その日は全てを変えた

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天地が散る日

 

‪「なんでしょうか、主よ。」‬

 

‪我が主に呼び出され、下界から急いで参ったが、一体どのような用件だろうか。‬

 

‪「八咫烏よ。あなたの使命は分かっていますね。」‬

 

‪「勿論でございます、主よ。」‬

 

‪私の、いや私たちの目的は一つ、世界に主の理を示すことだ。主の理は、信念は世界に実りを、豊かさを、光をもたらす。そして、私たちはただ主の命に従い橋渡しをする、天と地を。その為ならば人を生かすこともやぶさかではない。‬

 

‪「なら結構。ならば、今日からその役割を捨てなさい。」‬

 

‪「えっ...」‬

 

‪その言葉は唐突だった。‬

 

‪「今日からあなたは、私の代わりとして世界に実りをもたらすのです。」‬

 

‪「し、しかし!」‬

 

‪「あなたは長年私と共に過ごしたからでしょうか、あなたにはあなたが思っている以上に強大な力が備わっています。それならば、十分私の代役を務められるでしょう。」‬

 

‪「ですが、何故私ごときが?主には出来ても私には出来ぬことはそれこそ星の数ほどあります。何故?」‬

 

‪「時間がないのですよ。私たちにとっての最後の時が迫っているのですよ。何故ならまもなく天地は散るのですから。」‬

 

‪「散る...それは...一体?」‬

 

‪「難しいかもしれませんね。ですがあなたが下界に降りればわかることですよ。時間がありません、さぁ早く。」‬

 

‪そして私は言い知れぬ絶対的な力に押されたかのように天を降りた。その力には暖かさはあったものの、私にはそれを受け入れられない程の疑問が渦巻いていた。‬

 

‪何故、主は自らの信念を捨て去ったのか。‬

 

‪あのかの300年程の異変をキッカケに始めたこの慈しみを何故こうも容易く捨て去ったのか。私には分からない。‬

 

‪しかし、主は下界を見渡せば何が起きるか分かると、そう言ってた。ならばその命令に従おう、それが主が私たちに与えた最後の言葉なのだから。‬

 

‪下界の空を飛びながら、ふと見上げる。何か違和感を、明らかな奇跡を感じたがために。そこには、‬

 

‪一人の少女がいた。‬

 

‪帽子に、マントに、ありとあらゆる服の隙間に、スペースに所狭しと星を飾っていた、魔女がいた。箒から膨大な魔力を噴出し、その代償はどう考えても大きいはずにもかかわらず魔女の目はただ一点を睨んでいた。‬

 

‪「あの高度ならば天にも届く、まさか!」‬

 

‪もしや、あの魔女が天を荒らすのか?‬

‪もしや、あの魔女が我が主を倒すのか?‬

 

‪その考えがよぎったその瞬間には私はその魔女を追いかけ始めていた。速さには自信はないが、それでも所詮は魔女。追いつけない道理がない───‬

 

‪だった。‬

 

‪私が羽を一度羽ばたかせると魔女は万里も先に行くようであった。それでも諦められない、なんとしても届かせようとするも、やがて羽は疲れ果てピクリとも動かせ無くなったその時には魔女は見えなくなり、私は地上に落ちる。‬

 

‪皮肉なものだ。天の者である私が地に落ち、地の者である魔女が天に昇るとは。‬

 

‪私はぐるぐる回る世界を...そして気づく。‬

 

‪天地が散る、その意味を。‬

 

‪私が地上を見た時にあったのは広大な陸地ではなく、星。‬

 

‪天を仰ぎみれば、あるのは我が主の御姿ではなく、ただ燦々と輝く赤色の星。‬

 

‪そして自分は八咫烏ではなく、星に縛られた鴉。‬

 

‪そうか、世界は変わってしまったのか。無限の陸地と主の理を代償に、人には届き得なかった数多の星に到達しうる世界に。‬

 

‪壮大な神秘を代償に、新たな神秘を獲得するために。‬

 

‪もはや喋ることはできない。鴉になった故か、その口は意味ある音を発することはなくなった。しかし、その壮大な世界の進化に言葉は不要だった。‬

 

‪これが我が主が予言なさったことか。‬

 

‪そう気づいた時にもう一つの命令を思い出す。‬

 

‪世界に実りを。‬

 

‪その言葉に従い、私は静かに地上に落ちる。人類の、この星の新たなる糧となるために。‬

 

 

 




こんなに親指が疲れる日が来ようとは

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