この小説は他で連載中の小説の合間に書いているので。
連載中の小説が完結したら、これをメインにします。
出会い
契約してから数千年、エレノアは様々な経験をした。
紀元前1000年頃、紅世真正の神、創造神が多くの徒達の望んだ、存在の力をいくら使ってもよい箱庭と言うべき封界”大縛鎖”の創造を阻止する戦いに参加した。
1世紀頃、人間を食べない徒が、徒への復讐に狂ったフレイムヘイズから襲われているのを発見し、徒を救うべく、フレイムヘイズと敵対し、そのフレイムヘイズを殺害した。
11世紀頃、徒達とフレイムヘイズ達の戦いの余波で、ある都市が壊滅状態に陥り、偶然立ち寄ったエレノアはその復興を手助けするが、他のフレイムヘイズからは不思議がられた。
そして16世紀初頭、エレノアはあるフレイムヘイズと邂逅していた。
「初めまして。私、”災禍の顕主”ベルベットのフレイムヘイズ、”災禍の撒き手”エレノア・ヒュームといいます」
エレノアは目の前にいる、火の粉を舞い散らせ、炎髪を靡かせ、煌めく灼眼でこちらを見ている、女性にそう言った。
「私は、”炎髪灼眼の討ち手”マティルダ・サントメールよ。そしてこっちが”天壌の劫火”アラストール。助けてくれて感謝してるわ」
マティルダは指に嵌めた神器を見せながら、自己紹介とお礼を言った。
彼女は隙を突かれ、徒に狙撃されようとしていたが、偶然通りかかったエレノアに助けられたのだ。
「いえ、偶々通りかかったものですから」
「危なかったわね、あなた達」
エレノアとベルベットがそう言うと、遠雷の轟くような声が指輪から聞こえてくる。
「よもや貴様に助けられるとはな、”災禍の顕主”」
「そうね、”天壌の劫火”」
言い合っている二人に苦笑しながら、エレノアとマティルダは会話を始める。
「助けてくれてくれたお礼に、食事でも奢りたいけど、どう?」
「いいのですか?」
遠慮がちにエレノアはマティルダに聞く。
「ええ。もちろん」
「では・・・お言葉に甘えて」
まだ言い合っている二人をよそに、エレノアとマティルダは食事に向かった。
そして、食事が終わる頃にはベルベットとアラストールの言い合いは終わっていた。
「で、二人は知り合いなの」
アラストールにマティルダはそう聞いた。
「うむ。一応、友の一人ではある」
「一応とは何よ」
「ベルベットに友達がいたのですね」
「いちゃ悪いの」
「いいえ」
前の世界では戦いが終わった後、すぐにカノヌシと眠りについたベルベットは友と呼べる存在は少なかった。
そんな彼女が、紅世で友が出来ていたことをエレノアは嬉しく思い、微笑みながら槍を見る。
そして、同様にマティルダはアラストールの意思を表す神器”コキュートス”を見ていた。
アラストールは”紅世”真正の魔神であり、”神をも殺す神”とも呼ばれてりいる。
創造神が”造化”と”確定”の権能を持っているのに対し、アラストールは”審判”と”断罪”の権能を持つ天罰神だ。
そんな彼は、世界のバランスを守る事に対して極めて強い使命感を持っており、世界のために同胞、つまりは徒を討つ事もやむ無しと考える徒たちや中立の徒たちは、アラストールの事を戦友や友人としている者が多くいる。
だが、彼自身が友と呼べる者は数少ない。
そんな中の一人がベルベットだ。
「さて、そろそろ出ましょうか」
「そうですね」
そうして二人は席をたち、店を出ていった。
「あなた達はどこへ向かっているの」
マティルダがエレノアに問い掛ける。
「ベルベットが西へ行きたいと言うので、西に向かっています」
「欧州の方か。・・・私も着いて行って良いかしら」
エレノアの返事を聞き、マティルダは少し思案した後、そう言った。
「別にいいですけど。何か後用事が?」
「あら、知らないの。とむらいの鐘が都喰らいっていう、町ひとつを存在の力に変えた事件を」
「ええっ!そんなことが起こっていたのですか」
とむらいの鐘とは強大な紅世の王である”冥奥の環”、いまは”棺の織手”と名乗っている、アシズを首領とし、”九垓天秤”と称される9人の最高幹部である強大な王によって統べられている、中世当時最大級の徒の大集団であり、そんな彼らが町ひとつを存在の力に変換し、莫大な存在の力を手にしたというのが、都喰らいだ。
エレノアは驚愕し、驚きの表情を顔に出してる。
「フレイムヘイズの間では結構噂になってるはずなんだけど」
「知りませんでした」
エレノアはガクリと項垂れた。
普通のフレイムヘイズは復讐のため、非日常に身を置いているが、エレノアは人助けのため、日常に身を置いているので、なかなか他のフレイムヘイズとの交流がないのだ。
「とうとう冥奥の環が動き出したって訳ね」
「・・・アシズ」
ベルベットとエレノアはアシズとは面識がある。
彼の契約者であったティスはとても優しい少女で、エレノアは昔、彼女と何度も共闘した。
そんな彼女は人間の裏切りによって突然の死に至った。
人間たちはティスに何度も助けられながら、その力を恐れ、徒との戦闘で大いに疲弊していたティスを殺したのだ。
エレノアはその愚かな計画を聞き、駆け付けたが、時すでに遅く、ティスは殺されていた。
そしてアシズは彼女の喪失を恐れて自在法『静なる棺』でティスの崩壊を防ぎ、同時に周囲の人間を喰らって“存在の力”を確保、ティスの存在という「この世でただ一つ、心通じた場所」を基点に、神威召喚の手法を応用して自らをその場に再召喚し、顕現した。
「災禍の撒き手・・・か」
「・・・アシズ」
「・・・遅かったようね」
アシズは青い火の粉を撒き散らしながら、巨大で優雅な翼と細くも逞しい体躯を持ち、仮面を付けた青い天使の姿で、髪は羽根のように広がり、二本の角が鋭く突き出ている。
「お前が早く来ていればっ!ティスはっ!私たちの愛がっ!失われることはなかったっ!」
アシズとティス。
二人は愛し合っていた。
徒と人間という、あまりにもかけ離れた種族であるが。
確かに、二人は愛し合っていた。
「すみません」
エレノアは友の死に悲しみを、アシズの慟哭の訴えに後悔を感じながら、目に涙を浮かべながら、そう言った。
「・・・いや、私が悪かった。駆け付けてくれたことを感謝する」
アシズは人間を喰らった。
エレノアにとってそれは悪だ。
しかし、この場合はどうだろうか。
人間たちの身勝手な行動でティスは死んだ。
復讐しようとしても仕方ないのではないだろうか。
人間たちに罪を償わせればよかったと、アシズに言うべきなのか。
それは、無責任だろう。
愛するものを失った気持ちをエレノアは抱いたことはない。
そんな事を口に出す資格はなかった。
「私は・・・ティスを甦らせる」
アシズはポツリとそう言った。
「そのために世界を巡るつもりだ。お前はどうする。人を喰った私を、ここで討滅するか」
「ティスに・・・触らせて下さい」
「・・・いいだろう」
そうして、アシズは棺を出現させる。
棺の中は青い花で敷き詰められており、中心には美しい少女が眠るように、横たわっていた。
額には金環を嵌めており、髪は青く、腰まで届き、おでこをさらしており、一本だけ長い髪の毛がおでこと髪の境目から出ている。
服は修道服のようなもので、その服からは少女らしい、細く繊細な体が浮き彫りになっており、手は祈るの時のように組まれている。
「・・・ティス。貴女との旅、楽しいものでした」
エレノアは棺のもとまで行き、屈み、棺の中のティスの手を掴み、目を瞑り、そう言った。
数秒ほど経つと、エレノアは立ち上がった。
「この場のことは、仕方のないことでした。しかし、次は見逃しません」
「・・・感謝する」
もし、この場でエレノアと戦っていたら、アシズは討滅されていたであろう。
彼はまだ万全の状態ではない。
「次はおそらく敵同士だ」
「そうでないことを祈っています」
そうして、アシズは去っていった。
エレノアはそこに小さな墓を作った。
墓にはこう記してある。
我が友にして、英雄ティス。ここに眠る・・・と。
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