ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件 作:勇樹のぞみ
この物語はフィクションであり、登場する人物・地名・団体名はすべて架空のものです。
車の運転は交通ルールを守り、安全運転を心がけましょう。
人類のすべてをみずからの手に収めようとするザビ家のジオン公国は、月の向こうに浮かぶ巨大な宇宙都市国家である。
その独裁を撃破すべく地球連邦軍は、地球上で、宇宙で、執拗な抵抗を続けていた。
一方、ジオンの宇宙巡洋艦の攻撃を逃れたホワイトベースは、宇宙都市サイド7を脱出して地球に降りたった。
しかし連邦軍と連絡の取れぬまま少年達は戦い続けなければならなかった。
それは恐怖の連続であった。
日本列島、山陰地方の海岸に停泊するホワイトベース。
陽光が降り注ぐ白い砂浜でクルーたちはつかの間の休息を取っていた。
「わーい」
「わっ、やめろよ!」
海に入って水を掛け合うカツ、レツ、キッカたち。
そして、
「よいしょっと、なんとなんと、おおっ……」
柔道着姿でがっぷり組み合うリュウとハヤト。
はだける胸元、飛び散る汗!
ミライやセイラが水着姿で日光浴しているのに見向きもせず、男同士でくんずほぐれつをするのだからこの二人、本当に仲がいい。
「太陽の光が一ヶ所から来るってわざとらしいわね」
色素の薄い瞳をサングラスで保護しながらビーチチェアで日光浴をするセイラ。
その感想は、スペースノイド特有のもの。
一方で、零れ落ちんほどの爆乳をセパレートの水着に包んだミライは、
「……でも、これが自然というものなのね」
と、周囲に広がる自然に目を細めながら言う。
その言葉にセイラも、
「そうね。宇宙の広がりというのはこういうことを言うのよね、きっと」
と納得するのだが。
「……姉さん、いい加減覚悟を決めたら?」
ミライは先ほどから沈黙しているミヤビに声をかける。
「姉さんがそういう格好に抵抗があるのは分かるけど……」
ミヤビはオーバーサイズのパーカーをがっちり着込んで、水着姿の身体を隠していた。
もっともそれが素肌にパーカーを羽織った、裸パーカーのようにも見えて何ともエロいことになっているのだが、ミヤビには分かっていない。
しかし、
「いや、そういうことじゃなくてね」
ミヤビは水着が恥ずかしいからこうしているのではない。
確かに男性だった前世を持つため女物の服で着飾らせられると死んだ目をするのだが、しかし彼女はロジック思考の理系脳なので理由さえつけばある程度は納得する。
つまり男性を意識したデザインの水着は着られないが、しかし機能性を追求した競泳水着なら着れるのだ。
そもそも男性用水着より露出度は下がるわけだから問題ない。
ミライのように巨乳というわけでもないんだし。
という自己暗示のせいでミライの選んだハイレグ仕様の競泳水着もすんなり着れている(注:騙されている)
そうではなく、
(今、10月なんだけど……)
沖縄ならともかく本州でこれはない、とミヤビは思う。
前世では遅くとも9月上旬には海水浴場は閉鎖されてしまっていたはずである。
フィンランド人のコピペを思い出すミヤビ。
『+15℃。スペイン人は毛糸の帽子をかぶり、手袋とコートを着用。フィンランド人は日光浴をする(以下省略)』
などというやつ。
実際…… 前世でも北欧系白人の感覚は、日本人のそれとは隔絶していた。
真冬で雪が降っていても半そでシャツでやってくるアメリカ人英会話教師とか居たし。
まぁ、ホッキョクグマがでかいように、白人は身体が大きいので寒さに対する抵抗力が高いという人種的な違いもあるかも知れないが。
日の光が限られる高緯度地域では日光浴が心身の健康に欠かせない、健康の知恵であるということも関係しているのだろうし。
ともかく、宇宙に出たせいか、そういう北欧系白人の価値観が普遍化したせいか、日本の10月の海で海水浴というのに抵抗を感じるのはミヤビ一人というまさかのアウェー状況だった。
それに、
(盆を過ぎたらクラゲがねぇ……)
ということもある。
ミヤビはクラゲが嫌いだった。
前世では高等専門学校、いわゆる高専に進み、社会見学で近場の火力発電所へ見学に行ったり。
また就職した某重工は発電プラントの建設も手掛けていた、という関係で。
なぜ火力発電所は海沿いに建てられるのかというと、燃料輸送に海運が便利という他に、海水を冷却水として使うためだ。
そしてクラゲが大量発生して取水口に押し寄せると、結構大変なことになる。
ロータリースクリーンと呼ばれるかき揚げ式のフィルターでクラゲが入らないようにしているわけだが、これの処理能力を超えると冷却水不足で出力降下、最悪の場合は非常停止となるのだ。
ミヤビがクラゲを生理的に受け付けないのは、ロータリースクリーンでかき揚げられたクラゲの山が凄いことになる…… それを目にしたことがあるせいだ。
プールに水の代わりにクラゲがぎっしり貯められている様子を想像するといい。
気持ち悪いし臭いし最悪である。
そんなわけで水族館に展示されたクラゲを見て女性が「かわいいー」「すずしげで綺麗よね」などと言っている横で、顔を引きつらせるしかないのが前世でも今世でも変わらぬミヤビの在り方であった。
まぁ、そんな彼女はさておき、
「アムロを知らないかい?」
と、カイ。
彼も水着姿でレトロなラジカセを手にしてビーチボーイ風なファッションだ。
そして彼の問いにはミライが答える。
「お母さんに会いに行ったわ。故郷が30キロほど東にあるんだって」
それを聞いてカイは表情を歪める。
「ヘッ、裏切られたな。奴もエリート族かよ」
そう吐き捨てるカイに、ミライは自身もエリートと呼ばれる階層に属するだけに、言い訳にならないよう気を付けながらなだめる。
「地球に住んでる人がみんなエリートじゃないわ。現にアムロのお父さんは宇宙暮らしで、アムロはお母さんとはほとんど暮らしたことがないのよ」
しかしカイは納得しない。
「地球に家があるだけでもエリートさ」
そう言い捨てて立ち去る。
セイラはサングラス越しにカイを見送り……
「裏切られたって思うってことは、仲間意識を持ってるってことよね。アムロの姿が見えないからって、気にかけて探しに来るくらいだし」
そう言って「素直じゃないなぁ」というようにわずかに目を細めるミヤビに、そういう見方もあるのかと感心する。
かなり鈍く人の機微に鈍感なミヤビだが、前世が男であるだけに、こういった男同士の友情には理解があるのだ。
そしてセイラは、ミヤビから青い海と空に視線を移しながら問う。
「この辺りもだいぶ空襲の跡があったようだけど、大丈夫なのかしら?」
答えるのはミライ。
「どうかしらね。ゲリラ戦地帯だっていう噂だし」
『んっ、アムロさん、私の中はどうですか?』
耳元にささやく、甘やかな少女の声。
なんだかとってもエッチなようにも思えるが……
そんなことはない。
アムロはドラケンE改に乗り故郷を目指していた。
会話の相手はもちろんサポートAIのサラ。
最初は父、テムも誘おうとしたのだが、研究が佳境に差し掛かっていたらしく生返事するばかりで見向きもされなかった。
仕方なく一人で向かおうとするアムロは自分だけならコア・ファイターを使えばいいかとも考えたが、里帰りに軍事機密の塊の機体を使うのもどうか、とブライトに突っ込まれ。
それならとミヤビが自分のドラケンE改を貸してくれたのだ。
なおサラツーに、
『どうして!? アムロのお母さんにあいさつするのは私の役目でしょ!!』
と泣かれたのだが、アムロには意味が分かっていない。
『アムロさん?』
ドラケンのコクピットに漂うミヤビの残り香。
女性ゆえの甘い、しかしミヤビらしいさわやかな匂いに包まれ、ぼうっとしていたアムロはサラに声をかけられ、思わずこうつぶやく。
「ミヤビさんの匂いがする……」
『……アムロさんのエッチ』
「ええっ!?」
言われてみれば、ちょっと変態が入っていたかと慌てるアムロ。
「い、いや、そうじゃなくて」
『なくて?』
こてん、と童女のように首をかしげるサラに、
「ちょっと喉が渇いたかな、って」
と誤魔化した。
『ああー』
しかし、アムロが身に着けた簡易式のゴーグルタイプのHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)に映るサラはなぜか顔を赤らめ視線を泳がせ、
『そ、その、お飲みになりますか?』
「えっ?」
『安全バーの胸元のところにチューブと飲み口がありますよね』
「ああ」
ドラケンE改のコクピットにはウォーターサーバがあって、登山などアウトドアで使うハイドレーション・システムのように口元までのびるチューブによって給水できるようになっていた。
古くは旧日本帝国陸軍の八九式中戦車には飲料水タンクが車内に存在したし(元々は水冷式ガソリンエンジンの冷却水補給用として搭載されたタンクが飲料にも使える、というものだったが、冷却水不要の空冷式ディーゼルエンジンに切り換えられた結果純粋に飲料用として残された)、英国戦車には紅茶を飲むための給湯器が用意されているというので珍しいものでもないが。
アムロは飲み口のバルブを開けて水を飲む。
「んんっ?」
『アムロさん?』
「いや、変わった味だな、って」
そうアムロは答える。
この味は……
しかしサラは真っ赤な顔をして言う。
『き、きれいな水ですから!』
「そう?」
アムロはふと気づく。
これってミヤビと間接キスになるのでは、と。
恥ずかしくなったアムロは、ハンカチで飲み口を拭くのだったが、
『はわわ、私の出したきれいな水を飲まれて、ふきふきまでされてしまいました……』
ぽーっとするサラ。
この給水装置、水源はドラケンE改の燃料電池から排出される水である。
つまり、アムロはサラが出したきれいな水を飲みたいと要求し、実際に口を付けて飲んでいるわけで……
ミヤビが知ったら某恋愛ゲーム登場のメイドロボ。
人体に近い身体を持ち、燃料電池から排出される『きれいな水』も人間同様に出すことができる『HMX-12マルチ』かと呆れていただろうが。
『そ、そうです、音楽なんかどうですか?』
妙になった雰囲気を誤魔化すかのようにサラが言う。
「えっ、これ……」
HMDの片隅におすすめリストが出てくるが、それは、
『ミヤビさんの趣味ですね』
『MAGICAL SOUND SHOWER』『SPLASH WAVE』『PASSING BREEZE』
セガの体感ドライブゲームの名作、アウトランのBGMだ。
他にもナムコのリッジレーサーなど古の名作ゲームミュージックが満載だ。
なおこの宇宙世紀世界、ミヤビの前世であったものはガンダム関連以外なら結構あったりする。
(ガンダムはモビルフォース・ガンガルに置き換わっている……)
だからこうしてミヤビもミュージックデータを収集できるわけである。
しかし……
「っ!? 何だ?」
峠の下り道、けたたましくクラクションを鳴らし、煽りながらドラケンE改を追い越していく乗用車。
「危ないなぁ」
とアムロはぼやくが、
『……トランザム!』
いきなり急加速で追い始めるドラケンE改。
アムロは戦闘中でもないし道路上を目的地まで走るだけ、ということで運転はサラのオートパイロットに任せていたのだが……
「さ、サラ?」
『走り屋は挑戦されたら受けて立たなきゃいけないんですよね? アムロさん』
サラは冗談めかした声でそう告げるが、
「はしりや?」
アムロには「サラ、君が何を言ってるのか分からないよ」状態である。
BGM変更。
アップテンポなユーロビートが流れ出す。
ミヤビが聞いたならこう思うだろう。
(あ、これ『頭文字D』だ)
と。
トランザムというなら例のBGM(『FIGHT』通称「アーアアー」)なのだろうが……
というか、サラは本来「トランザムは使わないで」と主人公を止める方だ。
ゴァッ!!
そんなネタ的なサラの行動を他所に、ドラケンE改は常識では考えられないような殺人的なスピードでコーナーに突っ込んでいく。
「さっ、サラ!?」
あまりのブレーキの遅さに、アムロはブレーキが壊れたととっさに直感した!!
「うわぁあああーっ!!」
ヒトは、死の直前に走馬灯のように自分の一生を見るという……
アムロも見た。
生まれてから今日までの生活が鮮やかに目前に浮かんでは消えていく。
しかし……!!
どんっ!
親のカタキのようなブレーキングで荷重の抜けたローラーダッシュのタイヤはブレイク。
つま先の補助タイヤに残ったグリップを絶妙にコントロールしながら、鮮やかに四輪ドリフトに移行。
最小限の荷重移動で走行抵抗を抑え、アクセルはもちろんフルスロットル!!
(どうして…… どうしてこんなになってもコントロールできるんだ……!?)
自分自身、エレカーの運転もするアムロは無意識にブレーキを踏むように右足を突っ張らせながら自問する。
(どうなってるんだ、ドラケンは作業機械ベースのミドルモビルスーツじゃなかったのか!?)
ガードレールとの隙間は6センチ。
サラにとっては余裕しゃくしゃく。
(言い換えればこれでも超安全運転)
ギャアァアァアーッ!
アスファルトをタイヤが斬りつけながら走り抜けることで派手に鳴り響くスキール音!
これまでに体験したことのない角度からの猛烈なヨコGに薄れていくアムロの意識を、さらに恐怖が襲う。
四輪ドリフト状態のドラケンE改は、アウト側のガードレール目指してまっしぐら!!
(もちろんコクピットのアムロもガードレール目指してまっしぐら)
「う、わあああああああっ!」
ガードレールが迫る迫る、その向こうは谷底だああっ!!
ここでサラがちょっと、サービス精神を発揮。
左腕肘パッドとガードレールのバードキス。
かすかなショックがはっきりとアムロにも伝わる。
そのわずかな反動で、タイヤのトラクションを回復させ、フルスロットルでコーナーを立ち上がるドラケンE改!!
冒頭のテロップで何事かと思われた、または「作品が違う!」とツッコまれた方も多いかもしれませんが。
頭文字D(ドラケン)回の開始です。
決着は次回更新で。
みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
今後の展開の参考にさせていただきますので。