ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第14話 時よ止まれ! Cパート

 ミヤビの前世の記憶どおり、ワッパに乗ったジオン兵たちは果敢に連邦軍モビルスーツに接近し、吸着爆弾をセットしていた。

 史実と違うのは、アムロが乗っているのはガンダムではなくガンキャノンであり、サポートAIのサラツーが搭載されていたこと。

 マンガ『ファイブスター物語』では、

 

「地上掃射はもの足りませんなあ、ファティマのオートですからね」

 

 と悪役騎士が笑っていたようにファティマのようなパイロットをサポートする存在があれば、こういった歩兵による肉薄攻撃も余裕をもって対処が可能であり、ミヤビも楽観視していたのだが……

 

 しかしジオン兵たちが海パン一丁で挑んできたことが、それを狂わせた。

 サラやミヤビは幸いにも気づいていなかったが、彼らはブーメランタイプのきわどい水着を、さらにTバックのようにケツに食い込ませていたのだ。

 

 ミヤビの前世でもこういう小学生は居た。

 短パンを半端に下ろすのが「半ケツ」で、ケツに食い込ませ尻たぶを丸出しにするのが「満ゲツ」とか。

「君が何を言っているのかわからないよ」

 みたいな話である。

 酷いのになると完全に下ろして「いきなり尻見せ」とか……

 

 そしてそれをモロに見てしまったサラツーは錯乱し、自閉モードに陥った。

 復帰には時間が必要だった。

 その間は最低限の対応を行う人工無脳、俗にbotと言われる簡易プログラムが対応してくれる。

 3Dモデリングではなくあらかじめ用意されている2D画像、しかも頭身が低くデフォルメ化されたサラツーの姿がモニターの隅に表示されたとたん、股間がすくむような恐怖に襲われるアムロ。

 大気圏突入ではキ〇タマに例えられた股間のバリュートを自分でナイフで切り落とせと命じた存在だ。

 苦手意識もあるのだろう。

 

 そしてbotは周囲を飛び回るワッパを認識すると、機械的に対処を開始する。

 

「ぼ、botちゃん! 機体のコントロールを奪わないで……!」

『うるさいですね……』ドコドコドコ

 

 いきなりガンキャノンの制御を奪われ慌てるアムロ。

 サラツーと区別するため『botちゃん』と呼べと言われており恐怖から従っているのだった。

 しかしbotはアムロの呼びかけを無視して、頭部60ミリバルカンで牽制をしつつ周囲の脅威を排除にかかる。

 背面ロケットエンジンを吹かして垂直ジャンプ。

 からの、膝側面ラックに収納されていた投擲型榴弾、ハンドグレネードを真下へ投擲。

 

「あ、あぁ~ッ!」

 

 思わず叫んでしまうアムロ。

 劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙篇』のア・バオア・クー戦で要塞突入の際に使用された手榴弾がbotにより計算されたタイミング、接地前の空中で爆発。

 ドーム状に爆風を放ち、海パンをケツに食い込ませた男たちをまとめて吹き飛ばしてしまったのだ。

 ミヤビが見ていたら「きたねぇ花火だ」というセリフを思い浮かべるか「バーチャロンシリーズであったね、こういう兵装」とカトキ氏デザインの3Dロボット対戦アクションゲームを思い出すかしていただろうが。

 

 なお通常、手榴弾も砲撃も地表で爆発した場合、その効力は円錐状に上方に作用する。

 そのためある程度距離を置いて伏せれば難を逃れることができるが、このように空中で爆発するようにすると、効力は球状に、逃げ場なく作用することになる。

 これを狙って手榴弾を投げる際にタイミングを計って空中で爆発させるテクニックがあるが、botが披露したのは同様の技だった。

 

『はい、今日の敵兵排除は終わり。お疲れさまでした』

 

 と、botが告げる。

 口調は機械的な丁寧語なので、ちぐはぐな印象。

 あまりの残虐ファイトに、アムロは怯え、

 

「うぅ…… あ、ありがとうございました……」

 

 と敬語でお礼を言ってしまうのだった。

 

 

 

 なお、サラシリーズについて、

 

「ぶっちゃけセクハラされてストールするってだけで、兵器としては御免被りたい」

 

 という大変もっともな意見もあるが、

 

「何事も優れた対価には代償がつきものである」

 

 ということで許容されている。

 ガンダム世界で言えば、強化人間の戦闘能力と、その代償となる不安定さみたいなものだ。

 

 そして、なぜこのように純朴な少女型の人格をサポートAIに付与しているのかというと、それには二つの理由がある。

 

 

 一つ目は、そもそもサラの元になった『ALICE』、つまり『Advanced Logistic&In-consequence Cognizing Equipment = 発展型論理・非論理認識装置』は、人間の持つ、

 

・理論化、言語化が困難な直感的な選択反応の圧倒的な差。

・人間が持つ理詰めでは超えられない動物的直感。

 

 といったAIには持ちえない力を得るためにこそ開発されていたのだということ。

 だからこそ人と同じように思考し、感情を持ち、執着を示すように、感受性の高い少女の人格を与えられているのだ。

 

 

 そしてもう一つ。

 教育型コンピュータはパイロットの言葉や所作から意思を推測して、その操作を補足する機能を持つ。

 要するにパイロットの考えや、やりたいことを察してフォローしてくれるのだ。

 この機能はパイロットの挙動をサンプリングすることでより精度を増し、技量の高くないパイロットにも熟練兵の操縦を可能とする。

 そうやってパイロットを教え、導きながら、同時に自らも成長していくという意味で教育型と名付けられているという。

 

 そしてまさに人格を持ち、人間を、人の心を理解し、パイロットのために尽くす存在がサポートAIサラシリーズなのであり、彼女たちの存在があるがゆえに、教育型コンピュータはミヤビの知る史実を超えてパイロットのやりたいことを先回りしたり補足したりして助け、機体を自由に制御できるのだ。

 

 しかし、このようにパイロットのやりたいことを察してサポートするのが補助AIだが、パイロット側にも読み取りやすい人物とそうでない人物が居るわけで。

 ミヤビのような鉄面皮は後者の極みだったりする。

 

 まぁ、それでもサラが支障なくサポートできるのは、ミヤビがサラの育ての親であり、長い付き合いであるが故。

 しばしば誤解して勝手に動いているようにも見えるが、それはミヤビの言葉が足りないから。

 無表情でいて、言わずとも分かれというのも無茶振りが過ぎるというものであろう。

 

 つまりパイロットに対するサポートAIの理解の深度は、パイロット側の要因にも左右されるということ。

 

 

 

 かつて、教育型コンピュータの開発主任は女性テストパイロットに向けこう語った。

 

「もっと心をフリーダムにオープンして!! そうすればサポートAIとの相互理解への道も開き強くなれる!!」

「あ…… もういい。お父さん、その先は」

 

 待て!!

 と止める女性パイロットを無視して、

 

「お前の心と身体をもっと押し広げるのだよ、「くぱぁ」ッと!!!」

 

 そう発言した瞬間、無言で投げ飛ばされる開発主任。

 一方、その会話を聞いていたサラシリーズは、

 

『何か武術のムズかしい話でしょうか? サラナイン、「くぱぁ」って?』

『「くぱぁ」は私も分かりませんが、主任はテストパイロットさんのお父さんだったんですね。どうりで遠慮なくツッコミ、投げ飛ばすはずです』

 

 などと話し込む。

 さらに、サラツーに至っては、

 

『「くぱぁ」だか何だか知らないけど、いいわよ、さっさとやって見せてよ!!』

 

 などと言い放つ始末。

 後でその意味を知ってフリーズする羽目に陥るのだが。

 かわいそうに、彼女はこのころからこの手のネタの被害者だったのだ。

 そして、

 

「相変わらずの自由すぎるセクハラ発言。もうやだこの父」

 

 そう嘆く娘と、

 

「娘にも容赦なくエロス。これこそマイ技術ウェイー!!」

 

 と、床に這いつくばりながらもいい顔をして親指を立てる父の姿がそこにあった。

 

 

 

 まぁ、これは極端な話だったが、パイロット側がAIに対し心を開き、言葉や表情を偽ったり飾ったりしなくなることで、パイロットに対するサポートAIの理解の深度は深まることになる。

 そしてパイロットに心を開かせるのに、AIが機械的だったり高圧的だったり威圧的だったりするのは逆効果というもの。

 そういう意味で、少女の姿と人格を持つサラシリーズは最適なのだ。

 

 ただ……

 これらの理由からサラシリーズは普通の人間のような複雑な情動を与えられているが、だからこそどんなものであっても希望が無ければ少女の心はこんな過酷な戦場での戦いに耐えられない。

 それゆえに彼女たちは一番深く付き合うことになり命を、運命を共にするパイロット、自分の主人『マスター』となる人物に大きく影響を受け、依存しやすくなってしまうのだ。

 AAA機密の戦闘機械に組み込まれてしまった孤独な彼女たちにとって、マスターだけが心の支えなのだ。

 だからこそ彼女たちは全身全霊をかけてパイロットのために尽くし、戦い続ける。

 人の心を持つ兵器とはそういうとても、とても哀しい存在なのだ。

 

 

 

 なお精神的な衝撃を受けると繊細な心を持つ少女型AIが自閉モードに陥ってしまう問題について、連邦軍のV作戦技術者が何の対策もせず放っておくかというと、もちろん「否、断じて否」で。

 復帰までの間は最低限の対応を行う人工無脳、俗にbotと言われる簡易プログラムが対応してくれるようになっているが、そのアルゴリズムは『超攻撃偏重』となっているのだ。

 つまりAIによるサポートができない危機を、攻撃的になることで乗り越えようという発想だ。

 

 アニメ『蒼き流星SPTレイズナー』に登場の主役ロボット、レイズナーは通常時『レイ』というAIにより制御されているが、その裏に『フォロン』と呼ばれる別のAIが隠されていた。

 フォロンは緊急時の機体保持を目的として作られており、レイズナーに危機が迫った時はV-MAXを発動させ、周囲の脅威対象を無差別に殲滅する。

 

 そのフォロンと同様の発想であり、宇宙世紀世界で言えばNT-Dが発動したユニコーンガンダムのデストロイモードみたいなものである。

 サラシリーズのbotは頭身が低くデフォルメ化された2D画像と機械的な丁寧語により分かりづらくなっているが、

 

『わたし…… 残酷ですわよ』

 

 そのものな設定となっているのだった。

 

 

 

 そして……

 

「あっ、こ、これか?」

 

 コクピットから出て、ガンキャノンの機体に取り付けられた吸着爆弾を見つけるアムロ。

 サラツーが混乱中に仕掛けられてしまったものだ。

 銃撃を受け爆発したことで持っていたビームライフルが吹き飛んだことから、相当な威力を持つものと推測される。

 

「い、いくつ着けてったんだ? 連中め」

 

 歯噛みするアムロに、ブライトからの通信が入る。

 

『アムロ、どうした?』

「ガンキャノンに爆弾が仕掛けられました。ここは場所が悪いので正面の平原地帯へ移動して調べます」

 

 

 

 ブライトは、

 

「了解した」

 

 そう答えると通信手をつとめるフラウに、

 

「オムルを呼び出せ。彼は爆弾に詳しいはずだ」

 

 と、何だか誤解を呼びそうな指示を出す。

 

 

 

 アムロのガンキャノンが駐機されている平原。

 そこにクワランたちジオン兵が引き立てられていた。

 ガンキャノンにぶっ飛ばされて気絶していたのを、ミヤビがドラケンE改で捕まえてきた……

 というか保護したのだ。

 爆弾を解除できるかも知れない、ということもあるし。

 

 まぁ、一度仕掛けた爆弾は彼らにも解除できないわけだが。

 そんな感じで、銃を持ったホワイトベースのクルーに監視されながらも彼らは見物することになる。

 

「俺たちの仕掛けた時限装置は30分しないと駄目だなんて」

 

 ぼやく男にクワランは、

 

「そう言うな。ああも簡単に着けられるなんて思わなかったんでな」

 

 と、なだめるように言う。

 彼はガンキャノンにサラシリーズが採用されていることは知らなかったので、今回はあくまでも想定外の戦果という認識だった。

 仲間たちも捕まりはしたもののケガも擦り傷程度で死傷者は出ていないのだし、上手くいけば儲けもの、ダメでもまぁ、あきらめがつくという感じだ。

 

「連中、あのモビルスーツを助けられますかね?」

 

 この話の発端となった情報をもたらした通信兵、ソルがささやく。

 

「こんな事になるんだったらリモコンがありゃあなあ。今頃はドカーンよ」

 

 と、両手を広げて見せるクワラン。

 実際、ミヤビの記憶の中にある『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』ではオデッサ作戦に出撃した陸戦型ジムが同様の戦法で頭を吹き飛ばされている。

 

「本当、俺達パトロール隊には碌な物ねえんだものな。けどあれ30分で取り外せますかね?」

 

 クワランは五指を広げた自分の手を見て、

 

「五個だよな。さっき一発爆発しちまったから。見物だな」

 

 そう笑った。

 海パン一丁で。

 こんな姿で格好つけられても…… という話である。

 

 

 

 メカニックのオムルはハンディタイプの計測機器で取り付けられた吸着爆弾を調べるが、

 

「よ、よくわかりません。この爆弾の時限装置が働いていることは間違いないんです」

 

 そう自信の無い報告を上げるだけだった。

 ブライトはアムロに向け、

 

「アムロ、そのレントゲン写真を見て何かわかったか?」

 

 と問うが、アムロも、

 

「わ、わかった事ってこの細い線が信管がわりだろって、そのくらいで」

 

 そう答えるだけだ。

 アムロはオムルに写真を示しながら、

 

「つまりプラスチック爆弾を磁石からむしり取ろうとしたら爆発するってことでしょう? オムルさん」

 

 と意見を求め、

 

「うん、そうだな」

 

 と同意をもらう。

 

「とにかく剥がすしかないんです」

 

 幸い、吸着爆弾をはがすための磁気中和機はある。

 大まかな構造さえ分かれば、あとは慎重に処理するだけだ。

 ブライトは責任者として名乗り出る。

 

「よし、俺がやろう」

 

 だがアムロは納得しない。

 

「こ、これは僕の責任です。お二人は下がってください。時間はまったくないかもしれません。かかります」

 

 だがそこに、

 

「いや、その必要ないから」

 

 と声がかかる。

 ドラケンE改を予備機まで使い三機引き連れたミヤビだった。

 そしてドラケンE改は両手とも精密作業用の三本指を備えた腕に換装されていた。

 

【挿絵表示】

 

 

 

「ん? ドラケンを使って爆弾を外すらしいですぜ」

 

 ソルが驚きの声を上げる。

 クワランは目を見張った。

 

「常識的に考えたってもう爆発するってのはわかるはずだ。それを外そうってのか」

 

 腕時計を確かめ、

 

「あと12分しかないんだぞ、本気でやるつもりかよ。いくらドラケンに乗っているってったって、爆発に巻き込まれたらひとたまりもないってのがわかってないのか?」

 

 

 

 無論、ミヤビは分かっており、

 

『うぐううう…っ、なんでわたしだけぇぇぇぇぇ…』

 

 ドラケンE改の両手を顔…… に相当する部分に当てて泣き言を言う、というか本当に泣いているサラ。

 

 つまり三機のドラケンE改は無人で、それぞれにインストールされたサポートAIサラによる単独制御で動かされているのだ。




 またもやセクハラの犠牲になったサラツーと、botちゃん無双でした。
 そして衝撃のラスト。

「やつらはAIを、サラを捨て駒にして爆弾解除をさせてるんだよ!」
「な、なんだってー!」

 ミヤビって酷いやつですね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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