ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第9話 翔べるの? ガンキャノン Dパート

「モ、モビルスーツがジャンプしている。いや、飛んでいるんだ。連邦軍め、なんてモビルスーツを作ったんだ」

 

 目を見張るガルマ。

 ガンキャノンはジャンプを繰り返し、すれ違いざまに蹴飛ばすなど離れ業を演じながらドップを次々に落としていく。

 ミドルモビルスーツのドラケンE改も似たようなことをやっていたが、あちらははるかに小さく軽いし、またジャンプが可能な回数も取りえる軌道も限定的だからまだ現実味があった。

 それが標準サイズのモビルスーツでも自由にできるとなると、驚きを通り越して悪夢を見ているような気持にしかならない。

 

 

 

「六つ! 次、七つ目!」

 

 ビームライフルの最後の銃撃で、七機目のドップを撃ち落とすアムロ。

 着地し、地上に撃ち尽くしたビームライフルを置いて立ち上がったところに、一機だけ色の違った褐色の機体が攻撃を仕掛けてくる。

 

「隊長機か?」

 

 

 

 ガルマはジャンプで飛び上がるガンキャノンに銃撃を放つ。

 

「この化け物が。落ちろ、落ちろっ!」

 

 

 

「こ、これは?」

 

 特攻か、と思わせるガルマ機の機動に怯むアムロ。

 

「うっ」

 

 思わず目をつぶり、しかしとっさに腰のヒートナイフを展開、斬りつける。

 だが!

 

「や、やる……」

 

 避けられないはずの間合い、しかしガルマのドップはとっさに回避。

 アムロの攻撃はその片翼を切り裂いたにとどまった。

 元より空力的に無理の有る機体を推力任せで飛ばしているドップ。

 この程度では墜ちない。

 

 

 

 ガルマはガンキャノンに背を向けるが、逃走が目的ではない。

 

「ガウ、聞こえるか? 俺だ。モビルスーツだけを木馬から引き離す。ガウの射的距離に入ったらモビルスーツを撃ち落せ」

 

 

 

「逃がすものか!」

 

 ガルマを追うアムロ。

 

『アムロ、深追いしないで!』

 

 ミヤビから制止されるが、

 

「大丈夫です、やれます!」

 

 アムロはそう言い残して再びジャンプし……

 前方の山の稜線を超えたところで、

 

『だめ! よけて!』

 

 常に変わらぬはずのミヤビが上げる悲鳴じみた声に、

 

「え!?」

 

 と戸惑うと同時に機体に直撃する光芒!

 

「うわああああ!」

 

 ガウ攻撃空母のメガ粒子砲による攻撃だ!

 

『アムロ!』

 

 そんなミヤビの声を聴きながら、アムロはガンキャノンと共に落ちて行った……

 

 

 

 落ちていくガンキャノンを、遠方から二機のミデアの編隊が捕捉していた。

 そのうちの一機は機体各所にハリネズミのように銃座を設けたガンシップタイプ。

 腹に抱えたコンテナの代わりにスリムな増槽を付け、ミデア輸送機の全行程をエスコートできるよう飛行距離と機動性を上げた戦時改装機だった。

 まぁ、しょせんは輸送機なのでドップなど敵の戦闘機に襲われた場合、そのスピードについていくことは無理だが牽制にはなる。

 そのガンシップタイプのカバーの元飛ぶミデア輸送機のコクピット。

 

「なんだい、あれは……」

 

 指揮を執る妙齢の女性が呆れたように漏らすと、それを耳にした海賊じみた顔の副長が笑って言う。

 

「しかしアレがガウを引きつけてくれたおかげでこっちは無事。感謝してやってもいいと思いますぜ、シーマ様」

「感謝ねぇ……」

 

 彼女、シーマ・ガラハウは部下である海賊男、デトローフ・コッセルの身も蓋も無い言いように呆れた様子で口元を歪めた。

 

 

 

「こんな汚れでは接触不良を起こして当たり前だろう。技師長、懲罰の覚悟をしておけ!」

 

 帰還したガルマが怒っているのはシャアが細工した通信装置の不備だけではない。

 

「そもそも何なのだ、あのメガ粒子砲は! いくら連邦のモビルスーツが強力だと言っても、直撃しても墜とせないなどという話があるか!」

 

 というわけで、ガウ攻撃空母のメガ粒子砲による攻撃は、確かにガンキャノンの胸部真正面を捉えていた。

 にもかかわらずガンキャノンはバランスを崩して落下しただけで、特に被害を受けた様子も無く帰還していったのだ。

 ガルマが整備不良を疑うのも無理はない。

 

 しかし、である。

 ミヤビの前世の記憶の中でもガウ攻撃空母が持つ性能については色々と言われていたのだ。

 例えばその航続距離。

 熱核反応炉を搭載し、その電力により熱核ジェットエンジン18基を駆動しほぼ無限の航続距離がある、とされていたが、マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』では「年代物の燃費食らい」と評されていた。

 そして『機動戦士ガンダム 公式百科事典』においてはガウの航続距離がほぼ無限であるという話はジオン開発者たちの初期計画における机上の空論としている。

 

 同様に、装備されたメガ粒子砲の性能も怪しいのだ。

 何しろ劇中でもガンキャノンに直撃しているのに損害を与えることができていない。

 それどころか複数の砲門からの集中攻撃を連続的に加えてもアムロが「た、盾がもう持たない」と焦るだけで、実際にはガンダムのシールドすら破壊できなかった代物だ。

 おそらく出力が低いか収束率が悪いか、ルナ・チタニウム製のモビルスーツを撃破するだけの威力を持たないのだ。

 

 しかし、これまではそれでも良かったのだ。

 従来の、空中を飛行する兵器は厚い装甲など持たないのだから威力などそこそこで十分。

 地上の兵器に対しては撃ち下ろしになるので、薄い上面装甲を抜くことができる。

 だから問題が顕在化せず、ガルマも元々ガンキャノンに効かないほど低威力だった、という事実に気付いていないのだ。

 まぁ、それゆえ整備不良が疑われ、技師長が叱責されているわけだったが。

 酷い災難である。

 

「まぁ、待て、ガルマ」

「シャア」

「信賞必罰は当然ではあるが、そのように声を荒立てては部下が委縮し、何より優先されるべき原因究明と再発防止に差しさわりが出る」

 

 実際シャアの言うとおりで、ミヤビの前世でもまともな企業や組織なら個人を責めずに問題点を洗い出し、改善することでトラブル事例を資産とし生かしていた。

 重大な事故やトラブルが発生した場合、当事者を免責したうえで真実をすべて語らせ原因究明や再発防止に役立てるべきなのだ。

 自分に不利益な証言を正直に話すと罰が重くなるような状況を作っておいて真実を語れというのは無理がある。

 ましてや個人を責めるようなブラックな企業、組織は三流以下の大間抜け。

 それでは原因が埋もれてしまい、また同じようなトラブルを繰り返し損失を出し続けるだけだからだ。

 

 とはいえ、通信ジャックに細工をしたのはシャアであるのだから、そのように言えるのは面の皮が厚いとしか表現のしようがなかったが。

 何その自作自演。

 

「それに私も謝らねばなるまい。モビルスーツへの攻撃を優先したために、敵の輸送機を撃墜することができなかった」

 

 シャアは殊勝にそう言う。

 人の好いガルマはそれに毒気を抜かれ、

 

「いや、それは仕方ないだろう」

 

 と首を振る。

 ガルマは若いゆえに感情の起伏が激しいが、割とあっさり機嫌を直す、不機嫌を引きずらないところがあり、そこが兵には好かれていた。

 誰だっていつまでも不機嫌なままの上司の下では働きたくないものだから。

 

「しかし前線をすり抜け、孤立した部隊に補給を届けるとは、かなり気合の入った部隊だな」

「ああ、敵ながらやる。今の連邦にそのような将兵がまだ居たとはな」

 

 そう、話し合うガルマとシャアだったが……

 

 

 

「何でシーマさんがここに居るんですか……」

 

 ミヤビはホワイトベースに派遣されてきた補給部隊、ミデア輸送機から降り立った女性を前にして瞳をわずかに見開いた。

 

「何でとはご挨拶だねぇ」

 

 シーマは口ではそう言うが、その表情は満面の笑みだ。

『ヤシマの人形姫』を驚かすことができて至極満足といった風。

 

「民間軍事会社が軍の委託を受けて補給業務を代行する。どこにも問題は無いだろう?」

「大ありです」

 

 シーマが現在所属しているのが、ヤシマグループ内の民間軍事会社『ヤシマ・ファイアアンドセキュリティ』。

 

「民間軍事会社(PMC:private military company)は、兵站や情報活動、安全保障に人材育成といった業務を軍、またはその他の組織からの委託を受け代行するサービス。要するに軍事行動のアウトソーシング先というやつですが」

 

 確かにそうではあるのだが。

 ミヤビは言う。

 

「敵の勢力圏内に孤立した部隊に前線を突破して補給作業をするなんて危険度の高すぎるオペはさすがに業務対象外です。何でこんなの受けたんですか」

「何でって、ゴップの大将に頼まれたからね」

 

 ゴップ大将……

 ミヤビの父、シュウ・ヤシマと付き合いのある人物で兵站を担当する軍政家。

 色々グレーな噂が絶えない人物ではあるが、有能なのは間違いがない。

 ミヤビも色々と世話になってるし、逆に恩も返している持ちつ持たれつの関係である。

 

「それにあのいけ好かないじじいにも頭を下げられちゃあね」

 

 シーマの言うじじいとは、

 

「まさか……」

「そのまさかさ、レビル将軍直々にこのあたしに頭を下げて来てね」

 

 シーマはレビル将軍とは因縁浅からぬ間柄にある。

 例のミヤビが企画し、レビル将軍を筆頭とした反ジオン感情を持つ反対派に阻まれた『コロニーリフレッシュプロジェクト』だが、その対象第一号のテストケースとして選ばれていたのがサイド3の3バンチコロニー。

 つまりシーマの出身地である『マハル』だったのだ。

 

 これは、ある意味必然だった。

 マハルは元々コロニー公社からスペースコロニーの建築・補修の下請けを行う業者や、ジオン国民として戸籍登録が行われていない者たちが多く住んでいた(ミヤビの知る史実では彼らが半ば強制的に海兵上陸部隊に招集されたことがシーマ艦隊設立の遠因となっていた)

 逆に言うと政治的発言力が弱く、コロニーの補修、メンテも予算が付かず常に後回しになっており、ジオンのコロニーの中でも初期に作られていることもあり老朽化が酷く進行していたのだ。

『機動戦士ガンダム』第11話で一時帰国したドズル・ザビ中将が1バンチ、ズム・シティのベイブロックへと入港した際、周囲を見回して「フン、半年前と同じだ。なんの補強工事もしておらん」と言い捨てていたが、首都である1バンチですらそうなのだからマハルの状況は推して知るべしといったところ。

 

 これは住人にスペースコロニーの建築・補修の下請けを行う業者が多いことも影響している。

 つまり、予算が無い、しかし何とかしなければならない、だから住人である業者の職人芸で何とかする、何とかなっているのでますます予算が付かない、という悪循環である。

 人命にかかわるような問題に対し設備投資による恒久対策を講じず、職人芸に頼った応急処置だけで済ます、人に頼った運用で逃げる。

 一番やってはいけないことをやっているのだ。

 この現状を聞いたミヤビがめったに変わることのない表情を引きつらせていたほどである。

 

 そして他にもマハルがテストケースの対象となりやすい理由がある。

 身近な例で言うとマンションの建て替え工事。

 住人に反対派が居ると話が遅々として進まない。

 そういう意味で政治的影響力が弱い、つまり住民の抵抗を無視しやすいマハルはテスト事業の対象としてやりやすいのだ。

 そもそも工事には住人である業者を使うのだから反対も少ないだろうし、また宿舎を用意せずとも彼らが自宅から工事現場に通えるというメリットもある。

 そして彼ら業者に金が落ちれば、他の住人も潤う。

 

 と、まぁいいことづくめだったのだが、地球連邦の反対派に阻まれ計画は頓挫。

 しかしタダでは転ばないのがミヤビの父親、ヤシマ財閥当主、辣腕の経営者シュウ・ヤシマ氏である。

 というより彼にはプロジェクトが失敗するのは最初から分かっており想定どおり。

 そして彼はこのプロジェクトの推進で人望を集めたミヤビを使ってマハルの人材をかき集めたのだ。

 ミヤビに、

 

「マハルのみなさんには期待をさせておいて、私の力が及ばずこんなことになって済みません。でも私は今日まで一緒に同じ夢を見て頑張ってきたみなさんとの絆をこれっきりにしたくはありません。埋め合わせ、という意味もありますが、みなさんに仕事をお世話させていただきたいのです」

 

 と言え!

 こっそり目薬を使って涙をこぼす演出も忘れずにな!

 人形姫の目に涙! これは効く!

 

 と命じ、スペースコロニーの建築・補修の下請けを行う業者や、ジオン国民として戸籍登録が行われていない者たちの多くをヤシマグループの各企業に迎え入れる。

 まぁ、元々ミヤビは父や周囲を説得するために「ダメでもマハルでダブついてる人材をうちで吸収すれば大きなメリットを見込めるよ」と主張していたので既定路線ではあるのだが。

 

 そして、ジオンはあっさりとこれら人材を手放した。

 元々、彼らは厄介者扱いされていた。

 一時期需要があったため多く流れて来てマハルに居住したコロニーの建築・補修の下請け業者たちだったが、現在ではジオンが戦争準備にシフトしたため仕事も少なくなり景気は悪い。

 つまり彼らに国民になられると税収より社会保障や福祉等にかかる支出の方が大きくなる。

 だからこそジオン国民として戸籍登録が行われていない者が多かったのだ。

 それを放出し、身軽になることはジオンとしてもメリットがある。

 

 もちろん、地球連邦に国力で劣るジオンなのだから手放さず軍に吸収するという選択肢もあったが……

 しかしジオン国籍を持たない者の登用は、

 

「人類は、我ら選ばれた優良種たるジオン国国民に管理・運営されてはじめて永久に生き延びることができる」

 

 というギレン、ザビ家の主張とは相反するもの。

 実際に史実ではゲーム『機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles』とその関連作品に登場の外人部隊(MS特務遊撃隊)もあったが、規模は小さいし扱いは微妙といった具合。

 そういった状況で扱いに困る、迷っていたところにヤシマからの申し出があってこれ幸いと放出したというのが実情だった。

 

 そんなわけでシーマもまたヤシマグループ企業に就職することになった。

 

(サイド6の戸籍を持っているんだから、好き好んで戦争に首を突っ込まないでもいいでしょうに……)

 

 とミヤビが独白するとおり、わざわざ危険を冒さなくてもいいだろうと将来的に中立となるサイド6の戸籍を彼らに与えたのだが、史実ではシーマ艦隊を構成したシーマ自身と配下の荒くれ者たちの多くは、ヤシマグループの民間軍事会社『ヤシマ・ファイアアンドセキュリティ』に集っていた。

 副官の海賊男、デトローフ・コッセル氏なんかもそのまんまである。

 しかし、シーマはそんなミヤビの想いも分かっているだろうに涼しい顔をして、

 

「使えるものは何でも使うってこったろ。あたしたちのような者も……」

 

 そしていたずらっぽく笑うと、

 

「どこかの将軍サマの白髪頭もね」

 

 と言ってのける。

 まぁ、レビル将軍も自分の頭を下げるぐらいで使える駒を動かせるならそれでいい、と考えたからこそシーマに依頼をかけたのだろうし。

 

「かないませんね……」

 

 ミヤビはそう言って肩をすくめた。

 そして、ふと気付き、

 

「レビル将軍ならマチルダ隊を使うと思いましたが」

 

 と聞いてみる。

 

「ああ、彼女ならヨーロッパ南方戦線…… 例のザクハンターの中尉さんの所に出払ってるって話さ」

「中尉さんって、前にお話を聞いたベン・バーバリー中尉?」

 

 『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』登場の対MS特技兵指揮官。

 ミヤビにとっては同じ死神に魅入られた関係者でもあるのでいつかは会って話を聞いてみたいものなのだが。

 史実では対モビルスーツ用にスケールアップされた有線ミサイル、対MS重誘導弾M-101A3 リジーナでザクと戦っていた彼だったが、この世界ではドラケンE改に乗っているという。

 よりマシな兵器を与えられているためか、今現在も生き延びヨーロッパ南方戦線でザクハンターとして活躍中らしい。

 シーマはドラケンE改の操縦及び戦術の指導教官として彼と接触したのだ。

 これもミヤビと彼女が生み出したドラケンE改が作用した変更点のようだった。

 

 

 

 補給作業を終え、シーマはブライトたちに別れを告げる。

 

「テム・レイ大尉、および避難民の病人など35名は引き取ります。ホワイトベース、モビルスーツについてはなんの決定も知らされていないので現状のままでしょう。なお、今までの戦闘記録はレビル将軍の依頼によりコピーを頂きます」

 

 一応、申し送りなので丁寧語だ。

 普段の…… そして何より前世の記憶の中にある『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』での彼女を知るミヤビには新鮮に聞こえる。

 まぁ、史実では何のコネも無いにも関わらずジオン軍で中佐まで昇進した人物、エリートである。

 この辺の演技は自由自在といったところか。

 

 なお、彼女の背後では頭から布袋の中に突っ込まれたテム・レイ博士らしき人物がサラの制御するドラケンE改によって運ばれていた。

 ムームー言っているので猿ぐつわでもかませられているのか。

 ジャブローへの帰還を拒否し工作室に立てこもっていたのを、ミヤビの指示でサラが扉を破り捕まえたのだ。

 

「しかし、ミズ・ガラハウ、わかりません。なぜ僕らも船も現状のままなんですか?」

 

 ブライトからは当然の質問が上がるが、

 

「さてね? レビル将軍はホワイトベースが現状の戦闘を続けられるのなら、正規軍と同じだと言ってたけどね」

 

 と、地に戻ってシーマは答える。

 

「今は連邦軍だってガタガタだからねぇ。あたしだってゴップ大将の依頼でここまで来ただけで、参謀本部とは関係ないし」

 

 その言いっぷりにブライトは戸惑うが、それでも、

 

「で、次の補給は受けられるのですか?」

 

 と、押さえるところは押さえる。

 しかし、シーマの回答は、

 

「さあ。このジオンの制空権を脱出できれば、なんとか?」

 

 というあいまいなもの。

 

「ともかく、連邦軍にもあんたたちを見捨ててはいない人がいることを忘れなければいいんじゃないかい?」

 

 そう言って、シーマはアムロたちに歩み寄る。

 

「シーマさん?」

「あんたたちの戦いがなければ、うちの姫様たちもやられていたかも知れないね。ありがとう、そう言わせてもらうよ」

「そ、そんな」

 

 姫様たち、とはもちろんミヤビとミライだ。

 そして当然、姫呼ばわりされてミヤビは死んだ目をしているのだが、シーマは気にしない、というかわざとやっている節がある。

 

 まぁ、ミヤビがシーマを気遣うように、シーマもミヤビとミライを気遣っている。

 このまま連れ帰りたいところではあるが、帰り道も危険であることに変わりなく、ホワイトベースに残るのとどちらが安全かは正直分からない。

 また、シーマのあずかり知らないところではあるが、ヤシマ姉妹にはヤシマグループを戦争に協力させる人質としての役割もあった。

 ジオンのメイ・カーウィン嬢、ゲーム『機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles』とその関連作品に登場の彼女は旧ジオン・ダイクン派のカーウィン家をジオンの戦争に協力させるための人質だった。

 娘が前線に送られればカーウィン家とて非協力では居られまい、というもの。

 ミヤビの『コロニーリフレッシュプロジェクト』もあってジオンに関わりの多いヤシマグループは、同様に連邦への戦争協力への証としてミヤビたちを用いることが求められてしまっているのだ。

 

 シーマはアムロに微笑みかける。

 

「頑張りな、少年」

「はい」

 

 一瞬の香りを残してシーマは去った。

 アムロにとって、それはミヤビに次いで二番目に知った女性の香りであったのだろう。

 

 

 

「やれやれ行ったか」

「レイ博士!?」

 

 シーマの乗ったミデアを見送るクルーの中に、ひょっこりと混じっているのは、先ほど連行されていったはずのテム・レイ博士だった。

 

「えっ、それじゃあサラちゃんが捕まえたのは……」

 

 ミヤビは周囲を見回して納得する。

 

「リード中尉ですか」

 

 そう、さっきから誰か欠けていると思ったら、リード中尉の姿が無い。

 

『えっ、でも私は確かに……』

 

 サラが戸惑いの声を上げるが、ミヤビにはネタが分かっている。

 

「レイ博士、ドラケンのセンサーカメラ…… サラちゃんの目を盗みましたね」

 

 アニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』に登場するハッカー、笑い男のやったあれである。

 カメラの画像情報をハッキングして上書きするやつ。

 それでリード中尉をテム・レイ博士に見せかけてサラに捕まえさせたのだ。

 多分、音声入力にも細工してる。

 

 AI単独制御の兵器に反対する者が多いのは、AIの目は簡単にごまかせるから、ということがある。

 今回はハッキング…… おそらくサラシリーズ、それも複数に命じてスパコン並みの演算力を持つ教育型コンピュータによるごり押しをしたのだろう。

 サラ本体はハッキングできなくとも、末端のセンサー類なら誤魔化せるはず。

 そして更に言うなら、もっと原始的な方法でもよい。

 『機動戦士Zガンダム』以降、登場する装備であるダミーバルーンなどが最たるものだ。

 どうして風船ごときに騙されるのさ、という話があるが、モビルスーツのモニターに映し出される画像はセンサーの情報を基にCG補正されたもの。

 つまりセンサーに本物と変わらない反応を返すことができれば、モビルスーツのコンピュータはそれを本物と認識して勝手に本物と変わらない画像に補正して表示させてしまうのだ。

 

 ともあれ、これで史実どおりリード中尉はリタイヤである。

 おつかれさまでした、とミデアが消えた空を見上げ祈るミヤビだった。

 

 

 

次回予告

 ホワイトベースを討ち漏らすことはイセリナとの恋に賭けてもできなかった。

 最後の強襲をかけるガルマ・ザビ。

 アムロたちが闇の中に恐怖を見た時、シャアのたくらみが――

「く…… 来る! イセリナが走ってくる! イセリナが音もなく走ってくる―― く…… 来るなあ!」

 次回『ガルマ入籍す』

 シャアは生き延びることができるか?




 というわけで、マチルダさんは来ませんでした。
 代わりにやってきたのはシーマ様。
 そしてミヤビの『コロニーリフレッシュプロジェクト』のまだ語られていなかった部分でした。
 このまま戦争が史実どおりに進むとレビル将軍が…… そしてミヤビの評判がとんでもないことになるんですけど。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。
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