ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第27話 女スパイ潜入! Dパート

「お帰り、お姉ちゃん」

「お帰り、お姉ちゃん」

 

 帰宅したミハルはジルとミリーに迎えられる。

 

「恐くなかったかい?」

「大丈夫さ」

 

 男の子らしくジルは虚勢を張る。

 

「あいつは?」

「少し前に荷物を持って出てったよ」

「なんか言ってたかい?」

 

 そう聞かれて顔を見合わせる二人。

 ミリーが、

 

「頑張れよ、って」

 

 と答え、ジルもうなずく。

 ミハルは驚いて、

 

「頑張れ? カイさん……」

 

 遠い目をしてそうつぶやく。

 そして、二人の前にしゃがみこんで目線を合わせ、

 

「さ、お前たち。姉ちゃん、仕事に行ってくる。今度はちょっと長くなるかもしれないけど、いいね? お金は少しずつ使うんだよ。置き場所は誰にも教えちゃいけないよ」

 

 肩に手を置きそう言い聞かせる。

 

「うん、わかってるって」

 

 強がりを言うジルにミハルは二人を抱いて頬を寄せる。

 

「この仕事が終わったら戦争のない所に行こうな、3人で。辛抱すんだよ、二人は強いんだからね」

「うん、大丈夫」

 

 ジルはされるがままにしてうなずき、ミリーは、

 

「姉ちゃん、姉ちゃん、母ちゃんの匂いがする」

 

 そう言って、少し崩れた、哀しさの交じった笑みを見せる。

 ミハルは涙がこぼれそうになるのをこらえ、

 

「思い出させちゃったかね……」

 

 そうつぶやくのだった。

 

 

 

 ホワイトベースを囲うドックの壁面が吹き飛ぶ。

 

「後方4時、モビルスーツが現れました」

 

 マーカーからの報告に、ブライトは通信装置に向かって叫ぶ。

 

「ハヤト、セイラ、ガンタンクはどうした?」

 

 

 

「狙撃位置についています」

 

 ブライトに答えるハヤト。

 そして、

 

『セイラさん、今です!』

 

 サラナインの報告どおり、海からズゴックが現れる!

 

 

 

「俺にはもう関係ねえんだよな、ドンパチなんか」

 

 戦火に曝されるベルファストの港、そしてホワイトベースがあるドックを見下ろすカイ。

 

 

 

「速過ぎて、キャノン砲じゃ追いつかないわ」

 

 苦戦するガンタンク。

 

「この、この、このっ!」

 

 ハヤトは両腕の40ミリ4連装ボップ・ミサイル・ランチャーで弾幕を張るが、

 

「うわーっ! な、なんて射撃の正確な奴だ!」

 

 反撃のメガ粒子砲を受け、左肩の120ミリ低反動キャノン砲1門を潰される。

 

 

 

 ズゴックのカラハは、

 

「これがあの木馬のモビルスーツか、ハハハ、噂ほどのものじゃないぜ」

 

 そうあざ笑う。

 

 

 

「関係ねえよ。し、しかしよう、チクショウ、なんで今更ホワイトベースが気になるんだい」

 

 楽しいことより辛いこと、嫌なことの方が多かったはずだ。

 カイの脳裏に次々によみがえる記憶。

 

「軟弱者!」

 

 セイラにそう言ってぶたれたのが一番の始まりか。

 

「ほんと、軟弱者かもね」

 

 そう、つぶやくカイ。

 

 

 

 浮上して対空砲火を上げるユーコン級潜水艦。

 VLS(Vertical Launching System)、垂直発射管から援護の対地ミサイルを放つ以上、位置は割れる。

 ミノフスキー粒子のおかげで強力な誘導兵器、対艦ミサイルを必要以上に恐れる必要もないというのであれば、こういう選択もありうるのか。

 その昔、潜水艦の潜航能力が低かった時代には多くの潜水艦に対空砲が積まれていたが。

 上空から攻撃を仕掛けるミヤビには、そんな時代にタイムスリップしたようにも感じられてしまう。

 

「やれやれだわ」

 

 思わず漏れるため息。

 そこにホワイトベースのフラウから通信が入る。

 

『ミヤビさん、戻ってきてください。港でセイラさんとハヤトのガンタンクが敵のモビルスーツに……』

 

 それを受けミヤビは一瞬考えこむが、答えが出る前に、

 

『こちらリュウ、コア・ファイター』

 

 接近する味方機。

 

『援護の対潜哨戒機三機を連れてきたぞ』

「対潜哨戒機?」

『対潜戦闘の専門家、ドン・エスカルゴ』

 

 ドン・エスカルゴは地球連邦軍が有する対潜哨戒機だ。

 

『うっす、よろしく』

 

 そんな気安い通信をミヤビに送りつつ、胴体部の弾倉から爆弾を投下する。

 

 が…… 外れッ!

 逆に対空砲に墜とされるという、圧倒的出オチ……!

 

(本当に任せていいのかしら?)

 

 と思うミヤビだったが、まぁセイラとハヤトの方が大事と考え機首を返すのだった。

 

 

 

「とにかく連中ときたら手が遅くて見てられねえんだよ」

 

 とうとうしびれを切らし走り出すカイに、その胸元、ジャンパーの中に潜り込んで顔だけ出しているサラは聞く。

 

『カイさん、ここから走って行くつもりなんですか?』

「しょうがねぇだろ、足になるもんがねぇんだから」

『ありますよ』

「あん?」

 

 立ち止まるカイに、サラは高々と掲げた手でフィンガースナップ、指パッチンを……

 しようとしてスカる。

 

『あれっ、あれれ?』

 

 どうしてもできないサラの代わりにカイが、

 

「こうかい?」

 

 と指を鳴らし。

 

『そうです!』

 

 うなずくサラ。

 そして、

 

『出ろぉぉぉ! ドラケンE改ぃぃッ!!』

 

 と叫ぶ。

 その声に応えるかのように、木陰に隠れていたドラケンE改が木々を割り姿を現す!

 

 まぁ、この機体を制御しているのもサラ自身な訳で、とんだ自作自演ではあるのだが。

 

『乗ってください、カイさん!』

「ぁー、……しゃあねえなぁ」

 

 サラに促され、サスペンションを兼ねる脚部アクチュエーターを最大に沈めた、いわゆる降着ポーズを取るドラケンE改によじ登り、解放されたコクピットにつくカイ。

 

 

 

 戦火に曝されるドック。

 混乱の中、地球連邦軍女性兵士の制服に身を包んだミハルは、ホワイトベース内部に潜入することに成功する。

 

 なお、そのモビルスーツデッキでは、

 

『早く、早く帰って来てください、カイさん』

 

 カイは必ず帰って来ると信じ、そのためにガンタンクはサラナインに任せ、自分はコア・ファイターでカイと共に出るつもりのサラスリーが待っているのだが……

 彼女はカイがサラのドラケンE改に乗って戦場に向かってしまったことをまだ知らない。

 

 ……これもすべてサラってやつのせいなんだ。

 

 

 

「これ以上近づけさせるものですか!」

 

 一門だけに減った120ミリ低反動キャノン砲で上陸したズゴックを狙うセイラ。

 彼女とハヤトが操作するガンタンクは、後退しながらも粘り強く戦う。

 

 

 

「しぶとい。よーし!」

 

 ズゴックは頭頂部にある6門のミサイル発射筒からミサイルを乱射しつつも、熱核ジェットエンジンを全開にして、「どすこい」とばかりに頭から突っ込む!

 

 

 

「うわーっ!?」

 

 ズゴックのミサイル攻撃と頭突きを受け、その衝撃に悲鳴を上げるハヤト。

 頭部がボディと一体化したズゴックはこのような使い方をしても問題が無い堅牢さを持っているのだ。

 吹っ飛ばされながらもなんとか転倒を免れたガンタンクに、ズゴックは両腕を振り上げて突進してくる。

 

『ハヤトさん、『大雪山おろし』ですっ!』

「そうか!」

 

 サラナインの助言に、閃くハヤト。

 彼はあらかじめ、サラナインからライブラリに登録されていたその技を教えられていた。

 掴みかかってくるズゴックのクローに、ガンタンクの両腕、40ミリ4連装ボップ・ミサイル・ランチャーの外装、4本の砲身保護シェルをかみ合わせる。

 

(相手の速度、自分の速度を利用して…… 相手のバランスを崩し、直線の運動を円運動に変える…… こうやって!!)

 

 右のキャタピラを正回転!

 左のキャタピラを逆回転!

 その二つのキャタピラの動きによって生じる圧倒的な回転運動はまさに竜巻的『crazy judo throw』!!

 

 

 

 振り回されるズゴックのコクピット、驚愕するカラハ。

 

「外れ、ねぇっ!!」

 

 指が無いのにどうしてガンタンクと絡んだクローが外れないのか。

 それは柔道の組み手では柔道着を掴むのに、握力では握っていないからだ。

 指で力任せに握っていたのでは、すぐに限界がきてしまう。

 だから指の根元の関節は使わず、先の方で引っ掛けるようにして持ったら親指の付け根の手のひらを押し付けるようにして固定するのだ。

 ハヤトの操るガンタンクは、この技術を応用することで組み合った腕を外せないようにしているのだった。

 

 

 

『大・雪・山・おろーし!!』

 

 サラナインの音声と共に投げ飛ばされていくズゴック。

 

『セイラさん、止めですっ!』

「分かったわ!」

 

 一門だけに減った120ミリ低反動キャノン砲でズゴックを狙うセイラ。

 

「今っ!」

 

 そして命中!!

 

「やった!」

 

 しかし、

 

 

 

「よくもやってくれたな、ジュードー・ボーイ!」

 

 何事も無かったかのように起き上がり、ガンタンクにつかみかかるズゴック。

 ミヤビの知る史実でもズゴックはガンタンクの120ミリ低反動キャノン砲の砲撃に耐えていた。

 それだけの装甲を持っているのだ。

 今度は投げられないよう、両手のクローでガンタンクの前腕を握り込み、横へと引っ張る!

 

「ハハハハッ、引きちぎってやる」

 

 

 

「だ、駄目だ。やられすぎでパワーが!」

 

 悲鳴を上げるハヤトだったが、

 

「あれ?」

 

 目の前のズゴックの胸元から生えているビーム刃。

 そして通信モニターに映る、見慣れた姿。

 つまり、

 

「あら、お帰りなさい、カイ君」

『やあ、セイラさん。皆さんの見てるのつらくってね、ヘヘッ』

 

 カイの操るドラケンE改が、もみ合って動きを止めたズゴックの背後から甲壱型腕ビームサーベルを突き上げたのだ。

 

【挿絵表示】

 

『な、ハヤト』

 

 と話を振るカイにハヤトは不貞腐れ、

 

「どうせそうでしょうよ」

 

 とそっけなく答えるのだった。

 

 

 

「これだから軍隊式格闘術とか、実戦で使われる格闘術ではつかみ合いになっても3秒以上もみあってはならないとされるのよね」

 

 上空からその顛末を見届けたミヤビはそうつぶやく。

 柔道もそうだが組み合っての格闘というのは、相手が複数居るとこのように簡単にカットされてしまう。

 また相手がナイフなど刃物を隠し持っていた場合も組み付いたところでブスッと刺されて終わりだから気を付けないといけない。

 

『あははは、カイさんにいいところ取られちゃいましたね』

 

 と、サラが言うとおり傍観していたわけではなく、ガンタンクの窮地を救おうと駆け付けたところでカイのドラケンE改に割り込まれてしまったわけだったが。

 

「あとはアムロね」

 

 機首を返すミヤビ。

 

 

 

「……来る」

 

 ガンキャノンの対潜迫撃弾により一方的にタコ殴りにされ、業を煮やしたゴッグが海岸線上のガンキャノン目指して接近してくる。

 これが事前に察知できるのもソノブイを投下してくれたミヤビのおかげだ。

 

『今!』

 

 推進器を全開にして海面上、目の前に躍り出たゴッグに向け、アムロは左肩の240ミリ低反動キャノン砲を放つ。

 着弾で吹っ飛んだところに……

 

 

 

「とどめ!!」

『アンヌ ムツベ!』

 

 低空、水面を滑るかのように飛来したミヤビのドラケンE改可翔式が甲壱型腕ビームサーベルでゴッグを真っ二つにする。

 重装甲のゴッグであってもビーム兵器に対しては無力なのだ。

 

『大自然のおしおきよ!』

 

 決め台詞を吐くサラ。

 

【挿絵表示】

 

(サムライスピリッツ、それも初代ね……)

 

『サムライスピリッツ』はミヤビも前世で遊んでいた対戦格闘ゲーム。

『アンヌ ムツベ』はアイヌの巫女にして戦士、ナコルルの必殺技で、身を低くして刀を突き出し滑り込むように突進して斬り付けるというもの。

 下段攻撃のように見えて、初代では上段判定の攻撃であり。

 そしてこのゲーム、2本目を斬撃でフィニッシュするとまれに相手が真っ二つになりながらふっとぶ演出が入るのだった。

 そう、先ほど斬り捨てられたゴッグのように……

 

 

 

「残った一機はガンキャノン、ドラケンE改可翔式により撃破。敵潜水艦、後退していきます!」

 

 マーカーからの報告。

 

「ようし、各部チェック。エンジンの整備終了後、ただちに発進だ!」

 

 そう指示するブライト。

 

 

 

「スパイの107は木馬に潜入した模様です。ゴッグ、ズゴックは撃沈されたとのことです」

「うん。まあ、そんなところだな」

 

 マッドアングラーで報告を受けるシャア。

 

「ブーンの責任だ。彼にはスパイと接触を取る手筈を整えさせろ」

「はっ」

 

 

 

 その夜、ホワイトベースは破壊された街をあとにした。

 一人のスパイを乗せて。

 

 

 

次回予告

 シャアの追撃の手は休むことを知らない。

 危機の連続の中、カイとミハルの小さな心のふれあいが悲劇を生む。

 モビルドールサラよ、安らかなれ、と誰が言えよう?

 次回『大西洋に消ゆ』

 君は生き延びることができるか?




 27話も終了。
 例の騒ぎで外出を控える日々。
 私は自室でこのお話を書きつつも『罪』、じゃなくて『詰み』の数を減らすべくプラモデルを作っています。
 以前、コズンを乗せたツヴァークと、そしてその対抗馬たるスコープドッグの改修機。
 完成したら本編に登場させるか、番外編を書くか、まったく別のお話を書くか。
 夢が広がりますね。


>『ハヤトさん、『大雪山おろし』ですっ!』

 OVA『真ゲッターロボ 世界最後の日』で自在に伸びる両腕で造った竜巻空間に捕らえ投げ飛ばす技、というように描写されて。
 それ以降の作品、特にスーパーロボット大戦シリーズがその影響を受けて同様な描写をした結果、そういう技という風な認識が広まっていますが、元々は掴んだ相手を自分の体を中心に回転して振り回し、遠心力をかけてから投げ飛ばす技なのでした。


> その二つのキャタピラの動きによって生じる圧倒的な回転運動はまさに竜巻的『crazy judo throw』!!

『crazy judo throw』で動画検索をかけると実際に柔道の試合で相手を掴んで回転して振り回し投げ捨てる選手が出てきます。
 実はアリな技なんでしょうね。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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