これはもう一人の”最強”の物語。

※前回よりマシな作品が出来たので投稿します。


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剣術最強

この<Infinite Dendrogram>に於いて<超級>は巨力な力を持つ存在であり、ここ数年の国々のパワーバランスは<超級>によって決まると言ってもいい存在だ。そんな<超級>の中でも“最強”の二つ名を持つ<超級>は他の<超級>と一線を画し、他の<超級>でさえも太刀打ち出来ない絶対強者である。

天地の“技巧最強”

ドライフ皇国の“物理最強”

カルディナの“魔法最強”

そして“人斬り”の二つ名を持つ指名手配犯“剣術最強” 

この話はそんな“剣術最強”の物語。

 

 

 

 

【鬼将軍】紫堂時貞

 

「ど、どう言うことだ?わ、私の妖怪たちが・・・」

紫堂時貞は困惑していた。時貞は隣国を支配する武将且つ【鬼将軍】としてこの天地の北域地域に君臨する存在であり、極少数であったがこの北域地域にも最近現れるようになった不死身の存在である<マスター>にも負けなしであった。

そして今回豊富な土壌を有する隣領地を占領し、北玄院家といった大国と対峙するための足掛かりとする為に攻め入った。国境の砦を自慢の鬼達を用いて攻め落として悠々と月輪家の領地を突き進み、あと一時間も進めば月輪家の本陣といった所で、彼は出会ってしまった。

それは、一人の男であった。

胴着袴を身に付け、上に桜色の羽織、腰には黒漆の重厚な刀と全てが銀色に輝く刀を指している。時貞の率いる鬼軍団を前にして彼は獰猛な笑みを称え、我々を迎え撃つ気満々といった様子だ。

馬鹿な男だと、時貞は思った。この人数を一人で相手にするなど、例え戦闘系超級職であったとしても不可能であり、実際に今まで【鬼将軍】のスキルによって亜竜級にまで強化された自身の軍勢に勝てた超級職は居なかった。

時貞は自身の配下に向け突撃を指示し、命令を受けた鬼たちは男に向かって攻撃を開始した。

【餓鬼】達は棍棒を振り上げ、【炎鬼】は拳に炎を纏わせ襲い掛かる。

2000にも及ぶ鬼達の総攻撃はさながら大波の様であり、正に男を飲み込みこもうと迫ったその瞬間。

「――――《銀禽閃》」

その場は眩い銀光に包まれた。

 

 

 

 

 

今回の遠征に於いて紫堂時貞の敗北は既に決定していた。正確には彼に目を付けられた時点で負けが確定していた。

その男は戦いと力を渇望していた。現実では体験出来ない様な死と隣り合わせの戦いと、現実では到達出来ない剣の頂へと導く力を求めてこの世界にやってきた。

この世界に降り立ってからは日々戦いに身を置き、ティアン・モンスター・<マスター>関係なく切り殺した。

ある時は、【大泥棒】率いる野盗集団をその集団ごと殺し。

またある時は、【絡繰王】の絡繰城を【絡繰王】ごと叩き切り、

そしてある時は【薙神】からの勧誘を断り、客分である【山賊王】・【斬神】。更には同じように勧誘を受けていた“技巧最強”を巻き込んで天地の山脈を2、3個消滅させ、、

更にまたある時は、天地において神として崇められていた<イレギュラー>、【祓魔銀鳥 シルバーレイ】を討伐した。

彼の名は【大剣豪】宮本九兵衛。超級職最多殺傷者にして歴代最強の【大剣豪】である。

 

 

 

 

【大剣豪】宮本九兵衛

 

「・・・つまんねぇ。」

 

九兵衛は、時貞の鬼に対して落胆した。北域地域最強と謡われた【鬼将軍】の力は所詮井の中の蛙であったのだ。

【将軍】系超級職の特色は《軍団》による1000人を超えるパーティーメンバーであり、彼らの実力を評価する基準はパーティーメンバーをどの様に運用するかに掛かっており、時貞のように単純な突撃攻撃を安易に行うのは悪手だ。

悪手だったからこそ、時貞は軍勢の多くを失ったのだ。

九兵衛と接触した瞬間、その場は銀の光に包まれ光が収まると時貞の鬼たちはその数の多くを減らした。

優勢と思っていた現状が一瞬で覆り、その現状を理解できずに呆けた顔を晒す時貞に、九兵衛は更に落胆した。

 

九兵衛はこの天地において多くのティアン、モンスター、<マスター>を斬ってきたがその目的は自身の経験値を手に入れる為だが、彼の求めるのはこの世界でよく用いられるリソースとしての経験値では無い。

彼が求めるのは戦闘経験としての経験値だ。

ティアンや、モンスターや、<マスター>が勝利や生存、名声といった「求めるもの」の為に脳細胞や本能を限界まで活用して編み出した技。

そう言ったものに彼は敬意を払い学ぶ意義があると考えている。

そういったものこそ吸収し、消化してこそ九兵衛は目指す先である剣の頂に到達できると考えている。

だから、時貞のように生まれた時から恵まれた環境と自身の才能によって【鬼将軍】に壁にぶつかること無く至った為に技術等が疎かになっていたりと戦いに工夫の無い時貞は、九兵衛にとっては旨味の少ない存在である。

そして彼の求める糧になれない以上、彼はこの世界における本当の経験値になるしかない。

時貞の寿命は技量を疎かにしたばかりに、極限にまで縮まってしまったのだ。

 

「っ【純竜悪鬼】、【獄炎鬼】!」

 

だが腐ったとしても超級職か、その身の危険を感じ、時貞はジュエルから【純竜悪鬼】、【獄炎鬼】を取り出す。純竜級上位の鬼であるこの二体は時貞が大金を叩いて手に入れた鬼であり、彼の真の切り札である。

鬼達による波状攻撃が効かなかった以上、彼はこの二体の鬼を出すしか無い。

 

「《鬼気解放》!」

 

そして間髪無く唱えたのは配下の鬼に対して攻撃・魔法耐性を5倍化する【鬼将軍】の奥義である《鬼気解放》。

その他、各種バフスキルにより【純竜悪鬼】、【獄炎鬼】のステータスはより強化され、伝説級<UBM>クラスのステータスを獲得した。

二体の伝説級<UBM>クラスのステータスを誇る【純竜悪鬼】、【獄炎鬼】は普通であれば絶対的な切り札である筈だが、今の時貞は自身の切り札を信じることが出来ない。

 

そして時貞の不安は正しかった。

 

 

 

 

 

さて九兵衛の放った《銀禽閃》は神話級特典武具【祓魔銀刀 シルバーレイ】のスキルの一つである。

【祓魔銀刀 シルバーレイ】は特典武具としては珍しいステータス補正の無いスキル特化型であり、二つのスキルが存在している。

一つは《祓魔の刀身》、《祓魔の刀身》は刀身から放たれた銀光に触れた魔力、及び魔力を活用して生じた現象を消滅させる対魔法特化のパッシブスキル。

もう一つのスキル《銀禽閃》は使用者の放った斬撃をSPを消費することで追尾機能を持つ銀色の光で出来た鳥に変えて放つことが出来る広域攻撃アクティブスキルであり、先ほどの攻撃時の銀の光は《銀禽閃》によるものである。

だが、この《銀禽閃》による銀鳥の大きさと威力は使用者のSTEとAGIの合計値によって変動し、そして戦闘型超級職のSTEとAGIでは時貞の軍勢を一網打尽にする様な《銀禽閃》を放つことは出来ない

 

しかし九兵衛の放った《銀禽閃》の大きさは全長約500メートルにもなり、先の説明と食い違う。

その秘密は九兵衛のエンブリオにある。

エンブリオは<マスター>のパーソナルデータを元に<マスター>の助けとなる存在に進化する。

では、九兵衛にとって必要なものは何なのか?

第0形態時、九兵衛のパーソナリティを解析する中、彼は喜々として剣を振るっていた。

エンブリオの存在やゲームの定番である情報集も忘れて、初めての死と隣り合わせの戦いに歓喜し、血に塗れた。

低いステータスを自身の達人すら歯牙にもかけない剣の才能を用いてカバーし戦う彼を観察しエンブリオが導き出した答えは「最強の身体能力」。

最強の身体能力こそ彼に必要であると彼のエンブリオは導き出したのだ。

 

そんな解析データから孵化したのが九兵衛のエンブリオ【超神血清 イコル】。

ギリシア神話における神の血を意味する九兵衛の全身を駆け巡る血液型のエンブリオである。

スキルは必殺スキルである《血は最強(イコ)を(ル)示す》のみであり、その能力は、

ステータス補正無し。

HPの最大値を常時10分の一にする。

ジョブスキルの習得及び使用不可。

定期的に要求する外部リソース

4つの制約を課す代わりにHP以外の身体能力を15倍にするという。

完全なる身体強化特化型エンブリオである。

 

 

 

 

 

九兵衛は時貞が【純竜悪鬼】、【獄炎鬼】の二体を召喚し、更にスキルを使用したのを傍観する。

理由としては、九兵衛にとっては強化されたといっても程々に骨のある存在としか言えない為であり、 程々に骨のある存在だからこそ出来る剣の修行を行う為だ。

 

さて各ジョブのスキルには使用者の動きをサポートする能力がある。

魔法系スキルであれば魔法の構築、センススキルであればモーション補正と言った様に補正を行う。

この機能によって技術的な点においてティアンに劣る<マスター>達が戦闘を行えたり、アイテム生産が可能であったりするといってもいい。

しかし、【超神血清 イコル】の能力によってジョブに関連するスキルを使用できない九兵衛には、その様な恩恵を受けることが出来ない。九兵衛がジョブによって得られる恩恵はレベルアップによるステータス上昇だけだ。

そしてこの欠点は【超神血清 イコル】最大の弱点といってもいい。

かの【獣王】は九兵衛と並ぶステータスを誇る存在であるが、攻撃に使用するスキルは【爪拳士】のスキルであり、このスキルがあるからこそ【獣王】は自身のステータスを十全に活用できるのだ。

しかし、スキルの使用できない九兵衛は自身の強大なステータスを十全に活用する為には、自身の肉体を完全にコントロールして攻撃を行わなければならない。

幸いにも九兵衛は剣術の才能と並んで身体を十全に扱う才能にも長けている為、通常であれば何も問題なく戦闘が可能だが、一瞬でも九兵衛の集中が削がれてしまえば体のコントロールを失い神話級以上の<UBM>や<超級>との戦闘において致命的となるような隙が生じてしまう。

しかし、正に「弱点」としか言いようのないこの特性を、九兵衛は逆に「可能性」だと捉える。

 

 

 

 

「や、やれ!【純竜悪鬼】、【獄炎鬼】!」

 

時貞の号令と共に二体の鬼と残った鬼の軍勢は九兵衛に対して突撃する。

同時に九兵衛は数体の鬼と共に撤退を始める。

強大な敵を前にして、最大戦力を殿に置いて撤退する。基本的で且つ正しい選択だ。

しかし・・・。

 

「・・・甘めぇ。」

 

九兵衛にとって時貞が正解不正解どちらを選んでも、それは意味の無い行動だ。

 

 

 

迫りくる鬼達を前に九兵衛は、それまで意図的に抑えていた身体能力を開放していく。

解放された30万を超えるAGIにより、九兵衛の見える世界はさながら静止したかのようだ。

そして、同時に九兵衛の捉える世界も広がっていく。

 

【超神血清 イコル】の能力によって15倍に強化されるのはステータスでは無い身体(・・)能力(・・)だ。

視覚、聴力、嗅覚、触覚といった感覚器官の性能も倍加される。そして強化された感覚と天才剣士である九兵衛の才覚が合わさることで・・。

 

「・・はへ?」

 

さながら【撃墜王】の未来視の如く相手の攻撃を見切り、更に時貞と合わせて二体の鬼を一瞬で切り伏せるといった神懸かった攻撃を繰り出すことが可能となる。

九兵衛は自らの才覚を合わさることで「弱点」としかならない筈のその特性を、ステータス以上の効果生み出すように昇華させたのだ。

 

 

 

 

 

「っち、辺境で一番強えって聞いてたのに肩透かしもいい所だ。」

 

九兵衛は自ら斬った時貞と、二体の鬼が残したドロップアイテムを眺めながら一人愚痴を溢す。

強者を求めて辺境まで来る苦労と見合わない相手では愚痴が出ても仕方ない。

 

「切り口が雑だなぁ。あの鬼が意外に硬かったってことか、・・・打ち込み増やすか」

 

九兵衛は時貞の遺体を見て、自らの修行不足を自覚する。

九兵衛の目的は強者と戦い、己の剣を極めること。一見綺麗な切り口に対しても九兵衛からすれば満足のいくものとは言えなかった。

鍛錬の追加を脳内メモに追加しつつ、最近感じるマンネリ感に九兵衛は溜息を吐く。

【大泥棒】、【絡繰王】、【シルバーレイ】。多くの強敵と九兵衛は戦いその中で九兵衛は様々なことを学び、強くなっていった。

だが、九兵衛は強くなり過ぎた。

【山賊王】、【斬神】に勝ち、“技巧最強”と幾度も殺し合った。

“技巧最強”との決着は未だついておらず、九兵衛としては決着を付けたいのは本音だが、【シルバーレイ】を討伐したことで指名手配された自分が“技巧最強”と戦えば余計な邪魔が入ることは容易に想像出来た。

この天地に九兵衛を満足させる存在はもういなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、そこでずっと見てる奴。俺に何のようだ?」

 

九兵衛が視線を向けると、虚空の中から一人の人影が姿を現す。

全身を包帯で包んだ奇妙な女性。

その名を【盗賊王】ゼタ。“四海封滅”の二つ名をもつ超級の一人である。

 

「驚愕。何故私の場所が分かったのですか?」

「あ?そんなもん、なんとなくだよ。」

「・・・納得。噂は本当でしたか。」

 

ゼタは自らの光学迷彩と【盗賊王】の《気配遮断》を容易に突破する九兵衛に聞き及んだ噂は本当であったのかと納得する。

“剣術最強” 宮本九兵衛。

曰く、【撃墜王】並の未来視と【獣王】並のステータスを合わせもち、己の強さの為に戦う修羅と謡われ、天地が誇る数々の超級職ティアンを殺害した彼が指名手配となったのは意外にも最近だ。

理由としては、。九兵衛が弱者に対して興味が無く、敵となる強者を提供すれば制御できるのではと各勢力が考え勧誘を行っていったことが言える。しかし、天地の守護者とも謡われていた【祓魔銀鳥 シルバーレイ】を討伐するに至る事件、別名『神斬り事件』を九兵衛が引き起こしたことによって、各勢力も流石に容認できず九兵衛は天地において指名手配となった。

 

「で、俺に何の用だ【盗賊王】?」

 

ゼタ、IFのサブオーナからすれば要件を満たした九兵衛への勧誘は成功させたい。【殺人姫】のように制御不能でも無く、ガーベラの様に実力不足でも無い存在は貴重だ。

 

「勧誘。あなたを我々のクラン<IF>に勧誘します。<IF>に加入するのなら我々はあなたの望むものを提供する用意があります。」

 

この勧誘に成功すれば<IF>にとっては強力な戦力が加入し、他の勢力にとっては悪夢のような事態だろう。

 

「・・・まぁ、指名手配されて色々面倒臭くなっちまったし、近々海でも渡ろうかって考えてた所だ。

・・・・いいぜ。加入してやる。」

 

交渉が成功し、ホッと【盗賊王】は息をなでおろした。バトルジャンキーで有名な【大剣豪】だ。勝負を挑まれてもおかしくないと考えていたが、先ほどの戦いが余りにも不完全燃焼で九兵衛の気分が落ちていたこともあって交渉がスムーズに進み、【盗賊王】からすれば【鬼将軍】は正にいい仕事をしたとほめたい程であった。

 

「あ、一つだけ言うことあったわ。【盗賊王】。」

「?疑問、なんで・・・」

 

次の瞬間。【盗賊王】の首に九兵衛の銀刀が据えられていた。少しでも指を動かせば【盗賊王】の首はその体から断ち切られるそんな距離だ。

(驚愕。《殺気感知》、《危険察知》が反応しない!?)

 

「もし、あんた達のことが気に入らなかったら、全員切り捨てる。・・・斬り応えのありそうな相手用意しとけよ。」

 

“剣術最強”の二つ名の由来を見せつられ、驚愕する【盗賊王】に九兵衛は自分の言い忘れていたことを堂々と宣言する。その顔は奇妙に口を歪め、さながら鬼の形相である。

 

(・・・・失態。相手を甘く見積もっていました。彼は“最強”の一人。普通な筈ありませんでしたね・・・。)

 

 




名前:宮本九兵衛

メインジョブ:【大剣豪】(武士系統剣豪派生超級職)
サブジョブ:【剣豪】、【鬼武者】、【武者】、【野伏】、【隠密】、【剣武士】、【壊屋】、【斥候】
備考;“人斬り”、“剣術最強”。彼個人は個人戦闘型であるが、所有する特典武具のほとんどが広域殲滅スキルを保有しており広域殲滅型としての能力を保有する。メインジョブレベル1000オーバー。ハイエンド相当の剣術の才能を持つ。超級職最多殺傷者。【大剣豪】は東の【剣王】といわれており、ステータスはAGIとSTEが良く上がり、それ以外は満遍なく上がる。
リアル:戦国時代から代々続く剣術一門の次期跡取りであったが、事故にあって体に後遺症が残ってしまい剣術から足を洗った。



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