ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第32話 強行突破作戦 Aパート

 シャアの指揮するザンジバルと接触をしたホワイトベースではあったが、これを討ち取ることはできなかった。

 ドラケンE改可翔式が奇跡的にモビルアーマー、ビグロを殲滅するにとどまったのである。

 

 

 

「援軍ですかね? また一機接触するモビルスーツあります」

 

 マーカーからの報告に、ブライトは問う。

 

「シャワー室に行った連中はどうした?」

「各デッキでメカの整備中です」

 

 その回答にブライトは、フラウ・ボゥに指示。

 

「フラウ・ボゥ、一機か二機発進させろ」

「誰にします?」

「体の調子の一番いい者でいい」

 

 フラウは一瞬考え込み、

 

「ハヤトですか?」

 

 という結論に。

 

「急がせろ」

 

 ブライトに促され、フラウはモビルスーツデッキに通信をつなぎ、

 

「ハヤト、コア・ブースター発進願います。各機は待機してください」

 

 そう指示する。

 一方、ブライトはブリッジのシートで待機していたセイラに、

 

「セイラ、少し横になったらどうだ?」

 

 と休憩を促す。

 

「でも、敵が」

「スレッガー中尉も加わっている、少し休め。命令だ」

「……はい、そうします」

 

 ブライトが「体の調子の一番いい者でいい」と指示を出したのも、この場に詰めて居た彼女を気遣ってのことだった。

 セイラがブリッジを退出したことを確認して、ブライトはミライに問う。

 

「セイラの身体検査の結果は?」

「別に異常はないわ。いたって健康」

「そうか……」

 

 

 

「コア・ブースター、発進用意させます」

 

 フラウからの指示を受け、メカニックのオムルはうなずく。

 ハヤトもノーマルスーツのヘルメットを調整しつつ、

 

「敵は一機なんですね?」

 

 と確認する。

 

「頼むよ、ハヤト」

「はい」

 

 コア・ブースターに向かうハヤト。

 そして発進。

 

 

 

 一方、コア・ブースターの発艦を確認したアムロは、

 

「ハヤトだけを出すのか?」

 

 とブリッジのフラウに確認。

 

『カイさんはまだシャワールームだっていうし』

 

 そこでアムロは気づく。

 

「ミヤビさんは?」

 

 

 

「そう言えば、ミヤビさんは……」

 

 聞こえてきたアムロの問いに、ブライトも気づく。

 前回の戦闘後、顔を見ていないことに。

 

『ミヤビさんなら、私の中ですよ?』

 

 とドラケンE改可翔式のサラから通信があって、

 

「そうか、ミヤビさんはこの追撃があることを見越して一人、黙って待機していてくれたのか」

 

 おそらく消耗している他のメンバーを気遣って……

 

 ブライトは思う。

 セイラの体調にも配慮して、気を配っていたつもりになっていた自分だったが、こうやってフォローされるとはまだまだ未熟。

 そんな口惜しさ、自分に対するふがいなさを覚えると同時に、ミヤビに見守ってもらえているのだという圧倒的な安心感。

 

「……ミヤビさんの配慮に甘えよう。ドラケンE改可翔式、発進だ」

 

 切なさを押し込めた指示。

 そしてもちろん、姉であるミヤビのことを良く知るミライは、

 

(姉さんにそんなつもりは無いと思うんだけど……)

 

 と盛り上がるブライトとの温度差に首を傾げるのだった。

 

 

 

『はい、ドラケンE改可翔式、発進します』

 

 カタパルト射出されるドラケンE改可翔式。

 

「ふぎゅっ!?」

 

 ミヤビはGウォームも兼ねた強力な加速によりシートに押し付けられ、

 

(なになに、何事ーっ!?)

 

 そのショックでようやく意識を取り戻す。

 

 ブライトはミヤビが敵の追撃を見越してドラケンE改可翔式のコクピットで待機していたのだと思っていたが、もちろんそんなことはない。

 ミヤビはビグロに捕まった際の相対速度差からくる加速度、Gにやられて気絶しっ放しだった。

 ただそれだけである。

 

『あ、ミヤビさん起きました?』

 

 サラの呑気な声に、慌てて状況を確認するミヤビ。

 

(ああ、これはアレ、ジオン軍のビックリドッキリメカの来襲ね)

 

 と悟る。

 

 

 

 最大戦速(ミリタリーパワー)でコア・ブースターを飛ばし先行するハヤトは、

 

「このまま直進する。110秒後に敵と接触。以後、無線封鎖」

 

 相手を視認。

 

「あれか」

 

 両手に鎌を備えた異形のモビルアーマー。

 ハヤトはコア・ブースター装備の二門のメガ粒子砲で狙うが外す。

 そして顔のように見える敵機の機首、口の部分。

 牙のような素子から閃光が集まったかと思うと、その奥に位置する砲身から反撃のメガ粒子砲が放たれた!

 

「な、なんだ? あのモビルアーマーは。さっきのとは違うけど」

 

 

 

「デミトリーが出たのか、あれほど止めておいたのに」

 

 苛立つシャア。

 

「なぜやらせたか? 私の許可もなく」

 

 副官のマリガンに問い質す。

 シャアの命令、無視され過ぎ問題である。

 そもそも『機動戦士ガンダム』の物語の始まり自体、彼の部下の命令無視が発端であるし。

 

「お言葉ではありますが、シャア大佐はトクワン少尉の仇討ちを止められました。それに、デミトリーは以前からモビルアーマー・ザクレロのテストパイロットをやっておりましたので」

「聞いてはおらん、そんなモビルアーマーは」

「実用テスト前に放棄された奴です。しかしデミトリーは、ザクレロの拡散ビーム砲は……」

「ここは我々の庭だと言った。ドレンのパトロール隊との接触も可能だという時に」

 

 マリガンの言い訳にもならない弁明を皆まで聞かずに遮るシャア。

 しかし、それ以上責めたりはせずに視線を外す。

 

「わかった。お前達がトクワンを慕う気持ちはわかるが、気がすんだらデミトリーにはすぐ戻らせろ」

「は、ありがとうございます」

 

 冷や汗をかきながらも敬礼をし、礼を言うマリガン。

 それでもシャアはこれだけは言っておく。

 

「ただし、今後同じことをしたら軍法会議ものだぞ、中尉」

 

 まぁ、シャアのようなタイプの人間には理解できないが、マリガンの行動にも仕方がない部分もあるのだ。

 人間には他人から何らかの施しを受けた場合に、お返しをしなければならないという感情を抱く『返報性の原理』というものが働く。

 一方的に借りを作るのは気が引ける、心理的負担がかかる。

 だから何らかの形でお返しをして、それを解消したいと考える心理作用で、これを利用した商売や交渉のテクニックもあるわけだが。

 

 元々、シャアとマリガンは無理やり徴発するような形でこのザンジバルに乗り込んでいる。

 いわば無理を聞いてもらっている立場だ。

 そういう借りがある以上、自分たちも相手の要請を無下には断れない。

 シャアは自分なりの考えがあるから断れるが、そのシャアの考え、ビジョンを共有していないマリガンには無理。

 

 個人の能力は高いが部下とのコミュニケーションがまずいという人物にありがちなトラブルではある。

 部下、この場合はマリガン自身がシャアの方針を教えてもらっていない、納得していないのに、他人からの訴えを退け説得することなど不可能。

 というか、この状態、組織人なら多かれ少なかれ味わうことがあるが、非情に心苦しいものである。

 コミュ力という生来の気質、武器を持つ者なら何とか出来るかも知れないが、マリガンのように線が細い真面目な優等生、理論、理屈で話を通そうとするタイプだと致命的。

 

 軍隊なんだから上意下達でいいだろう、という話もあるが、そういう意味では組織の最上位にあるキシリアに良い感情を持たれていない横紙破りな行為を自分たちは行っており、相手には、特に戦死したトクワンにはそれでも友好的に対応してもらったという経緯がある。

 これではマリガンが拒絶しきることなど到底無理なのだが……

 

 マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』でシャアを乗せることになった巡洋艦ムサカの艦長は、

 

「能力が高い方について行くのは凡人には堪えるものだ」

 

 と言っていたが、単に能力が高いというだけでなく、その高い見識で見ているものが想定できない、共有できないというのは部下、特に責任ある中間管理職には非常に厳しい、たまったものではない状況なのだった。

 フィクションなら底が知れない有能な人物に見えるかも知れないが、現実にそんな上司が居たら胃に穴が開きかねないのである。

 

 

 

「うわーっ!?」

 

 ザクレロからの攻撃を受け被弾するコア・ブースター。

 

「……ミ、ミサイルもあるのか」

『損傷部、エネルギー伝達回路カット。バイパス回路接続。大丈夫、まだ大丈夫ですハヤトさん』

 

 サラナインがすかさず対処。

 ダメコンを行ってくれるが、ザクレロはさらに機体両脇の4連装ミサイルランチャー二基を連射し追撃を行って来る。

 

 モビルアーマー、ザクレロを相手に苦戦するハヤト。

 テスト中止になった機体、そしてモビルアーマーとしては小型。

 とはいえモビルスーツやコア・ブースターよりはるかに大きい機体はその分、重武装でミサイルも連射できるし、ミヤビの前世の記憶においても、

 

 メインエンジンとバーニアの推力不足から、加速性能・運動性能ともに良好では無かった。

 

 とする資料がある一方、史実において出撃したアムロが、

 

「速いな、さっきのと違うというのか?」

 

 と漏らしているように、

 

 運動性能はともかく。

 ビグロと比較しても速いと言われる、機体の大きさに比較して大型のスラスターを有するがゆえの高速性はある。

 

 としている資料もあり。

 この状況、どうやら後者の方が正解のようだった。

 

 

 

「こんな戦闘機なんぞ、あと一撃で」

 

 ザクレロの拡散ビーム砲をかわして、回避できたと安心したのか無防備にすれ違おうとするコア・ブースター。

 そこに腕のヒート・ナタで斬りつけ、相手の機体を削るデミトリー。

 

 

 

「うわあっ」

 

 悲鳴を上げるハヤト。

 ミヤビの前世、西暦の時代でも軍隊格闘術においてカランビットナイフが取り入れられていたりしたように。

 鎌刃は引っ掛けただけで大きく傷を広げるものなのだ。

 

「だ、ダメだ。コア・ブースターじゃ歯が立たない」

 

 

 

 苦戦するハヤトに、ホワイトベース側でも慌てる。

 

「ミヤビさんのドラケンE改可翔式はまだ着かないのか?」

「ハヤトがコア・ブースターの推力に任せて突出し過ぎました。戦域が遠すぎるんです」

『ブライト、俺がコア・ブースターで追いかける』

 

 デッキのリュウからはそう連絡があるが、

 

「いや待て。新型とはいえ従来の宇宙戦闘機の延長線上にあるコア・ブースターでは敵の相手は荷が重いようだ」

 

 ブライトがそう言って止める。

 パイロットの腕次第で十分戦えるコア・ブースターだったが、史実とは違い配備が遅れ、先ほどの戦闘が初めてでしかも戦果が無かったこと。

 そして今現在、実際にハヤトが苦戦していることで戦力を読み違えているのだ。

 

 コア・ブースターの推力でないと戦場には間に合わない。

 しかし投入したいのはモビルスーツ。

 ミヤビの知る史実ならガンダムの脚にGメカのBパーツをブースター扱いで履かせたガンダムMAモードがあったし、マンガ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』版のコア・ブースターなら機体背部にモビルスーツ搭乗用のデッキ部分があり把手も備えていたのでサブフライトシステムとして運用しモビルスーツを高速輸送するという手段もあったのだろうが。

 

『大丈夫だ!!』

 

 だがそこに通信が割り込む。

 

『こんなこともあろうかと! ドラケンE改可翔式のコア・フライトユニットにはドッキング機構を残してある!!』

「テム・レイ博士!?」

 

 そう、我らがテム・レイ博士の「こんなこともあろうかと!」だ。

 

『先行するミヤビ君のドラケンE改可翔式をコア・ブースターで追いかけ、軸線を合わせたところで機首のコア・ファイターを切り離し。慣性飛行するブースター部分とドラケンE改可翔式のコア・フライトユニットを合体させることで突撃形態へ。名付けてドラケン・クロス・オペレーション!!』

 

 モニターに描いた模式図を見せながら説明するテム・レイ博士。

 

『というわけだ! リュウ君、コア・ブースターをミヤビ君のところまで運んでくれたまえ』

『了解!』

 

 ノリノリな解説の勢いに押されてカタパルト発進するリュウのコア・ブースター。

 

 

 

 苦戦するハヤトのコア・ブースターを光学センサーで確認するも、戦場は遠すぎて。

 

『ああ…… 墜ちちゃう。ごめんね、サラナイン…… ハヤトさん』

 

 間に合わない、助けられないと嘆くサラにホワイトベースから通信。

 

『ベストポジションじゃないか』

「えっ? テム・レイ博士?」

 

 驚くミヤビを他所に、

 

『待たせたな。V作戦技術本部特製のドッキング・プログラム。サラ君、マニュアルの確認はやっていたかね?』

『は、はい。大丈夫です』

 

 勝手に話を進めるテム・レイ博士とサラ。

 

『それでは本番、いってみようか』

 

 そこにさらにリュウのコア・ファイターに搭載されたサラシックスからの通信が割り込み、

 

『基本軸合わせはこちらでやりますね。ハヤトさんとサラナインの救出をたのみます』

 

 と伝える。

 

『あっ、はい』

 

 答えるサラ。

 ミヤビはやるとは言っていないのだが。

 

『ドッキングロック、セーフティ開放。ドラケンE改可翔式との接続信号確認』

 

 サラシックスの同期軸合わせの後、

 

『行ってくれ、ミヤビさん!!』

 

 リュウの送るエールと共に後方から迫るコア・ブースター機首からコア・ファイターが離脱。

 サラは右腕肘ハードポイント接続の60ミリバルカンポッド弐式をパージすると同時に、

 

『回れ!』

 

 とコア・フライトユニットの尾部四隅に装備された姿勢制御システム(Reaction Control System, RCS)、つまり姿勢制御用の小スラスターを用いて機体角を微調整。

 そしてレーザーサーチャーを起動。

 

『誘導信号確認。同調軸、測定よし』

 

 コア・フライトユニットの主翼及び垂直尾翼を折りたたみ、

 

『連結』

 

 コア・ブースターとドッキングする。

 

「連結!?」

 

 何をしてくれるの、とおうむ返しに状況を確認することしかできないミヤビ。

 機体がロックされると同時に彼女の見るHMD画面、その片隅には一気にプログラムドライバーの起動を示すウィンドウの数々が開き『ドラケンE改可翔式突撃形態』の文字が浮かび上がる!

 

『行けえぇぇぇっ!!』

 

 ノリノリで推力を上げてくれるサラに、もう呆れ果てるしかない。

 

『続けて。徹甲砲撃右腕部!』

 

 ……ホワイトベースからミサイル状のものが追いかけてくる。

 

『右腕部武装、連結速度まで減速中』

 

 相対速度合わせ。

 レーザー通信回線でオペレートをしているのは教育型コンピュータの演算力を用いているサラツー。

 

『伝送ニューロン、コンマ5からコンマ8MMP。障害に感なし』

 

 一方、サラスリーは内部に収められた武装ユニットのチェックを行っている。

 弾頭部分の覆い、ペイロード・フェアリングが分離し姿を現したのはド太い黒光りするビームユニット。

 

『制御ユニット第一から第五まで正常に作動しています。衝撃コントロール、始動を確認。連結できます』

 

 そしてドラケンE改可翔式、右肘ハードポイントに接続。

 その後、ロケットモーターが分離し、

 

『頼みます、ミヤビさん、そしてサラ姉さん』

 

 サラスリーから届く切なる願い。

 いや、そんなこと言われても、と思うミヤビだったが、

 

『敵がどれだけ強くても!』

 

 と、サラはイケイケである。

 さらに機体を加速。

 構えた右腕部武装、その砲口にビーム光が収束して行く!!

 

(ちょっと待ってぇぇぇっ!?)




 ジオン軍のビックリドッキリメカ、ザクレロの登場です。
 原作ではゲストメカ扱い、出オチで劇場版では抹消された存在ですが、このお話では更なる出番を考えていたり。
 一方で、ドラケンE改可翔式はコア・ブースターと合体し突撃形態へ。
 こういう、いかにもな熱い合体シーケンスはお約束ですよね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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