ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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第62話 ホラー・セクシー・ガン・ソード

 

「なるほどね……まーたキリトってば、アスナや私達に黙って、そんなヤバいことに首突っ込んでたわけ」

 

「もー、お兄ちゃんってば……アスナさんにはちゃんと話してある、みたいなこと言ってたのに」

 

 場所は、『イグドラシル・シティ』にある、とある酒場。

 なじみのメンバーがよく集まる集会場所となっているそこに、アスナとユイに加え、リズやリーファ、それにクラインにシリカといった、SAOからの顔なじみのプレイヤー達が集まっていた。

 

 さらには、『保護者会』から代表してということでエリカと、依頼人であるクリスハイトもこの場に呼ばれて参加している。

 

 時刻は、間もなく『GGO』の世界に置いて、『BoB』の本戦が始まろうという時間であり……今キリトの応援に加え、現在起こっていることの説明のために、アスナが彼ら・彼女らを集めている形だった。

 

 もともと、GGOで何やら大会らしきイベントがあるらしく、それに出場しているというキリトを応援しよう、ということで集まる予定に放っていたのだが、昨日のあの説明を聞かされた結果、思いもかけず危ない(かもしれない)一件に首を突っ込んでいるとわかったため、急きょ全員で様子を応援しつつ様子を見守ろう、という話になったのだ。

 

 なお、その際に、ナツメ達の推理により、少なくともゲーム内で何をされたところで現実で何が起こるわけではないことや、犯人が使っているのであろう手口、そしてそれを防ぐために、キリトやその仲間の身の安全は確保した上でダイブしていることを教えてある。

 

 キリトは今まで通り、菊岡が手配した病院の個室でバイタルを観察されながらのダイブ。

 

 クラディールは臨時学校の職員寮――最新式の電子ロックで下手な高級マンションよりもセキュリティが充実していると評判――から。

 

 グリセルダは会員制ネットカフェの個室――スペースが区切られているというだけの形ではなく、本当に個室で、しかも鍵もかかる――からログイン。

 

 そしてナツメは自宅から。だが、そのセキュリティは最新鋭ぞろいなので心配はない。

 

「にしてもよぉ……俺としては、そんな危ねぇ事件の捜査に、一般人のキリの字を平然と動員しやがったことに一言文句言わせてもらいてえんだがよ? なあ、お役人様……」

 

「その件に関しましては私共の不徳の致すところで大変申し訳ございませんでした。今後二度とこういったことのないように、対応可能な人材の育成及び再発防止に向けた庁内における対応規範の再確認及び職員各位への周知徹底を並行して進める所存ですのでどうか……」

 

「……お、おぅ、わかったよ、わかってくれればいいんだ、うん……」

 

 クラインが抗議の矛先を向けた瞬間、その先に座っていた菊岡ことクリスハイトが、弾かれたように立ち上がって腰を追って深々と頭を下げ、その口からはすらすらと謝罪の文言が飛び出す。

 

 いきなりのことに、苛立ちを隠そうともしていなかったクラインは面食らってしまい、思わずその後に言葉が続かない状態になっていた。

 周囲のほかのメンバーも同様であり、その中でリズベットが『何コレ?』と、説明を求める視線をアスナとエリカ、それにユイに向ける。

 

「あー……クリスハイトってば、昨日この件がお母さんたちに露見してから、かなりこっぴどくお説教……というかまんま抗議食らってたから、そのせいかもね」

 

「控えめに言ってフルボッコでしたもんね。ナツメ先生とおばあちゃんの2人がかりで、逃げ道を塞いで1つ1つ問題点を指摘して、正論しか言わないから反論も言い逃れも一切させずに理詰めで延々数十分……精神がやすりで削り取られていくようにすり減っていく音が聞こえるようでした」

 

「「「うわぁ……」」」

 

 かつてSAOにおいて、その時もキリト達を守るために弁舌を振るい、攻略組の最先鋒ギルドの幹部達相手に一歩も引かないどころか言い負かし、妥協案とはいえユニークスキル保持者の最低限の権利を勝ち取った過去を持つナツメ。

 

 大学教授という地位に裏打ちされた優秀な頭脳と弁舌能力にくわえ、時に愛娘のために自ら危険に飛び込んでいくほどの大胆かつ苛烈な性格、そして行動力を持つエリカ。

 

 そんな、彼らが知る限り敵に回したくない&怒られたくない大人トップ2であろう2人に本気でお説教されたという事実を知り、一同は思わずクリスハイトに同情を覚えてしまう有様だった。

 

 彼がキリトをこの件に巻き込んだことについては少なからず苛立ちじみたものを覚えており、皆この場を借りて文句を言おうとしていたのだが、演技でなく精神的に相当疲弊している様子であるクリスハイトを見て、追い打ちをかける気にはなれなかったようである。

 

 なお、その追い詰めた張本人の片割れであるエリカは、何も言いはしなかったが、また妙なことを言おうものなら即座に言葉の刃を飛ばすべくぎろりとにらみを聞かせていたりする。

 

 現実の肉体の様子が反映されるはずもない、ウンディーネのアバターの目の下に、心なしか隈ができているように見えたのを幻視したのは、果たして気のせいだったのだろうか。

 

「……着席させていただいてもよろしいでしょうか」

 

「お、おぅ、楽にしてくれよ……大変だったなあんたも」

 

「ありがとうございます。失礼いたします……」

 

「……コレこのまま直んないの?」

 

「しばらくしたら直ると思うから、そっとしておいてあげましょ」

 

 彼女達が、常の軽い感じが完全に引っ込んでしまったクリスハイトの扱いに少々困っていたその時、モニターに動きがあった。

 

「……始まるわよ」

 

 ぼそっと呟くようにエリカが言った言葉を聞いて、一同はモニターに視線を移す。

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.エリカ

 

 GGO世界における『死銃』の問題の捜査に駆り出されているキリト君の支援のため、ナツメ先生を筆頭に3人の『保護者会』メンバーが参戦して――その3人共本戦に残っちゃうんだからすごいわよね、本当――第3回BoBの本戦が、今さっき開幕したところ。

 

 私の娘であるアスナと、どうもというか、一応は孫という関係になるユイちゃんを含め、キリト君を家族、あるいは仲間と慕う面々が、こうして集まって観戦している。

 

 一応、どのどちらにも含まれない、さらには『保護者』という立ち位置でもないクリスハイトもここにいる。依頼人……というか今回の一件の発端だから、責任もって見届けなさい、ということで呼んだ。日曜日? 休日? 知らないわね。

 

 もしここでも何か変なことを――具体的には、自己弁護で今回の一件を正当化したり、アスナ達やそのお友達にあることないこと吹き込んで懐柔しようとしたり――しようものなら、今度こそ一切の自重を捨てて、言葉の刃で斬り刻みつつ、現実世界の方でも大人特有のあらゆる手を尽くして泣いたり笑ったりできなくしてあげようかと思っていたのだけど、大丈夫みたいね。

 

 まあ、今回はクリスハイトの交渉術に加え、30万円という報酬の金額にちょっと心がぐらついてしまって、最終的に自分の意思で引き受けたキリト君にも責任が全くないとは言えないから、このくらいにしておいてあげるけど。

 

 ……そのへんの意識もきちんと育てていかないとだめよね。これは。

 

 彼が将来結城の家に婿入りしたらそれとは桁が2つも3つも違う金額に触れることになるんだし、今からでもちょっとずつ慣れさせて……まあ、これは後でいいわね。

 

 ちなみに、アスナは嫁入りする方向で考えたいみたいだけど、私としてはぜひ婿に来てもらってレクトの経営に参加してもらいたいと思っている。今はまだ経験もキャリアも何もかも足りてないけど、彼のあの意識・意欲の高さや、コンピューター方面の知識と技術は買いだわ。

 

 そのためにも彼を色々と……こういうの『光源氏計画』って言うんだったかしら?

 

 ……っと、話が脱線したわね。

 

 今、BoBが始まってしばらく経ったところだけど、大きな動きはない。

 というのも、うかつに動けないからだ。

 

 この本戦は、だだっ広いエリアに出場者全員がランダムに転送され――ただし、他の参加者とは1㎞以上離れた位置になる――そこから最後の1人になるまで戦うバトルロイヤル、という形式になっている。

 

 そして、15分に1回、上空の監視衛星から情報が発信されるという設定で、各プレイヤーの位置が通知されるようになっている。つまり、15分ごとに他の全てのプレイヤーに、自分が潜伏している位置が知られるため……同じ場所に潜伏していられるのは15分が限界ということでもある。

 

 これを利用し、キリト君と『保護者会』メンバー3名は開始後30分以内に近くにいた者同士で寄り集まってタッグを組み、2人1組で生存率を上げて行動を取るようにする、というのが私達が最初に考えていたプランだった。

 

 しかし、その情報を見る限り……運が悪いことに、4人はかなり広い範囲にうまくばらけてしまったらしい。

 

 開始15分後の情報を見る限り、ナツメ先生とクラディール先生が一番近い。おそらくは、合流してツーマンセルで動くのはまずはこの2人になるだろう。

 そこからやや離れたところにグリセルダさんがいて……キリト君は1人、ひと際離れたところに飛ばされてしまっていた。あれは……合流には時間がかかる。

 

 最悪、1人で行動することになるかもしれない……ってのも覚悟が必要かしらね。あまりに離れすぎて、合流のために動くこと自体が危険だっていう場合は、そうすることも選択肢だったし。

 

 そして、キリト君が事前に仲良くなった子で、彼女はおそらく『死銃』ではない、といっていた『シノン』という子と……現段階で『死銃』である可能性がひと際高く見られている『ステルベン』というプレイヤーが、その近くにいるのがまた……キリト君はもう、引きがいいのか悪いのか。

 

 ……あと、そのシノンって子とは別に、ちょっとゲーム内で仲良くなっただけよね?

 初心者で優しくしてもらって、色々レクチャーしてもらっただけよね? 何かこう……SAOでもあちこちで乱立させたっていう『ふらぐ』的なものを立ててはいないわよね?

 

 未来の息子がいろんな人に慕われてるっていうのはお義母さんとしても嬉しいけど、その大半が今もう既に女の子(しかも同年代周辺)だっていう現状は、ちょ~っとだけ気になっている部分もあるのよ? アスナも『また増えるのかしら……?』って心配してたし。

 

 まあそれはともかく……GGO試合会場内のプレイヤーをランダムに移すカメラの映像で、私達は事態が動くのを待っていた。

 

 

 

 ……は、いいんだけど……

 

 ええと、何ていうのかしら……ロールプレイを楽しんでるだけなのかもしれないけど、その……皆さん、ちょっとはっちゃけすぎじゃないかしら?

 

 なんかもう、インパクトある映像が多すぎて、今回の『死銃』のことが頭からどっか抜けて出ていってしまいそうになるのだけど。

 

 そりゃ、『死銃』を不必要に刺激しないように、あからさまに仲間っぽく協力するのはまずいから、あくまでキリト君……どころか、SAOとは縁もゆかりもないその辺のプレイヤーを装って参加するっていう方針だったけど、だからって……

 

 

 

『首、置いてけぇぇええぇ―――っ!!』

 

『うわあぁあぁぁ――っ!?』

 

「「「きゃああぁあ――っ!?」」」←アスナ他

 

 予選の時と同じ般若の面に加えて、どこで手に入れて来たのか、チェーンソーを振り回して相手を脳天から股下まで両断して、トラウマを刻みつつ惨殺するクラディール先生とか、

 

 

 

『ごめんねー、ル○ン♪』

 

『いやルパ○って誰あぎゃああぁぁ―――っ!?』

 

(((…………ゴクリ)))

 

 峰不○子よろしくセクシーな女スパイのロールプレイで、胸の谷間から取り出した(だからなぜそこから取り出すの)手榴弾で相手を爆殺しつつバイクで逃げ去っていくグリセルダさんとか、

 

 

 

『――狙い撃つぜ』

 

――ガガァン!! ドガァァアアァン!!

 

「「「……?」」」←何が起きたかわからない

 

 敵の攻撃を回避しながら、目にも留まらない早撃ち×2で、相手の武器を破壊しつつ、近くにあった車両のガソリンタンクを撃って起こした爆発で相手を仕留めるナツメ先生とか、

 

 

 

 ……なんかもう、普通に戦っても勝てそうだというか、このまま他のプレイヤーごと全員駆逐して優勝しちゃうんじゃないか、っていうムードになりつつあるんだけど。

 

 キリト君も、一回映った時には、前評判通り、乱れ撃ちの弾丸の中を剣一本で切り抜けて、近づいて相手を切り捨てるなんて真似をしてたし……。

 

 単発のハンドガンとかならともかく、サブマシンガンの掃射すら切り落として防ぐって何なの……予選の決勝では、対物ライフルの弾丸すら斬ったって聞くし……もうアレ本職のジェ○イの騎士より強いんじゃないかしら? そう思えてくる。

 

 SAO生還者を甘く見てたわね……実力も、思考回路も……。

 

 何、あんたが言うな? 失礼ね、私はアスナが絡まない限りあそこまでぶっ飛んだ行動はとらないわよ。……多分。

 

 ともかく、今現在、キリト君達4人は、誰も合流出来てはいない。

 ホラーとセクシー、ガンアクションにSF、それぞれの持ち味(?)を生かした戦闘で、迫りくる敵を次々撃退しているものの……未だ、本来の目的である『死銃』の討伐、及び他のプレイヤーの保護にはつながっていない。

 

 いや、死銃の手にかかる前に倒している、と取れなくもないのかもしれないけど……以前、死銃は、酒場のモニターに映っていたプレイヤーを撃って、それで『撃った』ということにして死亡させたという演出方法を取ったこともあるし、それがアリなら『死体』を撃ってもOK、とかいう無茶苦茶な手法にも出かねない。油断はできないわね。

 

 そこまで考えを及ばせたところで……とうとう、事態が動いた。

 

 

 

『俺と、この、銃の名は……『死銃(デス・ガン)』』

 

『この銃には、本物の死を、与える力が、ある』

 

『忘れるな、まだ、終わっていない―――『イッツ・ショウ・タイム』』

 

 

 

 名前もわからない、ある1人のプレイヤーが、空間から滲み出すように現れた、髑髏マスクのプレイヤーに、いかにも弱そうな黒い拳銃で銃撃され……その直後、消えた。

 HP全損による死亡判定ではなく、『回線切断(ディスコネクション)』という文字を残して。

 

 その、消える瞬間に……胸を押さえて、苦しむような仕草を……確かに見せて。

 

 なまじ事前知識があったからだろう。それを見て、私は……背筋が寒くなるのをこらえられなかった。

 

 あそこで何が起こったのかは、わかる。

 『死銃』による、聞いていたトリックを使った、殺人だ。

 

 つまり、あの瞬間……人が死んだ。

 

 どうしようもなかったのはわかっている。『死銃』が誰なのかも――SAO時代のプレイヤーネームはともかく――あの撃たれたプレイヤーだって、誰なのかわからないのだ。殺人を防ごうにも、そうするだけの手段というものがなかった。

 クリスハイトという、国家公務員が手を回してくれてなお、それは不可能だった。

 

 だとしても、こうして……そうなったのであろう、という推測ではあるけれど、見たのはあくまでゲームの中の戦いややり取りまでだけれど、人が死ぬ瞬間というのは、ショックが大きかった。

 そして、それを平然と実行している人間がいる、ということも。

 

 アスナ達が、どういう世界で2年もの間戦って来たのか……私はまだまだ、理解が及んでいなかったんだな、と、今日この瞬間痛感させられて……その瞬間、手にぬくもりを感じた。

 

 見ると、いつの間にか小刻みに震えていたらしい私の手に、隣にいるアスナとユイちゃんがそっと手を添えてくれていた。

 温かく、そして不思議と頼もしくも感じるその手の温度を感じながら、私は呼吸を整えて精神を落ち着け……また、画面に視線を向ける。

 

 戦いはまだ、始まったばかりだ。

 

 

 

 


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