ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
白夜王リョウマ。
神器雷神刀の使い手であり、青い雷を纏った刀による国一の剣技を持った武人。
しかし目の前のリョウマに似たその男はいったい何者だろうか。そう思うぐらいに変質しているように、エクラには見えた。
なにより、リョウマはたとえ敵国の人間であろうと、一般人に襲い掛かるような真似はしない。召喚し、共に戦ってきたからこそ、エクラもアルフォンスも知っている。
「シャロン、下がっているんだ」
「兄さま……私……」
シャロンは泣きそうな目をしていた。
それは、アルフォンスとシャロンの英雄に対する接し方は違うことが原因だ。
アルフォンスは英雄に対して尊敬を向けるし、仲間としての意識を持っている。仲良くはするし、偽りない笑顔を向けることだってある。しかし、それはあくまで、仕事を行うための社交的な交友関係のつもりで。
対してシャロンは、英雄と友達になりたいということを堂々と宣言するほどに、英雄と深い関係になることを望んでいる。当然それが悪いことはなく、シャロンの飾らずに、ただ仲良くなりたいという願いを察することで、心を許した英雄も少なくない。
しかし、ここではシャロンのその心持ちが悪い方向に働いている。
アルフォンスは、一定の距離を持っているからこそ、英雄たちの原因不明の襲撃を聞いても心が揺れてはいない。
しかし、シャロンにとっては、共にアスク王国を愛し、そして戦ってくれた英雄たちに裏切られた、と思ってしまうのだ。
エクラは知っている。彼女は神器フェンサリルの使い手として素晴らしい成長を遂げたが、その本質は心優しい少女なのだ。家を破壊されるほどの裏切りを前に、槍を持ち、民を救うだけの胆力は本来持ち合わせていない。
しかし、それでも彼女は槍を持ち戦った。あのリョウマと。
「……兄さま、私はまだ」
アルフォンスは何かを言いたげだったが、その口を閉じる。目の前の敵を前に剣を構える。
エクラはリョウマのステータスを見る。
HP256 攻 70 速 60 守 30 魔 25
(速さ60とか、どんだけ速いんだ。さすがにアルフォンスでは分が悪すぎる。
アイテムの特効薬を使い、シャロンのHPを全快にした。そして2人に神龍の涙を使用。能力値を底上げする。
「シャロン。『守備の城塞』の構え! 最初のリョウマの攻撃を受けきってくれ!」
「エクラさん……!」
「お願いだ! アルフォンスだけだと死ぬ!」
「……他でもない、エクラさんの頼みなら……私、頑張ります!」
聖印はエクラが管理する英雄たちの能力を底上げする一つのアクセサリーだ。着脱に時間がかかるため、戦闘中に使うことはできないが、今のシャロンにならつけられる。
「シャロン、今は」
「分かってます。ふぇーさんも頑張って他の人の場所を探していますから。今は、辛くても泣きません」
彼女はこんなにも強いのか。エクラはシャロンのこの言葉を聞いて思った。
ならば自分も情けないことばかりを言ってはいられない。
「シャロン、行きます!」
兄の加勢に走り出したシャロンを支えるために、エクラは自分ができることを考える。
次回 第4節 終末世界の英雄(2)