どこまで続くかはわからず、設定等の辻褄が合わない場合もありますかもしれません。
それでもよければ、どうぞお付き合いください
――世界は美しいと、誰かが言った。
私には、それがわからない。
対して長くもない私の人生に、輝きなんて物は存在しなかったから。
どこに行っても、何を見ても。無彩色で、モノクロで、息の詰まるような世界しかなかったから。
だから、仮にいま私を含む全人類が滅んだとしても。
私は、きっと。自分の終わりを、ともすれば安堵しながら、受け止めるのだろう―――
「……寝ちゃって、た…?」
夢の世界を遊んでいた意識が理性の元へ戻ってくる。瞬間的にはっきりとした意識が、自分が今いる場所、どういう状態かを瞬時に把握する。
どうやら、椅子に座って眠っていたようだ。壁際にある時計と、カレンダーを視界に入れる。
「……よかった、まだレイシフトは始まってない…」
カレンダーの日付を囲んだ丸と、時計を慌てて見た少女は大きく安堵の吐息をこぼす。その動きに合わせて少女の年齢には不釣り合いな、背中ほどまである白髪がさらりと流れる。ぱちりと見開かれた琥珀色の瞳は、光の具合も相まってまるで夜空の月のような色合いにも見えた。
椅子から立ち上がった少女は小さく伸びをして、視線を室内に滑らせる。この部屋には少女と、少女の上司であるゆるふわポニテ男性が常にいるはずなのだが…今は休憩でもしているのか、その姿を確認することはできなかった。
眠気覚ましのコーヒーを、と準備をしながら、ふと自分のいる場所に思いを馳せる。
少女が今いる施設。その名は『人理保証機関フィニス・カルデア』。トップはオルガマリー・アニムスフィア。
それは魔術だけでは見えない世界、科学だけでは計れない『世界』を観測し、人類の決定的な絶滅を防ぐために設立された特務機関。
不安定な人類の歴史を、まるで天体を見るように観測し、未来を確固たる事項にすることで霊長類である人類の理―――『人理』を継続させ、保証する。
それこそがカルデアの役目。少女はそんなカルデアの、医療セクションで見習いをしていた。
だがしかし、半年前のある日、何の前触れもなく、カルデアで観測を継続していた未来領域が消失した。
これが示すことはただ一つ―――人類は2016年で絶滅する、ということ。
電子音が響き、手元を見ながら慎重にコーヒーをカップに注ぐ。
―――中断された思考を戻そう。
人類の滅び、とは言うが。そも、連綿と続いてきた人理が突然途絶えるなどということは説明がつかない。物理的に不可能である。
ならば、その原因は過去にあるはず―――そう仮定してあらゆる方法で調査を行った結果、見つかった“観測できない領域”。空間特異点Fと呼称されるその空間に、レイシフトと呼ばれる干渉を行うことで原因を究明、特異点を破壊することを目的としたミッションが組まれた。
……今日は、そんな大事なミッションの日。先ほどまで実際に特異点に赴くマスターたちのバイタルチェックなどでばたばたしていたが、今はもうミーティングも終わり医療班の出番はない。実際レイシフトを行うコフィンの中に入ってしまえば、機械での観測の方がよほど早いのだから。
「オフェリア…は、大丈夫か。事ここまで来たら、動じるような性格じゃないから。キリシュタリアさんは大丈夫、だよね。問題はカドックさんとかBチーム……」
バイタルも問題はなかったはずだ。ああ、そう言えば一人遅れてくるのがいるって所長がイライラしてた…。
48人目、一般枠の最後のマスター。マスターというのはレイシフト適性のある者のことで、この適性がないものはレイシフトを行うことができない。少女自身もレイシフト適性はないため、こうしてこの施設で裏方に徹しているというわけだ。
コーヒーを飲み終わったのでカップを洗って片づける。あとは、上司を探して指示を――
その時、少女がいる医務室の端末の呼び出し音が鳴った。
まるで、全てが定められたタイミングであるかのように。
「はい、こちら医務室です」
応答を返すと、よく知っている声が端末から流れ出てくる
『おや、
「えっと…御用件は、何ですか?」
まさか責任者がいないなどとは言えない。
少しぎこちないながらも、言葉を返す。控えめだね、と人には言われるけれど、何のことはない。人とのかかわり方に、自信を持てなくなってしまっただけなのだ。
『何、あと少しでレイシフト開始だからね。ロマニと君に万が一に備えてこちらへ来てもらおうと思ってね。慣れていない者に若干の変調が見られるようだから』
「わ、分かりました。すぐに麻酔を持って向かいます。ドクターには、端末で直接言った方が気が付くと思います…」
『ああ、そうしよう。医務室からなら二分で到着できるはずだ』
「はい、失礼します」
通話が切れ、室内を静寂が満たす。その静寂は、一瞬で動き出した少女によって破られた。
自分用の白衣をまとった少女―――月城琴葉は、棚からいくつかの医薬品を取出すと部屋を出る。
無機質な白一色の廊下を歩き、すれ違うスタッフに挨拶をしながら管制室へと入る。その際に小さく一礼を忘れなかったあたりが、琴葉の几帳面さと礼節を表していると言えるだろう。
「レフ教授、お待たせしました…」
「やあ、ご苦労。ロマニは何をしているんだ、琴葉ちゃんのほうが速いなんて」
スーツを着て、穏やかな笑顔を浮かべた、少々表現としてはひどいが試験官ブラシのような特徴的な髪形をした男性―――レフ=ライノールに挨拶する。
「えと…その、異常が出ているのは、どのマスターですか?」
「ああ、うん。異常が出ているのはコフィンのランプが赤色に…おっとすまない、君は色が見えないんだったね」
「……はい」
琴葉の目は、光を映すことはあれど色を捉えることができない。
もう既に魔術を手放した「月城」という家に生まれた子である彼女は、その身に数世代ぶりの魔術回路を有して生まれた。
―――その魔術回路を嫌った一族の干渉で魔術回路は変質し、彼女の目から色を奪い去った。それだけの話だ。
「ああほら…ちょうど所長の近くのあのコフィンだ」
「分かりました」
頷いて即座に駆け寄る。コフィンを開けるわけにはいかないため麻酔用のスイッチを押そうとして…
「……え?」
しゃがんだからだろうか、見慣れない
それは。ちょうど、所長であるオルガマリーの足元に……
「………っ!!」
何か追加の機材かもしれない。そんな思考がよぎったが、頭が、本能が警鐘を鳴らしている。―――あれは、よくないものだ、と。
そこからの行動は無意識だった。機敏に立ち上がるとオルガマリーの方へと全力で走る。
突然の行動に驚いたのか目を丸くし、怒鳴り付けようとでもしたのか一瞬で険を孕んだ視線と、大きく開いた口を無視して、全力で突き飛ばす。
咄嗟のことで反応が間に合わなかったのか、少し離れたところでドサッと尻餅をつくオルガマリー。
それを見て咄嗟に謝罪しようと思った時………暴力的な真っ白な閃光が、視界を埋め尽くした。
閃光。衝撃。轟音。
立て続けに起こったそれらは、とても遠くの出来事のように思えて。
―――寒い。周りでは炎の燃える音がしているというのに。
私の体は、ちっとも温かくはならない。それも当たり前か…
違和感を感じる腹部に手を当てると、ぬるりとした感触が感じられて。手には私には黒としか判別できないものが付いていて。
ああ、私は死ぬんだな、と。妙にリアルに感じられた。
残念とは思わない。むしろ、安堵すら感じている。……そう、思っていたのに。
―――涙が一筋、流れた。力を失っていた肉体が、熱を取り戻す。
まだ、死にたくないと。まだ、生きていたいと。体が、そう悲鳴をあげている。
『―近――の地球において、人類の痕跡は発見できません。人類の痕跡は発見できません』
『人類の……は 確… 出来ません』
『人…の…来は 保障 ……ません』
ああ、遠い。音が、世界が、遠くなっていく。
『レイシフト、定員に、達し―――』
そして。
私の意識は―――途切れた。
◆◇◆◇
―――たい?
―――さい、子供たち
―――が、―しましょう
あなたの、すべてを
『――全行程、
次は冬木だー。
むしろ序盤の方が書きにくい気がする…