ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第5話 大気圏突入 Cパート

 ザクが放ったハンマーは、2倍の質量を持ったジャンボハンマーに簡単に弾かれ飛んでいく。

 その鎖を持っていたコムのザクの左手は衝撃に耐えきれず、左指が根元から千切れ飛んでしまう。

 

「なぁにィ!!」

 

 悲鳴を上げるコム。

 ミヤビの前世の記憶の中でもガンダムハンマーはグリップの尻が錨の形をしていたが、これはすっぽ抜けを防止できる反面、このようにマニピュレーターの強度を超えると指を全部持って行ってしまうという恐ろしい結果を産む。

 強化されたハイパーハンマーでは単にストレートな棒状グリップになっていたが、これは指を飛ばすよりすっぽ抜けた方がマシ、という判断によるものだろう。

 

 

 

『指が無くてはハンマーの持ちようがないね……』

 

 サラツーの声を聞きながら、アムロは再びハンマーを振りかざす!

 

「この鉄球(タマ)でお前を倒す!」

 

 そしてジャンボハンマーの直撃が、ザクを破壊した!

 

 

 

 そしてミヤビはその光景を横目にこう思う。

 

(って言うかこれ『サムライ日本』だよね。懐かしのお笑い特集で見た)

 

 いわゆるチャンバラコントを展開しているトリオで、中でもトレードマークとなっているのが鎖鎌。

 スポンジでできた球状の分銅で相方をぼてくり回していい気になっていると、舞台の袖から更に大きな分銅を付けた相手が現れ逆転し、クライマックスにはバスケットボールの倍はあるような大きな分銅が登場してボッコンボッコン叩いて来るというやつだ。

 

 

 

「なめるなーっ!!」

 

 部下をやられた怒りか、アムロのボケ&シモネタトークをニュータイプの片鱗で察知したのか……

 シャア、怒りの肘打ちがガンキャノンを襲う!

 

 

 

「うわっ! ああーっ!!」

 

 シャアザク渾身のどつきツッコミに、吹っ飛ばされるガンキャノンとアムロ!

 

『きゃああああっ!』

 

 一緒にぶっ飛ばされるサラツーにはいい迷惑だ!!

 

 

 

 もう一機の大気圏突入カプセルを攻撃するザクは、ドラケンE改を警戒したのか距離を取ってザクマシンガンで攻撃していた。

 ドラケンE改が60ミリバルカンや短距離ミサイルで牽制しているため、その射撃が当たることは無かったが、

 

「ザクの攻撃だ、大丈夫なのか?」

「大丈夫とは言えません。しかし……」

 

 と、カプセルのリード中尉たちは不安を募らせていた。

 そこに至近弾が通過。

 それでリード中尉はパニックになった。

 

「こっ、高度を下げろ!」

「しかしそれでは……」

「いいから下げるんだ!」

「中尉、やめてください!!」

 

 横から操縦桿に手を出すリード中尉。

 しかしそれはデリケートな大気圏突入オペレーション中に絶対にやってはいけない行為だった。

 

「だっ、ダメです! 進入角が深くなりすぎ…… カプセルが燃え尽きてしまいますっ!」

 

 慌てて修正しようとする操縦士だったが、もう遅すぎた。

 

 

 

『ミヤビさん、カプセルが降下しました』

「何ですって!?」

 

 サラの報告で予想外の動きをする大気圏突入カプセルに気づくミヤビ。

 

「リード中尉ッ!」

 

 

 

「サラミスのカプセルがコースを逸れました!」

「なに!?」

 

 オペレーターからの報告に、ブライトはどういうことだと声を上げる。

 

「あのまま大気圏突入ができるのか?」

「無理でしょう。進入角が深くなりすぎています」

 

 ブライトはキャプテンシートの送受話器を持ってレーザー通信で呼びかける。

 

「リード中尉! リード中尉!?」

 

 しかし返事は無く、ブライトは決断を迫られる。

 モニターに映る、高度を下げ過ぎたため赤熱し始めたカプセル。

 そしてそれでもカプセルを守りザクと戦い続けるミヤビのドラケンE改の姿。

 

【挿絵表示】

 

 それを目にしたとき、ミヤビの言葉が脳裏によみがえる。

 

『リード中尉、私がカプセルを死守します。絶対にコースを変えないで下さい』

 

『コースを変えたらそれに続くホワイトベースも南米ジャブロー以外に、ジオンの勢力下に降りてしまう可能性が高くなります』

 

『大丈夫、あなた方は私が守ります。ですからもし回避するにしても私が死んだ後にしてください』

 

 ブライトは決断する。

 

 

 

『リード中尉は自分が助かるために民間人の乗っているホワイトベースを危険にさらしたりはしないハズだ』

 

 ホワイトベースからの通信が、カプセルに届く。

 その内容にリードは血相を変えてわめく。

 

「どういうことだ、なぜホワイトベースにこちらの通信がつながらない! 向こうからの通信は届いているんだぞ!」

「分かりません。高度を下げたせいで既に通信障害が始まっているか、あるいはレーザー送信の経路がこちらを守るドラケンE改の機体に遮られているか……」

 

 ぞくりと、リード中尉の背筋にとてつもない悪寒が走る。

 レーザー通信は受信機と発振器が互いに離されて設置されている。

 ゆえに一方だけが障害物に遮られるというのもありえないことではないが、しかしピンポイントでこちらの通信を妨げることができるのだろうか?

 あるいは、ミヤビは故意に……

 

『リード中尉は……』

 

 ブライトの声がレーザー通信越しに届く。

 

『いや、リード少佐はきっと』

 

 どういうことだ、自分は中尉だ。

 なぜ言い直す!

 

『きっと「自分はどうなってもいいからホワイトベースを、民間人を守れ」と思っているに違いない』

 

 ばっ、馬鹿な!

 

『そうでしょう?』

 

 ちっ、違うっ!

 

『この尊い「自己犠牲」の心を、私たちはずっと忘れないでしょう。リード少佐は素晴らしい地球連邦軍将校だったと』

 

 戦死による二階級特進!

 ブライトは既に自分を死んだものとして語っている。

 そして…… モニター上に映る、ザクと戦い続けるように見せかけながら、こちらからのレーザー通信を遮り続けるドラケンE改。

 それに乗っているのは……

 

「謀ったな! 謀ったな、『ヤシマの人形姫』ッ!!」

 

 己の不幸を呪うように叫ぶリード中尉。

 

「いっ、嫌だぁ、死にたくないっ! 助けて、助けてくれブライト君!!」

 

 錯乱し、暴れる。

 それが再び操縦を妨害し、カプセルは危険なまでに体勢を崩すことになる!

 

 

 

『死にたくないっ! 助けて、助けてくれブライト君!!』

 

 リード中尉からの通信がホワイトベースに届く。

 一瞬、やりきれない表情を浮かべたブライトだったが、すぐに気を取り直し対応する。

 

「……了解しました、ホワイトベースに収容します」

『たっ、頼むっ!』

「フラウ・ボゥ、アムロにミヤビさんと代わってカプセルを狙うザクを引き離すように伝えろ」

 

 そう指示を出すが、

 

「っ、無理です! アムロはシャアと戦うので精一杯です!」

 

 仕方ないとミライが対応する。

 

「10パーセント加速。サラミスカプセルの前に出ます」

「オムル、サラミスのカプセルを収容する、準備急げ。カイ、リュウ、対空援護しろ」

 

 

 

 前に出るホワイトベースを見て、ミヤビは嘆息する。

 ダメだったか、と。

 

 なお彼女の名誉のため……

 ミヤビはガルマを謀殺しようとしたシャアのように通信を妨害したりはしていない。

 単純にリード中尉が使い慣れていない大気圏突入カプセルの通信装置の操作を誤り、受信はできても送信はできない状況に陥っただけだったりする。

 ついでにリード中尉が暴れた拍子にスイッチが入って送話ができるようになったのだ。

 

『でも、あのカプセル、バランスを崩して制御不能なように見えますけど』

 

 と、サラが言うとおり。

 このままでは無事に収容できるとは思えない様子だ。

 

「あれを回収しようとするとホワイトベースの進入速度が危険なまでに上がりすぎてしまうし、万が一にも船尾に突っ込まれたら大惨事よ」

『何時に起きても大惨事』

 

 うるさいわ。

 

「仕方がないわね」

『仕方ないですね』

 

 そういうことになった。

 

 

 

「ドラケンE改降下! コントロールを失ったカプセルに接近していきます!」

「姉さん!?」

「馬鹿な、自殺行為だ!」

 

 ミヤビのドラケンE改の動きに、ホワイトベースブリッジは騒然となる。

 

「あんなミドルモビルスーツ、熱であっという間に焼き尽くされてしまうぞ!」

 

 実際、映像のドラケンE改の表面は赤熱し始めていた。

 しかし……

 

「燃え尽きない?」

「ドラケンE改、健在! カプセルに接触します!」

 

 

 

「特別仕様機の耐熱コーティングがこんなところで役に立つとはね」

 

 ドラケンE改のコクピット内で呟くミヤビ。

 高熱にさらされるドラケンE改の機体表面では特殊コーティングされた塗料がモコモコと膨らんでいた。

 

 今回彼女が乗っているようなドラケンE改の一部の機体にはドライヤーやアイロンで加熱すると膨らんで立体的になるクラフトペンのように、高熱にさらされると『泡状』になる耐熱塗装が施されていた。

 生成された泡による空気の層でヒート武器やビーム兵器の熱をカット、表面が燃えても何層にもなっている塗料が次から次へと内側から泡を生成していくため、ある程度までは耐えられるというもの。

 ただしビームライフルなど戦艦の主砲クラスのメガ粒子砲の直撃には耐えることができないし、ビームサーベルやヒート武器もまともに受けず、受け流すようにしないと一瞬耐えたのちに両断されるということになる。

 無いよりマシ程度のものだったが、結果として今それが一時的にミヤビの機体と命を守っているのだ。

 

 またこの塗装は層状に塗られていることにより電波を吸収、減衰させる効果も持っており、ステルス塗装としても機能する。

 さらに、

 

『この機体、装甲もチタンセラミック複合素材でできていますしね』

 

 と、サラ。

 これは当然で、通常モデルに使用されている超硬スチール合金のようなスチール系の装甲だと一定以上の熱を受けると鋼が焼きなまされ、装甲が柔らかく劣化してしまうのだ。

 ミヤビの前世、旧20~21世紀で使われていた戦車なども火炎瓶による攻撃などで火災を起こすと再生不能となっていたし、超硬スチール合金が使われているジオンのモビルスーツも焼夷榴弾や火炎放射を受けるとその場では何とかなっても装甲が劣化し、結果として使えなくなってしまう。

 ジオンのモビルスーツは装甲がフレームを兼ねるモノコック式の機体構造を持っているからなおさら。

 

 その点、チタンは過熱による劣化が(ある程度までなら)発生しないのだ。

 ミヤビも前世でアウトドア用のごく薄いチタン鍋を空焚きして真っ赤に赤熱させたことがあるが、その後の使用に問題は無かった経験を持つ。

 また旧20世紀の超音速・高高度戦略偵察機SR-71ブラックバードは超音速飛行における空気との衝突による熱で機体が加熱されてしまうため、通常の航空機素材が使用できずチタンを使っていたという。

 そしてその寿命が異様に長かったのは、飛行のたびに加熱され機体素材が熱処理を受けた状態になるためだったと言われていた。

 スチール系の素材とは逆に、加熱が寿命を伸ばす方向に働くわけである。

 

 しかしながら大気圏への突入となると、耐熱コーティングとチタンセラミック複合装甲でも耐えられるのは短時間に限られる。

 そしてミヤビの更なる策とは……

 

『タッチダウンします!』

 

 ドラケンE改は姿勢を崩している大気圏突入カプセルと接触!

 

 サーフィンしようぜ! お前ボードな!

 

 とばかりに大気圏突入カプセルをサーフボードのように操ることにより体勢を回復、安定させ、自身もカプセルを盾に、ウェーブライダーとして利用することで燃え尽きることを回避する!

 

 アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』第19話でガンダム・バルバトスが倒した敵のモビルスーツ、グレイズの上にまるでキン肉マンで出てきた技、マッスル・インフェルノのように立ち、それを盾に大気圏突入した姿の再現である。

 なおオルフェンズでは盾にされたグレイズは装甲が焼けて剥がれ落ち、コクピットのパイロットはもちろん助からない(それ以前に撃破された段階で死亡していたが)

 

 

 

 そして盾にされ、機内温度が上昇していく大気圏突入カプセルでは、当然のようにリード中尉が錯乱していた。

 

「うわぁぁぁっ! ヤシマの人形姫に殺されるっ! 蒸し焼きにされて殺されるぅぅぅっ!!」

 

 勝手に思い込んでいる『ヤシマの人形姫』への恐怖。

 その相手が自分の乗っている機体にのしかかり、盾にしているのだから当然そのように考えるのだった。

 

「落ち着いて下さい中尉! 燃え尽きる前にホワイトベースに収容されますから! あのドラケンが助けてくれたおかげで機体が安定したんじゃないですか!」

「やめろぉ、人形姫っ、ぶっとばすぞぉぉっ!」

 

 何のつもりか拳銃を抜くリード中尉。

 

「っ、中尉が錯乱した! 抑え込め!」

「中尉! 中尉!!」

 

 そんなドタバタを繰り広げながらもカプセル、そしてミヤビのドラケンE改は後部ハッチからホワイトベースに収容された。




 通信を妨害し、リード中尉を謀殺しようとする主人公。
 やはり『ヤシマの人形姫』は、その名にふさわしい冷酷無比な存在だった(ウソ)

 そしてどこかで見た方法でちょっとだけ大気圏突入の熱に耐えて見せるドラケン。

 次回はいよいよテム・レイ博士の狂気の発明、ガンキャノン大気圏突入システムの登場ですのでご期待ください。

 それではみなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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