”災禍の撒き手”エレノア・ヒューム   作:”椿”

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忙しいけれど、書きたくて書きたくて仕方なかったので、書きました。
楽しんでいただければ幸いです。



君主の遊戯

エレノアとマティルダは欧州に赴き、”都喰らい”事件後、その勢いのままにフレイムヘイズ達を完全殲滅するべく追撃戦に入っていた”九垓天秤”の一角、遊軍首将であった”戎君”(じゅうくん)フワワと交戦。

激闘の末、討ち取り、彼らは”とむらいの鐘”に宿敵と認識され、何度も彼らと戦火を交えた。

そんな彼らにとあるフレイムヘイズが接触していた。

 

「貴女が……"炎髪灼眼の討ち手"。そして"災禍の撒き手"でありますか」

 

そのフレイムヘイズは端正な顔つきで、能面のごとき無表情が特徴の女性だった。

戦闘には向かない、貴族風の美しいドレスを着ており、彼女はその豪奢を下品に見せない風格を自然に纏っている。

 

「あぁ。貴方は確か・・・」

 

エレノアは彼女を見たことがあるのか、彼女の姿を見て、反応する。

 

「”夢幻の冠帯”ティアマトーのフレイムヘイズ、”万条の仕手”ヴィルヘルミナ・カルメルであります」

「初見」

 

額にある、宝石を添えた飾り紐型の神器”ペルソナ”から短く平坦な声が発せられる。

その声は彼女と契約している紅世の王”夢幻の冠帯”ティアマトーのものだ。

 

「へぇ。貴方があの戦技無双の舞踏姫ね」

 

ヴィルヘルミナの"万条の仕手"としての能力は白いリボンを作り出し自在に操ること。 

リボンは存在の力で強化されているため、布のように柔らかく軽く動きながら、鋼のような硬さを持ち、全力状態では万条の名のとおり万単位の膨大なリボンを噴出する。 

これを剣山のようにして相手を串刺しにしたり、自在式などを盛り込むことで、戦闘では様々に応用される。 

加えてヴィルヘルミナ自身の技量として対象の力の流れや動きを見切り、合気道のように逸らし、回し、投げ飛ばすことができ、"万条の仕手"の能力であるリボンと合わせることで、相手の大きさ、パワー、重量など関係なく、多くの敵を屠ることができる。

そしてその投げ技こそが『戦技無双の舞踏姫』の異名の由来である。

格闘戦においてはフレイムヘイズの中でも最強の域に位置する彼女は、しかしながら、どちらも直接的な破壊には関わらない能力であるため、破壊には炎弾や簡単な自在法による爆破などに頼らざるを得ない。 

 

「で、私たちに何か用かしら」

 

マティルダがヴィルヘルミナにそう訪ねる。

 

「はい。貴方たちと行動を共にしたく、訪ねに来たのであります」

「共闘」

「それは心強いですね」

「ええ。これから戦は激しくなるわ。力強い味方は多い方がいい」

 

エレノアとマティルダはヴィルヘルミナの提案にすぐさま、了承の返事をした。

 

「じゃ、これからよろしくね」

 

マティルダはヴィルヘルミナに手を差し出す。

 

「・・・ええ」

 

ヴィルヘルミナはマティルダの手を取り、力強い握手を交わす。

 

(マティルダ・サントメール。見極めさせて貰うのであります)

(イタタタ……。私、彼女に何かしたのかしら?)

 

こうして三人にして六人は行動を共にするのであった。

 

 

 

 

 

アシズが都喰らいを起こして18年後。

行動を共にしてからも、何度も"とむらいの鐘"と戦っていたエレノア、マティルダ、ヴィルヘルミナを旗頭に"とむらいの鐘"に対し、バラバラに行動していたフレイムヘイズ達が集まりだし、彼らと決戦をするためにフレイムヘイズ兵団が結成された。

総大将には”払の雷剣”タケミカヅチのフレイムヘイズである、”震威の結い手”ゾフィー・サバリッシュが選出された。

ゾフィーは見た目が40過ぎの修道女で、優れた討ち手からも女傑として一目置かれているが、口調や振る舞いにどこか稚気があり、歳に関係のない可愛さも感じさせる。

タケミカヅチの意思を表す神器は、額に四芒星の刺繍のあるベール型の"ドンナー"。 

その高い能力と面倒見のよさから、満場一致で総大将に選出——押し付けられた——彼女は総大将として多くのフレイムヘイズを導き、一歩一歩、確実に”とむらいの鐘”を追い詰めていった。

 

そして今、フレイムヘイズ兵団は”とむらいの鐘”との決戦の前準備を行っていた。

それは"君主の遊戯"に混乱を起こすことだ。

"君主の遊戯"とは各地に根付き、勢力を張っている”紅世の徒”の大組織による代理戦争協定だ。

欧州をゲーム盤に見立て、国や伯領、教皇領に荘園を"陣地"、君主や司教を"紅世の徒"が操り、"駒"とし、その見立て領地を興亡と衰勢によって互いの勢力圏の線引きをしており、この"君主の遊戯"は常に"徒"の大同盟になりうる危険性を孕んでいた。

ゾフィーは"とむらいの鐘"に決戦を挑む前に邪魔になるかもしれない"君主の遊戯"に混乱、または決戦地であるブロッケン要塞の周囲の組織を一掃する作戦を立て、その実行者をエレノア、マティルダ、ヴィルヘルミナの三人にして六人に指名した。

 

「ほんっと、あの肝っ玉母さん。人に厄介事ばかり押し付けて」

「まあまあ」

 

ぼやいているマティルダにエレノアが宥める。

 

(楽しいくせに・・・)

 

ヴィルヘルミナはマティルダがこの戦いに楽しさを感じていることに気づいていた。

もちろんエレノアも気づいているが、これは性格の違いだろう。

現在、三人は"君主の遊戯"の"遊戯者(プレイヤー)"の一人である"盤曲の台"ゴグマゴーグが率いる"巌楹院(ミナック)"の本拠地を強襲していた。

山々に囲まれた盆地の中央にある、まっ平らな大岩の上にある要塞の城門を突破し、要塞の中にいる。

 

「じゃあ、手筈通りに。盤曲の台は私が、城外は貴女達に任せるわ」

「ええ、任せてください」

 

今回の作戦はマティルダが内部にいるゴグマゴーグを討伐、エレノアとヴィルヘルミナが外にいる徒の内部への侵入を阻止する、というものである。

 

「一人で平気でありますか」

「多分ね。まさか奴らほどの手練れって事もないでしょ」

「奴ら?」

 

ヴィルヘルミナが訪ねる。

 

「ええ。"とむらいの鐘"の幹部ども。"九垓天秤"」

「……!」

 

ヴィルヘルミナの頭にはとある男が浮かんでいた。

精悍な顔付きの、軽装の騎士の様相をした長髪の美青年の姿が。

 

 

「?、ヴィルヘルミナ?」

「い、いえ。何も・・・」

「まだ敵は残ってるわよ。気を付けてね"戦技無双の舞踏姫"」

「……了解であります」

 

(私としたことが・・・。戦の最中に余事に心を奪われるとは)

 

「私には一言ないのですか」

「エレノアは大丈夫でしょ」

「はぁ。油断はしないでくださいよ」

「はいはい」

 

そう言って、マティルダは要塞の中に入っていった。

 

(敵を倒すことに専念するのであります)

「油断大敵」

「で、ありますな」

「敵が来ましたよ、ヴィルヘルミナ。私は右側を回ります。貴女は左を」

「了解であります」

 

エレノアとヴィルヘルミナは自身たちを囲っている敵兵、紅世の徒、に向かっていく。

 

(そう、今は、敵を倒すことに集中)

 

ヴィルヘルミナは飾り紐型の神器”ペルソナ”を仮面に変え、被り、敵と戦いを始める。

万丈のリボンが敵に襲いかかった。

 

 

 

「せぇあっ!」

「ゴハァッ!」

「ゴペェ!」

「ガハッ!」

 

神器”ヴァルキュリア”の一振りで、エレノアを囲んでいた敵が火の粉となって散っていく。

 

「はぁっ!」

「ギャァ!」

「ホゲェ!」

 

前進しながら高速の突きを複数の敵にお見舞いし、次々と討滅していく。

 

「雑魚ばかりね」

「そうです……ねっ!」

「アギャァッ!!」

 

ベルベットと話している最中に襲ってきた敵を縦に一閃する。

 

「けど数だけは多いわね。弱いからって油断しちゃダメよ、エレノア」

「分かってますよ、ベルベット」

 

エレノアは城外を回りながら、襲いかかる敵を殺していく。

 

「連なれ真紅!霊槍・獣炎!!」

 

詠唱に存在の力を込め、自在式を紡ぎ、自在法を発動させる。

自在法"霊槍・獣炎"。

突き出した槍先から赤黒い魔方陣のようなものが展開し、そこから大きな火球が三発放たれる。

 

「ギャァァッァァァッァッッッ!!!」

「ウワァァァ!アァァァァァ!」

 

敵に着弾した瞬間、火球は爆発し、多くの敵を巻き込んだ。

 

「描け蒼穹!霊槍・氷刃!」

 

自在法"霊槍・氷刃"。

槍先から放射状に氷刃が3連続で放たれる。

 

「は、速ぇっっ!ガハァッ!」

「ウゲェェェ!」

 

氷刃の鋭さは”徒”たちの体を容易く切り裂き、突き抜け、放たれた氷刃以上の敵を屠る。

 

「貫け緑碧!霊槍・空旋!」

 

自在法"霊槍・空旋"。

槍先から竜巻を生み出し直線状の敵を巻き込む。

 

「ウァァァァッァァァッァァ!!」

「助けッ!アァァァァァァ!!」

 

竜巻に巻き込まれた徒は風の刃にズタズタに引き裂かれ、見るも無惨な姿を曝す。

 

「ハァァァッ!」

 

エレノアは槍を使って空中に飛んだ。

 

「蔓落ッ!」

 

そして踵落としを徒にお見舞いする。

 

「グガッ」

「とっ、六行六連!」

 

着地した瞬間、エレノアは技を繰り出し、流れるように槍と蹴りの六連撃をお見舞いし、敵が散る。

 

「これで終わりですッ!雷牙轟閃!!天に轟け藤黄!霊陣・雷散!」

 

存在の力を槍に大量に込め、槍を振りながら一回転し、自身を中心に激しい雷を周囲に振り撒く。

さらに、自在法"霊陣・雷散"を放ち、自身の前方広範囲に雷撃を連続で落とす。

 

「ウギャァァァァァァァァァァ!!!」

 

大量の悲鳴が響き渡り、多くいた徒の姿はなくなり、その場にはエレノアのみとなった。

 

「ふぅ。これで終わりですね」

「本当、アンタ存在の力の総量多いわね。あっちの世界じゃ、これだけ力を使ったらバテちゃってるわよ」

「そうですね。向こうでも力を込めれば込めるほど威力は上がってましたが、ここまで込めると一戦しか持ちませんでしたよ」

「エレノアが人間のままだったら、どんな偉業をなしていたのやら」

 

フレイムヘイズの"存在の力"の量は、人間だった時の「運命という名の器」の大きさが最大値となる。

王族などの世への影響力が高くなる可能性のある者は器も大きい傾向があり、エレノアは数多くいるフレイムヘイズの中でも、存在の力の量は誰の追随を許さぬ程の量を保有していた。

 

「さて、ヴィルヘルミナと合流してマティルダの元に向かいましょう」

「そうね」

 

そう言って二人はこの場を去った。

"徒"たちが残した、火の粉を後にして……。




どうでしたか。
面白かったら幸いです。
感想、批評などお気軽に投稿ください。

自在式と自在法の違いです。
・自在式・・・自在法の構成原理と存在の力の流れを示す紋様。自在法の効果を増幅・補助させるための紋様。自在式は存在の力を込めないと発動しない。
・自在法・・・存在の力を繰ることで在り得ぬ不思議を現出させる術の総称。使用者の個性がほとんどそのまま現れる。

雷牙轟閃・・・自在法ではない。乱暴に存在の力を込め、雷を顕現させ振り撒く。
霊陣・雷散・・・自在法。発動させると式が浮かび、上空から雷が降り注ぐ。

もっと分かりやすい表現があったら教えてください。
また、この人物こんなこと言うか?と思ったら、遠慮なく指摘してください。
適宜修正していきます。
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