ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件 作:勇樹のぞみ
一方そのころ、ミヤビたちの乗るホワイトベースは中央アジアをヨーロッパへと直進していた。
マ・クベの鉱山基地を撃破しつつ……
「ブライトさんが倒れたぞ!!」
ブライトが過労で倒れていたりする。
史実とは違いリュウが無事というのは救いだったが、疲労の蓄積は同程度に溜まっていたらしい。
そして、ここで限界を迎えたわけだ。
「姉さん、艦長代理を」
と妹、ミライに頼まれるミヤビはいつもの変わらぬ表情の下、
(ムリムリムリムリかたつむり! 私に『機動戦士ガンダムSEED』のマリューさんみたいになれと!?)
と、内心絶叫を上げていた。
エンジニアに戦闘指揮を求めるな、という話。
「立場的にも能力的にも無理よ。そもそも歳とか階級のことを言うなら大尉待遇のタムラコック長が先に来る話よ」
ミヤビはヤシマ重工から派遣されたエンジニアというだけで軍の指揮命令系統の中には無い人間なのだ。
「それは……」
「無茶と思ったでしょう、同じことあなたは言ってるのよ」
ということ。
「今はガンタンクが使えない状態で、アムロのガンキャノンのほかは、私のドラケンE改とコア・ファイターしかないのよ」
これではミヤビが艦の指揮を執るのは無理だ。
「というわけで、私は艦長代理にセイラを推薦するわ。ガンタンクが直るまではパイロットは休業だし。ミライは性格的にも能力的にもその補助の方が向いてるでしょう? そもそも操舵しながら指揮って無茶だし」
と、まるで学生時代、クラス委員を誰かに押し付けるノリで提案するミヤビ。
「私?」
戸惑うセイラに、ミヤビは言う。
「ええ、指揮官というのは決断するのが仕事。このホワイトベースにあなた以上の資質を持つ人は居ないと思うわ」
性格的にもそうだし、決断したことを他人を従わせるカリスマもまた、セイラには備わっている。
さすがはダイクンの遺児というところか。
「もちろん私も含めみんなも可能な限り協力するし。そうよね、カイ?」
とミヤビはセイラの相方を務めるカイに話を振る。
いきなり言われたカイは、
「うぇっ!? いや、まぁ、そりゃあ、できる限りのことはするけどよぅ」
カイのような偽悪的なタイプは素直に頼られると弱い。
その辺を見越してのミヤビの話術だ。
そして一番不平不満を言いがちな彼を味方に付けることで、組織の中の不和はある程度抑えられる。
「それに補佐にホワイトベースの戦術コンピュータにリンクしたサラを付けるから」
『よろしくお願いします、セイラさん』
と手のひらサイズの歩行型ミニドローン、モビルドールサラがミヤビの肩の上で頭を下げる。
実はブライトの負担を和らげるため用意していた手だが、
(間に合わなかったのよねぇ、これが)
うん、リュウが無事だったこともあって油断したか。
そういうことでマリューさんみたいなヒドイ目に遭うことを回避するミヤビだった。
なお、このサラはサラシックスの再セットアップ作業に従事しているサラとは別に存在している。
まぁ、これまでもドラケンE改の予備機に複数のサラをインストールしてそれぞれを単独制御で動かしていたので今さらだが、ミヤビはサラの同時使用ライセンスを複数持っているのでこういうことができる。
ではそれぞれが別個体なのかと言うと、そのAIプログラムはもちろん、記憶もネットワークで共有、統合されてしまうので『ミヤビのサラ』は単一の存在だとも言える。
感覚的には分身の術? みたいなものか。
「こっちだよ」
シーマの先導で地下搬入口へと足を踏み入れるラルたち。
「なるほどー、サラミスの残骸を隠れ蓑にした地下施設ですか」
そう漏らしながら内部に入るステッチに、ラルは言う。
「ステッチ、貴様妙だとは思わんのか」
「はぁ」
「ここは地球だぞ。サラミスに大気圏突入能力は無い。墜ちたにせよ、どうしてこの船は原型を留めている?」
「そ、そう言えば!」
「それに船尾の形が我々の知るサラミス型とは少々異なりましたな。メインエンジンの左右にサブエンジンが増設されていた」
と、クランプ。
そして先を行くシーマをじろりと見るが、
「さすが、鋭いねぇ」
と彼女は笑いながらも肯定する。
一行の前にエレベーターが現れ、乗り込むが、
「何だか傾いて昇るエレベーターですわね、あなた」
そうハモンが言うとおり、微妙な傾斜がついていた。
そうしてたどり着いたところは、
「宇宙巡洋艦の艦橋か」
窓には装甲シャッターが下ろされていたが、そこはまさしく戦闘艦のブリッジだった。
くるりと振り向いてシーマは言う。
「本艦へようこそ、ランバ・ラル隊の方々?」
ラルは周囲を見回し、
「もうこの船は動けるのか?」
「残念ながら、まだエンジンのチェックが済んでなくてね。それが済んで、ミノフスキークラフトさえ動けば」
「ミノフスキークラフト、とはあの?」
「そう、連邦、ジオン両軍で開発されたばかりの浮遊装置。整列する性質を持ったミノフスキー粒子をIフィールドによって制御し、その反発場により物体を浮上させる力を得る」
シーマはラルを見据え、
「ホワイトベース、あんたたちが木馬と呼んでいたあの船が地球上で浮けるのはこの装置のおかげ。そしてこの船はホワイトベースを開発するにあたり必要な技術や運用方法を確立するために造られた実験艦。そのために搭載されたミノフスキークラフトの試験中に、トラブルでここに墜ちたというわけさ」
そして不意に艦内に警報が走る。
「仮設観測所より緊急報告。ドップ多数。本艦上空より降下中!」
コンソールに取り付いた作業帽を被った作業員が報告する。
「キシリア機関か、この船の存在に感づいたようだね」
上をにらみ、苦々し気に吐き捨てるシーマ。
「キシリア機関が?」
ラルたちも当然知っているキシリア配下の、汚れ仕事専門の情報機関。
この艦は、それに狙われているというのか。
シーマは瞳を細めるとラルたちに答える。
「あんたらもザンジバル級を使うことができず取り上げられただろ。この地域は地球で最大の鉱物資源をおさえているマ・クベ大佐の本拠地、つまり他に知られるとまずい秘密があるってことさ」
また、ラルたちの上司のドズル中将とキシリアは反目しあっている間柄、ということもある。
「ガウ攻撃空母は本艦の上空に滞空、盛んにドップを発進させています!」
そしてそのドップからのミサイル攻撃が至近に着弾。
爆発が艦橋をも揺るがした。
「この艦はまだ戦えないのか?」
「このままじゃあ、何もできないうちにやられちまう」
そう言い募る部下たちに、
「うろたえるな!」
ラルは一喝。
「全員、席に着け。連邦の艦の扱いは分かっているはずだぞ!」
そう命じる。
ヒュウ、と口笛一つ。
シーマだ。
「さすがランバ・ラル隊。ノーマルスーツ一つで連邦艦を乗っ取って見せたって話もウソじゃなさそうだねぇ」
ホワイトベースを白兵戦で占拠しようとしたようにランバ・ラル隊はゲリラ屋であり、ミヤビの前世の記憶でも某ゲームのムービーにてノーマルスーツとランドムーバーで宇宙空間を渡り連邦艦に立ち向かうシーンがあった。
それゆえ占拠後の艦の操作もまた習熟しているわけである。
「それも込みでの人選、ではないのか?」
ニヤリと頬を吊り上げるラル。
シーマは苦笑して、
「まぁね。でも助かるよ。ここに居るうちの人員は作業員ばかりでね」
そして各コンソールについていた作業者たちから操作を引き継ぐラル隊の面々。
ラル自身もキャプテンシートに着く。
「スクリーン点灯」
モニターに映し出されるドップ、そしてその後方に控えるガウ攻撃空母。
上空のガウ攻撃空母では、
「艦載機だけに任せず、ガウ自ら降下して攻撃せよ。危険なものは断固、消してしまうのだ!」
そう指示が下り、降下、接近を開始。
両翼のメガ粒子砲の発射体制が整えられる。
そのころホワイトベースは、
「グフがマシンガンとヒートホークを持って攻めてきたぞっ!」
マ・クベの繰り出す包囲殲滅戦に曝されていた。
整備が間に合わず、ろくな武装もできないガンキャノン。
メカニックのオムルは出撃しようとするアムロに聞く。
「そんな装備で大丈夫か?」
アムロの答えは、
「大丈夫だ、問題ない」
だった。
まぁ「一番いいのを頼む」と言ったところで今のホワイトベースには無理なのだが。
しかしこの展開、ジオンのモビルスーツの携帯武器を使えるよう改良されたガンキャノンにとっては武器庫が向こうから歩いてくる状態。
グフを倒し、その武器を奪い、それを使ってグフを倒すという無限コンボで戦い続ける。
ラルのようにザクマシンガンはガンキャノンに効かないと割り切り、内装の固定武器のみの運用だったらこうはならなかっただろうが。
固定武器には敵に奪われ使われることが無い、という利点もあるということだった。
もちろんガンキャノンも無傷とはいかなかったが、
『危ないよアムロ。今の戦闘で出力11.2パーセントダウン。動力に6パーセントもの損失! 装甲11パーセント破損! 一度帰還しないと!』
「馬鹿を言わないでくれ、二本目のヒートホークは新品なんだ。今帰ったらもう出られない。この戦いに次なんて無いんだ。何とかしのいでくれ、サラツー」
そしてアムロは倒れたグフからシールドを取り上げる。
「装甲の代わりなんてここにある!」
アムロの決意が固いことを見て、サラツーも覚悟を決める。
『了解! そのシールドをちゃんと扱えるようバランスのモーメントチューンを施すから1分ちょうだい。再セットアップをかけるよ!』
良く言ってくれた、とアムロは微笑み、
「それでこそ僕のパートナー、サラツーだ!」
と称賛を贈る。
その思わず漏らした言葉に、サラツーは真っ赤になって照れまくるのだった。
「二次元の存在のくせに……」
嫉妬でAIを破壊することができたなら、とでもいうように通信手席で悶々とブラックホールを形成するフラウ。
そしてミヤビのドラケンE改も右肘のハードポイントに装備された甲壱型腕ビームサーベルでグフと斬りあっていた。
リーチの限定されるヒートホークでは、通常の3分の1にも満たない全高のミドルモビルスーツ、ドラケンE改にヒットさせるのは難しい。
格闘ゲームで小柄なキャラに立ちパンチなど上段攻撃が当たらないようなものである。
逆にドラケンE改はビーム刃の長さを60パーセント以下に制限しているとはいえ、それでもリーチでは優っているし、対応しづらい下段攻撃を仕掛けやすいという利点がある。
従来ザクに乗っていたパイロットがヒートロッドではなく使い慣れたヒートホークで戦ってくれたことが、ミヤビに有利に働いているのだった。
そしてこれまでなら5分以下しか使えないはずのビームサーベルの稼働時間は、
『甲壱型腕ビームサーベル、アイドリング・リミッター機能、動作良好です』
と、サラが報告するとおり。
『便利ですね、テム・レイ博士がチューニングしてくれたこの機能』
サラも感心する新機能、アイドリング・リミッターは、斬りつけ、目標にインパクトする瞬間以外はビーム刃を最小限に抑えエネルギーの節約ができるようにしたもの。
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』にて登場したUC0090年代の技術だが、一年戦争当時でも『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』で主人公が陸戦型ガンダムのビームサーベルの出力を弱めてお湯を沸かしていたように、ビームサーベルの出力調整自体は最初期から可能だったものだ。
(陸戦型ガンダムのビームサーベルはRX-78ガンダムと同型の連邦軍標準タイプであり、ドラケンE改の甲壱型腕ビームサーベルと基本構造は同じもの)
だからあとは、そこに至る発想があればソフトウェアで解決できるものだった。
そして例によって寝ぼけたミヤビがテム・レイ博士にポロリとこの機能について話してしまったことがきっかけで開発されてしまったのだ。
ランバ・ラル隊の受け入れに急遽来たシーマ隊が、手ぶらで済まないと言いながら置いて行ってくれたのが、この機能を実現する地球連邦軍兵装向けデバイスドライバのアップデートプログラムなのだった。
これによりドラケンE改側のエネルギー消費が抑えられ、ビームサーベルの利用可能時間が飛躍的に伸びることとなった。
シーマの話によると甲壱型腕ビームサーベル装備のドラケンE改を本格的に戦場に投入することを連邦軍上層部は考えており、この機能はそのためでもあるということらしい。
『テム・レイ博士がジャブローに帰って作りたかったものって、このプログラムだったんですね』
サラはそう言うが、
「どうかしらねぇ……」
あの狂的技術者(マッド・エンジニア)がこの程度のまともなものの開発で満足するとは、ミヤビにはどうしても思えず。
そしてその予感は近日中に現実としてミヤビの元へとやってくるのだった。
いわゆる主役機交代イベントというやつである。
史実どおり倒れるブライトでしたが、ヤシマ姉妹はセイラをいけにえに艦長代理を回避するぜ!
まぁ、そうした方が上手く行きそうですよね。
ランバ・ラル隊は…… お約束の展開です。
ビームサーベルのアイドリング・リミッター機能は以前、ご感想の中で提案を受けたものを今回、使わせていただきました。
このようにいただいたご感想は作品作りに生かさせてもらっています。
お話の展開の都合で何カ月も後で反映、ということになっていますが。
なお次回はグフの量産機も出てきたことですし、シャアとガルマのモビルスーツ談義、
「ガルマ、グフの一般機にツノって要らないんじゃないのか?」
「何を言うんだシャア!」
をお送りする予定です。
そしていよいよRX-78ガンダムと称される機体も登場です!
みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
今後の展開の参考にさせていただきますので。