ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第25話 オデッサの激戦 Bパート

 アムロはダブデから飛び立つドラゴンフライの写真を差し出し説明する。

 

「軍の公式データ内蔵のカメラで撮ったものです。証拠になるはずです」

「なるほど。で、君はこのビッグ・トレーにスパイがいるとでも言いたいのか?」

「はい。ネガを拡大すればパイロットが誰かわかるはずです」

「……ジュダックがスパイだと言いたいのだな?」

「そうです」

 

 エルランはしばし瞑目した後、手元の端末を操作して、大型ディスプレイに一枚の写真を映し出した。

 

「これは……」

 

 雪原に掲げられた地球連邦とジオン公国の国旗をバックに、タバコを咥えた地球連邦軍兵士に、ジオン軍の兵士が火を貸してやっているところだ。

 添えられた日付は『January,0079 UC』。

 つまり、

 

「南極条約締結前、ですね」

 

 初めてミヤビが口を開いた。

 この写真はミヤビの前世の記憶の中でも『M.S.ERA POPULAR EDITION 機動戦士ガンダム戦場写真集』という書籍に掲載されていたものだ。

 なお、

 

(なになになになに、なんなのこれ!)

 

 いつもの変わらぬ人形のような端正な表情の下、盛大に慌てるミヤビ。

 ここまで彼女が一言もしゃべらなかったのは、そう、昨晩、黒い三連星に襲撃され、撃退したと思ったら翌日6時にはオデッサ作戦を開始すると言った某将軍のせい……

 つまり睡眠不足で寝ぼけていたためである。

 そして覚醒したと思ったらいきなりこの状態。

 下手をすれば逆上したエルランに射殺されかねない状況である。

 

(おじーちゃんのせいだ!)

 

 ミヤビは朝の早い年寄りの感覚で作戦開始を決めたレビル将軍を呪う。

 ともあれ、

 

「そう、この時、両軍の兵たちの間には戦争終結の噂が流布していた。それを象徴するかのような平和な一幕だよ」

 

 写真を見つめ感慨深げに言うエルラン中将の動向を注視する。

 

「この時なら戦争を終わらせることができた。そうすれば、その後の戦闘で死ぬ者も出なかったし、君たち……」

 

 エルランはアムロを見据え、

 

「ホワイトベースに乗り込むことになった民間人も、戦争に巻き込まれることなど無かったのだ」

 

 しかし……

 

「だが平和への願いは踏みにじられた。何が起こったかは知ってのとおりだ」

 

 エルランの目は、ミヤビにこそ向けられていた。

 だから仕方なしに、しかし感情を表に出さないゆえ、淡々として見える表情でミヤビは答える。

 

「レビル将軍の「ジオンに兵無し」の演説ですね」

 

 そのとおりとエルランはうなずく。

 

「虜囚の身から一転しての大脱出! そして彼は世紀の大演説をぶつ!「ジオンに兵無し」!!」

 

 称えるかのような言葉遣いだが、しかしその表情はそうでないことを物語っていた。

 マンガ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では彼がレビル将軍の救出作戦を指揮し「ジオンに兵無し」の演説も支持していた様子だったが、この世界では違うのか……

 

「酷いものだ。軍というのは国家が持つ暴力機関。彼は戦前、軍は国民を守るもの、という建前を振りかざし、国民に安全を約束していた」

「建前?」

 

 戸惑うアムロに、ミヤビは、

 

「軍隊というのは自国の安全保障、国内の治安維持といったそれだけの、きれいごとで済む存在じゃないの。軍事力による外交支援、軍事外交、つまり……」

「これらは表裏一体でね。自国の安全保障が完全だと保証することは、つまり自分たちに都合の悪い国に対し、どんな無理難題を吹っかけて、たとえそれが元で相手が戦争を挑んできたとしても叩きつぶすことができますよ、と保証することでもある」

「それって……」

「ジオンは、いやサイド3は最初から独裁国家だったわけでも軍事国家だったわけでもない」

 

 エルランは疲れたように椅子に深く腰をかけて言葉を紡ぐ。

 

「宇宙世紀以前、西暦の時代から大国のやることは常に同じでね。圧倒的な軍事力をバックに自国の利害にそぐわない国、思想、価値観が受け入れられない国に対し、独立国家としては到底受け入れられない無理難題、条件を吹っかける。彼らは、それを相手を対話のテーブルにつかせるための外交手段と主張するが……」

 

 その先はミヤビが口にする。

 

「議会や国民は、自国が圧倒的優位に立ってる状況で、この要求を引っ込めることができると思う?」

「それは……」

 

 口ごもるアムロに、エルランは語る。

 

「できんね。そしてそんな要求をされた側はどうなるか。必ず主戦派(タカ)が和平派(ハト)を食うようになる。そして暴発させ、先に殴ったから相手が悪いのだと子供のような理屈で派兵し、軍事力で征服するまでがセットだ」

 

 つまり、だ。

 

「レビル将軍は、その恫喝、侵略行為の片棒を担いで失敗し何百万人もの人間を死なせておきながら、演説一つで責任問題を回避し総司令官に就任。さらなる戦いを国民に強いているというわけだ」

「そんな……」

 

 絶句するアムロ。

 だがそれでも、

 

「だったら、だったらあなたは何なんですか? あなたも軍人なんでしょう?」

 

 そう反発するアムロの言葉に、エルランは感心した表情を浮かべるとうなずいた。

 

「そう、私も軍人である以上、軍隊というものが持つ功罪からは逃れられないし、逃げるつもりもない」

 

 あっさりと同意したことにアムロは拍子抜けし、しかし、

 

「だが、軍隊というものは国家の統制下にあるもの。つまり国がそうしろと命じたから私はそれに従うわけだ。そして私は政治家のせいにしたりもしない。政治家のレベルは国民のレベル。結局自分たちに跳ね返ってくるだけの話だ」

 

 国民のレベル、そう言った時にエルランはアムロを見た。

 君はどうなんだ?

 アムロはそう問われた気がした。

 

「私が問題にしているのは、レビル将軍のあの演説は、政府の意向、指示を受けての戦意高揚などというものではないという点だ。あれは完全に彼の独断、スタンドプレーなのだ。彼の価値観が独裁国家、ジオンという『外国』の存在を許せないから、地球連邦国民の戦意をあおり、戦争を継続させた」

 

 そしてエルランは再び大スクリーンに映し出された写真を見る。

 雪原に並んで掲げられた地球連邦とジオン公国の国旗をバックに、タバコを咥えた地球連邦軍兵士に、ジオン軍の兵士が火を貸してやっている。

 January,0079 UC

 この時、兵士たちですら、戦争の終結を受け入れていた。

 それなのに……

 

「このオデッサ作戦も同様だ」

「なっ…… どういうことですか!?」

「私は、いや私に限らず諜報活動を行っている将校は、マ・クベが既にジオンが10年は戦えるほどの希少鉱物資源を宇宙に上げていることをつかんでいるよ。今さらここを押さえてもジオンの戦争継続能力には何ら影響を与えることは無い。もちろん、これはレビル将軍だって知っている」

「それは……」

 

 ミヤビの知る史実でもマ・クベが言っていたこと。

 

「で、でも鉱山を取り返せば、地球連邦軍が有利に……」

 

 アムロはそう言い募るが、

 

「ならんよ。マ・クベは撤退時に鉱山施設を徹底的に爆破している。諸君らも実際に目にしているだろう? それらを再び採集可能な状態に復帰させ、精製し、ジャブローまで運ぶのにどれだけ時間がかかると思うのかね?」

 

 そう言われ、言葉に詰まる。

 確かに彼は、爆破された鉱山をその目で見ているのだ。

 

「ジャブローでは宇宙艦隊の再建とモビルスーツの量産化が既に進んでいる。これはジャブローの備蓄資源によって行われているもの。つまりこの地域の鉱物資源の有無は、反攻作戦にまったく無関係なのだよ」

 

 実際、史実でもオデッサ作戦は宇宙世紀0079年11月7日から9日にかけて行われ、ビンソン計画、つまり宇宙艦隊再建計画で製造された艦艇が打ち上げられたのが12月2日。

 オデッサの鉱物資源が地球連邦軍の艦艇建造とモビルスーツ製造に間に合ったとは到底思えない。

 

「要するに、目に見える形で勝利をおさめ、レビル将軍の、そして主戦派の権限を高め戦意を高揚する。ただそれだけのために戦略的に無意味な、この戦いを起こしたのだ」

「無意味? この戦いのため死ぬ人も居るっていうのに?」

 

 アムロには信じられない。

 だが、それどころか、

 

「いや害悪だな。占領した地域は守らなければならない。ジオン軍は地球上で戦線を拡大しすぎたせいで身動きが取れなくなった。この地を支配すれば、連邦軍の戦力が同様に分散、拘束され、一方でジオンは戦略的価値を喪失したこの地を捨て戦線の縮小、整理ができるのだ」

 

 アムロにはもう、何が正しいのかが分からなくなっていた。

 しかし、

 

「そこまでです」

 

 銃を構えた士官が兵を率いて部屋になだれ込んでくる。

 

「レビル将軍より命令です。ジオンへの情報漏洩、ならびに意図的サボタージュの疑いによりエルラン中将、あなたを拘束します」

「……疑い、か。強引過ぎはしないかね?」

「自分は命令に私見を挟める立場にはありません。ご容赦ください」

「是非も無し、か……」

 

 エルラン中将は抵抗することなく席を立った。

 

「命令者に伝えてくれたまえ。そのジオンへの情報漏洩と疑われている諜報活動で分かったことだが、マ・クベは水爆ミサイルを用意している。彼は希少鉱物資源の採掘を終えたこの地を焼け野原にしたとて、一向にかまわんのだぞ」

 

 そう言ってさらに。

 

「そして今回の戦いに勝ったとしても『ヤシマの人形姫』がかつて「マハルに気を付けよ」と言った意味、注意せねばいずれ不可避の神罰が下るだろうと」

 

 ミヤビの方を見ずにそう告げる。

 しかし、

 

(ちょっ、それを蒸し返しますか、この場でっ!)

 

 表情を変えぬまま、内心では盛大に慌てるミヤビ。

 サイド3のコロニー、マハルをテストケースとした彼女の『コロニーリフレッシュプロジェクト』がレビル将軍を始めとする地球連邦の反対派のせいで頓挫した時、彼女は思わず漏らしてしまったのだ。

 レビル将軍に対し、マハルに、つまりソーラレイ、コロニーレーザーに気を付けるようにと。

 これは彼女の良心が言わせた言葉だったが、よく考えると非常に不味い話でもある。

 万が一、史実どおりレビル将軍とその艦隊がソーラレイで消失してしまった場合、ミヤビは歴史上、類を見ないまでのスケールの死の予言者となってしまうのだ。

 

 慌てたミヤビは、父が懇意にしているゴップ大将に問題を丸投げした。

 

「コロニーリフレッシュプロジェクトのためにマハルを調べていたら、アサクラという技術将校がコロニーの何らかの軍事利用を目的として秘密裏に動いているのを察知しました。気を付けてください」

 

 と。

 マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』のせいで『ゴップ最強伝説』もささやかれていた御仁である。

 ミヤビは彼が何とかしてくれるはず、と信じている……

 

 そして同時に、先ほどの発言の中にあった「不可避の神罰」という言葉はエルラン中将の正体を暗に示している。

『不可避(アドラステイア)』『逃れられざるもの』というのはギリシャ神話に登場する女神ネメシスの添え名。

 ネメシスはミヤビの前世、日本では復讐の女神と誤認されることが多かったが、実際には正当な神罰の行使者である。

 

 つまりエルラン中将は連邦によるコロニーの植民地的支配も、ザビ家独裁による地球圏支配もよしとしない第三勢力『ネメシス』の構成員なのだ。

 史実でもそうだったのか、それともミヤビの存在がバタフライ効果で彼の在り方を変えたのかは不明だったが。

 

 ただ、ミヤビの知る史実でも彼の裏切りは首を傾げるものだった。

 何しろ彼は地球連邦軍中将。

 軍の中では栄達を極めた存在であり、内通していたマ・クベは大佐、その上のキシリアですら少将。

 つまり裏切ってもジオン内に現在以上のポスト、待遇を用意できるとは思えないのだ。

 なら金か、という話だが、裏切り者の名を受けてすべてを捨てて社会的信用が失墜した状態で、金だけあっても幸せだろうかというとかなり疑問である。

 

 ともあれ、

 

「ホワイトベースが戦闘状態に入ったらしい。すぐに戻ってやりなさい」

「は、はい」

 

 士官に告げられたとおり、もうオデッサの戦いは始まってしまったのだ。

 

「頑張れよ」

 

 士官の激励の言葉を背に、アムロとミヤビは走り出すのだった。

 

 

 

『我が隊はマ・クベ隊側面より攻撃を開始する。ビッグ・トレー、最大戦速。コア・ファイター、ドラケン、発進用意』

 

 動き出すビッグ・トレー。

 

「アムロ、行きましょう。いいわね?」

『了解です』

「ゴー」

 

 ミヤビのドラケンE改可翔式が、そしてアムロのコア・ファイターが飛び立つ。

 

「アムロ、何が正しいか悩むかも知れないけど、エルラン将軍も、レビル将軍も、自分の主義主張に都合がいい事実を取捨選択して論調を補強しているだけで、どっちも正しいし、どっちも間違っているのよ」

 

 ホワイトベースへと急行する間に、アムロのメンタルケアを図るミヤビ。

 

「極端な話『戦争の被害』という事実があったとして、主戦派は「だからジオンは倒さねばならぬ」と主張する根拠とし、反戦派は「だから戦争は止めるべき」と主張する根拠にする。事実であっても自分の主張に都合よく利用できるし、しているわけね」

『そんな…… そんないい加減なものなんですか?』

「そうよ、だから根拠を基に説得力のある話をされた、と感じてもそれをそのまま鵜呑みにするのは良くないわ」

 

 足元が崩れたかのように不安そうな声を上げるアムロに、ミヤビは言葉を続ける。

 

「私たちみたいな技術系の理系脳タイプは絶対の正解があって、正しいことは正しいから正しい、だから正しいことは受け入れられ、尊重されるべきと考えがちだけど」

 

 自分も前世の学生時代はそういう風だったなぁ、とミヤビは昔を思う。

 まぁ、卒業するためには試験をクリアーしなくてはいけないし、試験には正しい答えがあったので、学生のうちはそれで良かったと言えるのかも知れないが。

 だから、

 

「あなたが就職して、プロジェクトのために必要な機器やソフトウェアの選定を任されたとして」

 

 理系に身近な例で説明してみる。

 

「候補に上がったのはA社とB社の製品。購入を許可する決裁権限を持つ上司に説明するため、あなたは性能や価格、メンテナンス性、将来性なんかを表にして丸、バツ、三角を付けて、最終的な総合評価でA社有利とした検討書を作成したとするわね」

『はい』

 

 アムロは実際に大人になって就職したら、そんな風に仕事を進めるのか、と感心して話を聞くが、

 

「ところが上司の判断はB社の製品の採用。だから検討書もB社が有利とするよう書き直しが命じられる」

『そんな!』

「まぁ、納得できないでしょうね」

 

 珍しく、口の端を上げて笑みの形にするミヤビ。

 

「でもそれは、あなたと上司の判断の基準が違うだけなの。あなたが長所と判断した部分も、上司の視点では単に過剰品質、オーバースペックとしか思えなかったり。あなたが短所と断じた部分も、上司の視点では許容できる範囲に過ぎなかったり。つまり真実は一つでも物事は判断する者の解釈で決定するのよ」

 

 ミヤビは言う。

 

「それが私たちの住む世界というものなの」

『世界……』

 

 感心するアムロに、しかしミヤビの悪戯めいたささやきが届く。

 

「だから私の話も半分にして聞いてね。さっきの例だって、上司がものが分からないボンクラだった、って可能性も実際にあるんだから」

 

 

 

 オデッサの戦いが始まった。

 マ・クベ軍もレビル軍も、持てる物量を最大限に投入しての激突であった。

 

『敵が動いた! 全モビルスーツ戦闘に入れ!』

 

 連邦軍は61式戦車、デプ・ロッグ重爆撃機、フライ・マンタ戦闘爆撃機といった従来兵器のほかに、モビルスーツを投入する。

 

 

 

「見ろ…… まるで映画を見ているようだ」

 

 車長に促され、61式戦車のドライバーを務めるレイバン・スラー軍曹はハッチから顔を出す。

 彼はミヤビの前世の記憶の中にある『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』と同様、「死神と暮らしている」と言われたハーマン・ヤンデル中尉と共に戦い、

 

(皮肉なものだ…… 3カ月前、あの白いザク、ホワイトオーガーを倒したことで油断し、車外に出た自分だけが敵歩兵の不意打ちに巻き込まれず生きて脱出できた。そして同じ61式のドライバーズシートに着いて、この反攻作戦を目にしている)

 

 そう独白するように、史実どおり彼だけが生き残っていた。

 そんな彼に新たな上官は聞く。

 

「スラー軍曹、オレたちは死んでいった戦友の亡霊なのかな?」

 

 彼もまた、この戦争で多くの戦友(とも)を亡くしていった一人なのだろう。

 ただ彼は戦車でのモビルスーツ撃破に固執したヤンデル中尉とは違い、既に戦場の主役は自分たちが乗る61式ではないことを知っていた。

 だからこそ、自分のふがいなさ、悔しさを込めてこう言うのだろう。

 

「頼むぞ、わが軍のモビルスーツパイロットたち、死んで行った戦友たちの怨みを晴らしてくれ!」

 

 と……




 エルラン中将の裏切りの理由、でした。
 このお話の世界では、ということですが。

 そしていよいよ次回は本格的に戦闘が開始。
『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』だと陸戦型ジム、陸戦強襲型ガンタンクが出ていましたが、このお話ではどうなるかをお届けします。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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