ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第26話 赤いアッガイ Aパート

 オデッサ作戦により、マ・クベの支配していた鉱山地帯からジオン軍は撤退した。

 これにより戦いは新しい方向へと進む。

 

 そして今、応急修理を終えたホワイトベースはオデッサの戦いで受けた傷を直す為に連邦軍の北アイルランド補給地へ向かっていた。

 

「これで久しぶりに羽をのばせるぜ」

 

 街に繰り出せることを楽しみにするカイだったが、

 

「そうでもありませんよ」

 

 そうアムロに水を差される。

 

「なんでだ?」

「これから行く所だって連邦軍のドックでしょ。僕らはもう正式の軍隊です。これから何を命令してやらされるかわかったもんじゃありませんよ」

「そ、そうか。それも面白くねえな」

 

 落胆するカイだったが、

 

「そこはお姉さんに任せなさい」

 

 と、無い胸を張るミヤビ。

 

「ベルファストのドックといったらプロの技術者が詰めているんだから仕事なんて引き継いで、いいお店を紹介してもらって名物料理を食べるぐらいできるはずよ」

 

 旧21世紀でも世界最大の乾ドックがあった場所。

 前世では造船所も持っていた(後に造船部門は子会社化、同業他社との合併で別会社となったが……)某重工に勤務していたミヤビだから、業者に引き継いでしまえばあとはフリーというのは分かっている。

 さらにホワイトベースの戦術コンピュータにインストールされたサラが制御する手のひらサイズの歩行型ミニドローン、モビルドールサラがミヤビの肩の上で主人同様胸を張り、

 

『ホワイトベースと搭載兵器の不具合個所の修理伝票は集約済みなので、引き継ぎ準備もばっちりです』

 

 そう確約してくれる。

 

「アイルランドは農業と漁業が盛んだから、新鮮で美味しい物が食べられそうね」

 

 前世でも出張に行ったらその土地の食べ物を楽しむことにしていたミヤビは、もう観光モードだ。

 というか逆にドック入りになった船や、工場送りにされた機器について、立会検査や見学のためにユーザー企業や組織(自衛隊とか)から人を受け入れる、ということもあって。

 そういう人たちとの夜のお付き合い、というのもやっていたミヤビ。

 だからまぁ、半舷休息して街に繰り出す少年少女たちをランチやディナーに連れて行くぐらい何ともない。

 いや、リクルーターとして母校を訪れて、就職希望の後輩たちに食事をおごり懇親を深めるようなノリだろうか。

 

(まぁ「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」ってタイプの人も居るから無理には誘わないけど)

 

 そう考えるミヤビはどちらかと言うと、そっちのタイプ。

 技術者、理系の人間によくある過集中傾向な人間なので、食事時ぐらい頭を働かせずゆっくりしたい性質だ。

 だからこそ他者にも強要はしない。

 その辺は、来たいという者だけ連れて歩けばいいだろう。

 

「アイルランドの料理って何があったかしら?」

 

 頬に手を当てながら首を傾げるのは、ミライ。

 

「アイリッシュシチューが有名よ。アイルランド風の肉じゃがみたいなものね」

 

 と、ミヤビはいつもの凍り付いた美貌で、しかし妹であるミライには分かる微妙に嬉しそうな雰囲気をにじませて答える。

 ベルファストの位置する北アイルランドは、ミヤビの前世で言う『グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(イギリス)』を構成する4つの地域のうちの一つ。

 そして北アイルランド料理は、メシマズと揶揄されるイギリス料理と比較的美味しいとされるアイルランド料理、両方から影響を受けている。

 つまり、ここはアイルランド料理系統のメニューを選ぶべきだろう。

 

「よっしゃ、着いたら街に繰り出すぜー!」

 

 気勢をあげるカイ、そして少しはマシな表情になった…… 黒い三連星に良いようにしてやられたのを引きずっていたのをようやく振り切った様子のアムロに、ミヤビは瞳を細めるのだった。

 

 

「?」

 

 北アイルランド、地球連邦軍のドックが存在するベルファストの地を揺るがす飛行音。

 郊外に位置する小さな家、双眼鏡片手に飛び出した少女、ミハル・ラトキエは、

 

「ああっ」

 

 上空を飛行する白亜の船体に驚く。

 

「見たこともない戦艦だわ」

 

 慌てて写真を撮影。

 家に帰り、アンティークな鏡台の箱台部分に隠していたキーボード、まるで第二次世界大戦中のドイツ軍の暗号機器、エニグマのような装置を叩いて、

 

「初めて見る軍艦、第2ドックに入る様子、形式不明につき」

 

 写真データと共に通信筒に登録。

 それを床下に隠したヘリウムガスボンベで膨らませた風船で上空に飛ばし、近海に設置されたジオン軍マッドアングラー隊の中継ブイに無線送信するというもの。

 

 ……さすが、007の国とも言うべきギミックか。

 

 

 

 ジオン軍キシリア配下の潜水艦諜報部隊、マッドアングラー隊。

 その旗艦である巨大潜水母艦マッドアングラーの発令所、

 

「107号からの情報です。SR4に大型戦艦が入港したそうです。写真は駄目です、電波障害を受けています」

 

 副官としてキシリアから付けられたマリガン中尉から報告を受けるシャア。

 

「見せろ」

 

 写真を受け取るが、画像が乱れていて判別できない。

 

「うーん、わからんな。この辺りにはブーンの隊がいたな?」

「は」

 

 そこでシャアは思案して、

 

「アルレット」

『はい大佐』

 

 モビルスーツデッキに通信をつなぐ。

 答えたのは場違いに幼い姿の少女。

 膨らみかけの胸、すんなりと伸び始めた手足はローティーンぐらいの年恰好に見えるが、人体実験により成長に影響が…… というより老化しにくい体質になっている彼女は過去が抹消されていることもあり正確な年齢は分からない。

 肩までかかるまっすぐな、ライトブラウンの髪の毛先が彼女が振り向く動きに合わせて揺れ、その青い瞳がシャアを見返す。

 ミヤビの前世の記憶にある小説、マンガ、そしてアニメにもなった作品『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』登場のヒロイン、アルレット・アルマージュ。

 史実でも彼女はこの時期、シャアに拾われてはいるのだが……

 

「私のモビルスーツはどうなっている?」

『………』

「どうした?」

『大佐…… お話がありますので、モビルスーツデッキにお越しください。よろしいですか?』

「ああ、わかった」

 

 シャアはうなずき、

 

「マリガン、ブーンの隊に情報を送るんだ。何か分かり次第報告をくれ。私はモビルスーツデッキへ降りている」

「……了解いたしました」

 

 まさか、自らモビルスーツで出るつもりなのかと不安そうな顔をするマリガンに、

 

「そんな顔をするな、君は私の副官なのだぞ」

 

 と、言ってやるシャア。

 これまで副官をつとめていたドレンは恰幅のいい豪放なタイプだったが、それとは正反対の線の細い生真面目なエリートタイプ。

 扱い方もまた変えねばなるまい。

 

「ではよろしく頼む。私は私のフィッターエンジニアから怒られてくるとしよう」

 

 そう言い残し、シャアは発令所から退出した。

 

 

 

「分かってますか、大佐。ご自分の立場を……」

 

 赤く彩られたモビルスーツ。

 そのコクピットで機体の仕上がりを確認するシャアに、フラナガン機関に試験体『VII(セブン)』として収容されていた少女、シャアから受け取った名を『アルレット・アルマージュ』という彼女は忠告する。

 

「イヤというほどな。君の手厳しさは私には得難いものだと感謝している」

 

 そう答えるシャア。

 アルレットに人間らしい感情を獲得するきっかけを作ってくれたもう一人の恩人、ララァ・スンはシャアに引き取られた彼女と入れ違いにフラナガン機関へと預けられた。

 その彼女に、シャアのことを託されたからこそ、物怖じせずにアルレットは言うのだ。

 

「ダントン、あなたからも何か言ってやって頂戴!」

 

 アルレットは、シャアに類似したモビルスーツの操縦技術を発揮したことでシャアのフィッターパイロット……

 つまりミヤビの前世の記憶で言うところの『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』でアムロ用に開発されたガンダムNT-1のシューフィッターを務めたテストパイロット、クリスチーナ・マッケンジーと同じ立場にある年若い兵士に話を振るが、

 

「大佐、お気をつけて」

「ああ、ありがとう」

「ダントン!」

「いてっ!」

 

 ダントンはさらっと流してしまい、アルレットから手にしたクリップボードで叩かれる。

 

「こうなったら、この人には何を言っても無駄なのはもう分かってるだろう」

 

 自分よりシャアとの付き合いが長いダントンにそう言われ、

 

「さすが私のフィッターパイロットだな。私をよく理解している」

 

 本人にまで同意され、

 

「諦められているだけです!」

 

 と声を上げるしかないアルレット。

 そしてシャアは彼らのやりとりをBGMのように聞き流し、

 

「悪くない感触だ」

 

 そう言って、腕部武装ユニット装備のアイアン・ネイルを動かしてみる。

 

「大佐…… 良いですか? この子は例の『ガンキャノン・ショック』による開発機体の絞り込みを生き残った機体ですが、それは武装コンセプトからくる汎用性や陸上での機動力などを買われただけで、重装甲による生存性ではツィマット社が開発していたゴッグの方が上ですし、総合性能ならMIP社が開発していたズゴックの方が上です」

 

 開発していた、と過去形で語るアルレット。

 つまりアムロの黒いガンキャノンの暴れっぷりに危機感を抱き、キシリアはジオンの限られたリソースを開発機種を絞ることで集中させようとしたのだが。

 その結果、特殊機体でバリエーションばかり豊富な水陸両用モビルスーツ群が真っ先に見直し対象に挙げられた。

 破棄予定のアッグが武装してドムとすり替えられラルに押し付けられたように、アッグシリーズと呼ばれるジャブロー攻略のための特殊戦用モビルスーツ群が開発凍結に追い込まれただけでなく。

 一応は完成していたゴッグもズゴックも本格量産には至らず、その系譜は凍結されてしまったということ。

 ただし……

 

『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』登場のガンダム、GPシリーズは地球連邦軍の不祥事隠しのため、ガンダム開発計画そのものと共に抹消。

『機動戦士Zガンダム』にて地球連邦軍が開発したガンダムMk-2は、これらのデータを参考にできず、さらには旧ジオン公国系の技術者も抜きでまったく別に作られていた。

 そんな『車輪の再発明』をしたがる地球連邦軍と違い、ジオンには『ジオン驚異のメカニズム』を支える、CAD/CAMシステムを高度に発展させた『設計開発生産支援システム』が存在する。

 マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』にて紹介され「各エースパイロットの個別要望によるカスタマイズも数日で実物を完成させる」という高レベルの技術力、生産力により、ジオンは短期間のモビルスーツ開発、並びにあれだけ多様なモビルスーツバリエーションを展開できたのだとされた。

 

 ミヤビの前世、旧21世紀でも多品種少量生産にシフトした部品メーカーがそれに近いことをしていた。

 日中、作成する部品のデータを入力しておくと、夜中に無人工場の生産マシン類が動いて翌朝までに作ってくれるというもの。

 それの延長線上にある技術なのだろう。

 

 そして開発凍結された機体のデータも余すことなくその『設計開発生産支援システム』に登録されているため、決して無駄にはならないし、後に改めて凍結解除、再開発を始めることもできる。

 ゴッグ、ハイゴッグのデータに基づき、海の無いアクシズでカプールを開発、生産できたように。

 それが連邦に無いジオンの強みになっていた。

 

 そしてシャアは、そんな経緯を思い起こしながら、

 

「ああ分かっている。私が君たちフィッティングチームの意見を聞かなかったことがあったか?」

 

 と答える。

 

「怒りますよ? 大佐」

 

 そう言って、しかしアルレットは思案し……

 

「意見を聞いてくれるんですね、大佐」

「うん? ああ、しかし君がそのように言うのは初めてだな」

 

 まだ短い付き合いだったが、彼女がこんな風な主張をするのは珍しい、というか初めてだと思うシャア。

 若干の戸惑いを見せる彼に、しかし構わずアルレットは言う。

 

「なら調整中のこの子に何かあったら大変です。私が同乗してサポートしますから」

「おいおい、アルレット」

 

 止めようとするダントンだったが、アルレットは聞かない。

 まぁ、彼女とてフラナガン機関で機動兵器に搭乗したことはあるのだ。

 しかしエルメスのビット起動実験に失敗するなど、サイコミュに対応できない性質のニュータイプであることがわかったため、各種人体実験の素体として徹底利用された上で廃棄処分とされる運命だった……

 そこをシャアとララァに救われたわけなのだが。

 

「ステルス性が高く偵察任務にも使える複座機ですからね、このアッガイは」

 

 反応炉の出力向上と運動性の改良、装甲の材質変更を行ったMSM-04S、シャア用にチューニングを受けたS型アッガイ。

 それがシャアの新機体なのだった。

 

 

 

『ブーンに命令を出すだけでことは済みますが』

「いや、木馬ならこの目で確かめたい。キシリア殿に笑われようが私にも意地というものがあるのでな」

『わかりました。マッドアングラーはここで待ちます』

「すまん、マリガン」

 

 そう告げて、シャアの赤いアッガイは発進する。

 

(マッドアングラー隊にまわされて早々に木馬に出会うか……)

 

「私は運がいい、なんて考えていませんよね、大佐」

「………」

 

 コ・パイロット席に自分をジト目でにらむアルレットを乗せて。

 

 

 

 円盤型レーダードームに機首と左右2対の水平翼が付いた、名前通り皿のような機体形状が特徴の高速哨戒機ディッシュ。

 ミノフスキー粒子による戦場環境の変化により本来の任務を果たせなくなったこの機体は、その遠距離索敵性能を生かして要人用高速連絡機として使用されている。

 これを使用してレビル将軍はベルファストを訪れていた。

 

「先程の連絡ではあと一日で外側の修理が終わるそうです」

 

 眼下のドックで修理中のホワイトベースを見下ろし、部下の説明を聞く。

 

「うむ、よかろう。本当なら連中に一週間の休暇もやりたいところだがな」

 

 ため息交じりに漏らすレビル将軍。

 先のオデッサ作戦の結果が微妙……

 極論すれば戦略的には何の意味もない戦いに戦力を浪費させただけに終わったこともあり、連邦軍には余裕が無いのだ。

 

 

 

「二番艦、ゴッグ発進後、北からまわり込んで行け。シャア大佐が来るまでに木馬を沈めてみせろ」

 

 2隻のユーコン級潜水艦からなるブーン隊は、シャアの到着を待たずして、動き出していた。

 

「ゴッグ発進用意」

 

 北アイルランドのベルファストに向け、水陸両用MSゴッグを出撃させる。

 

「ゴッグは8分後に木馬と接触するはずです」

「ん。30秒前にミサイルを発射し、ゴッグの上陸を援護する。後方待機で割を食ったと思ったが、出番があったとはな」

「そうですね、主戦場から外された我が隊には開発の凍結で補給に問題がある機体ばかりが回されましたが……」

 

 副長の言葉に、しかしブーンは首を振る。

 

「性能には問題は無い。この降って沸いた任務には十分なはずだ」




 ここにきてジオンのモビルスーツ開発に異変が。
 水陸両用モビルスーツの量産機はアッガイに(ついでにシャアの乗機も……)
 なんでさ、という話は今後、語られる予定です。
 普通の二次創作では開発機体を絞って(例えばグフを飛ばすとか)リソースを集中すると、その分強力な機体が…… となりますが。
 そう単純には行かない、逆に弱体化してない?
 という風になったりするのがこのお話です。
 なおブーン隊にゴッグがあったように、ゴッグ、ズゴックも出番はあります。
 ただしゾックは……


> ミヤビの前世の記憶にある小説、マンガ、そしてアニメにもなった作品『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』登場のヒロイン、アルレット・アルマージュ。

 詳細を求めるなら小説。
 読みやすいのはマンガでしょうか。
 アニメ、映像作品は27分のダイジェスト。
 予備知識なしには辛い、小説やマンガを読んで実際の動く戦闘シーンを見てみたいという需要向けになっていますので。

 ただサンライズさんって『映像作品が一番の公式』という見解なので、ファン、そして私のような二次創作に携わる者としては、
「映像作品にもなった公式設定です」
 となるので大きな意味があったりするんですけどね。
 つまりアルレットはこの時期のシャアに関わった公式ロリということで。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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