”災禍の撒き手”エレノア・ヒューム   作:”椿”

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はじめまして、”椿”です。
他の小説も書いているので投稿は二週間に一回を目標にします。
灼眼のシャナのSSはとても少ないので、自分で書いてみました。
ベルセリアとシャナを両方知っている方にはとても見やすい作品になっていると思います。
口調などがおかしかったら、どうかお気軽にご指摘ください。
筆者はシャナの原作読破済みですが大分前のことなので、読み、思い出しながら書いております。
ベルセリアは原作クリア済みですが、これも大分前のことなので、再プレイしながら書いております。


2022/3/15 改定しました。


プロローグ
契約


「はぁっ!! せいっ!! はぁっ!!」

 

木々に囲われた森の中でそんな掛け声と共にブンッ、ブンッと空気を裂く音が聞こえてくる。

その音の出所は一人の少女が振るっている槍だった。

彼女の名はエレノア・ヒューム。

年齢は18歳で、強く凛々しい瞳が印象的な少女である。

艶やかな赤毛を目のあたりの高さでツインテールにし、動きやすいウールの一枚布で作られた服を着ている。

 

「はぁぁっ!! ……ふぅ。今日はこれぐらいにしておきますか」

 

エレノアは息を整えつつ、木にかけてあった布を手に取り、びっしりとかいた汗を拭き取る。

 

「今日で18歳ですか」

 

エレノアは仲睦まじい夫婦の間に生まれた一人娘で、両親の深い愛情を受けて育ってきた。

父を敬い、母を慕い、何不自由なく成長していったエレノアであったが、一つ、彼女には秘密があった。

 

(前世で私がベルベット達と出会った年齢になったのですね)

 

彼女には前世の記憶が存在していた。

前世での苦しかったこと、楽しかったこと、様々な記憶が彼女には存在している。

その中でも最も彼女の中で輝くのは、5人の仲間と共に旅した記憶だった。

 

「短い旅でしたが、とても楽しかったですよ。ベルベット、ライフィセット、ロクロウ、アイゼン、マギルゥ」

 

エレノアは本当に短く、それでいて最も充実していた日々を思い出し、目に涙を溜める。

それは懐かしさだけでなく、永遠に会えなくなってしまった彼らを思い出したからだ。

 

「……思い出に浸るのはこれぐらいにしましょう」

 

悲しさと寂しさが胸中に渦巻くが、エレノアはその二つの思いを振り払うかのように頭を振る。

そして涙が溜まっていた目に袖を当て、気持ちを落ち着けるために深呼吸をした。

 

「さて、村に戻りましょうか」

 

エレノアは槍を右手に、布を左手に持ち、森を抜けていった。

 

「ん……? あれは」

 

村に戻る途中、木々の隙間から村の方から上がる黒煙が見えた。

ふと、嫌な予感がしてエレノアは走った。

村に近づくと、悲鳴のような声が聞こえ、村に近づけば近づくほどその声は大きくなっていく。

 

「一体何がっ!!」

 

彼女は村に何かがあったことを確信し、全力で村の方へ駆け出した。

村についた彼女が見たのは、異形の怪物が村を襲っている光景だった。

 

「なっ!! あれは……業魔……!!」

 

この世為らざる者の姿をみて、彼女は前世で敵だった魔物を思い出した。

その魔物は巨大な拳を振るい、村の家々を爆砕し、人間を喰らっていた。

 

「なぜ業魔がっ!!」

 

逃げ惑う人々。

中には武器を持って、魔物に攻撃を与えるものもいたが、その人々はことごとく魔物に殺されていた。

そんな光景をつい呆然と見てしまい、エレノアは自身の家族の存在を思い出すのだった。

 

「——お母さんっ!! お父さん!!」

 

エレノアは自分の両親を探すため村中を、怪物に気づかれないよう駆け回った。

 

「どこっ、何処に居るのっ!! ——あっ……」

 

人々が幾人か倒れている。

その中に見つけてしまった。

 

父親の姿を。

 

「そんな……」

 

膝から崩れ落ちそうになる。

だが、まだだ。

まだ、母親は無事なはずだ。

そう思い、エレノアは再び駆けた。

町中を駆けずり回る間、彼女は前世を思い出していた。

業魔に襲われた故郷。

何もできなかった自分。

囮になり、犠牲になった母の姿。

前世では失った家族。

だが、今世では……。

 

——絶対に助けて見せる!!

 

「 何処に居るのっ!! お母さんっ!!」

 

駆けても駆けても、母親の姿は見えない。

やがて、村を一周しようとした頃、やっとエレノアは母親を見つけたが、彼女の母親は魔物に殺される寸前だった。

 

「このっ!! お母さんを放しなさいっ!!」

 

エレノアは持っていた槍を怪物の背に突き刺した。

だが。

 

「——ッ!!」

(刺さらないっ!! やっぱり対魔士の能力がないと……!!)

 

刃は通らなかった。

ただの人間には、業魔を倒すことはできない。

それが前世では当たり前で、この世界でも同様なようだと悟った。

 

「なんだぁ? 鬱陶しいな」

 

魔物がエレノアに対して腕を一振り。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

槍の柄でガードしたが、その剛腕にふさわしい力にはかなわず、エレノアの身体は吹っ飛び、背中を木に強打してしまう。

 

「——カハッ!!」

 

肺から全ての空気が抜け、意識が薄れる中、殺される母親の姿をエレノアは見た。

 

(あぁ……、本当に私は……無力……)

 

霞む目線の先で、エレノアの母親を殺した魔物が自身の元に向かってくる。

その腕に、たった今殺したエレノアの母親の血を滴らせながら。

 

(殺したい?)

(えっ?)

 

朦朧とした意識のなかで突然声が聞こえた。

その声は美しく、そして少しの冷たさが含まれた声だった。

 

(あの怪物を……、紅世の徒を殺したくない? 復讐のために)

 

復讐。

それは甘美な響きであった。

友の復讐の旅を思い出す。

自分が復讐を遂げた時を思い出す。

このような存在がこの世に存在することが許せない。

村を襲ったことが許せない。

家族を殺したことが許せない。

復讐。

復讐したい。

 

(……殺したいです。復讐したい)

(そう。なら私と契約しなさい。そうすれば、あいつを殺す力が手に入るわよ)

(……ひとつ聞きます。業魔は……あいつ以外にも存在するのですか)

(ええ。あいつらの殆どは人を人と思っていない。食料だと思っているわ。いつも人間が苦しんでいる)

(分かりました。契約しましょう。私の復讐と……苦しんでいる人々たちのために)

 

まずは自分の自己満足ために。

次はこのような存在に苦しめられている人々のために。

エレノアは戦う。

前世と同じように。

立ち上がる。

 

(ふっ……。じゃあ、行くわよ)

 

謎の声がそう言った瞬間、エレノアは全身が燃えるような錯覚に陥った。

いや、実際に彼女は赤黒い炎に包まれていた。

 

(熱いっ!! 何て熱さ!! まるで全身が燃えているよう!!)

 

エレノアはそのあまりの熱さにギュゥゥと自分の身体を腕で抱きしめる。

だが、あるのは熱さだけ痛みはなかった。

けれど自分という存在が、すべて燃やされるような感覚をエレノアは確かに感じていた。

それもそのはず。

 

(今、あんたの人としての存在を、私という存在を入れ込むために燃やしているの。つまりあんたは人間じゃなくなる)

 

人間ではなくなると聞き、どんな化け物になるか想像しようとしたが、すぐにエレノアはやめる。

姿に意味はない。

大事なのは何を成すか……だ。

 

(そうですか。でも、そうしなければいけないんですよね)

(そうよ。紅世の徒を倒すには人の身ではできない。倒すには自分も変わらなくちゃいけないのよ)

(それならそうと言ってくれればよかったのに……)

 

エレノアは拗ね気味でそう声の主に言った。

 

(時間がなかったのよ、エレノア)

(なぜ、私の名前を……)

(フレイムヘイズは一人で二人。エレノアという存在に入り込むことで、あんたの記憶を読むことができるのよ)

(なるほど。……あぁ、確かに感じます。何かが入ってくるのを。これがあなたですね。……とても暖かい)

 

そして炎が収まり、契約が完了した。

姿形はエレノアのまま、中身は人ならざる者へと成った。

 

「神器を定めなさい」

「神器?」

「私の意思を表出させるための物よ。武器でも、アクセサリーでも好きなのにしなさい。壊れても修復できるから」

「では槍を」

「分かったわ」

 

ボウッと赤黒い炎が出現し、槍の形をかたどっていく。

長い穂先、金色の鎬、背は幅広く二股に分かれ、柄と穂先の接合部には青い宝石にリボンが結び付けられてあった。

 

(これは……)

 

エレノアはこの槍に見覚えがあった。

前世でお気に入りだった槍だ。

 

「普通だったら名前があるんだけど、私の神器にはないからあんたが決めなさい」

「ではヴァルキュリアにします」

「そう、いい名前ね。それじゃあ、手にとって。あいつを倒しなさい、エレノア」

「はいっ!!」

 

エレノアは武器を取り、穂先を化け物……紅世の徒へ向ける。

 

「倒させてもらいます」

 

それの動作をみて、徒は鼻で笑う。

徒がここまで待っていたのは勝てるという自信があったからで、その自信の理由は簡単だった。

 

「ふんっ。"討滅の道具"め。成り立てがこの俺、”爆砕”ボミウス様を殺せると思うな」

 

目の前のフレイムヘイズは成り立て。

戦闘経験のない、自在法も使えないフレイムヘイズなど、自身の敵ではない。

ボミウスはそう確信していた。

だが、その確信は誤りであることを、彼は身をもって知ることになる。

 

「行きますっ!! はぁっ!!」

 

エレノアはまず突きを放つ。

その素早さを予知できなかったのか、ボミウスはその突きを腹にまともに受けてしまう。

 

「ガハァッ!!」

「せやぁぁぁぁ!!」

 

エレノアは刺さった穂先をそのまま上に振り上げ、ボミウスの腹から顔にかけて切り裂く。

人間だったエレノアの筋力ならば、到底できない芸当だった。

 

「ギャァァァァァァ!!!! バ……カ、なぁ……」

 

そしてそのまま振り下ろし、ボミウスを完全に真っ二つにしてしまった。

余りにもあっけない最後だった。

 

「油断していたようですね」

 

真っ二つになったボミウスは火の粉となって消えた。

 

「見事ね」

 

持っている槍の、柄と穂先の接合部ある青い宝石から称賛の声が聞こえた。

 

「ありがとうございます」

「で、これからどうするの?」

「はい。まずは皆の弔いをしようと思います」

「そう。じゃあ、それが終わったら話があるから」

「分かりました」

 

そうして、エレノアは村人たちの弔いを始めるのだった。

 

 

 

 

 

弔いが終わり、木陰で休んでいると、宝石から声をかけられる。

 

「終わったわね」

「はい」

「じゃあ、あんたの状況について詳しく話すわ。その前に……久しぶりね、エレノア」

 

久しぶりと言われ、エレノアは声の主と一度会ったことがあったかを思い出していた。

が、エレノアは思い出すことが出来なかった。

 

「……会ったことありましたか?」

「私よ。ベルベットよ」

「……え? ベルベットって、あのベルベットですか? ベルベット・クラウですか?」

 

エレノアは半信半疑で声の主に聞き返す。

 

「そうよ。フィー、ロクロウ、マギルゥ、アイゼン、あんたと旅したベルベットよ。……エレノア、転生してたのね」

 

ベルベットの発言に戸惑いつつ、エレノアは言う。

 

「いや……え……。何故ベルベットがここに? カノヌシと眠ったはずでは?」

「そうなんだけど、気づいたら紅徒にいたのよ」

「紅徒……ですか」

「まぁ、まずはこの世界の真実について話すわよ」

 

エレノアはベルベットから話されるないように驚きを隠せなかった。

この世にあるあらゆる存在が持っている、この世に存在するために必要な根元的エネルギーである、存在の力のこと。

紅世の徒という、この世の”歩いていけない隣”にある世界、”紅世”という世界の住人たちが、存在の力を消費することによってこの世に顕現しており、人間から存在の力を奪い、糧とし自らの本質や意思を自在に顕現させ、欲望のままこの世を跋扈していること。

そのことにより、世界に歪みが発生し、この世と紅世の境界線が、ねじまがり、ひきずれ、荒れ始め、いつか大災厄と称される大きな災いが起きると予想されていること。

そんな歪みを発生させる彼らを討伐するため紅世の徒——特に強い力を持った紅世の王——は人間に契約を持ちかけ、了承した人間はフレイムヘイズという討伐者として、活動していること。

 

「なるほど。とんでもない世界に転生していたのですね。で、どうしてベルベットがこの世界に?」

「分からないわ? さっきも言った通り、気づいたら紅世にいたのよ。確かに私はラフィーと眠っていたはずなのにね。もしかしたら、知らずのうちに死んじゃったとかね」

 

ベルベットはあっけからんとそう言った。

 

「そんな……」

「でも、ひとつ言えるのは……今この世界が今の私たちの現実ってことよ」

「そう……ですね」

 

エレノアはベルベットに同意するように頷いた。

そして、二人はこれからのことについて話し合った。

旅に出るのは決まったが、フレイムヘイズに成り立てのエレノアのために、まずベルベットはフレイムヘイズの戦い方を教えることにした。

 

「ひとまずフレイムヘイズとしての戦い方を教えるわよ」

「はい。よろしくお願いします」

「戦い方って言っても、あの世界と変わらないわ。変わる点といえば、聖隷術の代わりに自在法っていう霊力じゃなくて、存在の力を用いる術よ」

「精霊術の代わりですか」

「そ。じゃあ、まず獣炎の練習でもしましょうか」

「いきなりですか!」

 

使ったことのない力で聖隷術の再現しろといわれる、エレノアは驚きの声をあげる。

 

「習うより慣れろ、よ。存在の力を練る練習をしながら気長にやりましょ。なんせ、もう年は取らないから」

「え! そうなのですか」

 

突然のカミングアウトにまた、エレノアは驚きの声をあげる。

 

「ええ、フレイムヘイズになった人間は年を取らなくなるの。なにせ、フレイムヘイズは自身の”運命という器”を捧げちゃったんだから」

「私の何かが燃える感覚を覚えたのはそういう訳だったんですね」

 

ウンウンと頷いているエレノアに、ベルベットは声をかける。

 

「とっとと存在の力に慣れて、世界をみて回るわよ」

「なんだか……楽しみしていません?」

 

じと目で青い宝石を見ながら、エレノアはそう言った。

 

「仕方ないでしょ。紅世には何もないんだから」

 

悪びれもなくそうベルベットは言う。

実際に、紅世は生きてゆくだけでも過酷な環境で、なにも存在しない世界なのだ。

 

「はぁ。分かりました。早く慣れるように努力します」

 

ため息と共にエレノアはベルベットにそう言う。

 

「ええ。頑張ってね」

 

励ましの言葉をもらい、エレノアは存在の力に慣れるための修行を開始したのだった。

 

 

 

2週間後……。

 

「ふぅ。なんとか全ての聖隷術、いえ、自在法を習得することができました。それにこの腕も」

 

エレノアは左腕に存在の力を込めると、左腕が異形の腕に変化した。

これはベルベットが喰魔の時に変化していた業魔手であり、前の世界ならば穢れを食らうという代物だったが、この世界では存在の力を食らうという物になっていた。

つまり、この変化した左腕には自在法をかき消す力があるのだ。

 

「フレイムヘイズは契約した王の本質と契約者が持つ強さのイメージが何よりも肝心なの。エレノアは私のことをよく知ってるから、その腕も顕現できると思ったけど、できたみたいね」

 

顕現とは“紅世の徒”が、この世に実体化することであり、意思やイメージや存在の力を、物質や自在法として実体化させることである。

ベルベットという紅世の王の力の一端を今、エレノアは顕現させているのだ。

 

「まさか私がこの腕を使うことになるとは思いもよりませんでした」

「使ってみると便利でしょ」

「そうですが……複雑です」

 

エレノアは微妙にしかめた顔でそう言った。

 

「で、出発はいつにするの?」

「はい。明日の明朝に出発します」

「そう。じゃあ、今日はもう寝ましょうか」

「そうですね」

 

そうしてエレノアは今生活してる家に入り、寝台に入った。

そして、ヴァルキュリアを傍らに置いた。

 

「お休みなさい、ベルベット」

「お休み、エレノア」

 

エレノアは思いの他疲れているようで、すぐに意識を手放した。

 

朝……。

 

「さて、行きましょう」

 

エレノアは服を自在法で前の世界で着ていた改造した聖寮の服を作り出し着て、槍を背負っていた。

そして、エレノアは旅立った。

彼女は”災禍の顕主”ベルベットのフレイムヘイズ、”災禍の撒き手”エレノア・ヒューム。

時には人を助け。

時にはフレイムヘイズを助け。

そして、時には紅世の徒を助ける。

エレノアはフレイムヘイズが持っている、紅徒の徒を倒す使命を持ってはいない。

彼女が持っているのは苦しんでいる者たちを助けるという想いだけだ。

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