ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件 作:勇樹のぞみ
一方、右舷デッキでは、
「よろしいですか? サラちゃんがサポートしますけど、戦闘面ではあまりあてにしないでください。逆立ちしても人間のパイロットにかなわないのが現時点でのAIなんですから」
ドラケンE改可翔式コクピットにつくスレッガー中尉に最終のレクチャーを行うミヤビ。
「要するにドラケンってのは手で動かすんだろ?」
「はい」
「俺向きでいいじゃねえか」
小柄で凹凸の少ないミヤビはスレッガーの守備範囲外なのだろうか。
彼にしては女性に対し割と雑な言葉遣い。
まぁ、ミヤビの知る史実でも彼が声をかけたのはミライとセイラだけ。
フラウなどには目もくれなかったはずだから、まっとうな倫理観を持っていると言うべきか、現金と言うべきか。
しかし、
(だが、それがいい)
とミヤビはうなずく。
……口説かれでもしたらまた首を吊りたくなっただろうから。
案外、女性慣れしているスレッガーだからこそ、無意識にでもミヤビの中身が恋愛対象外だと理解しての言動なのかも知れなかった。
そして、こんな風にためらいなく性別抜きと言うか、男友達と同列に自分を置いてくれる存在はミヤビにとって希少で貴重だったりする。
だから、
「お気をつけて」
と声も柔らかくなるし、
「あいよ」
という飾らない返事にまた嬉しくなる。
スレッガーの操縦するドラケンE改可翔式はカタパルトで弾かれるように出撃して行った。
残されたミヤビは、念のため従来のドラケンE改のコクピットで待機。
(そうよ、何で今まで気づかなかったの?)
とミヤビは自分の策を自画自賛中だ。
これまでホワイトベースではドラケンというミドルモビルスーツでフルサイズのモビルスーツに立ち向かおうなんて酔狂な人間は居なかったし(ベルファストでのカイは例外)、実際、ドラケンE改を知り尽くし、できることとできないことが分かっていて、できることだけをやる、無理をしないミヤビにしか扱うことはできなかった。
しかし、そのドラケンE改もテム・レイ博士によって魔改造され可翔式となり、大気圏内単独飛行が可能なほどの推力と核動力を獲得している。
ならばエンジニアが本職のミヤビが出張る必要など無かったのだ。
だからスレッガーが配属されたこの機会に、彼に機体を譲る。
そしてミヤビは比較的安全な後方哨戒、ホワイトベースの直衛をドラケンE改で行う。
(場合によっては出撃しなくてもいい可能性だってあるし)
ということなので、万々歳なのだ。
『しかし…… よろしいのですか、ミヤビさん。本当ならばあなたが可翔式を……』
ブリッジからのブライトの問いかけにはこう答える。
「ふふっ、相性ですよ。あのスレッガー中尉が一番相性がいい。だから彼が使う。当たり前ですね」
『なかなか…… できることではありませんよ』
感心するブライト。
アムロのような自分の機体にこだわりを持つパイロットを相手にしてきた彼にとって、ミヤビの決断は大き過ぎるもの。
しかも通常のドラケンE改と可翔式では性能が段違いである。
(ミヤビさん、あなたってひとは……)
などと、またもや感動中なのだった。
その頃、南米のジャブローを発したティアンム提督指揮する地球連邦第二連合艦隊の一群が大気圏を突破、ルナ2に向けての進路を取りつつあった。
ミヤビの知る前世の記憶と異なるのは、このビンソン計画、地球連邦宇宙艦隊再建計画にて建造された艦隊を構成するサラミスは『機動戦士Ζガンダム』にて登場した船体前半部に設けられたモビルスーツデッキを持つサラミス改級であるということ。
史実でもまぁ、1年戦争末期にはこのタイプが建造されていた、と言われていたが。
それが全面的に採用されているのはミヤビの関与で生まれた地球連邦軍試作型モビルスーツ運用艦『モック・バー(mock bar)』、つまりランバ・ラル隊の運用する艦からのフィードバックによる影響があったためである。
「来た」
ヘッドレスト脇から引き出した狙撃スコープ。
映し出された点のような敵影を目にしてガンキャノンLの両肩、120ミリ低反動キャノン砲のトリガーを引くセイラ。
「セイラさんかい? 早い、早いよ」
あまりに遠すぎる敵への射撃に、カイが口をはさむが、
『命中です』
信じられないとばかりに戦果を報告するサラスリーに唖然とする。
「何が早いのかしら?」
とセイラ。
ニュータイプというと共感力や洞察力、そしてサイコミュ兵器への適応などがイメージとして持たれるが。
モニター上のドットに過ぎない敵機を狙い撃墜する超遠距離狙撃能力も、その力のうちとされている。
またビーム兵器は遠距離では威力が落ち、最終的には拡散して消える。
大気圏内では特にその減衰は大きい。
では宇宙空間ではどうかというと、今度は重力に捕らわれたり何かに命中したりしない限り飛び続ける実弾の方が有効射程は伸びたりする。
まぁミノフスキー環境下の有視界戦闘だと、目標に命中させられる距離が実用的な有効射程となってしまうわけだが。
つまり最大射程260キロメートル、東京から撃って名古屋近くまで届くという頭がおかしい(誉め言葉)超兵器、ガンタンクと同じ120ミリ低反動キャノン砲。
それらが掛け合わさって生んだ奇跡のような一撃だった。
「見えるわ…… 私にも敵が感じられる!」
つぶやくセイラ。
「さすがアムロの話を元にテム・レイ博士が用意してくれたという装備ね」
感動に打ち震えるが、
『ええ……』
とサラスリーは困り顔。
機動戦士ガンダムにおけるパイロット用ノーマルスーツは非常によくできたもので、信じられないほど薄くしなやかに動きを阻害しないようにできている。
とはいえ宇宙服として生命維持機能を持っているもの。
普通の服のように身体になじむものではないし、ミヤビの前世の記憶にある、富野由悠季監督の手による小説版『機動戦士ガンダム』の中でアムロは、反射神経に反応する肉体の動きを邪魔するものであり、裸で操縦できればもっと楽であるはず。
そして敵の気、殺気をもっとダイレクトに受け取れるはず、としていた。
最近、ニュータイプ能力に無自覚に目覚めてきたこの世界のアムロにとってもやはり皮膚感覚を遮るノーマルスーツは操縦の邪魔に思える、煩わしいものに感じられるようになっていた。
その話を聞いたテム・レイ博士は宇宙服としての生命維持機能は最低限にして、薄く、動きや感覚を阻害しない限りなく皮膚に近い、いや第二の皮膚とも言えるパイロット用ノーマルスーツを用意。
パイロットとしての能力を欲し、悩んでいたセイラに提供してくれたのだ。
そして現実にセイラは目覚ましい能力を見せていた。
実際には兄相手ではないから本来の実力を発揮できているわけではあるが、セイラ本人にはあまり自覚が無いので単純にこのスーツの力が凄いのだと思い込んでいた。
しかし……
『身体の線、出過ぎですよね』
と顔を赤らめたサラスリーが言うとおり、このテスト用の限りなく薄く肌に張り付いたパイロットスーツ。
ミヤビの前世で言うところの「対魔忍スーツかよ!」と突っ込みたくなるほど身体の線が出ていて、それはもうエロい見た目になっていた。
「そう? でも機能性のスポーツウェアと変わらないでしょう?」
とセイラは気にしていない。
確かに、そう考えると問題ないようにも感じられるかも知れないが、
『透け透けじゃないですかっ!』
映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』に登場する式波・アスカ・ラングレーが着用していた新デザインの、見え過ぎなテスト用プラグスーツのように胸から腹部にかけてが透け透け……
と、思いきや、
「これのこと? イメージや気分、感覚だけでもということで、胸からお腹にかけて肌色に近い色になっているんだけれど」
つまりはゲーム『マブラヴ』及び『マブラヴ オルタネイティヴ』に登場するパイロットスーツ、衛士強化装備。
その中の訓練兵用衛士強化装備と同じで、見た目だけのものらしい。
訓練兵用衛士強化装備はあえて肌色に近い色にする事で訓練兵の羞恥心を麻痺させ、身体のラインがモロに出て実質裸に近い強化装備を身に付けることへの抵抗感を無くすという目的でそうされていたものだったが。
「メンタル面を含めて少しでもいい効果を、って努力している技術者の頑張りが込められているようで気に入っているわ」
とセイラ。
本人は透けていないと分かっているからこその感覚だろうが、何も知らずに見たらドッキリするだろうし、男性に対しては目の毒としか言いようがない。
まぁ、小説版『機動戦士ガンダム』のラストはセイラが全裸で海を泳ぐシーンだったりするし、割と彼女はオープンと言うか、そういったものを気にしない感性の持ち主なのかも知れなかった……
一方、敵のリック・ドムは信じられない長距離から狙撃を受けたため、
「二手に分かれたのか」
とカイが言うとおり、左右に分かれて回避運動を開始。
距離を詰めるとビームバズーカを撃ちこんでくる。
大型で扱いが大変だがその分威力は高く、ムサイ級の主砲に準ずるとも言われるものだ。
「野郎」
こちらも回避機動を取るカイ。
ガンキャノンL、ロングレンジタイプは敵からの攻撃を避けるが、
「もっと引き付けるんだ」
反撃は控える。
「ここか」
そう見切り、
「いけっ」
とビームライフルを撃ち込む。
そして命中。
哀れ! リック・ドムは爆発四散!
「やったあ」
と快哉を上げ、ドラケンE改可翔式で随伴するスレッガーからも、
『ほう、見かけによらず、やることは冷静だな。見直したぜ』
と褒められるが、
『ん? 待て』
「し、しまった」
敵は味方の爆発を遮蔽に使い、急速接近してくる。
ビームバズーカを辛うじて回避するものの、
「ヒジ!?」
そのまま突入してくるリック・ドムに肘打ちで弾き飛ばされるガンキャノンL。
リック・ドムはその反動で進路を変えスレッガーのドラケンE改可翔式に向かう。
「きゃつら!」
スレッガーはドラケンE改可翔式、右肘ハードポイント装備の60ミリバルカンポッド弐式で迎撃。
敵をハチの巣にするが、
「おおーっ」
リック・ドムは損傷を受けつつも怯まずヒート・サーベルで斬りつけてくる。
60ミリバルカンポッドを盾に浅い角度で受け流し、機体が軽いことを利用して弾き飛ばされることで何とか回避。
『バルカンポッド、パージ!!』
とっさにサポートAIサラが損傷した60ミリバルカンポッドを破棄。
爆発するそれを目くらましに離脱する。
「やれやれ、助かったぜサラちゃん」
『は、はい。スレッガーさんが無事でよかったです』
とサラ。
「相打ち覚悟の特攻野郎相手に60ミリじゃあ、ストッピングパワー不足か?」
『そうかも知れませんね。味方の爆発を目隠しに使うあたり、相当気合が入っている兵士さんみたいです』
「ならどうする?」
『甲壱型腕ビームサーベル装備します』
腰の後ろに装備していたバックアップの甲壱型腕ビームサーベルを左腕二重下腕肢マニピュレーターを使って右肘ハードポイントに装着。
「接近戦か?」
『コア・フライトユニット内蔵の空対空ミサイルAIM-79、8発もありますよ?』
「とりあえずはそっちかねっ!」
と追いすがるリック・ドムに振り向きざまにAIM-79を連続発射する。
そうやって動きを制限したところで……
「なにぃ!」
ガンキャノンLの120ミリ低反動キャノン砲、セイラの狙撃によりリック・ドムが墜とされる。
「はははは…… 取られちまったか」
笑うしかないスレッガー。
『その、ナイスアシストでしたよスレッガーさん。こちらの攻撃で敵の動きが制限させられたからこそのヒットだと思いますし』
サラに慰められ、更に微妙な表情になるがしかし、
「やれやれ、お嬢さん方にはかなわんな」
と肩をすくめるのだった。
一方、ムサイ艦隊を指揮するドレンはというと、
「ドムがやられた空域を狙い撃ちだ。木馬まで一気に突撃を敢行する」
二手に分かれたリック・ドムのうち片方が全滅したのだが、逆にそうなればその空域に艦砲射撃の邪魔になる味方機は居ないということになる。
そこに集中攻撃をかけ、敵モビルスーツを排除、ホワイトベースへの突入口を開こうとする。
『ブリッジ、聞こえますか? こちらハヤト。僕とミヤビさんでホワイトベースの防御にまわります』
右舷デッキ、コア・ファイターで待機していたハヤトからの通信。
「頼む。スカート付きを叩かん限りムサイに攻撃もできない。急いでくれ」
セイラたちは敵艦の集中砲火に押されて後退中。
もう一方のリック・ドム三機はホワイトベースに肉薄し攻撃中である。
そして船体に走る振動。
「第6ブロック被弾、四発目です」
「弾幕が薄いぞ。相手は動いてくれるんだ、なまじ狙わずに撃てと言え」
指示を出し、ブライトは、
「フラウ、アムロのガンキャノンは?」
と問う。
「あと少しです、待ってください」
その声に被さるようにマーカーから報告。
「ムサイ、Fラインを越えました。ビーム来ます」
「回避運動任せる」
「はい」
うなずき、思いっきり舵を回すミライ。
「面舵!」
敵の砲撃を間一髪で避ける。
「主砲、メガ粒子砲はムサイのブリッジ、あるいはエンジンを狙え。撃て」
(ええー、出番あり?)
とミヤビは顔には出ないが内心げんなりする。
しかしハヤトに自分も出るというように言われてしまったし、そのハヤトもコア・ファイターで出るのだから仕方がない。
「ミヤビ、ドラケンE改出ます」
と、ハヤトのコア・ファイターに続きカタパルトから射出。
ホワイトベースに攻撃を仕掛けるリック・ドムに立ち向かうことに。
そして、いきなり、
『後ろですミヤビさんっ!』
サラからの接近警報。
ミヤビは機体背面に装備された可動ノズルによる推力偏向制御ロケットエンジン、そして手足をぶん回してのAMBAC(active mass balance auto control。能動的質量移動による自動姿勢制御)、さらには両足かかとに付けられたローラーダッシュ用のインホイール・モーターとランフラット・タイヤをリアクションホイールとして併用し、くるりと縦に半回転。
宇宙空間のように地面等、機体を固定するものが無い場所ではコマ、フライホイールを回転させるとその反動(正確には反作用)でフライホイールの回転に対して逆回転の力が機体に加わる。
この効果を利用して姿勢制御を行うのがリアクションホイールである。
スラスターを用いない姿勢制御はモビルスーツでは宇宙服を着込んだ人間の動きを模したAMBAC(active mass balance auto control。能動的質量移動による自動姿勢制御)がスタンダードであるが、一般的な宇宙機や人工衛星ではこのようにフライホイールを利用する。
モビルアーマー『エルメス』の姿勢制御に採用されているという『ジャイロ』もやはりフライホイールを用いたコントロール・モーメント・ジャイロスコープのことと言われていたし。
ドラケンE改ではスラスターとAMBACとこのリアクションホイール、三者を組み合わせることでより高度な姿勢制御を可能としているのである。
もっとも…… 宇宙空間での機動兵器の反転は、左右、どちらかに振り向くのが普通で、縦回転はあまり好まれない。
モビルスーツの場合、逆立ちするより振り向く方が物理的に少ない力で素早く行えるだろ、というだけでなく(まぁ、寸詰まりで縦も横も同じ程度のサイズのドラケンだとどちらでもさほど変わらないが)
普通の人間には天地がひっくり返る機動はとっさの空間認識に支障が出るのだ。
宇宙に適応したニュータイプ、完全な3次元空間の把握が可能な空間認識能力者なら別だが、人は本来重力下の地べた、平面の二次元で暮らす存在。
気圏戦闘機のパイロットだと高さがある分、2.5次元で把握できるようになるが、そこが常人の限界なのだ。
ミヤビの前世、ガンダム関連の対戦ゲームの宇宙ステージでも、各機体は同じ向きに立つかのように上下方向が揃えられていた。
このように仮想的でも基準となる地面方向を定めることが必要であり、それを瞬時に変更というのは人間の認識力が追い付かない。
だからミヤビがとった縦回転の反転、これはとっさの非常手段。
気圏戦闘機において起きる空間識失調と同様、機位を見失う危険性を孕んだものだったが、
『バルカン・セレクター、フルオート!』
同時にサラが、通常時は弾を無駄にしないバースト射撃を行っている60ミリバルカンポッド弐式の射撃モードをフルオートに変更。
背後から迫っていたリック・ドムに向かい、全力射撃を叩き込む。
自身の突入速度を上乗せされたカウンター射撃で、リック・ドムの機体がハチの巣に。
そして、爆発!!
そう、この戦争の経験を通じて成長してきたサラ。
ついには奇跡的にとはいえモビルアーマー、ビグロを仕留めるだけの金星を挙げられるようになった彼女が居るからこその機動。
気圏戦闘機の場合、空間識失調を起こした際にはパニックボタンを押すとオートパイロットで自動的に姿勢回復モードとなるが、それと同様、いや戦闘中に機位を見失ってもなんとかフォローしてくれるサラを信じたからこそ、可能となったマニューバだった。
スレッガーさんの機体はこのようになりました。
そしてミヤビは通常のドラケンE改に乗るわけですが、このようにローラーダッシュ用のインホイール・モーターとランフラット・タイヤをリアクションホイールとして使うとか、ノーマル機でもまだまだ使っていないネタは残っているんですよね。
でも、主役機交代後に旧主役機に乗るのってヒロインポジションのキャラクターの役割だよなぁと思ったり。
一方、セイラさんの方はこんな具合に。
テム・レイ博士……
なお、次回は戦闘に決着ですが、ミヤビはノーマルなドラケンE改でムサイに対し対艦戦闘をやるハメになる予定だったり。
みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
今後の展開の参考にさせていただきますので。