ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件 作:勇樹のぞみ
ドズル将軍旗下のリック・ドム12機はホワイトベースのチームワークの前に敗れさった。
しかし領空外の浮きドックで修理を受けることもできずサイド6に引き返したホワイトベースにとって、そこもまた安住の地ではなかった。
「お帰りなさい。どうだった?」
港から帰って来たブライトを迎えるミライだったが、
「滞在の手続きがどうのと、追い出したがっている」
答えるブライトの表情は渋い。
「でもティアンム艦隊からは移動命令は出てないし、敵の待ち伏せだってあるし」
ミライも思案顔だ。
「ミヤビさんとアムロはいつ帰ってくるんだ?」
「あと二時間」
「ミヤビさんに時を稼いでもらうのも限界か……」
ブライトは決断。
「あと三時間で整備を終わらせよう。出港する」
一方アムロはと言うと、
「ああっ、天気の予定表ぐらいくれりゃあいいのに」
ミヤビを乗せたバギーを走らせる中、雨に降られていた。
幌もフロントガラスも無い車両なので、どうしようもない。
というか、フロントガラスが無いとスピードを出した場合に砂やら何やらが当たるのが怖いのだが。
あまりスピードが出ないのと、ネイキッドバイクに付ける小型スクリーンのように空力効果のあるボンネットにより、ある程度の防風効果があるので何とかなってはいるのだが。
背後から追いかけてくるプチモビルスーツ、ツヴァークを単独制御するサラは、
『ミヤビさん、こっちに移ります?』
と提案するが、ミヤビは首を振る。
「それじゃあアムロだけ濡れちゃうでしょ。この先の民家の軒先を借りて雨宿りしましょう」
そうしてバギーを止めて、玄関先に退避。
「濡れちゃいましたね」
「そうね。でもあなたの着ている軍服と同じく、このスーツはスポーツウェアにも使われる機能性素材を使ったものだから雨も弾くわ」
そしてコロニーは、温暖湿潤気候に分類される日本のように雨が多く多湿な環境にはないのだから、多少濡れてもすぐに乾く。
「そうなんですか?」
改めてまじまじとタイトなラインのビジネススーツに身を包んだミヤビを見つめて、しかしまぶしそうに目を細めるアムロ。
そんな青少年の機微には無頓着なミヤビはうなずいて、
「昔ながらの高級素材を使ったスーツも上流階級では使われているけど、もちろんそれらは見た目、質感は良くても耐久性や機能性は劣るから」
ミヤビもパーティなどに出席する場合は強制的にそういうものを着せられ死んだ目になる羽目に陥るが、通常のビジネスの場では機能性の高い新素材を用いたものを愛用する。
彼女は前世でも暑さに弱く、見た目より涼しさ重視で機能性スーツを愛用していたものだった。
「良いものを長く、とか聞きますけど?」
「こと高級服については素材が弱いのだから良いものは長持ちしないのが普通ね。そういう人たちの服がパリッとしているのはくたびれる前に買い替えているからよ」
そして肩をすくめるミヤビ。
「スーツに靴、時計。ビジネスにふさわしいファッションは当人に説得力という力を与えてくれる。それは決して軽視できないもので投資する価値は十分あるのだけれど」
ミヤビが前世で勤めていた某重工でも、やはり本社の上位部署の人間はいかにもできるビジネスマン、な恰好をしていたものだった。
そしてやはり身にまとう空気が、説得力がそれによって身に着くものだった。
しかし、
「暑い夏、上着をかっちりと着込んで隙を見せないとか、私にはまねできない」
真剣な表情でつぶやくミヤビに、アムロは吹き出す。
「アムロ?」
じとっとした目で見るミヤビがさらにツボに入ったのか、
「ミヤビさん、ネコみたいですものね」
と軽口をきく。
「暑さに弱いという意味では同意」
想像するだけでもげんなりするのか口調まで変わるミヤビに、
「ふふっ……」
笑いをこらえきれないアムロだった。
だが、その彼が不意にミヤビの背後に目を移し、
「鳥だ」
そうつぶやく。
瞳を見開き振り向くミヤビ。
その目に映るのは雨の中、湖上の空を舞う白鳥の姿だった。
(かわいそうに)
そういう声が聞こえた気がした直後に、力尽きたように落ちる鳥。
アムロはふらふらと雨宿りしていた住宅の裏手に歩いて行き、
「あ」
「………」
そこで神秘的な目をした一人の少女と出会う。
「ご、ごめん。べ、別に脅かすつもりじゃなかった」
警戒する彼女に慌てて弁解するアムロ。
空気を変えるように、
「あ、あの鳥のこと、好きだったのかい?」
と聞いてみるが、
(美しいものが嫌いな人がいて? 美しいものが嫌いな人がいて? 美しいものが嫌いな人がいて? 美しいものが……)
不意に脳裏にそういうイメージが伝わった後に、
「美しいものが嫌いな人がいるのかしら? それが年老いて死んでいくのを見るのは悲しいことじゃなくって?」
と声による答えが返される。
今のは何だったのか、そう思いつつも、
「そ、そりゃあそうです。そうだけど、僕の聞きたいことは……」
と言いかけたところに、
「……やんだわ」
上がる雨。
それを空を見上げて確かめるアムロに、ついと少女は近づいて。
「……きれいな目をしているのね」
と彼の瞳を覗き込みながら言う。
「そ、そう?」
そして彼女はアムロにその笑い声を残しながら、雨上がりの湖畔に駆け出していく。
(「ニュータイプはニュータイプにひかれ合う」って言うけど! 本当に出会っちゃうわけ!?)
家の影から今の二人の邂逅を見守っていたミヤビ。
『どなたなんです、あの人?』
そしてツヴァークの3連式多目的カメラモジュールで見つめているサラ。
タグ・ボートに牽引され、サイド6のベイエリアに向かうザンジバル。
「コンスコン隊、放っておいてよろしいのですか?」
そうたずねるマリガンにシャアは、
「やむを得んな。ドズル中将もコンスコンも目の前の敵しか見ておらん」
と答える。
ミヤビの知る史実ではキシリアのひも付きであるマリガンに対するリップサービスの意も含めて、
「その点キシリア殿は違う。戦争全体の行く末を見通しておられる」
という言葉が続いたのだったが、今のシャアはそんなことなど言わない。
確かにキシリアは戦争全体の行く末、つまり戦争終結までは見ていよう。
しかしその先の展望、ビジョンが無いのだ。
圧倒的な政治手腕を持つ兄ギレンに対し、キシリアは暗殺も含めた汚れ仕事を受け持つことで対抗している。
だがこれは戦時下故に見逃されている、周囲も目をつぶっていることであり、戦争が終わればその制約も外れる。
そして戦後、力を伸ばすにはどれだけの政敵を倒せるかより、どれだけの敵を味方に引き入れられるかが必要になる。
安易に暗殺や謀略に手を染めるキシリアの信用はもはや地を這うどころかマイナスに突き抜けている。
信用が無いから誰も自分から近づこうとはしない。
敵は敵のままで味方を増やすことができない。
最後は疑心暗鬼に陥った相手に殺される、惨めな死が彼女を待っているだろう。
シャアだって隙があれば彼女を殺す。
理由があるから。
一つは復讐。
彼が愛した母、そして妹との生活を壊した主犯はキシリアと言えよう。
特に母は監禁先で孤独な闘病生活の末亡くなっており、このけじめはつけなければならない。
二つ目は正当防衛。
彼女配下のキシリア機関には何度も命を狙われている。
つまり正当防衛であり、殺されるぐらいなら殺す。
現代の法律でもカルネアデスの板は認められているのだから。
そして世直しなど考えていないが、そもそも生きていても害にしかならぬ女なのだから復讐と正当防衛のついでに「父の敵討ちを装って善を成す」という芝居を打ってやってもいいだろう、という消極的、というかシャアの本質には何の影響も与えない表向きの理由がある。
「これは私怨ではなく、父の遺志を貫く大望のためなのだ!」
とでも言っておけば周囲のウケもいいだろう、程度のものだ。
まぁキシリアも人を謀殺しようとするからには反撃されて殺されても文句は言わず死んでくれということ。
(こう考えられるようになったのも、ララァと出会えたおかげ、アルレットを手元に置いておいたおかげか)
そう考えるシャア。
本当の運命の分岐点は嘘を許さないニュータイプの女、イセリナ・エッシェンバッハにより強制的に自分の欺瞞と向き直らせられたことが切っ掛けであったが、彼女のおかげとは思いたくないシャア。
実際、ララァというまったく別のニュータイプの少女と出会い、癒され、さらにアルレットと出会い視野が広がったからこそ今のシャアがあるわけで。
この二人との出会いが無ければシャアはイセリナという他者の内面を強制的に暴き立てる鏡に映る己の姿に絶望していたかも知れないのだから。
そう、アルレットを手元に置き幼い子供を導き育てているつもりで、自分の未熟な部分までも育て直されているような。
そうして己の心の内にある絡まった糸に気付き、解きほぐしていくと……
という話。
「何があるのです? サイド6に」
マリガンの問いに、シャアは己が得たもう一つの翼、サイド6で待つ彼女に意識を移す。
「うん、実戦に出るのも間近い。そうしたらわかる。港に入るぞ」
そうしてザンジバルはドッキング・ベイへと入港するのだった。
アムロとララァの出会い、そしてシャアの変化でした。
「シャアが”悩む”ということから脱してしまったら最強、アムロも瞬殺」と富野監督が語ったことは結構有名ですが、この調子で行かれると本当にヤバいことになりかねないという。
でも、そういうシャアの覚醒を無自覚に後押ししてしまうのが、我らが主人公ミヤビさんなんですけどね。
この先どうなるのか書いている私にも想像がつかなかったり。
なお次回は、
「嘘だといってよ、バーニィ」
なお話の予定です。
みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
今後の展開の参考にさせていただきますので。