ちょっとだけ、これでいいのかと迷いはあったんですが。
書きたい1文が完遂されるにはこの手段でよかったと思っています。
いくら戦闘後とは言え、戦場に俺たちが来ることないだろうにという悪態を聞いてくれていたカリーナまでどこかにいなくなってしまった。俺は1人、瓦礫と空薬莢が転がる数時間前まで建物があった敷地を眺めていた。
散発的に銃声が聞こえる。いったい何を撃っているんだ。
人形の戦場は生身の人間には危険だから来たくはないのだが、雰囲気は好きだ。例えば、おあつらえ向きに1メートルだけ残ったコンクリートの壁に寄りかかって機能を停止している紺色の服を着た人形だとか……。
「ダミーだよな?」
左の膝から下はそっくり無くなっていて人間の形をしたものにはふさわしくない機械のパーツやら配管やらが露わになっている。左手もひしゃげていて、服も左半分ばかり焦げてるのを見ると、射撃姿勢をしていたら真っ正面からドカン、と言ったところか。目は開かれたままで死んだ人間と違って瞳孔が開いていない。ライトブルーの髪は一部が焦げて人間のものとは違った嫌な臭いを出している。わざわざこんなところでやられないから誰かがここまで運んだのだろうか。
よからぬことを考える輩が出てきそうな見た目をしているが、俺にはそうは思えない。普段よく見るのと同じ見た目をしたモノが人間で言えば死んだ状態で転がっているのは一応、不快だ。それに、こいつとはもうよからぬこと済んでいるし。
それの太股のホルスターに刺さった拳銃を手に取ってみる。マガジンを引っこ抜いてみると弾が残っている。撃つ必要はない。こっちは本命じゃないから。マガジンをしまってセーフティだけ確認して銃を足元に置いた。
カービンが横たわっている。拾ってみると俺がたまに触るカービンよりも重い気がする。同じようにマガジンを見ると弾は残っている。なるほど突然のことだったということか。マガジンを戻してコッキングをした。セーフティはセミオート。銃を構えてみる。ストックは数センチだけ短い気がする。ヴァーティカルのフォアグリップは女の子が握った時のシルエットは可愛いと思うが、自分で扱うにはアングルの方が好きだ。それと見た目がちょっとダサいと思う。こいつの持ち主に言ったら怒られそうだが。ホロサイトは健在だ。実に便利だと思う。
俺は引き金を引いた。それの額に穴が開いた。
「ナイスショット」
3メートルの距離を外す人間はいない。サプレッサのおかげで相当気付かれていないと思う。
ひとつ、息をついた。でも銃は肩に当てたまま。もう一度引き金を引いた。それの右目だった器官が弾け飛んだ。
俺は100パーセント冷静だ。
銃を下ろして、小さなレバーを90度動かしてから構え直した。
俺を連続的な反作用が襲う。それに開いた穴の数を数えると10個増えていた。
「指輪まで渡した相手を撃つのは楽しいかしら?」
背中に硬いものを突きつけられた。
俺は銃を構えたままだ。
「そのダミーが持ってた銃なら、あと1発残ってるはずよ」
俺はその1発をそれの胸に撃ち込んだ。2発目は出てこなかった。HK416は完璧主義者だ。
銃を左手に持ち替えて蜂の巣になったガラクタに歩み寄る。416はどんな顔をしているのか。
胸の弾痕に指をねじ込んだ。穴をこじ開けていって拳を突っ込んで彼女の体の中をまさぐる。背後で416が短くうめき声をあげる。硬いものがコンクリートに落ちる音が聞こえて、それから数歩足音が聞こえた。戦術人形も気分が悪くなると吐くのか?
彼女の中は、まるで生体ではない。金属と合成樹脂で構成されている何か器官の役割を果たしているであろう物体が少し隙間を持って配置されている。真水とは少し違う質感の液体が俺の右手にまとわりついて袖まで汚す。
「見つけた」
彼女のコアだ。繋がったケーブルを引きちぎって彼女から引きずり出す。彼女の胸の真ん中に開いた大穴からも機械が覗く。
背後の気配は消えている。
「綺麗だ」
俺の手は彼女の中のどこかで切れた。透き通った真っ赤な自分の血と絵の具みたいな真っ赤な彼女の血で俺の手は凄惨なまでに美しい。コアも同じ色で汚れている。俺はそれを自分の上着で拭いて、どの人形もダミーも同じ形をしている彼女のコアを白昼に曝した。
これは象徴的だと思う。
俺は彼女の肩を抱きしめながら、ハグしながら、彼女の胸の中を、腹の中を抉った。掻き回した。俺の欲しいものはもう残ってないけど。俺は嬉しかった。なぜか泣いている気がする。彼女と唇を重ねた。さっき吹き飛ばした右目が俺を見つめていた。腕はいつのまにか彼女を貫通していた。俺は声を上げて泣いていた。こんなにも美しくて、俺は嬉しくなってしまった。
彼女の中の線という線を引きちぎった。電線みたいなコードも、少し太いチューブも。あばらの場所にある骨格を外した。手が震えて、外に出したと思ったら地面に取り落とした。
これが人間だったらどれだけ凄惨か!人形はかくも美しい!
俺はコアだけ持って立ち上がってさっきの拳銃を拾って彼女に全弾ぶち込んでその銃も彼女に投げつけてそこを立ち去った。
俺はたぶん謝らないといけない。でも、好きで好きでたまらない。