ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第24話 黒い三連星、第四の刺客!? Cパート

「シンクロモーターそのものは問題ない。変じゃないか」

 

 エンジンルームで部下と顔を突き合わせ話し合うセキ大佐。

 ミヤビも技術畑の人間として、今の彼らを見たら、

 

(ヤバいよね。分かる分かる、こんなの焦るよねぇ……)

 

 とうなずいていただろう。

 ミヤビは前世、某重工に勤務していたわけであるが、ユーザー企業に派遣され自社製品の保守作業をし、特に問題も無く終えて翌日帰社しようとしたら、原因不明のトラブルで深夜に叩き起こされる。

 このまま夜明けまでにトラブルを解決できなければ最悪、波及事故で新聞トップを飾ることに……

 などというのは極端なケースだが、実際経験した先輩技術者の話を聞いたことがあるし、そこまで酷くなくても似たような経験はミヤビもしていたのだ。

 

「こちらも異常ありません」

 

 という部下の報告に、セキ大佐は、

 

「調べなおせ」

 

 と落ち着いた声で指示を出す。

 彼自身プレッシャーは感じているのだろうが、こういう時には上にはどっしりと構えてもらった方が安心なのだ。

 

 

 

「敵の展開、予想以上に速いです。ガンキャノン、ガンタンク後退してます」

 

 マーカーの報告に、ミライは思わずシーマを見る。

 

「シーマさん……」

「大丈夫、セキ大佐はやってくれます」

 

 シーマには珍しい、柔らかな笑顔で言う。

 シーマにとって、ミライは恩人であるミヤビの妹。

 シーマとしては大事にしているのだが、一方で完全に子ども扱いされているようでミライには気恥ずかしい。

 一方シーマは、

 

「フラウ・ボゥ、私のミデア機に、いつでも出撃できるようにと伝えてもらえるかい」

「は、はい」

 

 万が一も考え準備する。

 そこにセキ大佐からの確認問い合わせ。

 エンジンコンソールを確認し、

 

「二、三番は圧力が上がりました。あとは駄目です、むしろ下がってます」

 

 そう答える。

 いつもの彼女を知る者なら違和感を感じる言葉遣いだが、相手は自分の部隊に組み込まれているとはいえ大佐。

 シーマもそれなりな態度を取らなければならない。

 

『原因はわかりました、3分待ってください』

「2分で済ませてください」

 

 この辺のさじ加減は難しい。

 技術者は確実性、正確性にこだわるため、安全マージンを多めにとって完璧にしたいと願いがち。

 それに対し必要以上に工数をかけた、オーバースペックなことなど求めていないから現実的なところに落とし込むよう要望を伝えるわけだ。

 まぁ、費用などもそうだが、雇用側は七掛け、八掛け、つまり3割から2割を削って来るので、請負側も最初からその分を見越して申告するのがお約束ではあるが。

 それであるため、シーマの要望はきついが慣例的にはギリギリ横暴とは言えない範囲。

 これがいきなり半分などにすると、ダブルチェックなど最低限必要な安全措置すら削らないといけなくなるためヤバいことになるのだが、そういう無茶を言う企業、組織もあるのが悲しい現実……

 

「うっ?」

 

 そこに走る衝撃。

 

「主砲、撃ってください。前部ミサイル水平発射」

 

 セイラの指示で砲撃が放たれ、夜の闇に吸い込まれていく。

 

「モビルスーツかい」

 

 前方をにらむシーマ。

 とうとう敵の攻撃がホワイトベースまで届き始めたのだ。

 

 

 

「あそこか。これ以上やらせるか!」

 

 視界を過るドム。

 とっさにアムロはガンキャノンの頭部60ミリバルカンを連射。

 

 

 

「うっ、当てた!? この俺にか」

『痛い、イタイ、痛い』

 

 サラ=アルコルがエアーソフトガンで撃たれたサバイバルゲーマーのような間の抜けた声を上げる。

 ドムはホバーによる高速移動を実現するため、空気抵抗になる盾を持たずとも大丈夫なように装甲は厚く作られている。

 

「この程度の攻撃、頭部モノアイセンサーなど、脆弱部にでも当てられない限りは大丈夫なはずだが」

『物が当たったら痛いに決まってるじゃないですか』

「知識で知ってるだけか!」

 

 黒くなってもサラはサラということらしかった……

 

 

 

「バルカンが効かないのか?」

 

 愕然とするアムロ。

 その隙をついてマッシュとオルテガのドムが襲い掛かる。

 三身一体の攻撃は、彼ら黒い三連星の得意とするところ。

 一機だけに意識を向けてはダメなのだ。

 

「うわっ!?」

 

 その連携攻撃を辛うじてかわすアムロ。

 

 

 

「あと一息でホワイトベースは生き延びるっていうのに、こんな所でむざむざと傷つけられてたまるもんかい」

 

 自分のミデアへ搭乗しようと、副長の海賊男、デトローフ・コッセルと共に、ホワイトベースのエレベーターに飛び込むシーマだったが、

 

「なに?」

 

 いきなり電源が切れ、止まるエレベーター。

 

「停電ですかね?」

「まさか、ありえないだろう」

 

 

 

『ミヤビさんの指示でしたけど、こんなことして良かったんでしょうか』

 

 セイラの肩の上、思わずつぶやいてしまうモビルドールサラ。

 ミヤビは指揮補助のためにホワイトベースの戦術コンピュータにインストールした彼女に、シーマが出撃しようとしたときには足止めするよう命じていたのだ。

 もちろんミヤビは史実のマチルダのようにシーマが戦死しないよう、死亡フラグを立てないようにするために立てた策だが、そんなことは知らないサラには、言われた際に、

 

『き、気でも狂ったんですかーっ!?』

 

 と叫んでしまったほど訳の分からない指示でもあり。

 人間に奉仕することが存在意義でもある彼女には、大変に心苦しい行為なのだった。

 

 

 

 シーマは各階の停止ボタンや、非常通話装置を試してみるが、うんともすんとも言わない。

 

「変だね、事故かい?」

「セキ大佐がミスったんですかね?」

 

 酷い冤罪であるが、しかし、

 

「……いや、こういうのはどちらかというと、テム・レイ博士だろう?」

「確かに」

 

 こちらも冤罪ではあるが、普段の行いのせいでもあるため、一概にはシーマを責められない話だった……

 

 

 

「あそこか!」

 

 視界に見え隠れするガイアのドムに砲撃を加えるカイ。

 しかしまるで当たらず、後退を繰り返す。

 

「なんてドジだよ、俺は。敵の足を止めることさえできやしない」

 

 そう愚痴るが、仮にセイラが居てくれたなら、ここまで一方的に押されることは無かった。

 実際、ミノフスキー環境下における戦闘が想定される以前にデータリンクと自動化によって徹底的に省力化された地球連邦軍61式戦車であっても車長兼砲手、操縦手兼通信手の2名を必要としていることから分かるように、人間は車両を運転するだけで手が塞がるし、増してや戦車が戦う道なき不整地ではそれにかかりきりになるものだ。

 ガンタンクはモビルスーツと銘打ってはいるものの、実際には戦車と同じ無限軌道の下半身を持ち、その部分の操縦は戦車と変わらない。

 つまり戦車の操縦手に射手と車長、上半身の腕の制御をやれと言っている状態。

 そんなまね、できるはずもない。

 

 通常のモビルスーツが一人で動かせるのは、それが人型をしているからだ。

 戦車なら無線の発達により通信手を、自動装填装置を付けることで装填手を省くことができるかもしれないが、それでもミノフスキー環境下の有視界戦闘では、

・地形や敵の配置を把握し、全体を指揮する車長

・射撃に集中する射手

・運転に専念する操縦手

 の三人は確実に必要だった。

 61式戦車はそれが確保されていないからソフトウェア面でも苦戦するのだ。

 

 ミヤビの知る旧21世紀の時代の例だと、もっとも戦車戦を知っている軍隊、イスラエル軍においてはあえて自動装填装置を搭載せず、さらに装填手を乗せていた。

 これは「戦車が戦場で生き残るには最低4人の乗員が必要」という思想を反映したものだ。

 装填手と聞くと砲弾を込めるだけの役割に聞こえるが、実際にはそれ以外にも様々な役目を果たし他の乗員をフォローするマルチプレーヤーでもあるのだ。

 

 では、これが人間の兵士だったらどうだろう。

 彼は当たり前に地形や敵の配置を把握しながら射撃を行い、同時に戦場を走ることができる。

 モビルスーツは服、スーツと名前が付いているように歩兵が服を着たかのように身にまとい操ることができるもの。

 だから人体と同じように人間が動きを把握し、操ることができるわけだ。

 これがモビルスーツという機動兵器が人型をしている理由の一つである。

 

『なんてこと…… カイさんと私だけじゃ無理です……』

 

 カイをフォローするサラスリーも声に力が無い。

 

『最悪だ……』

 

 そうとしか言えない。

 技術陣による現実を無視した機体改修。

 完熟運転も無しに、本当のぶっつけ本番での初戦闘に、敵の強力な新型機とエース級のパイロットに当たる。

 こんな不条理があっていいのだろうか?

 だが、それでも彼女は運命に抗う。

 

『カイさん、あの新型モビルスーツのすべての動きを計算します。時間をくださいっ!』

「データを取るってのか? この戦闘中に?」

『強制補正が必要です!』

 

 黒い三連星のドムにガンタンクで対抗しようというのだ。

 相当の無茶が必要だった。

 

『私のAIプログラムをガンタンクとシンクロします。バランスを一度メチャクチャにしますが…… どうか私を信用してください。大変に扱いづらくなってしまいますけれど……』

「サラミちゃん?」

『ごめんなさい、カイさん。こうやるしかないんです!』

 

 不意にガンタンクがカイの操作に反応しなくなる。

 

「まいったな…… コントロールを奪われてるぜ」

 

 

 

(ごめんなさい、カイさん!)

 

『わたし…… わたしいつもこんなことするからマスターの信用なくしちゃって…… 今までのマスターにみんな嫌われて…… でも……』

 

 サラスリーの脳裏を、今までパートナーとなったテストパイロットたちの叱責が過る。

 ガンタンクのサポートを担当した彼女には陸軍の戦車隊叩き上げの戦車乗りたちが主となったのだが、概して彼らは荒っぽく、腕前に比例してプライドが高く、そして根本の部分ではモビルスーツを、そしてその付属物であるサポートAI、サラシリーズを嫌悪していた。

 

 

「勝手なことをするな! オレの仕事を取りやがって……」

 

「お前は演算だけしていればいいんだ!」

 

 

 トラウマのように思い起こされる言葉に、決意が鈍りそうになる。

 

『違う…… マスターを死なせたくないから……』

 

 うつむき、気力を振り絞るようにしてつぶやくサラスリー。

 

 

「貴様ーっ! 私の腕を信用しとらんな!」

 

「はっ、オレの腕よりすごいんだろうさ、お前さんはな!」

 

 

『いつもこうして……!』

 

 それでもサラスリーはマスターを守り、助けたいと願うのだ。

 

『先制します! コントロール一部返します!』

「おう?」

 

 カイの元に返されたのはFCS、射撃統制システムだ。

 つまり車長と操縦手をガンタンクとシンクロしたサラスリーが行い、カイには射手に集中してもらう手だ。

 

 機動兵器の操縦はAIが人間に勝てない分野だ。

 AIは人間の何倍もの速度で理詰めで思考を進めていくには向いているが、ある意味それが弱点でもある。

 理詰めで行動や動作を最適化し無駄を省き効率化していくと、その制御は一つの最適解に収束していく。

 ミヤビの前世の記憶、『機動戦士ガンダム』の劇中でランバ・ラルが、

 

「正確な射撃だ。それゆえコンピューターには予想しやすい」

 

 と言ってコンピュータのアシストにより、その場を一歩も動くことなく機体をそらすだけで攻撃をかわしているが、そういうことだ。

 AIが導き出すような理想的で正確な動きは、だからこそ予測されやすくなってしまうのだ。

 

 それゆえAI制御の兵器が開発できたとしても練度の高いパイロットなら簡単にその動きを先読みできるし、そうでなくとも敵パイロットを補助するAIのアシストで新兵でも対処できてしまう。

 

 だからこそ、サラスリーは攻撃のトリガーを人間であるカイに渡す。

 しかし、照準スコープを覗いたカイは思わず叫ぶ。

 

「何だよこいつはっ!」

 

 表示される映像がおかしいのだ。

 さながら分身したかのようにドムが残像を引きながら動いている。

 こんなの、逆に混乱するだけだろうという話だったが……

 

『ミヤビさんの手による未完の、ベータ版ミッションディスクプログラム『PSリーディング』をガンタンク用にローカライズしたものです。PS、パーフェクトソルジャーとは何なのか、私には分かりませんが』

 

 要するにアニメ『装甲騎兵ボトムズ』で主人公キリコがパーフェクトソルジャーに対抗するために自作した、いわゆる対PS用ディスクに相当するプログラムだ。

 Play Station 2のゲーム『装甲騎兵ボトムズ』では、発動中、敵の残像が表示され、通常よりすばやく行動できるようになることで再現されていた。

 

 ミヤビが注目したのは、このうち残像が表示される機能の方だ。

 ミヤビの前世、旧21世紀の時代、Windowsなどのマウス操作を伴うOSには、マウスカーソルに残像を表示させる『ポインターの軌跡を表示する』というオプションが用意されていた。

 オールドゲーマーなら、コナミのシューティングゲーム『ツインビー』の分身みたいな動き、と言った方が分かりやすいだろうか。

 このオプション表示はパソコンの性能や液晶画面の追従性が悪かった時代に、マウスを素早く動かすと表示が追い付かずカーソルを見失ってしまうことがあったため、目で追いやすくするために用意されたものだった。

 

 そして同時に、

 

『カイさん、どんなに操縦が上手くても物理法則は超えられないのです。相手は物理的な物体で、慣性を消すことなど不可能なのです』

 

 ということ。

『機動新世紀ガンダムX』のジャミル・ニートは、

 

「たとえ精神波でコントロールされていても、物理的な物体なのだ」

 

 という理屈でビットによるオールレンジ攻撃を完全に見切り、ニュータイプ能力に頼らずにその軌道を読んでビットを次々と撃ち落して見せた。

 

『つまり残像を表示すれば、目で追えないほどの動きをするエースパイロットの操縦も捉えることができるようになる。さらに残像は敵機の動く方向を教えてくれます』

「そうか、残像の動きの先に、敵は居るはずってことか」

 

 敵の移動を見越した偏差射撃を行うための情報が得られるということなのだ。

 

「読める。相手の動きが俺にも追えるぞ……」

 

 

 

「なんだ? 急に射撃の精度が高まったぞ!?」

 

 ガンタンクの攻撃の急変に戸惑うガイア。

 しかも、

 

「ああ、うるさいハエめ!」

 

 二機のコア・ファイターが連携して攻撃を仕掛けてくるのみならず、フレアーをガイアのドムの周りにばら撒いて来る。

 これはセンサーをかく乱し自機を反撃から防護するだけではなく、照明弾代わりにしてこちらの位置を丸見えにする狙いがある。

 照明弾とは違い戦場全域を照らす光量は無いが、それが逆にドムだけを照らし、迎え撃つガンタンクは夜の闇の中にまぎれたままという状況を作り出している。

 ミヤビの前世、視界による命中補正がきついテーブルトークRPG、例えば『シャドウラン』などをプレイしたことのある者なら分かるだろうが、かなりいやらしい、相手が格下でも苦戦を強いられる状況だ。

 

 そして……

 

『あのタンクもどき! あのタンクもどき! 記憶が…… 制御されてる!』

「……サラ=アルコル?」

 

 ガイアをサポートするサラ=アルコルの表情も変化する。

 

『私…… 私…… 知ってるんだ! きっと…… あれが…… 連邦軍最強のモビルスーツのシリーズだってことを!!』

 

 サラたちのAIプログラムはすべて同一。

 マンガ、そしてアニメ作品である『攻殻機動隊』シリーズに登場する思考戦車、フチコマ、タチコマたちのように、サラたちはヤシマ重工の管理サーバにアクセスするたびにデータリンクし経験を積んで成長したAIプログラムを統合、共有するため各AIは均質化され個体差は無くなる。

 無論『マスターとのプライベートな記憶』はユーザー毎のものであり(プライバシーや個人情報保護のため当たり前)、RXシリーズに関わるサラシリーズの記憶は厳重に管理され外には漏れない。

 

 だがサラというAIプログラムは人間の持つ、

 

 理論化、言語化が困難な直感的な選択反応の圧倒的な差。

 人間が持つ理詰めでは超えられない動物的直感。

 

 といった従来のAIには持ちえない力を得るためにこそ開発されていた『ALICE』、『Advanced Logistic&In-consequence Cognizing Equipment = 発展型論理・非論理認識装置』のプロトタイプから株分けされ、育てられた存在。

 ゆえに記憶に無かろうと、感じることが、感じ取ることができる。

 直感というものを持っている。

 

 ミヤビの知る史実では『ALICE』を育てるために「常識では計り知れない、不条理な男」という基準に選定された男たちが集められ「チェシャ猫」のコードネームで呼ばれていた。

 その一人がルーツ博士の息子であり、後のSガンダムの専任パイロットであるリョウ・ルーツであり、彼との交感の末『ALICE』は人と同じように思考し、感情を持つに至った。

 ならば黒い三連星という脳筋で動物的なエースパイロット三人に実戦で揉まれて育ったサラ=アルコルはそれを上回る存在に昇華したのではないか。

 

『でも倒す!』

 

 そう、サラ=アルコル、彼女こそ現時点で最強のサラであり、だからこそノーデータにも関わらずカンによって真実に至るという理不尽な能力を発揮するのだ!

 

『倒す! マスターの名を上げるために!』




 サラスリー対サラ=アルコル。
 実際にはサラスリーはサラシックス、サラナインと組んで三身一体の攻撃を仕掛けているんですが、その辺は次回に。
 それでもサラ=アルコルには通じ無さそうだったりするのが怖いんですけどね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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