ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件 作:勇樹のぞみ
「提督! 脱出を!」
「うむ」
ティアンム艦隊の旗艦であり、ソーラ・システムのコントロール艦であるマゼラン級戦艦、タイタンは肉薄するガトーのリック・ドムからの攻撃を受け大破。
幸いにして無事だったティアンムは、別の艦に移乗して指揮を続けることになる。
『危険です!』
「っ!?」
突如として背後からもの凄いスピードで迫る敵に、ミヤビは目を見開く。
(ナニコレ、ナニコレ!?)
背面カメラが捉えた、ビグロにけん引されるブルーとグリーンの専用カラーで彩られたリック・ドム。
要するにティアンムのタイタンを沈めたアナベル・ガトーのMS-09RSリック・ドムとケリィ・レズナーのビグロだったが、さすがにフルスピードで突出したため推進剤が心許なくなり帰還。
その進路上にたまたまミヤビのドラケンE改が居たというわけである。
『ミヤビさん!』
リック・ドムのビームバズーカがエネルギー切れだったのは幸いだったが、
「空蝉っ!」
『ミサイル信管安全装置解除の上、パージします!』
ミヤビの指示でサラは機体上面左側に装備された短距離ミサイルをケーシングごと切り離し。
突っ込んでくる敵機の進路上に機雷代わりに置くことで逃走しようとするが、
『ダメです、ビグロに撃ち落とされました!』
ビームが一閃し、ミサイルが蒸発する。
その閃光が消えた時には、ヒート・サーベルでドラケンE改を唐竹割りにしようとするガトーのリック・ドムが……
(上下には逃げられない!)
ヒート・サーベルが描くであろう、ラインから回避しきれない。
まさに鎧袖一触で真っ二つにされてしまうだろう。
逃れるなら左右方向しかないが、
「コールドスラスター!」
『はい!』
サラはドラケンE改の右肩の放熱器に動力源である燃料電池から生じる熱を集中させると同時に、タンクに貯められていた燃料電池から排出される水を噴霧。
排熱を利用し水を推進剤とする燃焼を伴わないコールドスラスターとして機能させ、背面に装備された可動ノズルによる推力偏向制御ロケットエンジンと併用することで危うく回避する!
「あっ、ぶなぁ……」
すれ違い、そのままソロモンへと向かっていくリック・ドムとビグロを見送るミヤビ。
肩の放熱器は背面ロケットエンジンに対し遠部位にあることからコールドスラスターとして用いた場合、姿勢制御に極めて効果的。
ミヤビの知る史実でも、1年戦争終盤以降、フルサイズのモビルスーツでも肩先端に姿勢制御用スラスターを配置することが機動に有利であることが分かり、以後搭載されることになったがそれの先駆けとも言える存在になっていた。
なお、尻の放熱器についてはロケットエンジントラブル時に最後に残される推進手段という役目を担うものである。
ミヤビの前世の記憶の中にあるガンダムやガンキャノン、およびジムの胸部排熱ダクトでも液体の蓄熱媒体を気化放出させ姿勢制御、制動に利用していたとする資料があり、実際にマンガ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のガンダムでもそのような描写が成されていた。
さらには胸部左右側面に気化した蓄熱媒体の逃し弁があった、ともされており、同じ位置にあるガンキャノンの姿勢制御用スラスターがこれであるのだろう。
また水を推進剤とするのもそう珍しい発想ではない。
実際『機動戦士ガンダム00』では普通に用いられており、ティエレン宇宙型の両ひざから巨大な円筒状のプロペラントタンクが突き出していたが、中身が水だからあんな被弾しやすい所に装備できているのである。
「命拾い、したわね……」
ため息をつくミヤビ。
『このコールドスラスターは甲壱型腕ビームサーベル利用時の過負荷運転に伴い生じる熱を放熱器に水をミスト噴霧することで放出させることにした、その副産物的に利用できるようにした機能ですからね』
とサラが言うとおり、おまけのような機能なのだ。
「ええ、これが無かったら死んでいたわね」
そういうことだったが。
「やる、連邦にあれを躱す兵(つわもの)が居たとはな……」
とガトーには誤解され、無駄に闘志を燃やされているのだった。
至近でミサイルが爆発、キャノピーを突き抜けた破片がハヤトを襲った。
『ハヤトさん!』
サラナインはとっさにモビルドールサラの義体でハヤトを庇い破片を食らう。
「さ、サラナイン!?」
『守ってみせるって言いましたよね…… ハヤトさん』
痛々しい笑顔で告げるサラナイン。
「なんで僕はいつもォ!」
慟哭するハヤト。
至近に迫ったガトルに機首の30ミリバルカンを撃ち込む。
「ぐあぁぁぁ!」
ガトルの爆発が、ハヤトの機体を飲み込んだ!
「敵の本隊が出てくるぞ。衛星ミサイルで軌道上にあるものはすべて発射しろ」
ソロモン側の抵抗も一層激しさを増していく。
「ううっ、く、来る。ガ、ガトルが。あ?」
そうして意識を取り戻すハヤト。
「……サラナイン」
『安静にしてください。ハヤトさんは十分に戦いました。もう静かにしてていいんです』
宇宙を漂う、ボロボロになったコア・ブースター。
ハヤトはモビルドールサラによって手当てを受けていた。
穴の開いていたキャノピーには補修テープが張られ、コクピット内も与圧されている。
「みんなは?」
『無事ですよ。元気に戦っています』
「そう」
そしてハヤトは顔を背ける。
「く、悔しいな、僕だけこんなんじゃ。セイラさんにもカイさんにもかなわないなんて。な、情けないよ」
『何を言っているんですか、ハヤトさん。立派ですよ、あなただって』
「やめてくれよ慰めの言葉なんて。こ、こんな僕だってね、ホワイトベースに乗ってからこっち、アムロに勝ちたい、勝ちたいと思っててこのざまだ」
涙を流すハヤト。
「男が情けない」と言う者も居るだろうか。
しかしそれは、それだけ本気になったことが無い、本気になっても勝てない、挫折したことが無いからそんなことが言えるのだ。
少なくともミヤビに育てられたサラ、そしてサラシリーズであるサラナインはそう思う。
『ハヤトさん……』
サラナインは、言う。
『私はハヤトさんが頑張ってる姿、今までずっと見てきました』
「………」
『あなたが居なかったら、セイラさんだって、カイさんだって、そしてアムロさんだって生き残れなかった。そういう状況はいくらでもありました』
「っ、そう、なのかな……」
『そうですよ。私だってきっとスクラップになって失われていました。それを助けてくれたのはハヤトさん、あなたです』
そしてサラナインは言う。
『私はそんなハヤトさんが好きです』
息を飲む、ハヤト。
『愛しています』
万感の思いを込めて、サラナインは告白するのだった。
……史実では負傷したハヤトをフラウが手当てしながら、
「アムロは違うわ。あの人は私たちとは違うのよ」
とアムロとの決別をほのめかすところ。
そして戦後にハヤトがフラウと結ばれることへの先触れとなるシーンだったが。
「かあーっ!」
ヒートホークでリック・ドムの装甲をかち割るアムロ。
その機体を蹴って先に進む。
そして後続のガンキャノンLのビームスプレーガン、カイの狙撃が傷ついたリック・ドムに止めを刺す。
アムロの突破力を生かし、そのスピードを緩めないようにカイ、そしてセイラがフォローする陣形である。
「ガトル第二、第六戦隊応答なし。グワラン応答なし」
続く損害の報告に、思案するドズル。
「ラコック、すまん、コーヒーを頼む」
「は」
そうして決断。
「残ったモビルスーツを戻させろ、ソロモンの水際で敵を殲滅する」
「後退するのか?」
アムロは退いていく敵のモビルスーツ隊の動きに合わせ前進。
「どこから突入するか?」
『アムロ、あそこ』
サラツーの指摘で対空砲火の無い区画を発見。
「あれか? 新兵器の破壊した跡は。すごいな」
そこはソーラ・システムによって消滅させられた部分。
「行くぞ!」
空白地帯をカバーすべくムサイが出てきたが、アムロはそれに肉薄、すれ違いざまにビームライフルを叩き込む!
そしてとうとうソロモンへと取り付くことに成功する。
「ホワイトベースより入電。味方のモビルスーツがソロモン内に進入しました」
ティアンムの元にも報告が届く。
「ようし、こちらからもモビルスーツ隊を出す」
「了解」
そうしてティアンム艦隊全艦へ発信される指令。
「各艦へ。モビルスーツ・ガンキャノン及びドラケンの突入隊を発進させろ」
アムロに続き突入するガンキャノンLをメガ粒子砲で援護するリュウのコア・ブースター。
「みんな、うまくやってくれ」
これ以降、要塞内への突入はコア・ブースターには無理なため、リュウは上空から援護することになる。
逆に言えば、宇宙戦闘機の代わりになる上に拠点占拠能力も持つ兵器。
これがモビルスーツの持つ優位性のうちの一つなのだ。
『アムロ、金属反応よ』
サラツーによる走査で溶けた岩肌の下にあるハッチを発見。
「よし、吹き飛ばそう」
アムロはガンキャノン左肩の240ミリ低反動キャノン砲の榴弾効果でハッチを掘り起こすと、閉まっているハッチにビームライフルで穴を開けた。
次いで、ヒートホークでその穴を広げる。
手斧は西暦の時代でもイギリスのSASなどの特殊部隊でエントリーツール兼武器として使用されたし、アメリカ軍ではベトナム戦争で使われたトマホークを発展させたものを、2000年代に入ってからタクティカル・トマホークとして使用するようになっていた。
消防斧のようにドアや窓を破るエントリーツールとしても使え、格闘戦ではナイフより強力というものである。
無論、道具としても便利であったし。
そしてヒートホークもまたコロニー建築用機材にルーツを持つツール。
こういった障害物の除去には同様に威力を発揮する。
そうやってできた穴から、脚部ラックに収納されている投擲型榴弾、ハンドグレネードを内部に投擲。
待ち構えているだろう敵を沈黙させた後に、ハッチを力ずくで押し破る。
「ソロモンが救援を欲しがっている?」
シャアのザンジバルにも連絡が入る。
「はい。暗号電文で細かいことはわかりませんが、ともかくキシリア様の命令です。ソロモンへ向かえ、との事です」
シャアはララァの肩に手を置くと、その瞳を覗き込むようにしてささやく。
「ララァ、いいな? いよいよ戦場に入る」
ララァは信頼しきった瞳でシャアの手に自分の手を重ねるだけだ。
シャアは一つうなずくと部下たちに命じる。
「ザンジバル、最大船速。目標、ソロモン。各員、第三戦闘配備」
「行ってくれたか。やれやれ」
カムランは監視艇からサイド6宙域より離れて行くザンジバルを見送る。
「ミライ、せめて長生きしてくれよ」
そうつぶやきながら。
格納庫に足を踏み入れるドズル。
「ゼナは居るか?」
その呼びかけに、脱出艇からミネバを抱きかかえたゼナが進み出る。
「あなた、いけないのですか?」
不安そうな彼女にドズルはその大きな腕を広げて見せて、
「馬鹿を言うな、ソロモンは落ちはせんて」
となだめる。
「では」
と一歩前に進む彼女の頬に手を当て、
「いや、脱出して姉上のグラナダへでも行ってくれ」
そう諭す。
「いけないのですか?」
「大丈夫、案ずるな」
ゼナの額にキスを落とし、
「ミネバを頼む。強い子に育ててくれ、ゼナ」
父親としての顔でそう頼む。
「……あなた」
「私は軍人だ。ザビ家の伝統を創る軍人だ。死にはせん。行け、ゼナ、ミネバと共に!」
そうして彼女たちを乗せた脱出艇はソロモンを後に飛び立った。
ドズルは機動兵器デッキに向かい、声を張り上げる。
「モビルスーツ隊の編成を急げ、敵は上陸しつつある。決戦用リック・ドム、ザク、出動用意。ガトル戦闘隊、ミサイルの補給の済んだものから発進させい。ビグザムの用意はどうか? 決戦はこれからである!」
そして、彼の進む先には巨大なモビルアーマーの姿が。
「ほう、これがビグザムか」
そう、ビグザムである。
次回予告
妹、ミライが予感する己の死にミヤビは恐怖する。
ミヤビの捨て身の策が成された時、サラは見た。
ミヤビに立てられる無数の死亡フラグを。
次回『恐怖!?機動ビグ・ザム』
ミヤビは生き延びることができるか?
ハヤトも…… サラたちの魔性につかまったか……
ま、それも良いか。
というわけでハヤトを落としにかかるサラナインでした。
まぁ、物語後半でサブキャラにスポットが当たった場合、殺されるか愛される(=サブキャラ同士でくっつく)か。
『聖闘士星矢』の女聖闘士の素顔を見てしまった男性のように究極の二択になりがちですからね。
そして次回予告……
マチルダさんにスレッガー中尉、ミライさんの死の予感って特大級の死亡フラグですからねぇ。
今回はガトーに鎧袖一触されそうになったのを奥の手で何とが逃れましたが、果たして……
みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
今後の展開の参考にさせていただきますので。