ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件 作:勇樹のぞみ
『スーパーコンピュータに比肩する教育型コンピュータ三台の能力をつぎ込んだ演算戦(サンプリング・プロ・エミュレート)を難なくかわす。ジオンの新型は化け物なの?』
攻めているはずのサラスリーだが、まったく余裕は無い。
『私たち三姉妹のトライアングルアタックをすり抜けるなんて信じられません』
レーザー回線で同期。
連携を取るコア・ファイターのサラシックスも驚愕を隠し切れない。
そう、彼女たちはレーザー回線で情報を共有しつつ、教育型コンピュータがもつ超高速演算能力を利用した敵機の行動予測と、それを用いた戦闘を行っているのだ。
包囲網の形成や死角への進入など、いかに有利な状況を生み出すかがポイントであり、彼女たちはそれを完璧にこなしているはずなのに。
『素早いのはアムロさんのガンキャノンみたいなホバー走行の常時使用を実現しているから…… だからといって、私たちの連携が負ける理由は見つからない…… そんなことがあるとすれば、あの新型機のパイロットは私たちの理解をはるかに超えたところにいるということ……』
上空からドムの動きを観察、他の機体へとデータを送りつつ推論するサラナイン。
サラスリーもそれで結論に至る。
『モンスターなのはモビルスーツじゃなく…… パイロット……?』
『ガイアさん!! マーカーポイントで私に火器を回してください!! ここです!!』
「分かった」
サラ=アルコルが指定したのは近くにあった湖。
『無駄です!! カイさん! バックを取ります!!』
「もらったぜ黒いの!! 見えてんだぜ!!」
湖は視界が開ける。
ガンタンクが狙撃するには絶好のポイント。
二機のコア・ファイターの連携をもって軌道を制限し追い込む。
だが!!
「うっ!!」
視界を真っ白な蒸気が覆う!!
ドムのホバーは熱核ホバーという方式。
相当の熱を持っており、水の上を通過するだけで派手に水蒸気を巻き上げる。
その上、
『ここっ!』
左胸に装備された拡散メガ粒子砲が湖面を舐め、広範囲に水蒸気のカーテンを作る。
「連携が乱れた!?」
好機とばかりに歯をむき出し笑うガイア。
同時に、サラ=アルコルは、
『あはっ、みぃつけた!』
と無邪気な、しかしだからこそ残酷なまでに純粋な喜びの声を上げる。
コア・ファイターをドムに近づけ過ぎたのだ。
水蒸気がレーザー通信を乱すと同時に、有視界戦闘を支えるジオンお得意の高性能光学センサーが、瞬間的に水蒸気によって浮かび上がるレーザー通信の光条を捉える。
人の目に見えない波長の不可視光レーザーを使っていたとしても、機械の目は誤魔化せない。
そして、その先には通信相手であるガンタンクが居るのだ!!
『ガイアさん! ヒート・サーベルを抜刀してください! 水蒸気を目隠し(ソフトカバー)に利用して近接攻撃をかけましょう!』
『見つかったっ!?』
一瞬で間合いを詰めてくるドムを、サラスリーは全速で後退することで回避!
「うおおおおっ!!」
火器管制を担当するカイは射撃に集中するが、
「ゆるゆるだっ!!!!」
ドムの片手でのヒート・サーベルの一薙ぎ。
鎧袖一触、すれ違いざまにガンタンクの120ミリ低反動砲の砲身が切り捨てられる!
『まだっ!』
『あきらめないで!』
「カイっ!」
「カイさんっ!」
遅れて二機のコア・ファイターが援護に殺到するが、
『だから無理だって!!!』
ガイアの操縦するドムのターンに合わせ、サラ=アルコルの制御で薙ぎ払うように放たれた拡散メガ粒子砲を受け、追い散らされる。
そして再びドムが向かう先には何とか距離を取ろうと後退を続けるガンタンク!
それを見るサラ=アルコルの瞳が細められる。
『相手は『私』ね…… やっぱり。悲しいぐらい分かってしまう。それに…… あのタンクもどきが私たちとちょっとでもいい勝負をできたわけも分かった……!』
「どういうことだ、サラ=アルコル」
マスターであるガイアの問いに、彼女は答える。
『敵のタンクもどきには『私』、ヤシマ重工製サポートAIである『サラ』が間違いなく載っています。おそらく敵は二機の軽戦闘機をレーザー通信によるデータリンクで攻撃ユニット兼観測機に仕立てた上、コンピュータの能力に物を言わせた演算戦(サンプリング・プロ・エミュレート)を仕掛けていたんです』
でも、
『もうお終いです。手品のタネは割れました。そしてさっきの打ち込みで致命的な欠陥も浮き彫りになった』
その、ガンタンクの弱点とは、
『先のガイアさんのヒート・サーベルをまともに食らってしまったのは、パイロットの操作が加わっていないからです! あのタンクもどきは、何か欠落しています!』
AI単独による機体制御は、その演算力により最適解をたどるがゆえに読みやすいのだ。
「………」
ガイアは考えた。
ガイアには難しい話はわからぬ。
けれども本質を見極めることに対しては、人一倍に敏感であった。
「向こうのお前も主人のために必死に戦っているということか。戦えるのか? そんな相手と」
『えっ……』
サラ=アルコルの表情が呆ける。
『そう、ですね…… 人間だったら大変…… なんですかね?』
しかし、
『変なことを心配するんですね、ガイアさん』
サラ=アルコルの決意は揺るがない。
もう一人の自分と、その自分がマスターと慕う相手を倒してでも……
AIに過ぎない自分を人間の少女と同等に気遣ってくれるこの優しいマスターのために、彼女は報いたいのだ。
『行きましょうガイアさん! 勝利は目の前ですっ!!』
『駄目ですカイさん!』
再び踏み込んでくるドムに、両腕の40ミリ4連装ボップ・ミサイル・ランチャーを向けようとするカイだったが、サラスリーはそのコントロールを奪い、両腕で頭部コクピットをガード!
「サラミっ、お前っ!!」
こうすれば確実にドムはがら空きの、コクピットのある腹部を狙う。
そうして倒されれば頭部コクピットのカイは助かるはず。
当然、コア・ブロック搭載の教育型コンピュータにインストールされたサラスリーは失われるのだろうが。
『カイさん…… 最後まで、私の名前をちゃんと呼んでくれなかった……』
それだけが、心残り。
『勝った! ガイアさん、とどめっ!』
右手に構えたヒート・サーベルを振りぬけばそれで終わり!
『ガイア、さん?』
しかしガイアは機体を右に振ると空いていた左腕を、ガンタンクの両手ガードを突き崩すように振るう。
『ぶぶぶ、ぶんなぐったっ!!』
ホバー走行の突進力を上乗せした打撃に吹っ飛ぶガンタンク。
「これなら死にはすまいっ!」
どや顔で言うガイアに、サラ=アルコルは噛みつく。
『何考えてるんですかーっ!』
「サラ=アルコル。俺たちは戦争をやってるんだぞ」
ガイアは語る。
「近代戦は敵を殺すより、負傷させることを主眼としている。何故か分かるか?」
その問いかけにサラ=アルコルは考えを巡らす。
『昔に比べて、人道的になったからですか?』
「まさかだ!」
偽悪的に笑って、ガイアは説明する。
「死んだやつは放置すればいいが、けが人は手当しなけりゃならない。例えば歩兵が一人負傷したとして、そいつを戦場から運び出すには最低2名の運搬員と、十分な援護要員が必要だ。そして応急措置をする者、後方に護送する者、後方で手当てをする者」
指折り数えて行くが、終いには片手だけでは足りなくなる。
「それだけの人手を割かせるのが目的なんだ。単純に殺すより、効率的に敵の手を塞げる」
その説明に、サラ=アルコルはフイと横向いて、
『……そういうことにしておいてあげます』
少し怒った顔で、すねたように言うのだった。
「こいつ、来るのか?」
ドムのスピード、そしてマッシュとオルテガの連携に翻弄されるアムロ。
「うわーっ」
両肩の240ミリ低反動キャノン砲では追いつかず、ビームライフルは撃ち尽くした。
ヒートホークを抜いてヒート・サーベルによる打ち込みに対抗するが、リーチとスピードの差で防御することしかできない。
かろうじて頭部60ミリバルカンを当てるが、それも装甲で弾かれる。
「アムロ―っ!」
ミヤビはあえて飛行せず、地上をジェットローラーダッシュで駆け抜ける。
背面の飛行ユニットはコア・ファイターの胴体部そのものなのだから地上では邪魔な主翼、垂直尾翼は折り畳めるし、その取付基部は上下に扇状に可動するため、後ろに向けて噴射することも可能。
なぜ飛行しないのかと言うと噛み合わないから、としか言いようがない。
史実でもGアーマーが役に立たず、結局ガンダムを出していたように。
ミノフスキー環境下、レーダーの効かない状況での夜間戦闘。
さらに森という遮蔽物がある環境で敵は地表を高速で移動できる。
航空機が亜音速飛行ですれ違う一瞬で敵機を捕捉し攻撃しろというのは困難な話で、なら速度を落とせばいいかというと、それではいい的になるだけ。
ミヤビの前世、旧21世紀でも航空兵力は戦車に勝つが、それだけで敵地上部隊を駆逐することは困難。
結局地上部隊の投入は不可欠と言われていたのも、こういった事情があるからだった。
そうやって、ミヤビのドラケンE改可翔式は地形を利用しドムに接近。
60ミリバルカンポッドを連射する。
「そんな旧式で…… この
接近してきたドラケンに、マッシュは撃ち尽くして空になったジャイアントバズを投げつける。
とっさに避けるドラケンだったが、回避の遅れた左腕、肘から先が千切れ飛ぶ!
ドラケンは懸命に機体を立て直し、右腕肘ハードポイントに接続した60ミリバルカンポッドを向けるが、マッシュは意に介さず、無造作に左腕マニピュレータを伸ばす。
無防備に迫るドムの機体に次々に着弾が走るものの、
「ムダだと言ってるだろ!! たとえ至近距離でもそんなバルカンがこのドムに効くかよ!!」
ガンキャノンの頭部バルカンを受けても無傷なのだ。
ドラケンのバルカンポッドも同じ……
「あん?」
はず、だったがコクピットに警報が鳴り響き、損害報告でコンディションモニターが赤く染まって行く!
「ちょっ、おまっ!」
慌てて回避、というか逃げ惑うマッシュのドムを、ドラケンからの火線が追い回す!
『効いてる効いてる』
くふふ、といった感じで笑うサラ。
どうしてガンキャノンのバルカンが効かないのに、ドラケンE改可翔式のバルカンが効いているのかというと、
「さすが新型ねぇ」
とミヤビがつぶやくとおり、外見こそ変わりないが内蔵されているバルカン砲が新型だからだ。
正式名称『60ミリバルカンポッドType-02』。
通常は60ミリバルカンポッド弐式と呼ばれる。
従来のドラケンE改のバルカンポッドに搭載されていたのは連邦軍モビルスーツ頭部武装に利用されていたものと同じTOTO(トト)カニンガム社製60mmバルカン砲ASG86-B3Sであった。
しかしミヤビの前世の記憶にある『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』登場のRX-78NT-1 ガンダムNT-1アレックスにおいては、新たに弾頭の形状や材質、炸薬を大幅に変更した新型頭部バルカン砲を搭載していたとする資料が複数見受けられていた。
そしてそれ以降の連邦機はこの新型バルカンに切り替えられていったと。
60ミリバルカンポッド弐式に使われているのも、このモデルに相当するものだ。
開発時期が少し早すぎないか、という話もあるが、北米オーガスタ連邦軍基地において、RX-78-NT1アレックスの開発が開始したのが宇宙世紀0079年8月。
ジオンの目を欺くため北極基地からアレックスを打ち上げたのが12月10日。
そして今日の日付は11月6日だから、そうおかしなことでもない。
また何より兵器というのはヒト、モノ、カネをかければ発達するもの。
(逆にかけないと戦前で発達が止まってしまったような旧日本帝国陸軍戦車みたいになるが)
つまりミヤビの知る史実と何が変わったかというと、ドラケンE改のバルカンポッドに採用されてしまったことがあげられる。
正史ではRXシリーズから量産機であるジムに採用され、という流れで需要があった60ミリバルカンだが、この世界では先にドラケンE改用の需要があった。
本来なら『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』登場の対MS特技兵指揮官、ベン・バーバリー中尉は対モビルスーツ用にスケールアップされた有線ミサイル、対MS重誘導弾M-101A3 リジーナでザクと戦っていたが、この世界ではドラケンE改に乗っているという。
また、このオデッサの戦いでも多数のドラケンが投入される予定でもある。
ミヤビの知る史実より早い時期に大量の需要が生じたため、開発のための予算がつき、史実より少しばかり早く新型がお目見えした。
そういうわけである。
そして、そもそも60ミリバルカンというのは伸びしろのある兵器で『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では量産機に過ぎないジェガンの頭部バルカンがギラ・ドーガのシールドや正面装甲に大穴を開けて撃墜するほどまでに威力が上がっていた。
まぁ、そこまででなくとも火器と装甲の進歩は一進一退。
今、この時のドムの装甲には、この新型のバルカンをもってすれば有効なダメージを与えることが可能なのだった。
合流する黒い三連星、三機のドム。
「マッシュのドムがやられたようだな……」
『フフフ…… 奴は四天王の中でも最弱。ドラケンごときに負けるとは黒い三連星の面汚しよ……』
「無茶苦茶言うな! っていうか、四天王って何だよ!」
ツッコミどころ満載のサラ=アルコルのセリフに、叫ばずにはいられないマッシュ。
思わぬところで損傷を受けたが、まだ動けはするのだ。
しかし、
「武器がない。作戦も考え直さねばならん」
と、ガイアが言うとおり、ここは切り上げ時だった。
「ジェットストリームアタックを出さずに帰還とは信じられん」
オルテガも不満そうだったが。
最初にサラ=アルコルが声をかけた時にグダグダ言わずにやっておけば良かったのかもしれないが、今さらな話だった。
しかし、
「うむ、なら一丁、アレをやるか」
「おお、さすが大尉殿、我らがリーダー!」
「やっぱり出撃したら一度はやらないと調子が出ないしな」
『止めてください! 始末書書くの私なんですよっ!!』
こうして……
帰還した先でマ・クベのダブデ陸戦艇を敵艦に見立て、訓練と称してジェットストリームアタックをかける三人。
もちろん発砲したりなど直接の損害を与えるようなことはしなかったが、艦橋をかすめ飛んだことで、驚いたマ・クベが壺を取り落とし割りそうになり、メチャクチャしかられるのだった。
「無論、始末書の作成にAIの使用は禁止だ」
「なっ!」
「なにぃっ!」
「ばっ、馬鹿なぁ!!」
マ・クベの宣言に愕然とする三人と、
『ばれてるばれてる』
くふふと笑うサラ=アルコルだった。
「俺を踏み台にするんですかい?」
「仕方ないだろう、動かないんだから。上を見るんじゃないよっ!」
「スカートなんて履くから」
「姫さんが好きなんだからしょうがないだろう」
「そうなんですかい?」
「ああ、私がスカート姿だと微妙に目元がゆるんで嬉しそうにするね」
胸を張って言うシーマ。
常に表情の変わらないように見えるミヤビだったが、良く知る人間からは割とバレバレなところもあるのだ。
なおミヤビは男性(もしくは同性愛者的な)視点でシーマのスカート姿を好んでいるわけでも、女性、つまり同性としてキャリアウーマン的なできる女、お姉さまへのあこがれみたいな見方で感じ入っているわけでも無く。
パンツルックのシーマは前世の記憶にある『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』のイメージが強く、そういう危ないことをしてもらいたくない、という意味でスカート姿だとほっとして気持ちが緩むだけなのだが。
そんなことを知らないシーマや周囲には割と生暖かい目で見られていたりする。
「ぐえっ」
「何だい、私は重くなんてないだろ!」
「いや、ここはこう言うのがお約束……」
「捨てちまいな、そんなお約束!」
そうやってデトローフ・コッセルを踏み台に使い、エレベーター天井のアクセスハッチを開けようとするシーマだったが、
「なに?」
「おおっとぉ!?」
不意に動き出すエレベーターに、もつれるように倒れ込んでしまう。
チン、と到着の音がしてドアが開き、そこには肩にモビルドールサラを乗せたミヤビが……
「だ、大丈夫ですか、お二人とも!」
慌てるミヤビ。
そしてサラは床で絡み合っているようにも見える二人を見て、
「……不潔」
そうつぶやくのだった。
酷い誤解である。
翌日早朝、レビルの元にも報告が届く。
……年寄りの朝は早く、付き合わされる方はたまったものではないが。
「いいニュースだ。ホワイトベースはジオンの黒い三連星を退けて戦線に復帰したよ」
「そ、それはおめでとうございます」
喜ぶレビルに、エルランは追従するが。
「いや、さすがだな。ホワイトベースもいよいよ本物だ」
その大げさとも感じられる信頼ぶりに、顔を引きつらせる。
「エルラン君」
「は?」
「マ・クベの基地を叩くオデッサ作戦、本日午前六時をもって開始する」
ここに、地球連邦軍の一大反抗作戦、オデッサの戦いが始まるのだった。
年寄りの朝は早く、付き合わされる方はたまったものではないのだが……
次回予告
オデッサ作戦開始前に裏切り者を発見したことが、ミヤビを窮地に陥れた。
同時に黒い三連星のドムは執拗にホワイトベースに迫る。
さらにはマ・クベの切り札、水爆ミサイルが……
次回『オデッサの激戦』
君は生き延びることができるか?
サラスリーたち三姉妹も頑張りましたけど、サラ=アルコルと黒い三連星のガイアには勝てなかったよ……
マッシュも油断から被弾していますが死んでいませんし、どうなることやら。
続く第25話『オデッサの激戦』では引き続きホワイトベースの死闘と、オデッサの戦いにおける地球連邦軍モビルスーツ部隊の様子をお届けする予定です。
『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』だと陸戦型ジム、陸戦強襲型ガンタンクが出ていましたが、このお話では?
ご期待ください。
みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
今後の展開の参考にさせていただきますので。