ジャンヌが水着霊基になったら光己の鮫召喚スキルが強化されるという話だったが、これは今すぐただちにそうなると決まった話ではない。それに彼自身が先に内容を把握しておかないと説明が
ところで光己は続けてハードな仕事をしたし身体に大きな変化もあったので、明後日までは訓練も勉強もなしの休暇となっている。なので翌日の午後3時頃まで―――幸いにして何事も起きず―――自室でのんびりしていたが、ふと何か思い出したのかベッドから起き上がると、何人かに内線電話をかけて何事か話してから部屋を出ていった。
行き先はいつもの談話室で、集まったのは彼の他にマシュ・エリセ・リリスの3人である。ただ光己はマシュには電話していないのだが、なぜかリリスが呼んで連れて来たのだ。
「まあマシュはこちら方面の話が嫌いってわけじゃないし、別にいいか……」
用件はエリセがいることで分かるようにいつもの写真とサインの話なので、マシュはロンドンの分は撮影する所を見ているから無意味だが戦国の分は見ていない。というか当人にとって意味があるからここに来たのだろうから、光己は気にせずこのまま話すことにした。
今ちょうど印刷し終わった写真をエリセに手渡して解説する。
「まずこれがモルガン女王いや王妃とアーサー王と騎士モードレッドのスリーショットだな。俺でなきゃ撮り逃しちゃう、恐怖すら感じるスペシャルな1枚だ」
「ホ、ホントに!? すごーい、でもよくOKしてもらえたね」
何しろ普通に考えたら顔を合わせた瞬間に殺し合いを始めてもおかしくない間柄の3人が笑顔で並んでいるのだから、事情を知っている者なら困惑を通り越して本当に恐怖を覚えかねない写真ではある。エリセが驚いて疑問を感じたのも当然といえよう。
「それはもう、俺の熟練の交渉技術の賜物だな。具体的には、事前にお茶会を開催して機嫌を良くしておいた」
「頼まれた時にアルトリアさんは顔がひきつっていましたが……」
「そこはそれ、モルガンとモードレッドは乗り気だったし」
といってもモルガンはアルトリアが嫌がるからこそ乗り気だったのだが。
「次はこれ。ティアマト神とイシュタル神のツーショットだな。
ただイシュタル神は疑似サーヴァントの上に人格も依代のものなのが惜しいところだ」
「えーと、つまり見た目や言動は依代の人でイシュタル神要素はないんだね。
それだと確かに絵的なインパクトは落ちちゃうか」
なおチームを組む仲間としてはイシュタルより凛の方が万倍マシなのだが、それは写真の評価には関係ないのだ。
そこに凛の写真を見たリリスが口を挟む。
「あ、マスターがパンチラ覗いた娘じゃん。普通の写真も撮ってたんだ」
「んん? 何故そこまで知ってるかは知らんが、そこまでパンチラにこだわるのなら是非もない。
我が絶技を以て、今一度存分に鑑賞させてやろうではないか」
すると光己はちょっと怒ったように見えたが、その直後おかしなことを言い出した。
さらに獣モードになってそのゴツい指で器用に
「?」
リリスたちは光己が何をしたいのかまったく分からなかったが、プリンターから出て来た紙を見ると驚愕とともに理解した。
「こ、これは先輩がロンドンで遠坂さんのスカートをめくった時の!? な、なんてことしてるんですか先輩」
どうやら光己は脳内でイメージした映像を画像データとして端末に保存したようだ。しかも紙に印刷されたそれは普通の写真と区別がつかないほどの鮮明さである。
当然マシュは紙を奪って破り捨てようとしたが、リリスがその手を掴んで阻んだ。
「おっと、そうはさせないよキリエライト」
マシュは普段名で呼ばれているので姓で呼ばれたことにちょっと意外さを覚えつつ、リリスの行為の理由を訊ねた。
「リリスさん!? 何故止めるんですか」
「それはもう、マスターのトンチキぶりと破廉恥さを示す物証として後世に残すために決まってるじゃーん。大丈夫、
「それはそれで困るんだが!?」
……その後すったもんだの末、この件は盗撮に当たるのはもちろん、何かの拍子で凛にバレたら光己とリリスが殺されるのは確実なので、データも紙も完全抹消という結論になった。残念ながら当然といえよう……。
「それにしても頭に思い浮かべた映像を電子データにできるなんてすごいね。それも熾天使の翼の御業なの?」
「まあな。最初習得した時は何ができるのか分からなかったけど、意外と奥が深そう」
「確かにいろんな用途がありそうな気はするけど、光己さんだとこういうことばかりしそうだから不安だよ」
「失敬な、今回はあくまでリリスの希望をかなえただけだぞ」
「わー、マスターが自分の決断をサーヴァントのせいにしてるー」
そもそもリリスは「パンチラ写真を見たい」なんて言っていないので、光己の言い訳は初めからピントがずれているのだが、リリスがそこを追及しなかったのは武士ならぬ悪霊の情けというやつである。
しかし当の光己は聞こえないフリをして次の写真を取り出した。
「これはシェイクスピアさんとアンデルセンさんの文豪コンビだな。アンデルセンさんは頭は大人だったのに、何故か見た目が子供なのが惜しかった」
「へえー」
確かに見た目が子供では写真としてのリアリティに欠けるのは否めない。しかし何故そんな現界の仕方をしたのか、世の中不思議なこともあるものだ。
「シェイクスピアさんにはお姉ちゃんを正統的ヒロインとして描いた劇も書いてもらったから、良かったら貸すよ。もちろんコピーだけど、というか出版するわけにはいかないのが残念だ」
かの劇作家シェイクスピアの最新作ではあるのだが、死後に書いたものを著者に無断で出版するのは問題が大き過ぎる。まったくもって当然であった……。
「え、ホントに!? 読む読む!」
「わ、私にもぜひ!」
するとエリセに続いてマシュも熱烈に読みたがったが、あまりたくさんコピーするのはよろしくない。なのでジャンケンでエリセが先ということになったが、まあささいなことである。
「でもよく書いてもらえたね。写真と違って手間かかるのに」
「そりゃまあ、交渉じゃなくて8割脅迫だったからな。本来なら火炙りの刑にするところをそれで済ませたって形だから」
「火炙り!? な、なんで!?」
光己の物騒な回答にエリセが目を丸くして驚く。火炙りといえばジャンヌが処刑された方法だが、それに関係あるのだろうか?
「それはもちろん、彼が生前にお姉ちゃんを誹謗中傷したからだな。いや私怨じゃなくて、イギリスとフランスの関係が背景にあったんだと思うけど」
ジャンヌが神の言葉を聞いてフランスに味方したというのが真実なら、その敵であるイギリスは神の敵ということになってしまう。だから当時のイギリスはイカサマの異端審問をしてでもそれを否定せねばならないし、後世でも認めたくないのであろう。
「あー、歴史的に仲悪いもんね」
この件に限らず、イギリスとフランスはいろいろ
「そういうことだな。隣の国だから仲良くとはいうけど、隣だからこそ仲良くできないのかもなー」
近くにいるからこそ利害が衝突したり風習の違いが目についたりするわけで、世の中難しいものであった。
「……っと、ロンドンのペア写真はこれで終わりだな。あとは1人ずつの分か」
それを印刷し終わって、サインのコピーも渡したら戦国時代の分である。
「まずこれが上杉、いやこの時はまだ長尾景虎だったか。彼女と武田晴信のツーショットだ。日本人の歴史愛好家なら咽喉から手が出る1枚だな」
「すごーい!」
まさに光己が評した通りの写真である。景虎は満面の笑顔なのに晴信は心底嫌そうにしているのが両者の関係を明示していた。
「晴信公は笑顔つくろうとはしてくれたんだけど、それでもそうなっちゃったあたりがむしろ感情がよく表れてるいい絵になったって感じだな」
ヒドい言いぐさだが、2人がここにいないからこその率直な感想なのだろう、多分。
「んでこれがなんとフォーショット、新選組の副長と、一番隊・二番隊・三番隊の隊長の揃い踏みだ。このお揃いの浅葱色の羽織袴が実に新選組チック」
「わあー、さすがに迫力あるね」
エリセは土方・沖田とは面識があるが、初見の永倉と斎藤も2人に劣らないタツジンめいた雰囲気が写真からでも感じられた。いや「あの」新選組で隊長張っていたのだから当然なのだが。
「あとはこれをリリスに渡さないとだな」
五稜郭を
「おー、待ってた待ってた」
それを受け取ったリリスが、何故かマシュの方を向いてニヤッと悪戯っぽい笑みを浮かべる。当然マシュは気になってその理由を訊ねた。
「リリスさん、その写真に何かあるんですか?」
「うん、あるよ。アテシとマスターの
「!?」
光己のファースト(最初に契約した、ではなく最初に知り合ったという意味)サーヴァントとして聞き逃せない発言である。マシュがひったくるようにして写真を手に取って見てみると、それにはリリスが上半身裸の光己をがっちり抱きしめてピースサインまでしている姿が映っていた。
光己の方もちゃっかり彼女の腰に手を回しているし、背景は日本を代表する名山だ。確かにこれは彼の他のペア写真とは違う、親密さと非日常感が感じられる。
「なかなかよく撮れてるっしょ? マスターと仲いい娘は大勢いるけど、こういう写真持ってる娘はいないんだよね」
「……ぐぬぬ。確かに私も持ってませんが、この胸の奥がざわめくような気持ちはいったい」
リリスの煽るような発言に、マシュは何か言葉にしづらい微妙な感覚を覚えていた。
怒りや嫉妬と似ているが違う、焦燥というのが1番近いのか? しかし彼女が言う通り光己と仲がいい娘は大勢いて、その誰に対しても抱かなかった感情を何故今回だけ?
リリスはおそらく他の特異点で自分と会ったことがあるのだろうが、それが何か関係しているのか? そういえばこの会合に自分を誘ったのは彼女だが、もしかしてこの写真を見せるためだったのだろうか。
彼女は先ほど「乙女の秘密」とか言っていたから、簡単には明かしてくれなさそうだけれど。
「フフッ、
いやアテシは若者どころか人間ですらないけどさ」
「…………??」
その上何か意味深なことを言い出したので、マシュはすっかり混乱してしまった。
オケアノスでドレイクが宿題を出してきたのと同じようなことでも考えているのだろうか? マシュの方はリリスと昨日会ったばかりなので、思惑を想像するのは難しかった。
参考にしようと光己の顔をチラッと見てみたが、彼も分からないらしく沈黙している。
「あ、それそろそろ返してね。普通に記念の品だから」
「え!? あ、は、はい」
しかしリリスはこの話を長引かせる気はないようで、写真を回収すると光己を促して話を元に戻してしまった。
といってもあとは戦国の分の1人ずつの写真を印刷するのとサインをコピーするだけだったので、マシュにとっては何だか不完全燃焼な気分のまま会合は終わったのだった。
写真配付会が終わると参加者は皆自室に帰ったが、光己は休もうともせずまた何人かに内線電話をかけていた。
それが終わると、今度は体育館に出向く。やがて現れたのはマシュ・アイリスフィール・アルクェイド・ドラコー・立香の5人である。
ただ今回も、呼んでないのに来た者が1名含まれていた。
「あれ、立香は誰に誘われたの?」
「ううん、誰にも。でも光己が何かしでかしそうな気配がしたから。
それで何の集まりなの?」
さすがは幼馴染歴17年かつ脳内居候歴数ヶ月の付き合いで、しかも「
「平たくいえばコスプレパーティーだよ。ただし普通の扮装じゃなくて、俺が前に贈った礼装を着てもらうって趣向なんだ。
服を贈ったなら着てるとこ見たいのは当然だろ?」
「そうなんだ。すると私は参加不可?」
立香にそう訊ねられて、光己は小さく首をかしげた。
「うーん。いくら俺と立香の仲でも、リーダーたる者自分で決めたドレスコードを破るわけにはいかんが……」
まだ若いのに見上げた心がけであった。
しかしせっかく来てくれた親しい娘をすげなく追い返すなんてしたくない気持ちもあるのは当然だ。となれば彼女に参加条件を満たしてもらうしかない。
「仕方ないな。特異点で見つけたものじゃないが、この
光己がそう言って「蔵」から出したのは緑色のチャイナドレスだった。長袖ロングスカートで、赤い腰帯が付いている。
無地のシンプルなデザインだが、風格が感じられる高級そうな品物だ。
露出度は低そうに見えるが、スカートのスリットが片側だけとはいえ帯のすぐ下まで開いているので油断してはいけない。
立香はそれに気づいたかどうかは不明だが、大仰に喜びながら受け取った。
「おおー、これは確かにすごそうな服だ。さすが私の光己、ありがと!」
品物と贈り主への称賛、さらに親愛と感謝の念を短い言葉で、しかも感情をこめて身振りも付けて伝える仕草をごく自然にこなすあたり、コミュEXの綽名は伊達ではなかった。
なお立香は光己の服選びのセンスについては信頼しており、彼が似合うと言ったなら本当に似合うと思っている。どんな風に似合うかは別として。
「うん、どう致しまして」
光己もその反応に満足して、次はマシュに顔を向けた。
「来てくれたのは嬉しいけど、別に無理しなくてもいいんだが……」
ただし着るのが嫌なら返してもらうなり他の人に譲るなりしてもらうが、それは物がただの布の服ではなく希少かつ強力な礼装である以上当然のことだ。マシュもそれが分かっているからこうしてここに来たわけだが、服をもらうことにした理由はちゃんとある。
「いえ、無理などしていません! 確かに破廉恥な服だとは思いますが、リリスさんに負けるわけにはいかないのです。何故かは分かりませんが!」
どうやらマシュは「デンジャラス・ビースト」を着て光己とツーショット写真を撮るつもりのようだ。全身をこわばらせてものすごく緊張した様子で、非常な決意を要した風に見えるが、それほどリリスに後れを取るのが嫌なのだろう。
こうして皆が参加条件を満たして、コスプレパーティーが開催されることになったのだった。
リリスはここのマシュは好きとはいきませんが、原作ほどには嫌っていない感じです。ここのマシュは第143話の時点で「純朴じゃなくなった」と言われてて、当人もそれを認めてるくらいですからw
ではまた次回に。感想、評価お待ちしております。