ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第11話 イセリナ、恋のあとは愛でもちろん結婚式 Aパート

 月の向こう、地球から最も離れた宇宙空間に数十の宇宙都市が浮かぶ。

 これこそ地球をみずからの独裁によって治めようとするザビ家の支配する宇宙都市国家、ジオンである。

 この宇宙に浮かぶ円筒形の建造物の中に人々の生活空間がある。

 すなわち円筒形の直径は6キロメートルあまり、長さにいたっては30キロメートル以上ある。

 その中には人工の自然が作られて、人々は地球上とまったく同じ生活を営んでいた。

 今、ジオン軍宇宙攻撃軍司令ドズル・ザビ中将が前線基地ソロモンから帰国する……

 

 ムサイで1バンチコロニー、ズム・シティのベイブロックへと入港したドズルは周囲を見回して、

 

「フン、半年前と同じだ。なんの補強工事もしておらん」

 

 と言い捨てる。

 首都である1バンチですらそうなのだから他のコロニーの状況は推して知るべしといったところ。

 戦争にヒト、モノ、カネ、すべてのリソースをつぎ込んだ弊害である。

 

 あのヤシマの令嬢が進めていた『コロニーリフレッシュプロジェクト』が実現していたら、もっと違った光景が、そして未来が広がっていただろうか。

 

 ドズルはヤシマの人形姫のほっそりとした、その掲げる理想のように美しくも儚い姿を思い起こしながら独白する。

 だが、

 

「考えても仕方がないな」

 

 過去は決して覆らない。

 覆らないのだ。

 

 

 

 宇宙都市は遠心力によって重力を発生させているために、人々はカプセルの内側を大地として暮らしている。

 ここはジオン公国の首都、ズム・シティ。

 悪の城、といった趣のある公王庁舎にザビ家の者たちが集う。

 

「ガルマの結婚を式も無しで済ます訳には参りません。ザビ家末代の沽券にかかわります」

 

 ガルマの兄である長男ギレンがそう主張するが、父、公王デギンは弱弱しく首を振る。

 

「ギレン、わしはまだガルマの結婚を……」

 

 二人の意識には酷いズレがある。

 デギンは公王ではなく、孫のようにかわいがっていた…… そして地球に降りても頻繁にビデオレターを送ってきてくれていたガルマが自分への相談も無しに結婚してしまったことにショックを受け、その結婚を認められない、ただの一人の父親に成り下がっており。

 一方ギレンはジオン公国の総帥にしてデギン隠居後の実質的最高指導者としての考えしか述べていない。

 

 この場合デギンを情けないと考えるか、ギレンに、

 

「マジな顔をして国家イベントのように語ってるけど実質、ただの末の弟の結婚騒動だよね?」

 

 とツッコむべきか意見の分かれるところだろう。

 まぁ、現実にはギレン相手にそんなことを言える者など存在しないわけだが。

 

 そこに儀仗兵が告げる。

 

「おそれながら、ドズル・ザビ様、キシリア・ザビ様、ただいま前線より御到着でございます」

「通せ」

 

 ギレンの指示が下りると同時に三男ドズル自らが大扉を開けて現れる。

 その背後には長女キシリアの姿もあった。

 

「父上!」

「早かったな、二人共」

「父上、さぞ……」

 

 とドズルはガルマの負傷と突然の結婚宣言に心を痛めるデギンのことを心配するが、やはりデギンとは意識のずれがある。

 デギンは負傷もそうだが、結婚の方により大きなショックを受けており。

 ドズルはというと、自分自身、妻であるゼナを迎え入れるにあたって父や兄弟の了承など事後承諾だったしそれでも特に問題が無かったため、ガルマの結婚に対しては、

 

(ガルマもなかなかやるではないか)

 

 と苦笑するだけで、逆にその成長を喜ぶような節がある。

 また自身の部下であったシャアがその場に居ながら防げなかったということで、どうしてもガルマの負傷の方に意識が行ってしまうのだ。

 

 一方で一緒に入室したキシリアは、

 

「残念です。あのガルマが連邦軍のモビルスーツの前に敗れたと」

 

 と、ザビ家の者の敗北と負傷による自軍への影響しか考えていない発言をする。

 そんな具合でこの家族、見事なまでに思惑がバラバラである。

 武人肌で剛直なドズルが意外にも一番マシなように感じられるかもしれないが……

 

 いや、ギレンもキシリアも父デギンの傷心を分かっていないわけではないのだ。

 

 ギレンはミヤビをはるかに超えるロジック型思考の持ち主。

 それがなぜ破綻しないのかというと、IQ240の有り余る思考力で補っているからだ。

 ミヤビだったら「人の心って分からないよね」となってしまうところをロジックで瞬時に理解できてしまう優れた頭脳を持つからこそ、彼は雄弁家としてアジテーターとして人の心を揺り動かすことができるのだ。

 今回も頭では父の傷心は分かっている。

 しかしそれは理屈で理解しているだけなので、共感できるかというとまた別の話。

 そして共感できないし、したところで何が解決するわけでもないことに彼が付き合うことはない。

 だからギレンは起こったことはいまさら変えられないのだからと具体的な今後の展望を語っているわけである。

 

 一方、キシリアはというと彼女は策謀家。

 それゆえ人の心理には詳しく、その点では父の心情を正しく洞察している。

 しかし策謀家であるがゆえに、それが自分に対して有利となるか不利となるかで判断してしまうきらいがある。

 そして地球に展開する地上部隊もガルマ自身も彼女の配下。

 その敗北は自身の立場に直結しているため、そこに目が向いてしまうわけだ。

 

 ギレンもキシリアも、これが他者に向けた話なら影響を考えもう少し言葉や態度を飾っただろう。

 しかし相手は父である。

 いまさら態度を取り繕ったところで見透かされるだろうし、そもそも家族だということで素を見せているわけだ。

 そういう意味では親子という関係に甘えている、と取れなくもない。

 まぁ、実際にこの二人を前にしてそのように考えられる人間が居るとも思えないが。

 

 そしてギレンとキシリアからしてみれば、自分は分かっている、という顔をしたドズルの方がおかしいのだ。

 能天気と言っていいし、現状を理解しているのかと腹立たしくもある。

 そもそもこの戦時に『ガルマの負傷と突然の結婚宣言に心を痛めるデギン』を慰めるためにジオンの重鎮たる彼らが現場を留守にして集まるか、ということだ。

 キシリアが危惧する問題があるし、ギレンが主張するように今後を検討しなければならないため集まっているのだ。

 だからこそドズルもソロモンを部下に任せて一時的に帰国したはずなのだが、この言動では……

 

 

 

「ガルマ様の病室はこちらになります」

 

 ガルマの副官であるダロタ中尉の案内で軍病院の廊下を進むのは、キシリアの指示で急遽、資源採掘地帯オデッサから確認のためやってきたマ・クベ大佐。

 

「ガルマ様のこと、我々がついておりながら無念です」

 

 と、沈痛な面持ちで語るダロタ中尉。

 それをマ・クベは何の色も温度も感じられないまなざしで一瞥するとこう言う。

 

「そうだな、シャア少佐も含め何の咎めも無いとは言えまい」

「それは……」

 

 息をのむダロタに、マ・クベは言う。

 

「君には分からぬことだろうが、ガルマ様に関しては上の意思が働く」

「……お恐れながらキシリア閣下の?」

 

 マ・クベは首を振る。

 

「そ、それではまさかギレン総帥の……」

「いや」

 

 というマ・クベの言葉にダロタはほっと息をついた。

 つまり自分の考え過ぎかと安堵しかけたところで、

 

「それより上であろう」

 

 というマ・クベの言葉に愕然とする。

 

「いや、しかしそれは」

 

 公王自らが?

 ダロタは目玉が飛び出るかというほど瞳を見開き驚愕する。

 そんな彼にマ・クベは確認する。

 

「今、君が動かせる戦力は?」

「が、ガウが三機。しかし戦闘機隊はガルマ様の直属、私には動かす権限が……」

「そうか」

 

 マ・クベはあくまで即応戦力を確認しただけ。

 

「ガルマ様を負傷させた責任、公国への忠誠…… 示す必要があろうな」

 

 ということも、ただの一般論だ。

 つまり、

 

「ま、マ・クベ大佐っ!」

 

 声を震わせるこの男が恐怖ゆえに先走ったとしても、彼がマ・クベに暗に指示されたと取っても、マ・クベには何の責任も発生しない。

 そもそもガルマの部下であるダロタにマ・クベは命令権など持っていないのだから。

 

「ダロタ中尉、グレートキャニオンでの戦いを覚えているか?」

「は?」

 

 マ・クベはあらかじめ入手していたホワイトベースとの交戦記録を元に話す。

 

「木馬の艦砲は強力だったが、下からの接近を許したマゼラアタック隊に対してはそれを撃つことができなかった。……脆いものだな」

 

 そう言い残してガルマの居る病室へと入って行った。

 

「大佐……」

 

 絶望させた後に一筋の希望を見せる。

 人はそれに飛びつかずには居られない……

 

 

 

「あれは、マ・クベ大佐か?」

 

 軍病院の廊下を歩くシャアはガルマの病室から出てきた男を遠目に見てつぶやく。

 マ・クベはシャアを一瞥するが、何の反応も示さずに背を向け行ってしまった。

 

「キシリア殿の指示による確認か……」

 

 ご苦労なことだとシャアは苦笑する。

 そうして気を取り直し入った病室では、

 

「うむ、これなら良いだろう。キャリフォルニアベースの工廠に試作を打診しろ」

 

 ガルマはベッドの上、折れた足をワイヤーで吊られた状態で部下相手に精力的に書類仕事を進めていた。

 といっても、紙ではなく彼が手にしているのはタブレット端末。

 閲覧性は紙に負けるが、ベッドに横になりながら見るには具合がいい。

 

 ミヤビも前世で入院した時にはお世話になった。

 一人暮らしで救急車により搬送されたときにはスマホしか持っていなかったが、その電池が切れる前に職場、その他に連絡の上、Amaz〇nの通販で必要なものを注文。

 充電器、タブレット、耳栓、イヤホン、下着類などなど入院生活に必要なもの一式、すべて。

 優秀な日本の宅配業者はそれを病室まで届けてくれたのだった。

 それで家族を呼ぶ必要も、友人に頼る必要も無く入院生活を過ごせた。

 某重工…… 一部上場企業勤めでそれなりな給料をもらっていた前世のミヤビは金で解決できるものは金で解決していた。

 仕事と一緒だ。

 アウトソーシングできるものは外部のサービスに金を払ってやってもらう。

 餅は餅屋、完全な自前主義など害悪でしかない。

 プライベートであってもそれは変わらない。

 

 まぁ、それはともかく、

 

「……大丈夫なのか、ガルマ」

 

 見舞いに来たシャアは思わず聞いてしまう。

 

「ああ、折れた骨を固定するのにワイヤーで吊らなければならないから入院が必要だが、それも二週間程度。問題ない」

 

 そしてそう答えるガルマの表情、口調は、

 

(こいつ頭でも打ったか、それとも結婚したせいで頭のネジがまとめて何本か吹っ飛んでしまったか?)

 

 と疑ってしまうほど明るい。

 シャアの引きつる口元に、それを読んだかガルマは苦笑して首を振る。

 

「いや、私は壊れちゃいない。まぁ、ちょっとしたパラダイムシフトさ」

 

 発想、思考の転換?

 

「つまりだ、入院して強制的に休養を取らされたことで、これまで目を向けられなかったところに目を向ける余裕が生まれたということだ」

「ほう?」

 

 余裕や冗長性というものは、知的生産活動には欠かせないリソースだ。

 前線に出ることにこだわっていた彼にはそれが貧窮していたことに今回、ようやく気付けたというわけだ。

 

 災い転じて福となす、だったか。

 ガルマはかつて出会ったヤシマの令嬢、ミヤビの言った言葉を思い出す。

 幸運も不運も、状況の変化に過ぎないのだ。

 変化をマイナスと捉えうずくまって泣いているだけか、それをチャンスと考え利用するかの違いでしかない。

 

「例えば今回私は敗北した。しかし勝利より『負け』から学ぶことの方が多くあるようだ」

 

 つまりは今回の戦闘により得られた戦訓だ。

 

 それはそうだ。

 ミヤビも前世で某重工に勤めていたころは事故、故障、トラブルが起こった際は原因究明、再発防止に奔走させられたものだ。

 それが貴重な財産になるのだから。

 とはいえ、重大なものなら報告書の押印欄には本社のお偉いさんの判子が並び、果ては国に…… 所管の省庁にまで提出されることになる。

 添付される資料に、質問があった場合の説明用に揃えるバックデータの山。

 ということで作るのは結構大変である。

 企業によってはそれ専属の人員を配置しているくらいに。

 多分、ガルマの部下たちも現在、地獄を見ているだろう。

 

 またガルマ個人としても『負けたことがある』ということが今後大きな財産となるはずだ。

 そうやって身をもって体験して、辛酸を舐めようとも自分で這い上がらないと本当の血肉にはならないのだから。

 

「今後、戦いを進めていくと最終的にはジャブローを攻めることになるだろう。開発が進められている水陸両用モビルスーツとガウによるモビルスーツ降下の両面作戦かな?」

 

 空挺降下は撃墜のリスクがあるため水陸両用モビルスーツのみで攻めれば良いのでは、という意見もあるが、それでは戦力が足りないのだ。

 それゆえガウを使っての陸戦用モビルスーツの投入は避けられない情勢だ。

 しかし、である。

 

「だが現状のままではリスクが高くなりすぎることが今回の敗北で判明した。つまりガウの機体正面にモビルスーツハッチを設けたがゆえに、それを開放する場合は時速100キロ以下の低速まで落とさなければならない問題だ」

「ふむ……」

「ジャブローの濃密な対空砲火に対し、これではいたずらに損害を出すだけで終わってしまうだろう」

 

 実際、ミヤビの前世の記憶でもそのようになっていた。

 

「ではどうするのだ?」

「正面ハッチを使えなければ、後部デッキを使えば良い」

 

 ガウにはそれがある。

 しかし、

 

「モビルスーツを降ろすには高さが足りないが?」

 

 と、シャアが言うようにモビルスーツを歩行移動させて飛び降りさせるには無理がある。

 まさか匍匐前進させて進ませるわけにもいかない。

 無重力下なら『機動戦士ガンダム』第2話にてムサイの艦橋下ハッチから射出されたシャアたちのザクのように、うつぶせの状態でカタパルトによって頭から発進させるという方法もあっただろうが。

 

「ああ、だから技術者たちは四つの案を提示してきた」

 

 手元のタブレット端末を操作し、病室に運び込まれた大型ディスプレイに資料を映し出すガルマ。

 

「一つ目はレール上をスライドするメカニカルアームを後部デッキ天井に設置し、それによりモビルスーツを伏せた状態で吊り下げ、降下時に送り出すというものだ」

 

 これなら後部デッキの高さが足りなくとも何とかなる。

 

「欠点は改装に手間とコストがかかること、一機ごとに保持、リリースを繰り返さなければならないためどうしても投下に間隔が開いてしまうこと。また今後開発されるモビルスーツの形状によっては合わない、使用できない機体も出てくるかもしれないということだ」

「そうなるとさらに改修が必要で費用がかさむか……」

 

 技術者好みの方法ではあるが、凝り過ぎたシステムは柔軟性に難があるということか。

 そしてガルマは表示していた資料を切り替える。

 

「二つ目は宇宙世紀以前からある、輸送機から空挺戦車を空中投下するのに使われたパレットを用いる方法」

 

 例えばアメリカ陸軍で使用されたM551シェリダン空挺戦車は輸送機からの空中投下が可能で、パレットに載せて固定した状態で空中へ放出し、パラシュートを開いて降下させることができた。

 また、低高度パラシュート抽出システム(Low-Altitude Parachute Extraction System, LAPES, レイプス)と呼ばれる方法もあり、この場合は超低空を飛行する輸送機からパレットに載せた状態でパラシュートを開いて機外に引き出し、そのままパラシュートによって減速して着地させる。

 ミヤビの前世の記憶にある『ガールズ&パンツァー 劇場版』にて主人公たち大洗の戦車をC-5Mスーパーギャラクシーから投下していたアレである。

 

 ジオン軍にもマゼラ・アイン空挺戦車が存在しており、これらの運用ノウハウは蓄積されていた。

 

「モビルスーツをパレットに寝せた状態で、パレットに装備された減速用のバリュートを開いて機外に引き出し、そして即座に分離という方法だ」

 

 シェリダンと違ってパラシュートではなくバリュートを使うのは単に使用速度が違うからだ。

 バリュートというとガンダムでは大気圏突入装置のイメージが強いが、実際には高速時においてパラシュートより頑丈なため航空機搭載無誘導爆弾の減速装置として使われていたものだった。

 

「長所は第一案より安価にできることとモビルスーツの形状を選ばないこと。短所はパレットが使い捨てになることと、機体後方に安全領域を設けてそこに味方機を入れないようにしないと捨てられたパレットに衝突する危険があることだ」

 

 まぁ、納得できる内容である。

 

「案は四つあるのだったな?」

「ああ」

 

 ガルマがディスプレイの表示を切り替えて映し出したのは、ガウの後部デッキの床面に起倒式のスロープを設ける方法。

 

「これが第三案だ」

「これは……」

「床面を引き起こし傾斜を付けて滑り台にするから、そこにモビルスーツを飛び込ませて降りてくれ、というものだな」

 

 見れば滑降部が面ではなくゴム製のローラーをならべたものとなっている。

 ミヤビの前世、日本平動物園にあった日本最長ということで知られていたローラースライダーみたいなものだ。

 

「面白いことを考える」

「費用と手間は一案と二案の中間だな。またモビルスーツの形状も選ばないし、二案のように使い捨てでもない」

 

 問題は実用性というか、これ本当に大丈夫なのか、ということだが。

 

「第四案もそういう意味ではなかなかだぞ」

 

 とガルマは笑う。

 そして映し出されたのは、

 

「ベルトコンベアを床面に設置するか……」

「ああ、そこに横になれば機外へと運んでくれるというものだ」

 

 これは転倒などによりルームランナーに吹っ飛ばされる羽目になった人々の爆笑動画に発想を得たものらしい。

 そして実際に検証用縮小モデルとしてルームランナーを改造したものが作られ、発案者自らが飛ばされている動画が再生される。

 思わず吹き出しそうになるのをこらえ、シャアは、

 

「おかしい…… 我々は真面目な検討をしていたのではなかったのか?」

 

 と、つぶやく。

 ガルマは、

 

「技術者たちは大真面目だぞ、シャア」

 

 頭痛をこらえるような沈痛な面持ちと口調を作って答えるが、

 

「ガルマ、目と口元が笑っているぞ」

「そう言う君こそ」

 

 そして二人で吹き出す。

 まるで士官学校時代、馬鹿げた冗談に笑い転げていたあのころに戻ったかのように。

 ひとしきり笑って瞳に涙をにじませたシャアだったが、

 

「しかしシャア、君はまだいい。私なぞこの案をまじめ腐った担当技師に直接説明されたのだからな」

 

 というガルマの言葉にその状況を思い浮かべてしまい、さらに笑いの発作に見舞われる。

 

「ぶっ!」

「相手の正気を疑いつつも笑うこともできず、次々に現れる笑撃の映像。吹き出すのをこらえるのに顔面と腹筋が崩壊するかと思ったぞ」

 

 ガルマはその時のことを再現するかのように目に力を入れカッと見開き真顔を作って見せる。

 整った甘い顔立ちをしているだけに、その表情は卑怯だ!

 

「や、やめっ、ガルマ……」

 

 ガルマの追撃に笑いのツボに入ったのかのたうちまわるシャア。

 

「おいおい大丈夫か、シャア」

 

 そう言いつつも、笑い過ぎで咳き込むシャアにコップに注いだミネラルウォーターを差し出すガルマ。

 

「す、すまん」

 

 シャアはそれを受け取り、口を付けるが、

 

「――楽しそうになさってますね、ガルマさま(旦那様)

「ぶふうっ!」

 

 不意に背後から聞こえた声。

 それも耳で聞いている言葉と実際の文字で致命的に何かが狂っている、そんな副音声が聞こえてくるかのような語り掛けに思いっきり吹き出してしまう。

 

「げはっ、げはぁぁっっ! き、気管に入った。む、むせるっ!」

 

 仮面の下、涙目で苦しむシャアだったが、イセリナはそれが目に入っていないかのように穏やかな笑みを浮かべ無視すると、ガルマに歩み寄る。

 

「さぁガルマさま(旦那様)、清拭のお時間ですよ」

 

 と蒸しタオルを手に……




 ザビ家のドタバタに暗躍するマ・クベ、そしてシャアとガルマの技術談義。
 最後にイセリナが全部持っていくのはお約束なのか……
 ジオンサイドが盛りだくさんなゆえ、主人公の出番が無いという。
 ミヤビたちホワイトベースサイドのお話はまた次回にご期待ください。


> また、低高度パラシュート抽出システム(Low-Altitude Parachute Extraction System, LAPES, レイプス)と呼ばれる方法もあり、この場合は超低空を飛行する輸送機からパレットに載せた状態でパラシュートを開いて機外に引き出し、そのままパラシュートによって減速して着地させる。
> ミヤビの前世の記憶にある『ガールズ&パンツァー 劇場版』にて主人公たち大洗の戦車をC-5Mスーパーギャラクシーから投下していたアレである。

 かなり無茶ですけど、かっこいいシーンでしたよね。
 いや、無茶だからこそ心が躍るのか。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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