ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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最終話 あ、あなたはギレンさん!! Bパート

「何故だ? なぜ拒否する? ジオンのものをジオンに返す。それができる機会なんだぞシャア、いや、キャスバル・レム・ダイクン!」

 

 あの日、すべてを知ったガルマは、父や兄たちが倒れた今こそ、ジオンという国を建国の師父、ジオン・ズム・ダイクンの遺児であるキャスバル・レム・ダイクンに返す時だと説いたのだが、

 

「ノゥ!!」

 

 シャアは断固として拒否。

 

「イエスと言え!!」

「絶対にノゥ!!!」

 

 そしてシャアは、

 

「ガルマ、分かっているのか? 私は連邦のニュータイプ、アムロ・レイを利用して君の姉上を謀殺した反逆者だぞ?」

 

 とぶっちゃけた上で偽悪的に口元を歪め、

 

「ノーとしか言わない男さ」

 

 そう言い切る。

 

「……その事実は私も知っている。だが、仕方が無いことだろう? 姉の配下の諜報組織、キシリア機関は何度も君と妹君、アルテイシア・ソム・ダイクンの命を狙ったというじゃないか。身を守るためには姉を倒すしか無かった。そうだろう?」

「許すというのか? なら言うが、私は君を踏み台にしたのだぞ」

「……気づいていたさ、何となくはな」

 

 沈黙。

 そして、

 

「……ガルマ、政治家に一番必要な資質とは何だと思う?」

 

 にらみ合っていてもらちが明かないと思ったのか問いかけて来るシャア。

 

「理想に賭ける確固たる信念?」

「それもある」

「理想を現実にできる政治手腕とカリスマか?」

「そういうこともあるかも知れんな」

 

 そう答えつつも、シャアはうなずかない。

 イエスとは言わない。

 

「私はこう思うのだ。政治家に何より必要なのは『情熱』だと」

「情熱……」

「考えても見ろ、政治家は国家というピラミッド型組織の頂点にあるが、それを逆にすれば……」

「ああ……」

 

 全国民に対する責任がのしかかってくるということ。

 国家元首ともなれば、それを一人で支えることとなる。

 

「思い込みだろうと自惚れだろうと、すべてを許す神のごとき博愛だろうと、何でもいい。それを成したいという『情熱』抜きには、やり切れん」

 

 しかし、

 

「私にはその政治に対する『情熱』が根本的に欠落しているのだ」

 

 その一点で、シャアは自分に政治家になる資質が無いと断言する。

『機動戦士Zガンダム』でカイから、

 

「リーダーの度量があるのにリーダーになろうとしないシャアは卑怯だ」

 

 と非難されハヤトから、

 

「10年20年掛っても、地球連邦政府の首相になるべきです!」

 

 と言われ、カミーユに、

 

「そんな大人、修正してやるっ!」

 

 とばかりに殴られ、

 

「これが若さか……」

 

 と涙していたシャアだったが、ここに居る、開き直ったシャアは違う。

 そんなことを言われたところで、

 

「いい歳こいた大人が…… 本当に人を助けたかったら自分で働け!」

 

 と切って捨てていただろう。

 

「それにもう、どんな形にせよジオンの独立は成ったのだ。今後はダイクンやギレンなどといったカリスマを持つ強い指導者が必要とされる時代ではない。国民一人一人が努力し、学び、成果を積み重ねていく時代だ」

 

 戦争で疲弊した地球連邦政府は、同じく戦費の捻出で莫大な負債を抱えたジオン政府を接収することができなかった。

 それゆえの結果だが、ジオンは共和国として連邦から独立する道を歩むことになった。

 戦いには負けたが、独立戦争としての戦略目標は果たされ、あとは戦後、力を合わせ復興を果たしていくばかり。

 そこに一歩間違えば独断、独裁を招きかねない強すぎる指導者など必要無い。

 連邦だって警戒し強硬姿勢を取るかも知れず、余計な火種を抱えることにしかならない。

 

 そう断言するシャアに、ガルマも説得を断念する。

 

「それではシャア、君自身は今後、どうするんだ?」

 

 話題を変えるガルマに、シャアは逡巡した後、

 

「私は…… そうだな、例えるなら『正義の味方』になろうと思う」

「何だって?」

 

 正義の味方……

 ミヤビなら、いやミヤビの前世の時代の日本のサブカルチャーを知る者なら、ゲーム、そしてアニメにもなった『Fate/staynight』の主人公、衛宮士郎と、彼が至った英霊『エミヤ』を真っ先に思い浮かべるだろうか?

『多数を救う為に少数を切り捨てる』ことに摩耗しきった彼を。

 

 もちろんシャアの言う『正義の味方』はそれとは違って、ミヤビの前世において話題となった、

 

悪の組織の特徴

1 大きな夢、野望を抱いている

2 目標達成のため研究開発を怠らない

3 日々努力を重ね、夢に向かって手を尽している

4 失敗してもへこたれない

5 組織で行動

6 よく笑う

 

正義の味方の特徴

1 自分自身の具体的な目標がない

2 相手の夢を阻止するのが生き甲斐

3 常になにかが起こってから行動

4 受け身の姿勢

5 単独~小人数で行動

6 いつも怒っている

 

 これに近いものであった。

 

「そ、そんなものに何の意味が…… 何の価値があるって言うんだシャア!」

 

 当然、ガルマにはわけが分からない。

 

「『ヘリコプター子育て』という言葉がある。常に子どものそばをホバリングしながらコントロールしようとする、いわば過保護な子育てを指す言葉だ。ヘリコプター子育てでは、自ら答えを出せる子供を差し置いて答えを与え、トラブルを自分で解決させずに介入する。その先にあるのは決していい未来ではない。子供の自尊心は低下し、自信を失い、不安やうつにさらされることが増えるだろう」

 

 そう語るシャア。

 

「これは政治でも一緒だ。強く有能な指導者が何でもかんでも決めてコントロールしてしまうのでは国民は、人は学びの機会を得ることができなくなってしまう」

 

 一方、

 

「その対極にあるのが『フリーレンジ子育て』というものだ。子供に自分の行為が周囲にどう影響するのかを経験させることで自立を促す子育てを意味する」

 

 だが、

 

「ただしこれは放任主義や育児放棄、ネグレクトとは違う。子供が自分で何かをしようとしているとき、最悪どんなシナリオが待ち受けているのかを考え、許容できないものなら、それにちゃんと対策をする。その上で、子供の意思と自立を尊重するというものだ」

「ああ、だから君の言った『正義の味方』なのか」

 

 一見『悪の組織』の方が理想的で『正義の味方』は受け身で行き当たりばったりのどうしようもない存在に思えるが、この視点だと、国民一人一人に自分の選択が何を呼び込んだのかを体験させ学ばせる、そして致命的な事象には対処する。

 そんな『正義の味方』の在り方が理想となる。

 

 ミヤビの前世の記憶の中にある『機動戦士Zガンダム』最終話では、シャアはシロッコに、

 

「では聞くが、ザビ家を倒しティターンズを排除した世界で、お前は一体なにをしようと言うのだ?」

 

 と問われ、

 

「私が手を下さなくとも、ニュータイプへの覚醒で人類は変わる。その時を待つ!」

 

 そう答えていたが……

 ニュータイプへ覚醒しさえすれば万事解決とどうして能天気に思えるのか、という話もあるが、そもそも野望に基づくにしろ明確なビジョンを持つシロッコ、ハマーンに対してシャアは何のビジョンも、政治的展望も、政治に関わる意思すらも持っていないと言っているに過ぎない。

 そのくせ他の邪魔だけはするという。

 何がしたいのか分からない男に成り果てていた。

 

 だが、今ここでぶっちゃけて開き直ったシャアは違う。

 政治に対するポリシー、展望を持たないのも、政治家としてリーダーシップを取る気が無いのも。

 そのくせ、気に入らなければ他の邪魔はするという行動指針も変わってはいないが、そこには確固たる思想と意思が備わっている。

 

 それゆえガルマも、彼の説得をあきらめざるを得なかったのだ。

 

 

 

 そんなシャアは相変わらず、正義の味方を続けているらしい。

 

「礼ぐらい言わせてほしいものだがな」

 

 そう嘆息するガルマに、彼の妻にして秘書官であるイセリナが告げる。

 

「そう仰ると思いましてララァさんを通じてディナーにご招待しておりますわ」

 

 アルレットさんとダントンさんも、と言う彼女に、目を丸くするガルマ。

 格好をつけて無言で立ち去ったシャアにはご愁傷さまと言うしかないが、

 

 知らなかったのか?

 クレイジー・サイコ・ニュータイプからは逃げられない。

 

 ということであった。

 

「それは…… 楽しみだな」

 

 ガルマは笑って、イセリナに感謝するのだった。




 戦後のシャアとガルマでした。
 正義の味方とは言いますが、ある意味、無責任で身勝手で。
 しかしガンダムはシャアによるピカレスクロマン、悪漢小説のようなもの、とは言われますからそのように動くことこそシャアが一番強みを発揮できる、輝ける状況なのでしょう。

 次回はいよいよサブタイトル回収の予定です。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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