲労が。今までは自重してくれてたのね、ありがとう……え、ありがとうなのか…? あぁ、思考が上手く纏まらない……まだ目の前に泥棒が居るのに……。

 

「主車旋焚玖……お前の事、確かに覚えたから」

 

 いやお前は結局なんなんだ……。

 そうツッこむ事も出来ず、俺は眠りにつくのだった。

 

 

.

...

......

 

 

「……洗濯機、あるじゃん」

 

 あの1件から数時間後、意識が戻った俺は部屋の中の状況を確かめ歩いていた。特に変わった様子もないし、俺のパンツも洗濯機の中に入ったままだ。小3の癖にトランクスとか背伸びしてんじゃねぇよ、とか思われなかっただろうか。

 

 他にも別に盗られた形跡は無し……ホントに何だったんだろう、あの女。アイツの最後の捨て台詞……まるで俺を知っているようだった。

 

「……分からん!」

 

 知らん知らん!

 深く考えんのはヤメておこう!

 もう、どうせ2度会う事もないだろうし。

 

「はぁ……飯食べてシャワー浴びよ」

 

 今日は学校が休みだ。

 家でゴロゴロしていても、どうせ選択肢に無理やり鍛えさせられるのは目に見えている。シャワー浴びたら道場へ行こう。

 

 正直、割とショックだった。

 曲がりなりにも自分はこの1年間、本気で鍛えたつもりだった。そりゃあ強制的にではあるが、自分なりに一生懸命こなしてきたつもりだった。

 

「それがあのザマだもんなぁ……」

 

 変態女に軽くいなされてしまった。

 普通にショックだった。

 

 

『そんな弱さで鍛えてるつもり? そういうのってさぁ、無駄な努力っていうんだよ?』(ドヤぁ)

 

 

 思い出したら、くっそ腹立ってきた…!

 俺は変態に負けた挙句、変態に嗤われたんだ……。

 

「あの変態め……今度会ったらフルボッコにしてやる…!」

 

 

.

...

......

 

 

「「 あっ 」」

 

 

 事後当日に会っちゃった。

 道場行ったら会っちゃった。

 

 え、何でコイツがここに居んの!? アレか、ストーカーか!? 俺のストーカーが趣味なんか!?

 

「やぁやぁ、また会ったねぇ」

 

 う、うわ、こっちに来た! 

 変態が近づいてきた!

 千冬さん助けて!って居ない!? 一夏も居ないってか、誰も居ねぇ! せめて篠ノ之は居てくれよ! 居てくれたら背中の後ろに隠れられたのに!

 

「ウフフフ……自己紹介、まだだったよね~? 私は篠ノ之束さん! 以後……ヨロシクねぇ? ウフッ、ウフフフ…」

 

 なにその笑い方、怖いよ!

 

「し、篠ノ之さんのお姉様でしたか……」

 

 あんな厳格な篠ノ之の姉がコレとかウッソだろオイ! 自分の姉が泥棒が趣味とか悲しすぎるだろ! 後でアイツにお菓子奢って……―――。

 

 

【さっそくリベンジチャンスだ! ボコボコにしてやるぜ!】

【暴力はいけない。過去は水に流して、ユーモア溢れる小粋な挨拶から入る】

 

 

 ユーモア溢れる?

 小粋な挨拶?

 

 まるで見当付かないんだけど?

 

 だからと言って、上はまだ早いだろ。負けたばっかの相手に、即立ち向かうのは勇気とは言わん、ただの無謀だ。うむうむ、決して怖いからとかではないぞ!

 

 ここはひとまず平和的に、友好的にいこうじゃないか。

 篠ノ之の姉ちゃんって事は、これからも付き合いがあるだろうしね! しゃーなしよ、しゃーなし。

 

「お義姉さん……」

 

「え?」

 

 え?

 

「妹さんを僕にくださいッ!」

 

 はぁ~?

 な~に言ってんの俺。

 

 小粋かどうかは知らんが、まぁ掴みとしてはまずまずのネタではあるかな。姉ちゃんも本気に取る筈ないし、軽く笑って次に……―――。

 

「は?」(迫真)

 

「…………Oh」

 

 笑えない空気が、そこにはあった。

 

 






次話、箒ちゃんの転校まで飛びます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。