FGO ANOTHER TALE   作:風仙

17 / 301
第17話 竜縁奇縁

 光己が目を覚ました時、そこは簡素な寝台の上だった。どうやら気絶している間にラ・シャリテの宿屋に連れてきてもらえたようである。

 枕元に座っていたマシュが声をかけてきた。

 

「先輩、気がついたんですね。よかった、体調はどうですか?」

「ああ、ちょっと熱っぽくてぼんやりするけど大丈夫だよ。心配かけてごめんな」

「いえ、先輩がご無事なら私はそれで」

「ん。ところでオルトリンデはどこに?」

 

 見れば室内にはサーヴァントたちがそろっているのに彼女だけがいないのだ。どこに行ったのだろうか?

 

「はい、念のため空を飛べる方には交代で街の上空を巡回してもらうことになったんです」

「ああ、戻ったと見せかけて、回れ右して急襲する作戦かも知れないってことか。ないとは言えないな」

 

 もっとも今こうして皆がくつろいでいるのだから杞憂のようだが、まだ回復していない光己としては何よりだった。

 

「はい。とりあえず夕ご飯はまだですので、熱っぽいんでしたら寝ててくださ……いえ、所長には目が覚めたことを報告しておいた方が」

「そうだな、そうしとくか」

 

 光己が通信機の通話キーを押すと、いつも通り空中にスクリーンが投影される。今回の当番はロマニだった。

 

《やあ、藤宮君。体調はどうだい?》

「はい、ちょっと熱っぽいですがたいしたことはないです」

《そうか、それはよかった。しかし我々も、伝承以外に竜の血を浴びたり飲んだりした実例は持ってないからね。何かあったらすぐ報告するんだよ》

「はい」

《それとさっき計測した限りでは、君の魔力容量はかなり大きくなっている。しかもまだ成長中みたいだから、このままいけばサーヴァントと契約できる人数がだいぶ増えそうだよ》

 

 これは朗報である。より多くのサーヴァントを動員できれば、その分任務の難易度が下がるのだから。

 

「そうですか、それなら痺れるのガマンした甲斐がありました」

 

 ただ人間を辞めたというわけではないようである。厨二的に考えてちょっと残念な気がしなくもないが、ジークフリートだって人間のままだったのだから順当な流れだろう。

 成長中ということだから、何かこう眠れる力が目覚めるとかそういう展開があるかも知れないし!

 

《―――ただし、わかってるとは思うけど。

 君が死んだら人理修復は失敗ということは何も変わっていないのだから、決して無理はしないでくれ。所長が言っていたようにね》

 

 ロマニの顔と口調は普段のゆるふわと打って変わって真剣そのものだった。光己は頷くしかない。

 

「はい、それはもう。最初から保険みたいなつもりでしたから」

《そうか、それならいいんだ》

 

 ロマニがほっと安心したように表情を緩める。

 これで一応用事はすんだが、光己はふと思い出したことがあった。

 

「あ、そうだ。ちょっと気になってたんですが、竜の魔女を倒す直前にでも、ブラダマンテたちにカルデアに来てもらうことってできます?」

 

 これができれば聖晶石がなくても仲間を増やせるのだ。冬木の時はできたのだから、ここでもできるといいのだが。

 しかしそれは難しいようだった。

 

《いや、残念ながらここでは無理かな。ここは冬木より時空の乱れがひどいから、サーヴァントほどの強大な霊体はカルデアに事前に登録してないと招けない》

「そっか……まあ仕方ないですね」

 

 逆にいえば時空の乱れが軽度な特異点なら招けるということでもある。光己はポジティブに考えることにした。

 

「じゃあもうひと眠りしたいので、所長にはよろしく伝えておいてくれますか?」

《わかった、おやすみ》

 

 ―――ところがせわしくも、その直後に彼にはまた新しい仕事がやってきた。オルトリンデが通信機で「サーヴァントらしき者が2人、街の広場で言い争いをしている模様」と伝えてきたのである。

 なお彼女が「らしき」と言ったのは、遠くから双眼鏡で見ただけなので、サーヴァントだと断定できなかったからだ。ならなぜ報告してきたのかといえば、その容姿が片やツノと尻尾が生えていて、明らかに人外要素持ち。片や遠い異国の服を着ていたりと、現地人ではない要素が満載だったからという理由である。

 街中でのんきに口ゲンカなんかしているのだから竜の魔女の手下ではなさそうだが、サーヴァントかも知れない者を放置はできない。

 

「……いや。街の中ってわかってるなら、ドクターの方でサーヴァントかどうか確認できません?」

《そうだね、ちょっと待って……うん、これはサーヴァントだね。竜の魔女の手下じゃないなら、うまく交渉すれば仲間になってくれるかも》

「そうですか、じゃあ行ってきます」

 

 まだ肝心の無敵アーマーを確認していないのだがやむを得ない。光己は寝台から起き上がると、アストルフォが着せてくれていたのだろう寝間着を脱いでカルデアの魔術礼装に着替えたが、その時胸に青白い紋様が浮かんでいるのに気がついた。

 ちょうどドラゴンを下から見たのを簡略化したような図柄である。

 

「これは……?」

「ああ、それ? ファヴニールの胸にあった紋様とそっくりだよねー」

「え、そうなのか?」

 

 光己の視力でははっきりとは分からなかったが、アストルフォはサーヴァントだけあってちゃんと見えていたようだ。

 そういうことなら、ドラゴンのパワーをしっかり受け取れたと判断してよさそうである。

 

「これは将来的にはこの紋様からビーム撃てたりしそうだな……いやそうすると大事な礼装が破れちゃうか。

 うーむ、現実は創作と違ってままならんな」

 

 まあその辺は後でゆっくり考えるとして、今は仕事である。光己たちがオルトリンデの誘導にそって現地に赴くと、けっこうな時間が経ったはずなのにサーヴァント2人はまだ口ゲンカを続けていた。

 

「エリマキトカゲ」

「アオダイショウ!」

「メキシコドクトカゲ」

「ヒャッポダ!」

 

 見た感じ2人とも14~15歳くらいの女の子で、オルトリンデの報告通り片方はツノと尻尾が生えており、片方は光己の故郷である日本の昔の服、つまり和服を着ている。どうやら相手を爬虫類呼ばわりするのが悪口だと思っているらしく、傍目にも実に見苦しい、いや聞き苦しい罵り合いだった。

 基本争いごとが嫌いなマシュなど、早くも回れ右して帰りたそうな顔つきである。

 

「どうしましょう、先輩」

「そうだな。弱い者いじめって感じじゃないし、物理的に暴れないのなら放っておいても良さそうだけど……」

「しかしマスター。彼女たちもサーヴァントですから、竜の魔女のことを何か知っているかも知れませぬが」

 

 これは段蔵の意見だが、なるほどその可能性はある。それにロマニが言っていたように仲間になってくれるかも知れないし、話しかけてみる価値はあるだろう。

 ……見た目はいいのに性格には多少の難がありそうだが。

 

「じゃ、頼んでいい?」

「はい」

 

 光己はコミュ力は人並み程度と自覚しているので、見知らぬサーヴァント同士の諍いに割って入る度胸はない。素直に一行の中で1番落ち着きがある人物に依頼した。

 段蔵が2人に近づいて声をかける。

 

「もし。事情は存じませぬが、街中でそのように騒ぎ立てては周りの迷惑ゆえ、少々声を落として話してはいかがでしょう」

 

 まずは下手に出た段蔵に、2人は同時に振り向いてくわっと睨みつけた。

 

「あん?」

「何か仰いまして?」

 

 何か聞く耳持ってなさそうである。しかし段蔵は気分を害した様子もなく、今一度説得を試みた。

 

「はい。サーヴァントが街中で喧嘩沙汰は、周囲の迷惑ではないかと……」

「引っ込んでなさいよ、子イヌ!」

「無謀と勇気は違いますわよ、猪武者ですか?」

「……」

 

 目の前にいる人物の評価が「子イヌ」と「猪」に分かれるとは、この2人ずいぶん感性が違うようである。

 とりあえず、まともに話をするにはどちらが無謀なのかを身体に理解させるしかなさそうだ。段蔵はそのような判断を下したが、彼女が具体的な方策を考える前に、和服の少女が光己の顔に視線を止めた。

 

「おや……!?」

「ん、何か?」

 

 自分に注目されるとは思っていなかった光己がきょとんとした顔をすると、少女はついっと近づいてきた。

 

「はい、少しよろしゅうございますか?」

「へ? あ、う、うん」

 

 害意はなさそうに見えたので光己が頷くと、少女は光己の身体に顔を寄せてくんくん匂いを嗅ぎ始めた。鼻息がちょっとくすぐったい。

 光己もマシュたちも彼女の思惑が分からずとまどっていたが、やがて少女は顔を上げると光己の手を取り目をしっかと見つめた。

 

「………………安珍様!」

「は!?」

 

 周囲は石のように固まった……。

 

 

 

 

 

 

「えーと、安珍様って何?」

 

 イミフな呼び方に光己が理由を尋ねると、少女は恋する少女のまなざしで懇々と説明してくれた。

 

「はい! 貴方はサーヴァントではなく人間ですが、竜の要素をお持ちの様子。つまり竜になったわたくしと同じ立場で添い遂げるために竜になったとお見受けしました。

 憎しみのあまり貴方を焼き殺してしまったわたくしのためにそこまでしてくださるとは、やはり安珍様はわたくしが惚れたお方でした!」

「意味がわからないよ!?」

 

 光己にとっては1から10まで理解しがたい話である。この少女は何を言っているのだろうか?

 

「いやいや。俺は君のこと知らないし、見間違いじゃないかな。名前も違うし」

「いえいえ。日の本から遠く離れた異国、しかも時代さえ違う所で会ったのがただの人違いなんてことがありましょうか。つまりこれは運命の出会い!

 貴方様は間違いなく安珍様の生まれ変わりです」

「そう来たかー!」

 

 なるほど生まれ変わりなら光己が彼女のことを知らなくても当然である。ただそれだと先ほどの「(光己が)彼女と添い遂げるために竜になった」という言葉がおかしくなる、という以前に普通の人は自分を焼き殺した者と添い遂げようなんて思わないと思うのだが、この支離滅裂ぶりが、もしかしてカルデアで聞いた「バーサーカー」というクラスなのだろうか……!?

 そもそも光己は竜になりたかったのではなく、単に無敵アーマーが欲しかっただけなのだが、この少女にそれを言っても多分通じないだろう。

 

(お金目当てのサギとか、そういうのじゃないよなあ)

 

 もしそうなら「焼き殺した」なんて物騒なフレーズは出さないだろうから、多分彼女は本気で言っているのだろう。顔つきも真剣そのものだし。

 ファヴニールの血を浴びたのがこんな展開につながるとは、この海の藤宮(ry

 

「えーと、どうしよう?」

「むう、これは難題ですな……」

 

 光己は段蔵に振ってみたが、さすがの忍者にも手に余るようだ。

 しかし少女は少なくとも仲間にはなってくれそうだし、そろそろ周囲の野次馬の目が痛くなってきたので場所を変えた方がいいだろうか。

 

「それじゃこんな所で長話も何だし、俺たちが泊まってる宿屋に来てくれる?」

「まあ、宿屋だなんて安珍様ったら。まだ日が高いのにお楽しみをご所望だなんて恥ずかしいです」

「真面目な話し合いだからね!?」

 

 少女は光己たちの所に来ることに同意したが、そうなると角と尻尾の少女は黙っていられない。

 

「ちょっと待ちなさいよ! 清姫、アンタまさか本当にこの人たちについていく気!?」

「それはもう、旦那様(ますたぁ)が見えたからには当然です」

「当人はまったく認めてなさそうだけど、アンタにそういうこと言っても無駄なんでしょうねぇ……」

 

 角と尻尾の少女は思いっ切り肩を落としながら深いため息をついた。

 

「しょうがないわね。アンタたち悪党じゃなさそうだし、とりあえずアタシもついてくわ」

「え、マジで!?」

「あくまでとりあえずよ、とりあえず話をするだけ。さすがに放っておけないし」

「んー、まあそうなるか」

 

 この少女はまだマトモなようだ。とにかく合意ができたので、光己たちは少女2人を連れて宿屋に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 宿屋に戻った一行は、とりあえず女性陣の部屋に集まって互いに自己紹介をした。

 光己は清姫という名前に聞き覚えはなかったが、角と尻尾の少女が名乗った「エリザベート・バートリー」というその筋では有名な名前は知っていた。

 何しろ「血の伯爵夫人」と謳われた恐るべき大量殺人犯である。光己は恐怖におののきながらマシュの後ろに隠れた。

 メンタル人並みの未成年としては無理もない反応だったが、エリザベートはさすがに不快感を隠せずはっきり口に出した。

 

「失礼ねえ……そりゃアタシのこと知ってたら仕方ないとは思うけど、アタシは『狂う前』なんだからもう少し普通にしなさいよ」

「狂う前?」

 

 光己がマシュの背中から顔だけ出して訊ねると、エリザベートはこっくり頷いた。

 

「そう、今のアタシはあの忌まわしい拷問殺人を始める前のアタシなの。だから無実だなんて言うつもりはないけど、でもアイツはアタシがぶちのめす。そのために呼ばれたんでしょうから」

「アイツ?」

 

 この時代に誰か因縁がある人物がいるのか、それともサーヴァントが召喚されているのか?

 

「ええ、竜の魔女の手下に未来のアタシ……『カーミラ』がいるの。アンタが怖がった、血の伯爵夫人ね。別に贖罪とかそんなんじゃないけど」

「カーミラ? ……って、確か小説の主人公じゃなかったっけ。君は実在の人物なのに何でそうなるの?」

「ああ、その主人公のモデルになった女吸血鬼がそのアタシなのよ。カーミラの方が有名だからその名で現界したんでしょうね」

「……へえ」

 

 光己はよくは分からなかったが、エリザベートはあまり触れてほしくなさそうに見えたので、深く追及はしなかった。

 それより気になったことがある。

 

「じゃあ『そのために呼ばれた』ってどういうこと?」

 

 するとエリザベートはここでの聖杯戦争についての推測を話してくれた。

 それによると、本来聖杯戦争では勝者が聖杯を手に入れるものなのに、ここでは最初から竜の魔女が聖杯を得てしまっている。それを正常な形にするため、聖杯自身が彼女が戦う相手を召喚しているのではないかということだった。

 それも無作為にではなく、たとえば竜の魔女に対してはジャンヌ、カーミラに対してはエリザベート、ファヴニールに対しては同じ人(人型生物)から竜になった存在である清姫、といった具合にライバル的な者を選んでいるのだ。

 ブラダマンテとアストルフォはまあ、地元で名高い強者だからだろう。

 

「なるほどなあ……」

 

 光己が腕を組んで唸るような声を上げる。魔術王とやらはずいぶん派手なことをしてくれたが、そういう大掛かりなことをすれば、それなりの反作用もあるということか。

 

「わかった。それなら目的は一緒なんだし、手を組むのが順当だよな?」

「そうね、アンタたちなら信用してよさそうだし。

 というか組むの断ったら1人きりになっちゃうしね」

「それについては申し訳ない……」

 

 まあそれはそれとして、光己はエリザベートと握手して仲間に迎え入れた。最初名前を聞いた時は大変だと思ったが、目の前にいる彼女は殺人マニアの女吸血鬼ではないようで喜ばしい限りである。

 

「もちろんわたくしも旦那様(ますたぁ)のために全力を尽くしますので、可愛がってくださいましね!?」

「……だから俺は君の夫じゃなくてね」

「それにしても他に人がいないからとはいえ、全人類を救うために竜の血を浴びてまでして戦おうとはさすが安珍様! しかしながら1つだけ申し上げたいことがございます」

「へ、何?」

 

 急に清姫が語調を変えたので光己はちょっとびっくりしたが、彼女はやはりバーサーカーであった。

 

「どうせ竜の血を浴びるならこのわたくしの血を溺れるほどに浴びて下さいませ! いやむしろ邪竜の血などわたくしの血で浄化したいと思います。

 さあ安珍様、さっそく街の外で、そこのドラ娘がやったように血の風呂に入りましょう!」

「入るかぁぁぁ!!」

 

 無論、光己は全力で抵抗したが、結局押し切られて竜モードになった彼女の血を思い切り浴びたり飲んだりさせられたのであった……。

 




 主人公に竜属性がついたので、マリー&アマデウスより先にエリザベート&清姫と出会うことになりました。
 しかしこの主人公大丈夫だろうか(ぉ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。