ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第14話 時よ止まれ! Aパート

 すべての人類をみずからの独裁の手に収めようとするザビ家のジオン公国は、月の向こうに浮かぶ宇宙都市国家である。

 ザビ家の総帥ギレン・ザビは人類を己の前に跪かせるべく、地球連邦に戦いを挑んできた。

 

 ジオンの攻撃を避けて宇宙都市サイド7を脱出したホワイトベースは地球に降りたった。

 しかし少年たちには束の間の休息もなかった。

 ことに、母との別れを背負ったアムロにとって、ただ疲れを重ねるだけのことであった。

 

 そんな彼が、

 

『お帰りアムロ! やっぱり私が居ないとダメね!』

 

 自分を純粋に慕ってくれる少女型AI、サラツーに、

 

「おかえりなさい」

 

 そう言って迎えてくれる年上の女性、ミヤビに、

 

「ミヤビさんは僕の母さんになってくれる女性(ひと)かも知れない」

 

 母性を、安らぎを求めてしまうのは仕方が無いことかもしれない。

 

 

 

 ジオン軍前線、パトロール部隊駐屯地。

 

「ジオン公国の勝利を祈って……」

 

 仮設ステージでは慰問部隊の手品師によるマジックが披露されていた。

 何もない所から現れ飛び立つハトたち。

 

「おいおい、面白くねえんだよ!」

 

 ジオン兵たちからは笑い混じりのヤジが飛ぶ。

 本気で言っているわけではない、ということだろう。

 そうでなければ最初からこの場には来ていない。

 みな、戦場における憩いのひと時を笑顔で楽しんでおり、それはヤジを飛ばされた手品師にも分かっていることだった。

 

 

 

 一方、格納庫でザクの整備をしていたパイロットは、

 

「このっ、お前の代わりにこっちは弾の一つも欲しいんだよ」

 

 手品師が放ったハトを、そう言って追い払っていた。

 実際、ハトは糞害が酷いので大変なのだ。

 ミヤビの前世でも電力会社や電話会社、鉄道会社、工場、そしてマンションの管理などなどその対策に苦慮していた技術者は多い。

 そう、ハトに餌をやっているような人間に殺意を抱くほどに……

 

 そんな彼に地上から声がかかる。

 クワラン曹長だ。

 

「ギャル、鳩にあたったってしょうがねえだろ」

 

 ギャルと呼ばれたパイロットは、

 

「こんな国境近くでザクを磨くしかなけりゃ腹も立つよ」

 

 と言い返す。

 ミヤビが聞いたら、

 

「平和でいいじゃない。フォウニー・ウォー、大いに結構でしょ」

 

 と言うだろうが。

 

「いいから降りてこいよ。話があるんだ」

「ああ」

 

 クレーンを下げ、地上へと降りる。

 

「なんだい、レクリエーション部隊が来てんだろ?」

 

 そう言うギャルにクワランは苦笑する。

 

「男ばかりじゃ面白くもなかろう」

 

 

 

 コンテナボックスを即席の椅子とテーブルに、ポットから注がれたコーヒーを手に話し合うクワランたち。

 

「連邦軍のモビルスーツが出動しているってのか?」

 

 驚くギャルにクワランは、

 

「ああ。ソルが司令官直属の通信兵だろ、聞き出したんだよ」

 

 と説明する。

 同席していた男、ソルもうなずいて見せた。

 

「じゃあ、俺たちの部隊も出動するのか?」

 

 ギャルは難しい顔をするが、クワランは笑って否定する。

 

「ばーか、パトロールが任務の俺達が出る訳ねえだろ。それにあの気の小さい隊長だ、こっちから仕掛けやしねえよ」

「それで?」

「そのモビルスーツを俺たち若い者だけでやろうってんだ」

「モ、モビルスーツをか? 何機ぐらいを相手にするんだ?」

「俺達が勝手にやって敵をやっつけるぶんには構わねえと隊長も言ってくれたんだ。うまくいきゃあ本国に帰れるぞ」

 

 クワランは目の前を飛ぶ羽虫を眺め、

 

「こんな虫のいない、清潔なジオンの本国へよ」

 

 と笑う。

 

「そりゃあそうだけど、この部隊にはザクは俺のやつが一機しかないんだぜ。お前らだって」

 

 言いかけるギャルを押しとどめ、クワランは同席していた通信兵、ソルに話を振る。

 

「ソル、説明してやれ」

「相手のモビルスーツって実質一機だけなんですよ。他は戦車もどきと作業用のミドルモビルスーツに武装を施しただけっていうやつで」

「作業用って、テクニカルみたいなもんか?」

 

 テクニカル、とは民生用のピックアップトラックなどに武装を取り付けた即席の戦闘車両のことだ。

 ミヤビの前世、西暦の時代にもあったもので、金の無い軍隊や武装集団などが使用していた。

 ことに信頼性の高い日本車はベース車両として人気で、1987年のチャド内戦ではトヨタのピックアップトラックの荷台に機関砲や対戦車ミサイルを据え付けたテクニカルが活躍したためトヨタ戦争(Toyota War)とも呼ばれていたほどである。

 

「ええ、ドラケンE改ですね。ジオンでも工事に使われていた」

「ああ、アレかぁ」

 

 宙陸両用作業機械のデファクトスタンダードとなっていたドラケンE改はこのようにジオンでも知られているほど広く使われていた。

 

 

 

 月明かりの元、ホワイトベースは再び地球連邦軍から委託を受けた民間軍事会社『ヤシマ・ファイアアンドセキュリティ』のシーマ隊による補給を受けていた。

 

「明け方までにはエンジンの整備も終わるはずだよ。で、私への質問ってなんだい?」

 

 シーマは砕けた口調でブライトに問う。

 つまりは「この会話は非公式なものにしてやるから遠慮せず聞きな」という気遣いだが、相対するブライトには分かっているかどうか……

 ブライトは生真面目な口調で問う。

 

「僕らは正規軍ではありません。なのに、どうしてあなた方の補給を受け、こうして修理まで」

 

 シーマはどこまで語るべきかと頭を働かせながらも答える。

 

「連邦軍もホワイトベースを捨てたりしないし、ここにもあんたの上官を送るつもりはあるんだろうけどね」

 

 苦笑して、

 

「現実に実戦に耐えているあんたたちに余分な兵をまわせるほど連邦軍も楽じゃないってところかねぇ」

 

 要するに、予算が足りないため酷い無理をして何とかしたら、上から「大丈夫だったじゃん」と言われて予算を減らされた、というような話だ。

 酷い無理、の内実は大抵、

 

・人員に無理を強いているので、常態化すると身体やメンタルをやられたり、離職者が出たりしかねない。

 

・従来購入していたメーカーの品が予算不足で買えないので安いメーカーの品に切り替えコストを下げた…… が、実績の無いメーカーの品なので故障や不具合が多発、初期故障で今後改善される、というなら良いが実は使い物にならないという線が濃厚。このままでは修理等、運用コストが増大してトータルではかえって損失になるかも。元のメーカーのものに戻すにしても費用が……

 

・新工法でコストを下げたけど根本対策になってないからこれ。10年に一度の大雪とか「頻度は少ないけど確実に起こることが想定される災害」が来たら一発でやられるんだけど。

 

 などといった一時しのぎのものなので、早急に手当てをしてやらないといけない場合が多いのだが。

 それを理解できない上層部が多いのが問題である。

 ともあれ、

 

「そんなに酷いのですか」

「まぁ、ジオンも似たようなものだけどねぇ」

 

 苦笑するシーマ。

 実は彼女が所属する民間軍事会社『ヤシマ・ファイアアンドセキュリティ』では、北米などのジオン勢力圏内の支社において、ジオン軍の委託を受け補給などの業務を代行していた。

 ジオン軍の指示で仕方なく、また社員を食べさせなくてはいけないし、という建前で、連邦軍との直接戦闘になるような仕事こそ受けなかったが、それなりに儲けさせてもらっている。

 無論、連邦軍勢力圏内の本社とは別会社扱いで会計も情報も遮断している、ということにしているが……

 そんなのは建前であるから、シーマもジオン側の内情を知っているわけだ。

 

 そしてシーマは少し声を潜めて。

 

「ここだけの話、連邦にはヨーロッパ方面で動きがあってね。それでホワイトベースにまで手が回らないってこともあるのさ」

「動き?」

「情報を統制したところで物資の流れは誤魔化せないからねぇ。見る者が見れば分かるさ」

「それは…… ヨーロッパ方面で大規模な反攻作戦があると?」

 

 シーマは目を見開く。

 

「おやまぁ、鋭いねぇ。ニュータイプ部隊っていう噂もあながち間違っていないのかね」

「ニュータイプ?」

 

 耳慣れない言葉に眉をひそめるブライトに、シーマは説明する。

 

「ジオン・ズム・ダイクンと、その思想ジオニズムによって出現が予言された宇宙に適応進化した新人類の概念。お互いに判りあい、理解しあい、戦争や争いから開放される新しい人類の姿ってやつさ」

 

 こう見えてシーマはインテリなのだ。

 そうでなければ史実でもコネも無しにジオン軍で中佐まで成り上がったりはできない。

 また、モビルスーツパイロットとして大成する者の多くは、一見短絡的だったり粗野だったり野獣だったりしても、根本の部分では理知的なところがある。

 そうでないと複雑なシステムを理解して巧みに操るなど不可能だからだ。

 

「具体的には『人が宇宙に出たことで三次元の空間認識能力に目覚めるとともに、人並外れた直感を得て、離れていても他者やその状況を正確に認識し意思疎通をする能力を持つ者』とされるね」

「我々が、それだと?」

「素人集団が曲がりなりにもあの赤い彗星を振り切り、ガルマ・ザビをも退ける。こいつら何者だ、って話に当然なるのさ」

 

 それゆえ、

 

「だからホワイトベースはデータ収集が第一の任務になっているみたいだね」

「データ集め?」

「プロよりアマチュアの方が面白い作戦を考えるって言っていたよ。オッドマン仮説みたいなものかねぇ」

 

 オッドマン仮説とはSF小説『アンドロメダ病原体』に出て来る架空の説だ。

 この場合"odd man"は「半端者」という意味を持つ。

 問題を解決する際に、チームに専門外の人間を加える方が、専門家だけで組んだチームよりも問題解決が早くなるという仮説である。

 

 専門家が従来の理論で検討を進めても解決できないから『問題』なのであって。

 そのブレイクスルーには、今までに無い視点や発想、方法論が必要。

 それには固定観念にとらわれない、違った視点を持つ専門外の人間(注:まったくの素人でなく、専門の違う科学者や技術者を持ってきても良い)が居るとはかどりやすいというものだ。

 実証はされていないフィクションの創造物だが、説得力があるので本当の学説と思っている者も多かったりする。

 

「そして、それをコンピューターの記憶バンクから拾いだす……」

 

 偽悪的に笑って見せるシーマに、ブライトは気色ばむ。

 

「じゃあ、わざと我々を放っておいてモルモットにしている?」

 

 正解だ。

 

「モルモットは嫌かい? ブライト少尉」

「命令として受けてはおりません。少尉? 僕が?」

 

 ブライトは戸惑う。

 

「ああ、レビル将軍がそう言ってたよ。そのうち通知があるだろうさ」

「いちいち勝手ですね」

「気持ちは分かるけどね、ブライト・ノア少尉」

 

 シーマは少しだけ真面目な、それでいて親身な口調をもって諭す。

 

「レビル将軍はホワイトベースを切り捨てようとする周囲の反対を押し切って私らをよこしてるんだ。言わばあんたたちの最大の庇護者ってわけさ。あんたを少尉にっていうのも好意のつもり、とも受け取れる」

 

 シーマはそこでブライトを見据え、

 

「その相手に不平不満を言うことが、どれだけ危険なことか分かるだろう?」

 

 と問う。

 

「は、はい……」

 

 息を飲み、うなずくブライト。

 

 レビル将軍は気にしないかも知れない。

 でも周囲は?

 厚遇されているにも関わらず不平を言う若造にお仕置き…… のつもりで致命傷になる一撃をもらうかもしれないし、レビル将軍に害になるということで排斥を受けるかもしれない。

 そしてもちろん反レビル派からしたら、付け込むスキと見られ何らかの工作を受ける可能性もある。

 

 シーマはそういった可能性を一つ一つ丁寧に説明していった。

 

「若いあんたに、いきなり軍内の政治力学を分かれって言う方が無理だとは承知してるけど。それでも頼むよ」

 

 シーマはそう言って頭を下げる。

 

「ただでさえ、こんな危険な場所に姫さんたちを置いておくのは怖いんだ。しっかりしとくれよ」

「ひめ?」

「ああ、ヤシマのミヤビ嬢ちゃんと妹君さ。何しろ私らには返しきれない恩が……」

 

 言いかけたところでシーマは人の気配に振り向く。

 そこには天然パーマの少年、

 

「アムロ、なんだ?」

 

 ブライトが言うとおりアムロが居た。

 

「あ、い、いえ、ミヤビさんの名前が聞こえて……」

 

 そう、彼はミヤビと親しいらしいシーマに、ミヤビのことが聞けないかとこの夜中にふらふらと出歩いていたわけである。

 まぁスレンダーで小柄なミヤビと違って肉感的な美女であるシーマのフェロモンに惹かれて、というところもあったりするのだが当人は気づいていない。

 

 そんなアムロにブライトは呆れたように言う。

 

「お前は寝てなくっちゃならん時間だろ」

「は、はい」

 

 バツが悪そうにうなずいて帰ろうとするアムロを、

 

「アムロと言ったね」

 

 と、シーマが呼び止めた。

 

「彼が言うとおり、寝るのもパイロットの仕事のうちさ」

 

 そう言って月の光の下、ほほ笑むシーマ。

 その鮮やかな笑みに、知らず頬を赤らめたアムロは、

 

「は、はい。き、気をつけます」

 

 と答え、言葉どおり眠るため自室に向かう。

 

「なんて奴だ」

 

 と呆れるブライトだったが、シーマは、

 

「かわいいもんじゃないかい」

 

 と笑うだけだ。

 なぜアムロをそんな風に気にかけるのかといぶかしむブライトに、

 

「あの坊やには色々と期待がかかっているのさ。さっきのニュータイプというのも元はといえばガンキャノンの戦闘記録から出てきた話だしね」

 

 シーマはそう答えるのだった。

 

 

 

 深夜のホワイトベース居住ブロック。

 アムロの部屋の前に人影が立ち尽くす……

 

「どこに行ってたの?」

 

 それは防寒のため軍用コートを羽織ったフラウだった。

 

「トイレさ」

 

 と適当に答えるアムロ。

 こういう部分では妙に鈍い彼だから普通に対応できているが、他者なら……

 そう、普通の感性を持つ人間なら「怖ぇーよ!」と叫んでいるところだ。

 深夜に出かけた男の部屋の前で待ち伏せるってヤンデレストーカーかよ、という話である。

 コートの陰には包丁や果物ナイフなんかが隠されていてもおかしくはない雰囲気だった。

 

 フラウはじっとりとした目をアムロに向け、

 

「トイレむこうでしょ」

 

 とツッコむが、アムロはうんざりとしたように、

 

「いいじゃないか」

 

 と言うだけだ。

 嫉妬する女に、誤魔化すことすら面倒だと取り合わない男……

 刃傷沙汰になってもおかしくない状況である。

 

「なんだい?」

 

 能天気に問うアムロにフラウは昏い瞳を向けながらも、

 

「ううん、なんでもないわ」

 

 そう首を振って立ち去る。

 

「ハロ、いらっしゃい」

 

 転がり進むペットロボット、ハロを連れて。

 

「なんだよ」

 

 そうつぶやいて見送るアムロ。

 鈍感って気楽でいいよね、という話である。

 普通の人間なら夜、トイレにも行けないほどの恐怖を味わっているはずの状況だったのだから……

 

 

 なおこの展開、ミヤビの知るアニメ『機動戦士ガンダム』そのまま、

 

 ウソみたいだろ。史実どおりなんだぜ。これで。

 

 というのだから笑えなかった。




 フラウが怖すぎる……
 そのうち、

「アムロどいて! そいつ殺せない!」

 とか言い出しそうですね。
 放映時はまだストーカーとかヤンデレとかいう言葉が無かったくらいですから、そのヤバさを感じなかったんでしょうね。
 やっぱり富野監督ってもの凄い、時代を先取りしていたんだなぁと今さらながら思ったり。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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